「ビフォア・ミッドナイト」:シリーズ三作目、三つの大きな挑戦が素晴らしい!
「ビフォア・ミッドナイト」(原題:Before Midnight)は、2013年公開のアメリカ映画で、1995年公開の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」、及び2004年公開の「ビフォア・サンセット」の続編です。前編同様、リチャード・リンクレイターが監督、イーサン・ホークとジュリー・デルピーが出演し、リンクレイターとホークとデルピーが共同で脚本を執筆しています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター/イーサン・ホーク/ジュリー・デルピー
出演:イーサン・ホーク(ジェシー、アメリカ人作家)
ジュリー・デルピー(セリーヌ、ジェシーのパートナー、フランス人)
シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック(ハンク、ジェシーと前妻の息子)
ジェニファー・プライア(エラ、ジェシーとセリーヌの双子の娘の1人)
シャーロット・プライア(ニーナ、ジェシーとセリーヌの双子の娘の1人)
ウォルター・ラサリー(パトリック、ジェシーを別荘に招いた老作家)
ゼニア・カロゲロプールー(ナタリア、パトリックの亡き親友の妻)
パノス・コロニス(ステファノス、ジェシーのギリシャの友人)
アティーナ・レイチェル・トサンガリ(アリアドニ 、ステファノスの妻)
ヤニ・パパドプロ(アキレアス、パトリックの孫)
アリアン・ラベド(アナ、パリ在住の舞台女優。アキレアスの恋人)
ほか
あらすじ
ウィーンでの出会いから18年、パリでの再会から9年、当時はそれぞれにパートナーがいたジェシーと、セリーヌは一緒にパリで暮らしているばかりか、かわいい双子の娘たちまでおり、ギリシャで夏のバカンスを過ごしていました。ジェシーは前妻が引き取って育てている息子ハンクを空港で見送ると、息子が暮らすシカゴへの引っ越しを考えますが、パリで仕事を持つセリーヌは反発します。これをきっかけにジェシーとセリーヌは口論するようになり、友人のステファノスらが用意してくれたホテルの一室で激しくぶつかり合うと、セリーヌは部屋を出て行ってしまいます・・・。
レビュー・解説
1995年公開の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」、及び2004年公開の「ビフォア・サンセット」の続編ですが、「ビフォア・ミッドナイト」では新たなチャレンジをしています。一つ目は、かなりの時間をグループの会話に費やしている事。これまでは、イーサン・ホークのジュリー・デルピーのふたりの会話だけで成り立っていました。二つ目は、ジュリー・デルピーがこのシリーズで初めて脱いだことです。そして、三つ目の最も大きなチャレンジが、二人の気持ちが鋭く反発することことです。これまでは、穏やかでロマンティックでした。
ジュリー・デルピーが脱ぎかけた服を再び着ると、二人の会話は緊迫し、クライマックスに向けてだんだんと厳しくなっていきます。会話で観衆を引きつけて行くという手法は変わりませんが、 その内容と激しい感情はこれまでと大きく異なります。また、新たな挑戦として取り入れたグループでの会話は時にどぎつく、時に示唆に富み、またエンディングに向けた伏線も張られています。
「ビフォア・シリーズ」は9年ごとの撮影されているだけではなく、設定も9年ごとになっています。同じ俳優と女優が、同じシーリーズの中でライフ・ステージに応じたロマンスを9年ごとに演じるのは、簡単なことではありません。でも、それが「ビフォア・ミッドナイト」で成されています。希有で素晴らしい作品です。
リチャード・リンクレイター監督、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピーの三人が三作めの「ビフォア・ミッドナイト」を製作を最終的に決断した理由は、彼ら三人とも子を持つ親であり、登場人物を生々しく描く事ができることでした。子供達を迎えに行くとジェシーとセリーヌが二人きりになれるのは夜遅くなってからだけという典型的な一日を描くことが三人の元々のアイディアであり、「ビフォア・ミッドナイト」というタイトルがつけられた理由のひとつとなっています。イーサン・ホークは、
- 第一作「ビフォア・サンライズ」は可能性(what might be)を
- 第二作「ビフォア・サンセット」は選択(what could be or what should be)を
- 第三作「ビフォア・ミッドナイト」は現実(what is)を
描いていると語っています。
映画で二人が過ごすパトリックの別荘には、旅行作家パトリック・リー・ファーマー卿が生前、使用していたギリシャのカルダミリの近くの居宅が 使用されています。老作家パトリックは、明らかにパトリック・リー・ファーマー卿をモチーフにしたものでしょう。ギリシャの風景がとても美しいです。
