夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「インサイダー」:事実に基づき、企業の内部告発とメディアの裏側を描いた社会派ドラマ

「インサイダー」(原題:The Insider)は、1999年公開のアメリカのドラマ映画です。実話を基に、アメリカのタバコ産業の不正を告発したTVプロデューサーと大手タバコ会社副社長を描いた社会派ドラマで、アカデミー賞の主演男優賞(ラッセル・クロウ)や監督賞など7部門にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:マイケル・マン
脚本:エリック・ロス/マイケル・マン
原作:マリー・ブレナー「知りすぎた男」(ヴァニティ・フェア)
出演:アル・パチーノ (ローウェル・バーグマン)
   ラッセル・クロウ(ジェフリー・ワイガンド)
   クリストファー・プラマー(マイク・ウォレス)
   ほか

あらすじ

ある日、CBSの人気ドキュメンタリー番組「60ミニッツ」のプロデューサー、ローウェル・バーグマン(アル・パチーノ)の元にタバコ産業の不正を告発する極秘ファイルが匿名で届けられます。彼は、全米第3位の企業ブラウン&ウィリアム(B&W)社の元研究開発部門副社長ジェフリー・ワイガンド(ラッセル・クロウ)と接触し、インタビューに応じるよう説得します。彼は、B&W社が利潤追求のためタバコに不正な手段で人体に有害な物質を加えているという秘密を握っていましたが、病気の娘の治療の為の医療保険をはじめ家族の生活を守るため、B&W社の終身守秘契約に同意していました。彼がマスコミと接触したことを知った社は、様々手を使って、彼とその家族に圧力と脅迫を加えます。信念と生活不安の板挟みでワイガンドは苦悩しますが、ついに「60ミニッツ」のインタヴューに応じ、法廷で宣誓証言することを決意します。番組の看板ジャーナリスト、マイク・ウォレス(クリストファー・プラマー)のインタヴューも収録しましたが、CBS上層部はタバコ産業の訴訟を恐れ、ワイガンドのインタビューをカットして放送する事を決定、バーグマンも「60 ミニッツ」を降ろされてしまいます。さらにタバコ産業はワイガンドの評判を落とす為、旧悪を暴露するアンチ・キャンペーンを展開します・・・。

レビュー・解説

タバコ産業における内部告発の実話を扱った映画ですが、 ・巨大企業が如何に利益の守ろうとするか(守秘契約、訴訟、脅迫) ・メディアによる真相報道かならずしも簡単ではない(訴訟のリスク) ・真相報道の為の捨て身の戦い(情報提供者の保護、人脈) をリアルに描かれており、1999年公開ですが、古さを感じさせないスリリングな映画です。

 

大企業は内部告発を防ぐ為に、守秘契約で縛り付けるだけではなく、退職金のカット、医療保険の解約、家族への脅迫等、ありとあらゆる手で口封じを試みます。さらに、告発者の旧悪を暴き立て、メディアを使ってネガティブ・キャンペーンを行います。告発者を訴え、裁判で潰し、その社会的生命を奪います。映画では、守秘契約を無効化する為に法廷で宣誓証言しようとしますが、大企業は他の州で証言の差し止め命令を取り、これにぶつけます。彼らは巨大な法務部門を抱えており、一個人ではとうてい太刀打ちできません。

 

一方、不正があればその真相を報道するのがメディアの務めですが、CBSは会社の譲渡を考えており、タバコ産業に訴えられると譲渡価格が下がってしまうというリスクがありました。また、当時、社主はタバコの企業を保有していました。報道機関とはいえ、営利企業である以上、資本の論理が働くのは避けられません。「60ミニッツ」の内部告発は大幅に編集して放映されました。

 

こうした状況に対して、「60ミニッツ」のプロデューサーは、内部告発者を守る為に、ネガティブ・キャンペーンの情報源がガセネタであることを突き止め、逆手に取ります。さらに、番組が大幅に編集されたことを、人脈を使って他のメディアに書かせます。世論は一気に告発者側に傾き、結果、CBSは判断を誤ったCBSは立ち場を悪くし、オリジナルを放送せざるを得なくなります。

 

アル・パチーノラッセル・クロウクリストファー・プラマー、三人のオスカー俳優の競演が素晴らしいです。

 

アル・パチーノが演ずるCBSの人気ドキュメンタリー番組「60ミニッツ」のプロデューサー、ローウェル・バーグマンで、彼は「情報提供者を守る」ことを信条とする熱血漢です。報道番組は情報が命ですが、情報提供者を守る事ができなければ、情報は集まらなくなります。資本主義社会ではかならずしもこの当然のことが優先されるとは限りません。また、ローウェル・バーグマンが終盤の身の振り方も、この信条に基づくものとなります。

 

