「ブルーに生まれついて」:チェット・ベイカーの不遇の時期に光をあて、ジャズ精神と人間性を印象的に描き出す、美しく奥行きのある作品
「ブルーに生まれついて」(原題:Born to Be Blue)は、2015年のカナダ・イギリス合作の伝記ドラマ映画です。ロバート・バドロー監督・脚本、イーサン・ホークら出演で、1950年代に興隆したウエストコースト・ジャズシーンで一世を風靡したトランペッター、チェット・ベイカーが、麻薬に溺れ、どん底に転落した後に、ある女性との出会い、再生を目指す様を描いています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ロバート・バドロー
脚本:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク(チェット・ベイカー)
カルメン・イジョゴ(ジェーン / エレイン)
カラム・キース・レニー(ディック・ボック)
トニー・ナッポ(リード保護観察官)
スティーヴン・マクハティ(チェズニー・ベイカー・シニア)
ジャネット=レイン・グリーン(ヴェラ・ベイカー)
ダン・レット(ダニー・フリードマン)
ケダー・ブラウン(マイルス・デイヴィス)
ケヴィン・ハンチャード(ディジー・ガレスピー)
ほか
あらすじ
- 1950年代、黒人アーティストが主流のモダン・ジャズ界において、甘いマスクとソフトな声で多くのファンを熱狂させて一世を風靡した、ジャス・トランペット奏者チェット・ベイカー(イーサン・ホーク)は、ドラッグ絡みのトラブルをたびたび起こし、スポットライトから久しく遠ざかります。 1966年、公演先のイタリアで投獄されたのちにアメリカに帰国したチェットは、自伝映画の撮影に俳優として参加しますが、麻薬の売人から惨たらしい暴行を受け、アゴが砕かれ、前歯を全部失う重症を負います。
- キャリア終焉の危機に直面したチェットの心のよりどころは、映画で共演した女優ジェーン(カルメン・イジョゴ)の存在でした。ジェーンの献身的な愛に支えられ険しい再起への道のりを乗り越えたチェットは、巨匠ディジー・ガレスビー(ケヴィン・ハンチャード)の計らいで名門ジャズクラブ、バードランド への出演することになります。
- しかしそこには、若かりしチェットがマイルス・デイヴィス(ケダー・ブラウン)から厳しい言葉を投げかけられた因縁の場所でした。チェットは人生の全てを懸けたステージに立ちますが、舞台で演奏するチェットを見たジェーンは、チェットが再びヘロインに手を出したことに気付きます・・・。
レビュー・解説
1950年代のウエストコースト・ジャズシーン席巻したチェット・ベイカーの不遇の一時期にスポットライトをあて、彼のジャズ精神、人間性といった普遍的なイメージを印象的に浮かび上がらせた、奥行きのある、映像的にも音楽的にも美しい作品です。
チェット・ベイカー(1929年〜1988年)は、アメリカのトランペット奏者、フリューゲルホーン奏者、歌手で、1950年代に彼のボーカルをフィーチャーしたアルバム、
- 「チェット・ベイカー・シングス」(1956年)
- 「It Could Happen to You」(1958年)
が特に注目を集め、賞賛されました。将来を嘱望された頃のチェット・ベイカーを、ジェームズ・ディーン、フランク・シナトラ、ビックス・バイダーベック(1920年代に最も影響力のあったコルネット奏者)の魅力を併せ持つと評するジャズ歴史研究家もいます。しかし、牢獄に出たり入ったりを繰り返すなど、その後のドラッグによる悪しき行動は一般の知る所になり、1970年代後半から1980年代にかけて復帰を果たすまで、彼は悪評にまみれた人生を送ることになります。
チェット・ベイカーは1988年にアムステルダムのホテルの窓から転落して亡くなりますが、ロバート・バドロー監督は短編「 The Deaths of Chet Baker」(2009年)でその死を描いています。バドロー監督は、本作ではさらに踏み込み、アゴが砕かれ、前歯をすべて失うというトランペッターとしては致命的な傷を追いながらも、復帰を果たすまでの時期にフォーカスし、麻薬中毒との戦い、人種、愛といった普遍的なテーマをとともにチェットのジャズ精神を描いています。
チェットが歯を失って復活をしたことや、(プロデューサーから)映画を作らないかと誘われたことなど、いくつかの事実を発見した。私には彼が人種の変革が行われているアメリカにおいて、黒人のスターに認めてもらいたいと思っている白人だと思えたんだ。こういったことが興味深い主題だと思った。(ロバート・バドロー監督)
チェット・ベイカーを演じたイーサン・ホークは、ドキュメンタリー映画「レッツ・ゲット・ロスト」(1988年)を観て、チェット・ベイカーのファンになり、リチャード・リンクレイター監督とともにチェットに関する映画の制作を企てた程でした。ホークとリンクレイターの企画は実現しませんでしたが、チェット対するホークの情熱と知識が、本作で身を結ぶことになりました。チェットの魅力についてホークは次の様に語っています。