「ビフォア・ミッドナイト」は、シリーズ第一作目の「ビフォア・サンライズ」製作のきっかけとなったエイミー・レアハウプトという女性に捧げられています。リチャード・リンクレイター監督は、1989年にフィラディルフィアの街を彼女と一緒に夜通し歩き、語り合いました。当初、彼らは電話で連絡を取り合いましたが、そのうち、連絡がとれなくなってしまいました。1994年、リチャード・リンクレイター監督は「ビフォア・サンライズ」の撮影を開始、ワールドプレミアに彼女が現れるのではないかと密かに期待しましたが、彼女は現れませんでした。9年後、彼は第二作の「ビフォア・サンセット」を撮りましたが、やはり、エイミーからは連絡がありませんでした。そして、2010年に、ついに彼らの話を知る友人からリチャード・リンクレイター監督に連絡があり、1994年の5月9日、「ビフォア・サンライズ」の撮影を開始の数週間前に彼女がバイク事故で亡くなっていたことを知ります。リチャード・リンクレイター監督もイーサン・ホークも大きな衝撃を受けましたが、彼女が三部作のきっかけになった事がせめても慰めとなりました。エイミー・レアハウプトが亡くなってしまったのは残念ですが、彼女は映画の中で生きていると考えることもできます。
最後に、お気に入りのセリフを。
JESSE: Yes, I heard you - that you don't love me anymore. I figured you didn't mean it but if you did, then fxxk it. You know something? You're just like the little girls and everybody else - you want to live in some fairy tale. I'm just trying to make things better here. I tell you I love you unconditionally, I tell you that you're beautiful, I tell you that your ass looks great when you're 80. I'm trying to make you laugh. I put up with plenty of your shit, and if you think I'm just some dog who's gonna keep coming back then, you're wrong. But if you want true love - this is it. This is real life. It's not perfect, but it's real. And if you can't see it, then you're blind, alright? I give up.
ジェシー:ああ、聞こえたよ。もう、愛してないって?もし、あれが本気だったなら、はっきり言うが、君も娘達と同じおとぎ話に生きたいだけだ。僕は関係を良くしたい。君を無条件に愛する。君は美しい。80歳でも最高のケツだ。僕は君を笑わせたい。君の文句に耐えているが、もし僕が犬のように必ず戻ると思ったら、大間違いだ。でも、真実の愛を求めるなら、ここにある。完璧ではないがこれこそ本物だ。それがわからないなら、僕は諦める。
イーサン・ホーク(右、ジェシー、アメリカ人作家)と
ジュリー・デルピー(左、セリーヌ、ジェシーのパートナー、フランス人)
サウンドトラック
Before Midnight CD, 輸入版(Amazon)
1. The Best Summer of My Life 2. Gia Ena Tango 3. Cela? 4. Captain Nina 5. Forgetting Little Things 6. The Beach 7. I Could Hear His Voice In My Ear |
8. Is This Really My Life? 9. O Antonis O Kekes 10. Stou Mema Ta Traina 11. Still There, Still There 12. I'm Not In Love With You Anymore 13. Door, Teacup, Wine Glass, Bed 14. Before Midnight |
撮影地(グーグル・マップ)
ギリシャ、カルダミリ近辺
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関連作品
ビフォア・シリーズ三部作のDVD(Amazon)
(リチャード・リンクレイターxジュリー・デルピー xイーサン・ホークのコラボ作品)
「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年)
「ビフォア・サンセット」(2004年)
「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)
リチャード・リンクレイターxイーサン・ホークのコラボ作品(Amazon)
「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)
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「スクール・オブ・ロック」(2003年)
「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(2008年)
「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(2016年)
「汚れた血」(1986年)
「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」(1990年)
・・・北米版、リージョン1,日本語なし
「トリコロール/白の愛」(1994年)
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