「パリ、恋人たちの2日間」:フランス版ウディ・アレンと評された、ジュリー・デルピー監督、脚本、主演の傑作ロマンティック・コメディ
「パリ、恋人たちの2日間」(原題:2 Days in Paris)は、2007年公開のフランス・ドイツ合作のロマンティック・コメディ映画です。女優ジュリー・デルピーが監督、脚本、主演など、一人六役を務め、アダム・ゴールドバーグ、ダニエル・ブリュール、アレクシア・ランドーら出演で、旅行の帰りにパリの実家に立ち寄ったフランス人とアメリカ人のカップルに訪れる破局の危機をコミカルに描いています。第33回セザール賞脚本賞にノミネートされた作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ジュリー・デルピー
脚本:ジュリー・デルピー/アレクシア・ランドー
原案:ジュリー・デルピー/アレクシア・ランドー/アレックス・ナオン
原作:ジュリー・デルピー(キャラクター創造)
出演:ジュリー・デルピー(マリオン、フランス人、女性フォトグラファー)
アダム・ゴールドバーグ(ジャック、アメリカ人、インテリア・デザイナー)
ダニエル・ブリュール(ルカ、謎の放火犯)
アルベール・デルピー(ジャノ、マリオンの父)
マリー・ピレ(アンナ、マリオンの母)
アレクシア・ランドー(ローズ、マリオンの妹)
アレックス・ナオン(マニュ、フランス人、マリオンの元カレ)
アダン・ホドロフスキー(マチュー、フランス人、マリオンの元カレ)
ほか
あらすじ
- ニューヨーク在住のフランス人フォトグラファー、マリオン(ジュリー・デルピー)とアメリカ人インテリアデザイナー、ジャック(アダム・ゴールドバーグ)は付き合って2年になります。二人はベネチアでバカンスを過ごした後、彼女の故郷パリの実家に立ち寄ります。テロを警戒するジャックはメトロやバスを嫌い、タクシーに乗ると主張します。
- マリオンは両親の真上に部屋を購入していましたが、建物は古く、バスルームの天井はカビだらけです。綺麗好きなジャックは気味悪がりますが、マリオンは清潔すぎるからアレルギーになるのだと言い返します。マリオンがベネチア旅行前に両親に預けた猫のジャン=リュックを引き取りに行くと、母のアンナ(マリー・ピレ)が賞味期限切れのフォアグラを食べさせたジャン=リュックは丸々と太っています。マリオンの声を聞いて出てきた父のジャノ(アルベール・デルピー)も出てきます。両親と二人が囲む食卓で、作家の名前を並べ立てたジャノは、わざと画家の名前を挙げてジャックを試そうとします。
- 道端で出会ったマリオンの元カレのマニュ(アレックス・ナオン)は、ジャックを無視してマリオンを見つめ、苛立ったジャックはマリオンと言い争います。マリオンの友人のパーティーに参加したジャックは、フランス人たちが下半身にまつわる話題ばかりをぶつけてくるので落ち着きません。サン・マルタン運河のカフェでは、マリオンの別の元カレのガエルと再会します。マリオンの元カレにばかり遭遇して辟易したジャックは、彼女が部屋に置き忘れた携帯が受信した、別の男、マチューからのエロティックなメッセージを突きつけます。
- ついに喧嘩別れし、一人になったジャックはファーストフードの店に入り、相席になった男、ルカ(ダニエル・ブリュール)から、彼女の元に戻るように言われます。その日はフランスの「音楽の日」で、街中に音楽が溢れています。マリオンとジャックはその中に紛れ込みますが、互いに相手を思いながらも、2人は出会うことができません・・・。
レビュー・解説
女優ジュリー・デルピーが脚本の才能を発揮、フランスとアメリカの文化の差を突いたシニカルで示唆に富む会話劇を、俳優が個性たっぷりに好演、監督デビュー作にしてフランス版ウディ・アレンと評された、型破りなロマンティック・コメディです。
リチャード・リンクレイター監督の「ビフォア」シリーズで一躍、有名になった女優ジュリー・デルピーの初監督作品ですが、シリーズの作風を倣うかと思いきや、コメディ要素の強い強烈な作品で、思わず引き込まれてしまいます。個性的なイタリア系アメリカ人を描いたハリウッド映画は珍しくありませんが、実はフランス人もイタリア人に負けず劣らず濃い国民性の持ち主です。そんなフランス人とアメリカ人の文化の差を突きながら、恋人たちを喧嘩別れに追い込んでいく脚本が見事で、十代の時からアメリカに住み、フランスとの違いを熟知しているデルピーならではです。料理とセックスの話しかせず、我が道を行くフランス人と、外面良く社交辞令を忘れないアメリカ人の対照が絶妙で、特にフランス系アメリカ人の女性に大受けだそうです。
女優として有名なデルピーですが、17歳の時から脚本を書いており、クレジットされていないものの「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1994年)の脚本にも参加しています。2001年に本作を小編として着想、パリでゲリラ撮影すべく共演のアダム・ゴールドバーグに声をかけますが、その後、リチャード・リンクレイター監督から「ビフォア・サンセット」(2004年)の共同脚本の依頼があり、そちらに取りかかりました。両方ともパリが舞台ですが、かたや破局のコメディ、かたや再会のドラマと対照的な脚本です。どちらのタイプも器用にこなしていますが、デルピーのベースは後者にあり、「ビフォア」シリーズも作を重ねるにつれてデルピーのカラーがより強く出ています(彼女が脚本にクレジットされた作品はいずれもアカデミー脚色賞にノミネートされている)。「ビフォア・サンセット」制作後、本作の撮影に入るべく再度、ゴールドバーグに電話をかけますが、プロデューサーに資金を集めて長編を撮ろうと背中を押され、脚本を長編用に書き換えて撮影、編集して、音楽をつけたのが本作です。
男女が再会する「ビフォア・サンセット」とは裏腹に、一組のカップルが48時間という短い間に別れるとしたら、どんな別れ方になるか、それをコミカルに描いてみたいと思ったデルピーは、かつて女友達とパリで過ごした時に驚くほど運の悪いことが続いたことを思い出します。アメリカ人の彼をいかに困らせるかを主題のひとつにし、フランスとアメリカの文化の差を突きながら、巧みな会話劇で二人を喧嘩別れに追い込んでいきます。一方、
- カタコンベ(地下墓地)の前でセックスの話をさせる
- 「ラストタンゴ・イン・パリ」のマーロン・ブランドがビル=アケム橋で見せる仕草を、マリオンにムンクの「叫び」風に真似させる
- ロマンティックなサン・マルタン運河で二人を喧嘩別れさせる
- ロマンティック・コメディにも関わらず、政治的、社会的な要素も効かせる
など、シニカルでチャレンジングな展開でメリハリをつけながら、クライマックスの「音楽の日」の祝祭に持ち込んでいく構成はなかなかのものです。
神経症的なユダヤ系アメリカ人を演じることが多いアダム・ゴールドバーグですが、本作では男性的な部分も見せての大活躍です。美しさ、可愛らしさも、コメディも演じることができるジュリー・デルピーのパフォーマンスは卓越しており、フランス文化に直面して苦しむジャックを見て、「可哀想に」とさらりと言ってのける様は見ものです。時にスタイリッシュ、時にヒューマン、時にエモーショナルな二人のパフォーマンスが、本作を不条理コメディではなく、しっかりとしたロマンティック・コメディに性格づけています。

