夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「サンキュー・スモーキング」:嫌われ者の煙草業界の広報マンの奮闘を描いた、ウィットと風刺に富んだ傑作コメディ

サンキュー・スモーキング」(原題: Thank You for Smoking)は、2005年公開のアメリカのコメディ映画です。クリストファー・バックリーの小説「ニコチン・ウォーズ」を原作とし、ジェイソン・ライトマン監督、アーロン・エッカートらの出演で、嫌煙運動が盛んな現代の「悪役」というべきタバコ業界の広報マンとして巧みな話術を駆使する主人公の奮闘を、知的な社会風刺を盛り込みながら描いています。尚、タイトルは一種のアイロニーで、喫煙を推奨する作品ではなく、煙草の箱は出てくるものの、煙草を吸うシーンは一切、出てきません。

 

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目次

キャスト・スタッフ

監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン
原作:クリストファー・バックリー「ニコチン・ウォーズ」
出演:アーロン・エッカート(ニック・ネイラー)
   マリア・ベロ(ポリー・ベイリー)
   キャメロン・ブライト(ジョーイ・ネイラー)
   デヴィッド・ケックナー(ボビー・ジェイ・ブリス)
   ロブ・ロウ(ジェフ・マゴール)
   アダム・ブロディ(ジャック・バイン )
   サム・エリオット(ローン・ラッチ)
   ケイティ・ホームズ(ヘザー・ホロウェイ)
   ウィリアム・H・メイシー(オートラン・フィニスター上院議員
   J・K・シモンズ(BR)
   ロバート・デュヴァル(ザ・キャプテン)
   キム・ディケンズ(ジル・ネイラー)
   コニー・レイ(パール)
   トッド・ルイーゾ(ロン・グード)
   マリアン・ミューラーリール(教師)
   ほか

あらすじ

ニック・ネイラー(アーロン・エッカート)は、タバコ業界によって設立されたタバコ研究所の広報部長を務めており、喫煙者たちの権利を守るために、またタバコと健康悪化とに因果関係がないことを世間に信じさせるために、日々奮闘していました。彼は魅力的なスマイルと巧みな巧みな話術で人々を丸め込むことから「情報操作の王」と呼ばれるほどで、業界の大物キャプテン(ロバート・デュヴァル)は自家用機を使用させるほど彼を目にかけていました。本音を言える相手は、同じ悪評高いPRマン仲間であるアルコール業界のポリー・ベイリー(マリア・ベロ)と銃製造業界のボビー・ジェイ・ブリス(デヴィッド・コークナー)だけで、私生活では離婚し、世間からは厳しい目を向けられ、嫌われていましたが、別の男と再婚した妻の元にいる一人息子の息子ジョーイ(キャメロン・ブライト)だけは、ニックを尊敬していました。

ニックは、嫌煙派のフィニスター上院議員ウィリアム・H・メイシー)が、タバコのパッケージにドクロマークを付けるように働きかけていることを知り、息子ジョーイとハリウッドに飛び、ハリウッドのスーパー・エージェント、ジェフ・マゴール(ロブ・ロウ)と組んで、喫煙シーンを盛り込んだSF映画を作ろうとします。その一方で、タバコ被害を訴える初代マルボロ・マンの俳優(サム・エリオット)に、金を受け取らせる工作もします。そんなニックの密かな楽しみは巨乳の美人記者ヘザー・ホロウェイ(ケイト・ホームズ)との逢瀬でしたが、ある日、彼女の勤める「ワシントン・プローブ」紙に彼がピロートークで語った裏事情が全て書かれた暴露記事が掲載され、ニックは驚愕します・・・。

レビュー・解説

不謹慎ながらもどこかしら憎めない、皮肉と機微に富んだ脚本を、アーロン・エッカートが巧みに演じています。J・K・シモンズロバート・デュヴァルサム・エリオットなど、男臭い俳優達のコミカルな演技も見逃せません。脚本、キャスティングのみならず、演出もしっかりしており、ジェイソン・ライトマン監督の才能を感じさせる作品です。