映画を観てチェットが大好きになった。特に彼の音楽の虜になったよ。そこからチェットとの付き合いが始まったんだ。
僕がチェット・ベイカーの何が大好きかというと、彼がキャリアにおいて基本的にはよい評価を一度も得られなかったという事実だね。面白いよ。初期のころは高く評価されたが。人々は彼を笑い物にした。それなのにレコードは売れ続けているなんて最高だ。(イーサン・ホーク)
見事、復帰を果たしたチェット・ベイカーですが、マイルス・デイヴィスを始め、ジャズの巨匠たちが時代とともにその音楽を変えていったのに対して、チェットは一貫した音楽を追求します。1950年代にブラジルで生まれたボサノバと一種、共通するようなソフトな甘さが当初からあったものの、復帰後に初期の作品を凌駕することもありませんでした。しかし、バドロー監督とホークは逆にここにチェットの魅力を見出しているように見受けられらます。即ち、
- 劇中でホーク自身が歌う「マイ・ファニー・バレンタイン」、「I've Never Been In Love Before」に、生涯、変わることがなかったチェットの魅力を集約する
- 変わらぬチェットの人間性、愛の表現として、ジャズのリフのように、劇中劇でチェットの別れた妻エレインを演じるジェーンを新たな恋人として登場させる
ことにより、彼のジャズ精神や愛、人間性は普遍で、時間的、空間的な広がりを持つことを印象づけています。
伝記ドラマの形を取りながらも、ジェーンという架空の人物を登場させたことは、本作の大きなの賭けであり、最大の特長でもありますが、チェットの人生の不遇の一時期を描きながらも、彼のジャズ精神、人間性といった普遍的なイメージを創造し、巧みに印象づけていることを考えれば、これは大成功と言えるのではないかと思います。薬物依存の陰に隠れたチェット・ベイカーの人間性を表現したかったというホークは、風貌的な類似点や、芸術的、音楽的な気質を生かし、人間としての息遣いが感じられるチェット見事に演じ、素晴らしい映画の構成と相まって奥行きのある作品を実現しています。エンディングのステージに向けて、ホークが表情を変えていく様が圧巻です。

イーサン・ホーク(1970年〜)は、テキサス出身のアメリカの俳優、作家、小説家、映画監督です。1985年に映画でデビューするが、活動を一時中断、カーネギーメロン大学やニューヨーク大学で学ぶ。「いまを生きる」(1989年)で復帰、「ホワイト・ファング」(1991年)で初主演、「リアリティ・バイツ」(1994年)、リチャード・リンクレイター監督の「恋人までの距離」(1995年)、「ガタカ」(1997年)と、着実にキャリアを重ねる。「トレーニング デイ」(2001年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。「恋人までの距離」の続編の「ビフォア・サンセット」(2004年)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)ではリンクレイター監督、共演のジュリー・デルピーと共に脚本を手がけ、いずれもアカデミー脚色賞にノミネートされる。リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)で、2度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされている。
カルメン・イジョゴ(ジェーン / エレイン)

カルメン・イジョゴ(1973年〜 )は、ロンドン出身のイギリスの女優。父親はナイジェリア人、母親はスコットランド人。「グローリー/明日への行進」(2014年)、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2014年)などに出演している。
サウンドトラック
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| 1. マイ・ファニー・ヴァレンタイン 2. 虹の彼方に 3. レッツ・ゲット・ロスト 4. Ko-Opt 5. クッド・ハヴ・ビーン 6. アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー 7. ワンス・アウェイ |
8. ブルー・ルーム 9. ハイチ人の戦闘の歌 10. ボウリング・アレイ・ブギー 11. ゴー・ダウン・サンシャイン 12. テキーラ・イヤーワーム 13. ア・スモール・ホテル 14. ボーン・トゥ・ビー・ブルー |
動画クリップ(YouTube)
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関連作品
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「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年)
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