アル・パチーノ

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ラッセル・クロウは、信念と生活不安の狭間で苦悩するジェフリー・ワイガンドをよく演じています。撮影時、彼は若干34歳ですが、アル・パチーノクリストファー・プラマーといったベテランの大俳優に伍して、素晴らしい才能を見せており、この作品で初めてアカデミー主演男優賞にノミネートされました。

 

ラッセル・クロウ

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クリストファー・プラマーは、CBS「60ミニッツ」の看板キャスター、マイク・ウォレスを演じていますが、これも本人と見間違えるほどの熱演です。資本と視聴者の間に立つ彼の立ち場は微妙ですが、映画では決して上層部に媚び諂うような人間としては描いておらず、マイク・ウォレス本人もこれには驚いています。

 

クリストファー・プルマー

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世の中、少なからず金の力で動いており、不正は簡単には無くならないでしょう。一方で、組織はプロテクションを強めており、内部告発は難しくなりつつあるように思います。また、経済成長が鈍化する中、生活不安が強くなり、バーグマンやワイガンドのような勇気ある行動を取れる人は極めて限られるような気がします。内部告発のリスクがあまりに大きいようならば、組織や社会を浄化する新たな仕組みが必要かもしれません。

 

ローウェルが、キャスター、番組スタッフ、法務スタッフと如何にワイガンドから、如何に証言を引き出すか、議論するシーンです。

LOWELL(OVER): He referred to this...the Seven Dwarfs...
MIKE WALLACE (OVER): What "Seven Dwarfs?"
LOWELL (OVER): The seven CEOs of Big Tobacco... Referred to this... Said they should be afraid of him... I assume, afraid of what he could reveal. (to Staff Lawyers) Now, you tell me. What does this guy have to say that threatens these people?
MIKE WALLACE: Well, it isn't "cigarettes are bad for you"...
LOWELL: Hardly new news.
MIKE WALLACE: No shit.
LOWELL: What's this?
MARK STERN: (re: video) What that is is tobacco's standard defense. It's the "we don't know" litany: "Addiction? We believe not. Disease? We don't know. We take a bunch of leaves, roll 'em together. You smoke 'em. After that? You're on your own. We don't know." (beat) So...tells me nothing. (beat) Besides, you'll never get what he's got.
LOWELL: Why not?
JOHN HARRIS: Because of this guy's confidentiality agreement, he is never gonna be able to talk to you.
LOWELL: That's not good enough. This guy is the top scientist in the number three tobacco company in America. He's a corporate officer. You never get whistle-blowers from Fortune 500 companies. This guy is the ultimate insider. He's got something to say; he wants to say it; I want it on "60 Minutes."
JOHN HARRIS: Doesn't matter what he wants.
MIKE WALLACE: Am I missing something here?
JOHN HARRIS: What do you mean, Mike?
MIKE WALLACE: He's got a corporate secrecy agreement? Give me a break. This is a public-health issue, like an unsafe airframe on a passenger jet or...some company dumping cyanide into the East River. Issues like that? He can talk, we can air it. They've got no right to hide behind a corporate agreement. (re: his coffee) Pass the milk...
JOHN HARRIS: (does) They don't need the right. They've got the money.
MARK STERN: The unlimited checkbook. That's how Big Tobacco wins every time. On everything. They spend you to death. $600 million a year in outside legal. Chadbourne-Parke. Ken Starr's firm, Kirkland and Ellis. Listen. GM and Ford, they get nailed after 11 or 12 pick-ups blow up. Right? These clowns have never...I mean ever...
JOHN HARRIS: Not even once...
MARK STERN: ...not even with hundreds of thousands dying each year from an illness related to their product...have ever lost a personal-injury lawsuit. On this case, they'll issue gag orders, sue for breach, anticipatory breach, enjoin him, you, us, his pet dog, the dog's veterinarian... Tie him up in litigation for ten of fifteen years. I'm telling you, they bat a thousand. Every time. He knows that. That's why he's not gonna talk to you...
LOWELL: Okay, let's look through the looking glass the other way...
MIKE WALLACE: What do you mean?
LOWELL: We got a guy...who wants to talk but he's constrained. (beat) What if he were "compelled"?
MIKE WALLACE: (eating) Oh, torture? Great ratings.
MARK STERN: What do you mean compelled?
LOWELL: (seriously) I mean compelled by a Justice Department, state courts, be a witness. That would cut through any confidentiality agreement, wouldn't it?
MARK STERN: Yeah...
DEBBIE DELUCA: What does that do?
LOWELL: What do you mean, what's it do?
DEBBIE DELUCA: What I mean is, like, how does it cut through the confidentiality agreement?
LOWELL: Because he has to reveal it in a court of law. It's on record, it's out. It's no secret anymore. So how can they restrain his speech or retaliate? It's out in the world...
MARK STERN: (nods) If you could engineer it into the court record, you might have something. They would have a helluva time trying to restrain his speech then, wouldn't they?

