夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」:石油ラッシュの時代に財を成した男の悲劇

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(原題: There Will Be Blood)は、2007年公開のアメリカの映画です。アプトン・シンクレアの「石油!」を原作とし、米国西部の荒野を舞台に富と権力を手に入れた石油王の破滅的な運命を描くこの映画は、第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞しています。 

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:アプトン・シンクレア 「石油!」
出演:ダニエル・デイ=ルイス(ダニエル・プレインビュー)
   ポール・ダノ(ポール・サンデー/イーライ・サンデー)
   ケヴィン・J・オコナー(ヘンリー)
   キーラン・ハインズ(フレッチャー )
   ディロン・フリーシャー(H・W・プレインビュー)
   シドニー・マカリスター(メアリー・サンデー)
   デヴィッド・ウォーショフスキー(H・M・ティルフォード)
   ダン・スワロー(ジーン・ブレイズ )
   ハンス・ハウェス(ウィリアム・バンディ)
   ほか

あらすじ

  • 舞台は20世紀初頭のアメリカ西部。一攫千金を夢見るダニエル・プレインヴュー(ダニエル・デイ=ルイス)は、山師として鉱山や石油の採掘を行っており、相手の信頼を得る為に交渉の場にいつも幼い一人息子H.W.(ディロン・フレイジャー)を連れていました。あるとき彼は、サンデー牧場のある西部の広大な土地に石油が出る兆候があるという情報をサンデー家の青年ポール(ポール・ダノ)から得ます。H.W.や仕事のパートナー、フレッチャー(キアラン・ハインズ)を伴い、カリフォルニアの小さな町リトル・ボストンのサンデー牧場を訪れたダニエルは、家長でポールの父であるエイベルとポールの双子の兄イーライと交渉し、貧しいサンデー家から採掘権を買い取ります。
  • プレインヴューは、見渡す限り荒野の町の地主たちを言いくるめて安く土地を買い占め、仲間を呼び寄せて試掘を開始、見事、油脈を掘り当てますが、爆発炎上事故が発生し、H・Wは吹き飛ばされて聴力を失います。一方、聖霊派教会のカリスマ牧師イーライ・サンデー(ポール・ダノ)は、土地を荒らし、教会への寄付もしないプレインヴューを疎ましく思っていましたが、プレインヴューは「神は無力か」とイーライを激しく叱責し殴打します。H・Wは精神的混乱からダニエルの家に火を放ち、H・Wとの生活が事業の邪魔になると考えたダニエルは、彼をサン・フランシスコの寄宿舎学校に追いやってしまいます。
  • 石油パイプラインを通すためにバンディ家の土地が必要だったダニエルは、イーライが主宰する教会で洗礼を受ける見返りにリース契約を結ぶことをバンディからもちかけられ、それをのみます。イーライはダニエルを洗礼する際に、自分は息子を見捨てた罪人だ、と信者の前でダニエルに認めさせます。やがて手話を学んで帰ってきたH・Wとダニエルは和解し、イーライは宣教のため町を離れます。十数年後、成長したH・Wは幼馴染であるサンデー家の娘メアリーと結婚します。事業で大成功を収め、大きな屋敷で一人さびしく酒におぼれる生活を送っていたダニエルに、H・Wは妻とともにメキシコに移り、起業したいと申し出、激怒したダニエルは、お前は孤児だから自分とは血がつながっていない、と彼を勘当してしまいます。
  • 今度はダニエルの元にイーライが突如現れ、バンディ家の土地での石油採掘に出資するよう請います。ダニエルは、自分はインチキ預言者で神は迷信だ、とイーライが宣言することを条件に出します。イーライがひとしきりそう語った後で、ダニエルはバンディ家の土地にはもはや石油が残っていないことを明かします・・・。

レビュー・解説 

石油で財を成した男の悲劇が描かれていますが、主演のダニエル・デイ=ルイスの熱演とそれに絡むポール・ダノが素晴らしいです。アメリカの西部開拓時代は、他人より先に土地に縄を張ればその土地を所有することが出来たと言われます。石油の採掘も人より先に掘り当てれば金持ちになれるという荒っぽさがあり、またその金に群がる人がいたりして、なかなか綺麗ごとではいかなかったのではないかと思います。そういう意味では、アメリカの隠れた原点を見るようでもあります。

