「ギリシャに消えた嘘」(原題:The Two Faces of January)は、2014年公開のアメリカ・イギリス・フランス合作のサスペンス映画です。パトリシア・ハイスミスの「殺意の迷宮」を原作に、ホセイン・アミニ監督・脚本、ヴィゴ・モーテンセン、キルスティン・ダンスト、オスカー・アイザックら出演で、過って殺人を犯し、逃避行を繰り広げる夫婦とその知り合いの青年が辿る運命を描いています。
目次
スタッフ・キャスト
監督:ホセイン・アミニ
脚本:ホセイン・アミニ
原作:パトリシア・ハイスミス「殺意の迷宮」
出演:ヴィゴ・モーテンセン(チェスター・マクファーランド)
キルスティン・ダンスト(コレット・マクファーランド)
オスカー・アイザック(ライダル)
イジット・オツセナー(ヤーヒャ)
デイジー・ビーヴァン(ローレン)
デヴィッド・ウォーショフスキー(ポール・ヴィットーリオ)
オミロス・ポールアキス(ニコ)
ほか
あらすじ
1962年、ギリシャのアテネでツアー・ガイドをしているアメリカ人青年ライダル・キーナー(オスカー・アイザック)は、パルテノン神殿を訪れた優雅な装いのアメリカ人夫婦、チェスター・マクファーランド(ヴィゴ・モーテンセン)と若く美しいその妻コレット(キルステン・ダンスト)と知り合います。コレットの依頼でガイドを引き受けたライダルは、夫妻と夕食を共にして、楽しいひと時を過ごします。その夜、夫妻の元へ1人の探偵が訪ねてきます。実はチェスターは、ニューヨークで裏社会の連中を相手に投資詐欺を働き、大金を奪って逃亡中でした。揉み合いの最中、誤って探偵を殺害してしまったチェスターは、偶然ホテルにいたライダルに嘘をつき、協力を要請します。ライダルはやむなく偽造パスポートの制作を知人に依頼し、後日、クレタ島で受け取る段取りを整えます。アテネを脱出し、船とバスを乗り継いでクレタ島に向かう途中、三人は身の上話を語り合いますが、親しげにコレットと接するライダルに嫉妬の炎を燃やしたチェスターは、次第に酒を飲んで粗暴な言動を繰り返すようになっていきます。一方、ラジオのニュースでチェスターが探偵を殺害した事実を知ったライダルは、正当防衛が認められるからと自首を勧めますが、相手にされません。逃亡を助けて共犯者となったライダルも、既に後戻りできません。そんな2人の男の微妙な緊張関係は、チェスターとコレットの夫婦仲にも亀裂を生じさせていきます。警察は夫婦を殺人容疑で指名手配し、大規模な捜査を開始、プレッシャーに耐えかねたコレットは、衝動的にバスを降りてしまいます。港を目指して、三人は荒涼とした大地を歩き続けます。ところが夜に、雨宿りのため立ち寄ったクノッソスの遺跡で、コレットに悲劇が降りかかります・・・。
レビュー・解説
アテネ、クレタ島、そしてトルコのイスタンブールとエキゾチックな風景を舞台に、ヴィゴ・モーテンセン、キルステン・ダンスト、オスカー・アイザックの個性的なパフォーマンスが光る、パトリシア・ハイスミスの原作小説を映画化したスリリングなサスペンスです。
原作者のパトリシア・ハイスミスはアメリカの作家で、彼女の長篇第1作「見知らぬ乗客」がヒッチコックにより映画化され、長篇第3作「太陽がいっぱい」もヒット映画となり、ハイスミスは人気作家となりました。その後も、数多くの作品が映画化されています。基本的にサスペンス作家ですが、「キャロル」のように、半自伝的恋愛小説も書いており、2015年にはケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラの二大女優の主演により映画化され、話題になりました。本作は基本的にサスペンスですが、ロマンスの要素も併せ持っています。
ホセイン・アミニはイラン出身の脚本家、映画監督で、トーマス・ハーディの小説「日蔭者ジュード」を脚色した「日蔭のふたり」(1996年)、ヘンリー・ジェイムズの小説を脚色した「鳩の翼」(1997年)の脚本で知られており、後者でアカデミー脚色賞にノミネートされています。「ドライヴ」(2011年)の脚本も書いており、パトリシア・ハイスミスの小説「殺意の迷宮」を脚色し、映画監督にも初挑戦したのが本作です。
ギリシアのアテネ、クレタ島、トルコのインスタブールと、エキゾチックな舞台でストーリーが展開します。アテネではマクファーランド夫妻のセレブ振りが際立つ一方、観光ガイドをしながら客のお金をちょろまかすライダルの小悪党ぶりが描かれています。三人はクレタ島へ向かい、少し寂れた場所で、キャラクターたちの嘘が徐々に見え始め、各々のアイデンティティや心情が崩れ始めていきます。そしてインスタンブールではチェスターの堕ちていく様を、ノワール感を出しつつ描いています。原作小説では終盤はイスタンブールではなくパリという設定ですが、アテネ→クレタ島→インスタブールとチェスターが堕ちていく映画の設定は、説得力があります。
インスタブール
アテネにおけるマクファーランド夫妻は、彼らはとても魅力的で、お金持ちであるように描写されているが、ストーリーが進むとともに、徐々に彼が詐欺師である事がわかってきます。一方のランダルは、観光客の金をちょろまかす小悪党として描かれていますが、いかにもハイスミスの原作らしく、いずれも各キャラクターの内部で起こっていることも同時に描かれています。この物語の主役は、うさんくさい詐欺師だったり、小悪党だったりするわけですが、この内面描写により、観客は彼らにしっかりと感情移入してしまうことになります。本作の魅力は何と言っても、金持ちでダンディなチェスターが徐々に崩れていく様です。ヴィゴ・モーテンセンが演じると、その崩れ方までもが絵になります。観光客の金をちょろまかす小悪党のランダルを演じるオスカー・アイザックもはまり役で、最初は彼にはこんな小悪党にぴったりと思うのですが、そのうちにしっかりと感情移入し、憎めなくなります。