Pause.

JOHN HARRIS: (still skeptical) Yeah, but what venue? And where does he get - does he have killer attorneys?
LOWELL: I don't think he's got any attorneys.
MARK STERN: He's gonna need attorneys who aren't afraid of risking years of litigation. And millions of dollars of their own dough in legal costs...
LOWELL: What do you say, Mike? What do you think?
MIKE WALLACE: (pause) Even if he gets the defense team, will he go for it?

ローウェル:彼は「7人のこびと」だと…
マイク・ウォレス:何が?
ローウェル:タバコ会社の最高経営者たちだ。彼らはワイガンドを恐れている。だが、ワイガンドのどんな情報を恐れている?
マイク・ウォレス:「タバコは体に毒」か?
ローウェル:周知の事実だ。
マイク・ウォレス:そうだな。
ローウェル:今の証言は?
マーク・スターン:タバコ会社お決まりの答弁だ。「知りません、中毒性はないと信じます」、「病気?さあ、我々はタバコを巻くだけ」、「後のことはそれを吸う側の問題でしょう」、証言内容はゼロ、彼からも情報は得られない。」
ローウェル:何故?
ジョン・ハリス:守秘契約がある限り、何もしゃべれない。
ローウェル:彼は優秀な科学者で、アメリカ第三位のタバコ会社の元役員。国を代表するトップ企業の究極の内部告発者だよ。彼は何かを話したがっている。
ジョン・ハリス:彼が何をしたいかは関係ない。
マイク・ウォレス:理解できん。
ジョン・ハリス:何が?
マイク・ウォレス:会社と守秘義務の契約だと?それがどうした?国民の命の問題だぞ。危険な旅客機や、イーストリバーに毒物を流すのと同じ。守秘契約を立てに責任逃れはできない。ミルクを。
ジョン・ハリス:会社は金の力で封じる。
マーク・スターン:莫大な資金だ。金であらゆる訴訟に勝ち続けてきた。札束ではり倒す。社外の弁護士費用に毎年6億ドル。超一流の法律事務所をいくつも抱えている。車の欠陥で死人が出れば、自動車会社は責任を負う。だが、タバコ会社は・・・
ジョン・ハリス:無傷だ。
マーク・スターン:毎年、タバコが原因で何十万人死のうと、タバコ会社は敗訴しない。ワイガンドがしゃべれば逆に訴えられる、我々や、彼の犬や獣医に至るまで、訴訟攻めにしてくる。そして必ず勝つ。だから、ワイガンドはしゃべらん。
ローウェル:別の角度から見てみよう。
マイク・ウォレス:つまり。
ローウェル:もし、彼がすべて話す様に強制されたら?
マイク・ウォレス:拷問でもするのか?
マーク・スターン:強制とは?
ローウェル:司法省から証人として出廷を命じられた場合は、守秘契約を無視できるはずだ。
マーク・スターン:そう。
デビー・デルーガ:どうして?
ローウェル:何が?
デビー・デルーガ:何故、守秘契約を無視できるの?
ローウェル:法廷では証言の義務があるからだ。隠す事は許されない。その場合、会社はどうやって阻止する?
マーク・スターン:証言内容の「誘導」はできても、阻止はまず無理だろう。
ジョン・ハリス:でも裁判地は?ワイガンドに弁護士は?
ローウェル:いないだろうな。
マーク・スターン:何年にも及ぶ裁判で、多額の費用をものともしない弁護士が必要だ。
ローウェル:どう思う?マイク。
マイク・ウォレス:強力な弁護団がいても、彼はしゃべるか?

 

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関連作品 

内部告発を扱った映画のDVD(Amazon

  「インフォーマント!」(2009年)

    「フェア・ゲーム」(2010年)

  「シチズンフォー スノーデンの暴露」(2014年)

 

ラッセル・クロウ出演作品のDVD(Amazon

  「L.A.コンフィデンシャル」(1997年)

  「グラディエーター」(2000年)

  「ビューティフル・マインド」(2001年)

  「マスター・アンド・コマンダー」(2003年)

  「シンデレラマン」(2005年)

  「3時10分、決断のとき」(2007年)

  「アメリカン・ギャングスター」(2007年)

  「消されたヘッドライン」(2009年)

  「レ・ミゼラブル」(2012年)

  「ナイスガイズ!」(2016年)

 

クリストファー・プラマー出演作品のDVD(Amazon

  「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)

  「スタートレックVI 未知の世界」(1991年)

  「マルコムX」(1992年)

  「黙秘」(1995年)

  「12モンキーズ」(1995年)

  「インサイド・マン」(2006年)

  「人生はビギナーズ」(2010年)

  「ドラゴン・タトゥーの女」(2011年)

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