 

ダニエル・プレインヴューは石油王と言われたエドワード・ドヒニー、イーライ・サンデーは福音派伝道師として人気を得ていたビリー・サンデーを参考にしていますが、プロットは基本的にフィクションです。

 

原作の時代設定は狂騒の時代と言われた1920年代ですが、映画では1900年代に早まっているようです。石油ラッシュの時代で、一攫千金を狙う者には狂騒の1920年代と似た時代背景と思われます。1920年代を時代背景にした「ザ・グレート・ギャツビー」も悲劇ですが、かつての恋人デイジーを取り戻す為に富を追い求めたギャツビーに共感を覚える人が少なからずいるのに対して、金に執着し堕ちていくダニエル・プレインヴューに共感を覚える人は少ないかもしれません。この辺り、アメリカ人の感想を聞いてみたい気がします。

 

原題の「There will be blood」は、旧約聖書出エジプト記第7章19節からの引用で、神がエジプト王の圧制からイスラエルの民を助けるためモーゼにさせた10の災いの一つです。

Then the LORD said to Moses, "Say to Aaron, 'Take your staff and stretch out your hand over the waters of Egypt, over their rivers, over their streams, and over their pools, and over all their reservoirs of water, that they may become blood; and there will be blood throughout all the land of Egypt, both in vessels of wood and in vessels of stone.'"

主は更にモーセに言われた。「アロンに言いなさい。『杖を取り、エジプトの水という水の上、河川、水路、池、水たまりの上に手を伸ばし、血に変えなさい』と。エジプトの国中、木や石までも血に浸るであろう。」

 

さらに、血(blood)は、映画の中で様々なものに暗喩になっているようにも見受けられます。

  • 天罰(出エジプト記由来)
  • 流血(ダニエルは二件の殺人を犯す)
  • 洗礼(血による浄め。土地のリース契約を得る為に、ダニエルはインチキ預言者から洗礼を受ける。)
  • 血縁(ダニエルの腹違いの弟を名乗る男が現れる。また、ダニエルはH・Wと血のつながりが無い事を暴露する。)
  • 石油(=金。忌まわしい流血を呼びかねない)

 

邦題は「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」でちょっと手抜き観がありますが、「やがて血に浸る」といった邦題ではどぎつ過ぎるかもしれません。厳しいレイティングを避ける為、映画に中にどぎついシーンはあまりありませんので。

 

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関連作品

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の原作本Amazon

  アプトン・シンクレア 「石油!」

 

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  「ファントム・スレッド」(2017年)

 

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  「ブギーナイツ」(1997年)監督・脚本・製作

  「マグノリア」(1999年) 監督・脚本

  「パンチドランク・ラブ」(2002年)監督・脚本・製作

  「ザ・マスター」(2012年)監督・脚本・製作

  「インヒアレント・ヴァイス」(2014年)監督・脚本・製作

 

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  「マイ・レフトフット」(1989年)

ラスト・オブ・モヒカン」(1992年)

  「父の祈りを」(1993年)

  「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年) 

  「ボクサー」(1997年) 

  「リンカーン」(2012年)

 

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  「摩天楼を夢見て」(1992年)

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  「アビエイター」(2004年)

  「サンキュー・スモーキング」(2005年)

  「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」(2006年)

  「プラダを着た悪魔」(2006年)

  「アメリカン・ギャングスター」(2007年)

「I.O.U.S.A.」(2008年):輸入版、リージョン1,日本語なし

  「フード・インク」(2008年)

  「マイレージ・マイライフ」(2009年)

  「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」(2010年)

  「ソーシャルネットワーク」(2011年)

  「マネーボール」(2011年)

  「マージン・コール」(2011年)

  「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」(2012年)

  「her/世界でひとつの彼女」(2013年)

  「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2014年)

  「ナイトクローラー」(2014年)

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  「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年)

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