夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

次々と登場する女性監督がフランス映画ならではの繊細で美しく、叙情的、芸術的な表現を底上げする?!

目次

 

次々と女性監督が登場するフランス映画

先日、「あさがくるまえに」に関する情報を調べているうちに、最近のフランス映画には女性監督による作品が目立つことに気がつきました。2000年以降の主なフランスの女性監督を挙げてみると、

 

主なフランスの女性監督とその作品(2000年以降)

監督 主な作品
アニエス
・ヴェルダ監督
 落穂拾い(2000年)
 アニエスの浜辺(2008年)
 顔たち、ところどころ(2017年)
クレール
・ドゥニ監督
 Vendredi soir (2002年)輸入盤、日本語なし
  35杯のラムショット(2008年)
 ホワイト・マテリアル(2009年)輸入盤、日本語なし
 
レット・ザ・サンシャイン・イン(2017年)輸入盤、日本語なし
  ハイ・ライフ (2018年)
ジュリー
・デルピー監督
 パリ、恋人たちの2日間(2007年)
セリーヌ
・シアマ監督
 水の中のつぼみ(2007年)
 トムボーイ(2011年)輸入盤、日本語なし
ミア・ハンセン
=ラヴ監督
 あの夏の子供たち(2009年)
  グッバイ・ファーストラブ (2011年)輸入盤、日本語なし
 EDEN エデン(2014年)
 未来よ こんにちは (2016年)
マイウェン監督  パリ警視庁:未成年保護特別部隊(2011年)
 モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由(2015年)
エマニュエル
・ベルコ監督
 ミス・ブルターニュの恋(2013年)輸入盤、日本語なし
カテル
・キレヴェレ監督
 あさがくるまえに(2016年)
ジュリア
・デュクルノー監督
 RAW~少女のめざめ~(2016年)
アンヌ
・フォンテーヌ監督
 夜明けの祈り(2016年)

 

といった具合です。先人のフェミニストたちのおかげで、女性だからという理由で映画づくりに苦労したことはないと、フランスの女性監督たち口を揃えます。一方、「グローリー/明日への行進」(2014年)のエイヴァ・デュヴァーネイ監督によると、ハリウッド映画映画における女性監督の比率はわずか4%で、さらにアフリカ系でもある彼女はそうした不健康な状況やシステムの中で、前に進むこと自体が挑戦だと言います。このフランスとアメリカの差は、興味深いです。

フェミニズムに急進的なアメリカ、保守的なフランス

女性の権利拡大に関しては、一般にアメリカが急進的でフランスが保守的なイメージがあります。1980年代に若くして注目を浴びたフランス人女優のジュリー・デルピーは、保守的なフランス映画界のいざこざや内紛に嫌気がさして、1990年からアメリカに住んで「ビフォー」シリーズ(1995年〜2013年)などのアメリカ映画に出演することを選びました。

 

また、記憶に新しいところではハーベイ・ワインスタインの一連のセクハラ行為の暴露を契機にアメリカでセクハラや性的暴行に抗議する #MeToo 運動がヒートアップしましたが、これに対して「告発を強制し、沈黙を貫く人たちを裏切り者呼ばわりするのは疑問」とカトリーヌ・ドヌーブら女優、作家、心理学者やジャーナリストなどのフランス人女性100人が、連名で #MeToo 運動の行き過ぎを批判、アメリカの急進性とフランスの保守性を印象づけました。

女性が支え、女性が活躍できるフランス映画

女性の権利拡大に急進的なアメリカで女性監督に壁があり、保守的なフランスで壁がないのはちょっと不思議です。女性監督をとりまく環境について両国の比較データがないので想像するしかありませんが、これにはふたつの背景があるよう思っています。ひとつは、フランス映画における女性の貢献度がそもそも高いことです。フランス映画というと「シェルブールの雨傘」(1964年)、「アメリ」(2001年)、「アデル、ブルーは熱い色」(2013年)など、フェミニティ(女性性)を感じさせる作品が少なくないのですが、日本で毎年開催されるフランス映画祭でも女性が団長を務めることが圧倒的に多く、女性がフランス映画の看板を背負っていること実感します。

 

フランス映画祭団長

開催年 団長 性別
1993 ジャンヌ・モロー
1994 ソフィー・マルソー、リーヌ・ルノー ♀♀
1995 シルヴィー・ヴァルタン
1996 イザベル・ユペール
1997 キャロル・ブーケ
1998 サビーヌ・アゼマ
1999 クロード・ルルーシュ
2000 ジャン=ジャック・べネックス
2001 ナタリー・バイ
2002 ジャンヌ・モロー(名誉団長)
2003 ヴァンサン・ペレーズ
2004 エマニュエル・ベアール
2005 コスタ=ガヴラス
2006 キャロル・ブーケ(2度目)
2007 カトリーヌ・ドヌーヴ
2008 ソフィー・マルソー
2009 ジュリエット・ビノシュ
2010 ジェーン・バーキン
2011 リュック・ベッソン
2012 (空席) -
2013 ナタリー・バイ(2度目)
2014 トニー・ガトリフ
2015 エマニュエル・ドゥヴォス
2016 イザベル・ユペール(2度目)
2017 カトリーヌ・ドヌーヴ(2度目)
2018 ナタリー・バイ(3度目)
2019 ミシェル・ルグラン

 

もうひとつは、かつて隆盛を極めたフランス映画の衰退に伴い男性優位主義の守旧勢力が弱体化する一方で、EU統合という社会の枠組みの変化に対応すべくフランス政府や映画製作者が国際共同制作や新たなフランス映画らしさを模索する中、映画製作者の出身や性別を問わず映画が作りやすい環境が整ったであろうことです。フランス映画らしさという点では、物量で圧倒的な優位に立つハリウッドの男性的なアメコミ映画に対して、一連の女性監督によるフランス映画は非常に戦略的なポジションにあるように思われます。テーマ優先で撮りたい作品を2〜3本撮ると消えてしまう女性監督も少なくないようですが、フランス映画伝統の繊細で美しく叙情的な表現、エスプリの効いた表現、象徴的で芸術的な表現を、次々と登場する女性監督たちが底上げしてくれるのではないかと期待しています。

 

アニエス・ヴァルダ監督の撮影行のドキュメンタリー「顔たち、ところどころ

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アニエス・ヴァルダ(1928年〜2019年)はベルギー出身のフランスの映画監督。フランスの女性監督の草分け的存在で、ヌーヴェルヴァーグの祖母とも呼ばれる。「落穂拾い」(2000年)、「アニエスの浜辺」(2008年)、「顔たち、ところどころ」(2017年)などの作品を残している。長年の功績を称え、第90回アカデミー賞で名誉賞を授与されている。2019年3月、乳癌のため逝去。夫は同じく映画監督の故ジャック・ドゥミ

 

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