原題の「The Two Faces of January」は、ローマ神話の出入り口と扉の神、ヤーヌス(ヤヌス Janus)に由来します。前後2つの顔を持つのが特徴で、一年の終わりと始まりの境界に位置し、1月を司る神でもあります。原題は、チェスターもランダルもそれぞれ詐欺師としての顔とそうではない顔の二つの顔を持っていることを暗示していますが、さらに踏み込めば、チェスターの時代が終わり、ランダルの時代を迎える時の流れも暗示していると言えるかもしれません。
ヴィゴ・モーテンセン(チェスター・マクファーランド)
ヴィゴ・モーテンセン(1958年〜)は、マンハッタン出身の俳優、詩人、写真家。「ロード・オブ・ザ・リング」三部作(2001年〜2003年)のアラゴルン役で世界的な名声を得、「イースタン・プロミス」(2008年)、「はじまりへの旅」(2016年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。本作では、堕ちていく男のダンディズムを一貫して演じている。
キルスティン・ダンスト(コレット・マクファーランド)
キルスティン・ダンスト(1982年〜)は、ニュージャージー出身のアメリカの女優。3歳でCMに出演、1989年に映画デビュー、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)でゴールデングローブ助演女優賞にノミネートされる。「スパイダーマン」シリーズ(2002年 - 2007年)のヒロインを務め、「メランコリア」(2011年)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞している。
オスカー・アイザック(右、ライダル)
オスカー・アイザック(1979年〜)はグアテマラ出身の主にアメリカで活動する俳優、歌手。グアテマラに生まれ、マイアミで育つ。2005年にジュリアード学院を卒業。卒業後に本格的に俳優活動を開始し、「ロビン・フッド」(2010年) や「ドライヴ」(2011年)等に出演する。「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)で主演として抜擢され、ジュリアード音楽院卒業の実力を発揮し、実際に劇中で歌とギターの演奏を披露している。また、同作は第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、グランプリを受賞している。
撮影地(グーグルマップ)
- 冒頭のアテネの遠景
- ライダルがガイドをしていたアクロポリスの丘
- 飲んだくれたチェスターがタクシーに乗せられたレストラン
- 三人が雨宿りをしたクノッソスの遺跡
- チェスターが偽造パスポートを受け取ったクレタ島のカフェ
撮影に使用されたのはFakaというギリシャ料理の店の屋外席ですが、なんと、ブログ「愉快的陳家@阿拉米達島」のMarichanさんが、記事「子連れおギリシャ旅⑳クレタ島の美味しいもの集」に食レポを掲載されました!
関連作品
パトリシア・ハイスミス著「殺意の迷宮」
パトリシア・ハイスミスの映画化作品のDVD(Amazon)
「太陽がいっぱい」(1960年)
「アメリカの友人」(1977年)
「リプリー」(1999年)
「リプリーズ・ゲーム」(2002年)
ヴィゴ・モーテンセン出演作品のDVD(Amazon)
「ロード・オブ・ザ・リング」(2001年)
「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」(2002年)
「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(2003年)
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005年)
「イースタン・プロミス」(2007年)
キルステン・ダンスト出演作品のDVD(Amazon)
「スパイダーマン」(2002年)
「エターナル・サンシャイン」(2004年)
「スパイダーマン2」(2004年)
「ミッドナイト・スペシャル」(2016年)
オスカー・アイザック出演作品のDVD(Amazon)
「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)
「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(2015年)
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)
地中海を舞台にした映画のDVD(Amazon)
「太陽がいっぱい」(1960年)
「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988年)
「グランブルー」(1988年)
「イル・ポスティーノ」(1994年)
「リプリー」(1999年)
「ボーン・アイデンティティー」(2002年)
「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)
「胸騒ぎのシチリア」(2015年)
「海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜」(2016年)