時にスタイリッシュ、時にヒューマン、時にエモーショナルな二人のパフォーマンスが、本作を不条理コメディではなく、ロマンティック・コメディに性格づけている。
マリオンの両親は、デルピーの実の両親が演じています。二人ともフランスの実験劇場で活躍した、筋金入りの舞台俳優です。劇中、母親役のアンナが、「343人のあばずれの一人だった」と言うシーンがあります。「343人のあばずれ」とは、1971年、まだ人工妊娠中絶が違法だったフランスで、343人の女性が中絶経験を署名入りで宣言した、女性解放運動の歴史的な出来事ですが、アンナを演じたデルピーの母マリー・ピレは実際に署名に名を連ねた一人です。デルピーの父、アルベール・デルピーも、母親以上に女性解放に熱心で、男の子と差別なく育てられたジュリーは、理屈ではないフェミニズムが身に染み付いていると言います。終盤にカフェで元カレのガエルと出くわしたマリオンが、ガエルのかつての児童買春を激しく糾弾し、店を追い出されるシーンや、女性をモノのようにみなす元カレのマチューをオブジェを使って風刺するシーンは、そんなジュリーの一面をコミカルに反映しています。また、マリオンの妹、ローズを演じるアレクシア・ランドーも存在感があり、フランス・パワーが炸裂するマリオンの家族の中で、この姉にしてこの妹ありという、実にいい味を出しています。パリで育ち、16歳のときにアメリカに移り住んだランドーは、フランス系アメリカ人の女優で、本作では原案、脚本にも参加しています。
当初、アテにしていた予算がつかず、さらにゴールドバーグの「デジャブ」(2006年)の撮影に押されて本作の撮影が一週間延びて損失が発生するなどの困難がありましたが、デルピーはテイクの回数を減らすなどやりくりして本作を完成させました。シンガー・ソング・ライターとしてCDも出す多才なデプリーですが、本作で監督・脚本・主演のみならず音楽・編集・制作を含む六役を務めているのは、実は経費を削る為でもあります。デルピーが17歳から書いた脚本が10本、36歳にして初めてその一本を映画にできた本作は、とても長編監督デビュー作とは思えない、実に見応えのある作品に仕上がっています。
ジュリー・デルピー(マリオン)

