夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アデル、ブルーは熱い色」:同性愛に目覚めた成長過程の少女を生々しく描くフランス映画の底力

アデル、ブルーは熱い色」(原題: La vie d'Adèle – Chapitres 1 et 2、英題:Blue Is the Warmest Colour)は、2013年公開のフランスの恋愛・ドラマ映画です。ジュリー・マロによる2010年のフランスのグラフィックノベル「ブルーは熱い色」を原作として、青い髪の画家エマと、彼女と出会い、一途な愛を貫く女性アデルを描いています。コンペティション部門でプレミア上映された第66回カンヌ国際映画祭で、女性同士の激しい性愛描写が話題となり、監督の他に同映画祭史上、初めて主演女優の二人にも最高賞であるパルム・ドールが贈られました。

 

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目次 

スタッフ・キャスト

監督:アブデラティフ・ケシシュ
脚本:アブデラティフ・ケシシュ/ガリア・ラクロワ
原作:ジュリー・マロ「ブルーは熱い色」
出演:アデル・エグザルホプロス(アデル)
   レア・セドゥ(エマ)
   ジェレミー・ラウールト(トマ)
   サンドール・ファンテック(ヴァランタン)
   ほか

あらすじ

女子高生のアデル(アデル・エグザルコプロス)は、デートへ向かう途中、街中ですれ違った青い髪の女性エマ(レア・セドゥ)に周囲の人とは違う何かを強烈に感じます。その後、アデルはバーでエマと再会し、アデルは画家のエマが持つ独特の感性や大人っぽい雰囲気、知性の高さに惹かれていきます。やがて二人の間の友情は愛情へと発展、情熱的に愛し合うようになり、アデルはエマにのめり込んでいきます。数年後、念願の教師になったアデルは、自らをモデルに絵を描くエマと一緒に住み、幸せに満ちあふれた毎日を過ごしていましたが、エマの作品披露パーティが催された頃から二人の気持ちは徐々にすれ違うようになります・・・。

レビュー・解説 

アデル、ブルーは熱い色」は、ストレートで生々しく力強い演技と、強烈だが味わいの深い、じっくりと構成された心惹きつけるドラマ映画です。

 

レア・セドゥに目当てで観たのですが、かなり強烈な映画で、共演のデル・エグザルホプロスのインパクトも大きいです。撮影時、レア・セドゥ26歳、アデル・エグザルホプロス18歳ですが、アデルはフランス女優の大先輩を相手に一歩も引かない堂々の演技を見せています。

 

2時間50分の超大作で、その長さの秘密は、アデルがトマに貸した「マリアンヌの生涯」という小説について、二人がやりとりするところに示されています。

トマ:君のせいで苦労する、「マリアンヌの生涯」。
アデル:読んだの?
トマ:まだ、最初だけ。手強くてなかなか進まない。
アデル:好きじゃない?
トマ:凄い厚いから、めげる。
アデル:薄くても飽きるものもあるわ。あれが嫌い?
トマ:嫌いじゃない。だけど、古くて長ったらしいのがちょっとね。
アデル:描写が綿密で、掘り下げているの。特に女性心理を。

 

テンポの早いハリウッド映画と異なり、この映画はひとつひとつのシーンが丁寧に撮られています。例えば、アデルが最初にエマを見かけて交差点ですれ違うシーンに約50秒かけていますが、これはテンポの早い映画の倍以上でしょう。この間、何かを感じて落ち着かないアデルの顔が何度もアップで映し出されます。すれ違った後も、何度も振り返るアデルが映し出されます。テンポの早い映画だとついやり過ごしてしまいそうなシーンも、この映画ではその心理描写をじっくりと味わいながら観る事ができます。因みに、前述の「マリアンヌの生涯」はアデルの高校の教材となっており、その一節の「道で出会った人に一目惚れするが、声をかけられなかったときに感じる物足りなさ」が授業で議論されますが、これはその後、アデルがエマに声をかけることが出来ず悶々とすることの伏線になっています。

 

このシーンは100テイクも撮り直されたもので、一目見ただけでその素晴らしさが伝わってきますが、一方でリアリティを求めて何百回も撮り直すというアブデラティフ・ケシシュ監督のやり方には周囲でも議論がありました。また、二人の女優は脚本を一度しか読むことを許されず、多くのセリフを即興でやることを求められ、メイクアップ・アーティストもおらず、ほとんど素顔で演技することを求められました。ぎりぎりの状況まで追いつめられた悪戦苦闘の演技によって映画にリアリティが出たと、二人の女優は語っています。この映画の為に撮影された映像は800時間にのぼり、撮影期間は当初の予定2ヶ月に対して、5ヶ月かかりました。

 

緻密な描写は、アデルがクラスメートに同性愛者だと言われて喧嘩するシーンや、アデルとエマが喧嘩分かれするシーンにも顕著です。いずれも、感覚的に通常の映画の倍くらいの時間をかけてじっくりと描写しており、白熱の演技と相まって実に見応えがあります。二人が喧嘩別れするシーンは、話題になった「激しい性愛描写」のシーンよりもはるかに大変だったと、アデル・エグザルコプロスは語っています。

 

撮影時18歳のアデル・エグザルコプロスは、まだあどけなさの残る少女のように見えますが、前半から大胆な性愛描写のシーンが出てきて、度肝を抜かれます。日本版は性愛描写の部分が再編集されているようですが、それでも十分にインパクトがあります。ただ、この映画を一流女優によるポルノ的映画とみなすのは誤りでしょう。同性愛という部分ははずせないにせよ、それはすべてではなく、むしろアデルという成長過程の女性を生々しく描くことにこの映画の狙いがあります。激しい性愛描写のシーンは原作者や実際の同性愛者からはリアルではないと評価されており、話題性があるとはいえ、この部分を過大評価するとこの映画を見誤ります。

 

18歳のアデル・エグザルコプロスに髪をいじる癖や、ズボンをずり上げる癖があることに気づいたアブデラティフ・ケシシュ監督は、これを女性として成長過程の(未完成な)アデルのキャラクターの中に取り込んでいます。また、アデルが本番の合間に食べているシーンや、移動中に寝ているシーンも撮影され映画に使われるなど、原作の主人公クレモンティーヌではなく、素のアデル・エグザルコプロスが映画に取り入れられ、主人公の名前もアデルに変わり、さらにタイトルにもアデルの名を取り込むに至っています。この映画はアデルが何か食べるシーンをしつこく映し出します。泣きながら食べるシーンもあります。食いっぷりが良かったからこの映画に起用されたとアデル・エグザルコプロスが語るくらい、重要なシーンです。これには、18歳の少女が持つ生命力を強く感じさせます。哀しくても泣きながら食べる、同性愛に目覚めると物怖じせずに飛び込んでいく、クラスメートに揶揄されても闘い、デモにも参加する、別れを切り出されても泣きながら食いつく・・・、すべてアデルの生命力です。そのパワーは、アブデラティフ・ケシシュ監督とともに一年以上かけて周到に役作りをしたというレア・セドゥがのパフォーマンスと拮抗するほどです。

 

フランス映画の底力を見せつけられた作品です。また、素材を生かすディレクションに後押しされた部分があるにせよ、アデル・エグザルコプロスは将来が楽しみな女優です。

 

アデル・エグザルホプロス(アデル)

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レア・セドゥ(エマ)

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動画クリップ(YouTube) 

クラスメートと喧嘩するシーン〜「アデル、ブルーは熱い色

撮影地(グーグルマップ)

 

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