 

ジェイソン・ライトマン監督は、原作「ニコチン・ウォーズ」の最初の一文に魅了されたと言います。

Nick Naylor had been called many things since becoming chief spokesman for the Academy of Tobacco Studies, but until now no one had actually compared him to Satan.」~ Christopher Buckley "Thank You for Smoking"

煙草研究アカデミーの主任広報マンになってからというもの、ニック・ネイラーは様々な言われ方をしたが、彼を悪魔と比べた人はまだいなかった。〜クリストファー・バックリー著「ニコチン・ウォーズ」

 

イトマン監督は語ります。

Here’s a guy who knows he’s the devil and he’s fine with it; he’s unapologetic. He’s comfortable with who he is and he has a thick skin. When you live in a world of spin, you understand that everything is spin, and everything is affected by spin from the other side. Nick has to be always calm, he can’t lose his cool. The other side is very emotional - the anti-smoking crowd is very emotionally reactive. Nick gives nothing away, he’s charismatic, he’s perfectly dressed, he’s well-read and charming.

彼は自分自身が悪魔のような仕事をしていることを知っており、それを気にかけておらず、弁解もしない。彼は自分自身を快く思っており、面の皮も厚い。万物が流転する世界では、向こう側の流転にも影響を受ける。向こう側はとても感情的だ。嫌煙派の群衆はとても感情的で敏感だ。ニックは全く感情を表に出さない。彼はカリスマ的だ。完璧に着こなし、博識で、魅力的だ。

 

日本でも嫌煙の意識が高まっていますが、アメリカではヒステリックとも言えるほどに煙草が嫌われています。毎年、喫煙が原因の疾病で一数多くの人が亡くなっていくわけで、煙草はまさに致死性の毒物の様に思われています。そんな煙草業界を宣伝する広報マンなわけですから、まさに悪魔の様な存在な訳です。非常に面白い設定です。

What I wanted people to think about was political correctness. I wanted them to think about ideas of personal responsibility and personal choice. I think cigarettes are a wonderful location for that discussion because cigarettes are something we know all the answers to. We know they're dangerous, we know they kill, we know how they kill, we understand that they are addictive. 

政治的な正しさや、自己責任と個人の選択について考えて欲しいと思ったんだ。煙草は格好の題材だ。なぜなら、みんな答えを知っているから。我々は煙草が危険な事を知っている。人を殺すを知っている。依存症になって死んでしまう事を知っている。

 

因に、タバコの喫煙の起源は紀元前10世紀の頃・地域はマヤ文明とされ、古くからアメリカ先住民の間に喫煙の習慣が広まった、アメリカの伝統とも言える嗜好品です。これがアメリカの巨大産業を成していたわけですが、健康被害があると分かると、にわかにバッシングが始まりました。アメリカという国は、きちんと反論しないとコテンパンに潰される国で、タバコ農家を含め、タバコ産業に関わる人々が路頭に彷徨います。そこでタバコ業界は喫煙と健康の問題研究を後押し、喫煙が健康を害するとの科学的な証拠はないことを示し、これを広報します。これが、ニック・ネイラーの仕事だったわけです。

 

風刺劇(コメディ)で、ひとひねりも、ふたひねりもあるのですが、ドラマではなく、コメディとしてまとめたことに関して、彼は次のように語っています。

I think, through comedy, sometimes we're allowed to discuss things that you'd never be able to talk about in a drama. Had I made a drama in which the main character was the head lobbyist for a big tobacco (company) and I heroised him, people would have thought I'd just made a crappy drama.