ジュリー・デルピー(1969年〜)はパリ出身の国際的な女優、映画監督、脚本家。舞台俳優の両親を持ち、自身も5歳の時から舞台に立つ。1978年に映画デビュー、1985年には「ゴダールの探偵」に出演、「汚れた血」(1986年)と「パッション・ベアトリス」(1987年)と続けてセザール賞有望新人賞にノミネートされる。1990年よりアメリカに住み、ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。2001年にアメリカの市民権を取得、2003年にシンガー・ソング・ライターとしてCDアルバム「Julie Delpy」を発表。「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1994年)の続編「ビフォア・サンセット」(2004年)と「ビフォア・ミッドナイト}(2013年)で主演を務めるとともに、リチャード・リンクレイター監督、共演のイーサン・ホークと共に脚本を執筆、いずれの作品もアカデミー脚色賞にもノミネートされる。監督、脚本、主演など六役を務めた本作は、黒縁メガネをかけた彼女の装いとシニカルなコメディの質の高さから、フランスのウディ・アレンと評された。他にも、「 血の伯爵夫人」(2009年)、「スカイラブ」(2011年)、「 ニューヨーク、恋人たちの2日間」(2012年)の監督を務めている。
アダム・ゴールドバーグ(ジャック)

アダム・ゴールドバーグ(1970年1〜)はサンタモニカ出身のアメリカの俳優。「プライベート・ライアン」(1998年)、「ビューティフル・マインド」(2001年)、「ゾディアック」(2007年)などに出演している。神経質なユダヤ系アメリカ人を演じることが多いが、本作では男性的な一面も見せている。
ダニエル・ブリュール(ルカ)

ダニエル・ブリュール(1978年〜 )はバルセロナ生まれのドイツの俳優。ドイツ人舞台演出家の父と、カタルーニャ人の母の間に生まれ、ドイツのケルンで育つ。ドイツ語、スペイン語、英語を流暢に話し、10代よりテレビ等に出演、ドイツ映画「グッバイ、レーニン!」(2002年)のヒットで世界的に知られるようになり、イギリス映画「ラヴェンダーの咲く庭で」(2004年)、スペイン映画「サルバドールの朝」(2006年)、ハリウッド映画「ボーン・アルティメイタム」(2007年)と国際的に活躍、2013年にはイギリス・アメリカ合作の「ラッシュ/プライドと友情」でF1レーサーのニキ・ラウダを演じ、高い評価を得ている。
アルベール・デルピー(右、ジャノ、マリオンの父)

アルベール・デルピー (1941年〜)は、サイゴン生まれはフランスの俳優。筋金入りの舞台俳優で、ジュリー・デルピーの実父。1976年にオムニバス映画で妻と娘と共演して以来、親子役、親類役などで度々共演している。
マリー・ピレ(右、アンナ、マリオンの母)

マリー・ピレ(1941〜2009年)は、フランスの女優。筋金入りの舞台俳優で、アルベール・デルピーの妻、ジュリー・デルピーの母。1976年にオムニバス映画で夫と娘と共演して以来、親子役、親類役などで度々共演していたが、2009年にガンで逝去、夫と娘に大きな悲しみを残した。
アレクシア・ランドー(左、ローズ、マリオンの妹)

フランス系アメリカ人の女優。パリで育ち、16歳の時にアメリカへ移り住む。「サンキュー、ボーイズ」(2001年)、「ムーンライト・マイル」(2002年)、「マリー・アントワネット」(2006年)などに出演しており、本作では原案、脚本にも参加している。
サウンドトラック
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| 1. Lalala 2. Comagnon Du Ciel 3. Sans Titre 4. House Arrest 5. Dead Wood 6. Le Temps Des Fleurs 7. Dead Lover 8. Springtime |
9. Foide 10. L'age Tendre 11. C'est Pas De Ma Faute 12. Minor Leap 13. Mes Departements 14. Pour Le Meilleur Et Le Pire 15. Mon Amant De St. Jean |
撮影地(グーグルマップ)
- ジム・モリソンの墓
- マニュと出会った道端の花屋
- マリオンが、「ラストタンゴ・イン・パリ」のマーロン・ブランドをムンクの「叫び」風に真似るビル=アケム橋
- 変な男に付きまとわれた地下鉄の駅
- 二人が喧嘩別れするサン・マルタン運河
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