コメディだと、ドラマでは描けないことが描けると思う。もし、煙草業界のロビーイストを主人公に、彼を英雄視するドラマを描いたら、愚作だと思われるだろうね。

 

スリリングな設定を、面白くしているのが、風刺に富んだコミカルな脚本と、アーロン・エッカートはじめ、マリア・ベロロブ・ロウサム・エリオットケイティ・ホームズウィリアム・H・メイシーJ・K・シモンズロバート・デュヴァルといった蒼々たる俳優陣です。ジェイソン・ライトマン監督は、「ゴースト・バスターズ」(1984年)などで有名なアイヴァン・ライトマン監督の息子で、親の七光りで俳優をかき集めたのではないかと訝る声もありましたが、ジェイソン監督は、何故、その役をやってもらいたいのか、俳優一人ひとりに手紙を書いて送り、すべて第一選択の俳優に承諾を貰っています。また、俳優達もきちんとした手紙をもらったことに感謝しています。

 

また、ジェイソン監督は、当初、脚本をハリウッドに持ち込んだのですが、すべてのスタジオから断られ、最終的な完全なインデペンダント映画として制作されました。「So, if nepotism works, I'm using it wrong I think.(もし縁故の力があるなら、その使い方を間違えたらしい)」と彼は、語っています。その後、「JUNO/ジュノ」(2007年)、「マイレージ、マイライフ」(2009年)、「ヤング・アダルト」(2011年)など、名作を手がけており、間違いなく実力のある監督です。

 

アーロン・エッカート(ニック・ネイラー)

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マリア・ベロ(ポリー・ベイリー)

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キャメロン・ブライト(ジョーイ・ネイラー)

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ロブ・ロウ(ジェフ・マゴール)

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サム・エリオット(ローン・ラッチ)

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ケイティ・ホームズ(ヘザー・ホロウェイ)

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ウィリアム・H・メイシー(オートラン・フィニスター上院議員

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J・K・シモンズ(BR)

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ロバート・デュヴァル(ザ・キャプテン)

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 「サンキュー・スモーキング」のポスター(Amazon

撮影地(グーグルマップ) 

悪評高い業界の広報マン同志で食事をしていた店

 

 「サンキュー・スモーキング」のDVD(Amazon

関連作品 

サンキュー・スモーキング」の原作本Amazon

  クリストファー・バックリー「ニコチン・ウォーズ」

  Christopher Buckley "Thank You for Smoking"

 

ジェイソン・ライトマン監督作品のDVD(Amazon

  「JUNO/ジュノ」(2007年)

  「マイレージ、マイライフ」(2009年)

  「ヤング≒アダルト」(2011年)

 

アーロン・エッカート出演作品のDVD(Amazon

  「エリン・ブロコビッチ」(2000年)

  「ベティ・サイズモア」(2000年)

  「ダークナイト」(2008年)

  「ラビット・ホール」(2010年)

     「ハドソン川の奇跡」(2016年)

 

ビジネスの世界を描いた映画のDVD(Amazon

  「市民ケーン」(1941年)

  「ゴッドファーザー」三部作(1972〜1990年)

  「ウォール街」(1987年)

  「摩天楼を夢見て」(1992年)

  「ザ・エージェント」(1996年)

  「インサイダー」(1999年)

  「Startup.com」(2001年):輸入版、リージョン1,日本語なし

  「ザ・コーポレーション」(2004年)

  「アビエイター」(2004年)

  「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」(2006年)

  「プラダを着た悪魔」(2006年)

  「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年)

  「アメリカン・ギャングスター」(2007年)

「I.O.U.S.A.」(2008年):輸入版、リージョン1,日本語なし

  「フード・インク」(2008年)

  「マイレージ・マイライフ」(2009年)

  「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」(2010年)

  「ソーシャルネットワーク」(2011年)

  「マネーボール」(2011年)

  「マージン・コール」(2011年)

  「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」(2012年)

  「her/世界でひとつの彼女」(2013年)

  「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2014年)

  「ナイトクローラー」(2014年)

  「スティーブ・ジョブズ」(2015年)

  「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年)

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