「15歳、アルマの恋愛妄想」(原題:Få meg på, for faen!)は、2011年公開のノルウェーのコメディ映画です。オーラウグ・ニルセンの小説を原作に、ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督・脚本、ヘレーネ・ベルグスホルム、ヘンリエッテ・ステーンストルプ、マーリン・ビョルホフデら出演で、ノルウェーの片田舎を舞台に10代の少女たちの繊細な心情や性の目覚めを瑞々しくユーモラスに描いています。ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセンの監督・脚本デビューとなった本作は、トライベッカ映画祭最優秀脚本賞、ローマ映画祭最優秀デビュー作品賞、モンズ国際恋愛映画祭最優秀ヨーロッパ作品賞を受賞した作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン
脚本:ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン
原作:オーラウグ・ニルセン「Få meg på, for faen!」
出演:ヘレーネ・ベルグスホルム(アルマ)
ヘンリエッテ・ステーンストルプ(アルマの母)
マーリン・ビョルホフデ(サラ)
ベアテ・ステフリング(イングリット)
マティアス・ミーレン(アルトゥール)
ほか
あらすじ
ノルウェーの片田舎に暮らす15歳のアルマ(ヘレーネ・ベルグスホルム)は、変化のない退屈な日々を送りながら、密かに想いを寄せる学校の人気者アルトゥール(マティアス・ミーレン)とこの町を出て、セックスすることを夢見ていました。ある日、親友の双子姉妹サラ(マーリン・ビェルホヴデ)とイングリット(ベアテ・ステフリング)と共に出かけたパーティーで、アルマはアルトゥールと2人きりになります。そこで起こった衝撃的な出来事によって、アルマは学校で孤立してしまいます。親友だったはずのイングリッドはアルトゥールにアタックを始め、サラも学校では口をきいてくれません。苛立つアルマは女手一つで育ててくれた母親(ヘンリエッテ・ステーンストルプ)とも衝突し、思いがけない行動に出ます・・・。
レビュー・解説
ノルウェーの片田舎の15歳の少女の性の目覚めをユーモラスに描いたこの作品は、この年代の少女達が持つアンバランスさと単純さを自然、かつリアルに引き出しており、アナログ感が溢れる優しい映像と相まって、少女達に向けた暖かい眼差しが感じられる作品です。
原題の「Få meg på, for faen!」は、ノルウェー語で「私を熱くしてよ、このおたんこなす!」といった意味です。思いを寄せる相手が振り向いてくれないじれったさを、性的な意味合いを込めて表現した、ヴィヴィッドなタイトルです。冒頭、15歳の主人公のアルマの自慰シーンが流れ、度肝を抜かれます。その後も彼女が様々な妄想をするシーンが随所に挿入されています。こうした描写が、この作品の話題性を高めたのは間違いないでしょうが、この映画について特筆すべき点は、そうした少女たちをユーモラスに、優しい眼差しで描いていることでしょう。
ノルウェーは人口500万人ほど、日本よりやや広い国土のほとんどをスカンディナヴィア山脈が占め、平地はほとんどありません。物語はそんなノルウェーの山間にある架空の町「Skoddeheimen」を舞台に展開します。メイン・キャラクターは三人の少女で、主人公のアルマは性に目覚め、妄想ばかりしています。親友のサラは、死刑廃止の為にアメリカに行きたいと考える硬派の少女です。同じく、親友のイングリットはリップ・グロスを離せないお色気志向の少女です。彼女らは単純で、大真面目で、退屈な町を出ていきたいと考えています。アルマはある日、意中の男の子にセクハラを受けるのですが、それを親友に話した事から、友だちに村八分にされるといういじめを受けることになります。
個性的な三人組
映画の舞台と同じノルウェー出身のヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督は、性的描写やセクハラ、いじめといった内容を、ユーモラスに描いていますが、性的描写について次のように語っています。
私自身、(原作の性的描写に)ちょっとびっくりしましたが、映画がリリースされた時にそれが問題になるとは思いませんでした。ノールウェーでは、女性の性的描写をタブー視することの方が驚かれます。北欧やヨーロッパでもそうだと思います。撮影を開始する前に「キック・アス」を見たのですが、若い男の子の自慰をとてもコミカルに描いており、良くあるパターンですが可笑しいです。ただ、女性が同じことをすると下品だと思う人はいるでしょう。(ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督)
ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督
もうひとつの驚きは、三人の少女役をすべてアマチュアから起用していることです。
これまで主にドキュメンタリーを撮ってきた経験から、このフィクションについても、自然さやリアルさに独自のアプローチをしています。私は、この映画の舞台のような町出身のティーンエイジャーを起用したいと思いました。私は人の少ない隔絶された地域に行き、そんな場所で育ち、この話の雰囲気や出来事に心を通わせることができるティーンエイジャーを起用する必要があったのです。バスを待つ小屋の中でじっと座って、なかなか来ないバスを待つことがどんな感じなのか知っているとか、そんなことです。(ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督)
個性溢れる少女達は大真面目ですが単純です。その単純さが可笑しくもありますが、セクハラやいじめが起こるのも、それを乗り越えるのも、その単純さ故です。性的描写と同時にこの単純さをユーモラスに描くことにより、自然でリアルでありながら、「下品さ」が感じられない作品になっています。舞台がノルウェーの片田舎、原作の刊行が2005年で、著者の原体験はそれ以前ですが、時代を強調することなくアナログ感が漂う映像で撮られたこの映画には、そこはかとない優しさが感じられます。少女達に向けたヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督の暖かい眼差しが伝わってくるような作品です。
少女の性を描いた主な映画を関連作品に示しますが、タブー視する傾向が強いのでしょうか、ここに踏み込んだアメリカ映画は意外に少ないようです。また、15歳を扱った映画が多いのは、おそらく性的同意年齢を15歳とする国が多いからでしょう。日本の同意年齢は13歳ですが、児童福祉法で18歳未満の児童を相手とする淫行について刑事罰を規定、取り締まりが行われており、アメリカ同様、日本も少女の性を描く事をタブー視する傾向が強いのではないかと思います。オーストラリアのケイト・ショートランド監督の「15歳のダイアリー」(2004年)や「さよなら、アドルフ」(2012年)は、本作同様、女性の目で脚本が書かれ、演出された作品で、ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督とはまた異なったシャープさを感じます。比較してみても面白いのではないかと思います。
ヘレーネ・ベルグスホルム(アルマ)
ヘンリエッテ・ステーンストルプ(アルマの母)
マーリン・ビョルホフデ(サラ)
ベアテ・ステフリング(イングリット)
マティアス・ミーレン(アルトゥール)
バイト先で妄想するアルマ〜「15歳、アルマの恋愛妄想」
妄想をコミカルに描いている。
アメリカの死刑囚に手紙を書くサラ〜「15歳、アルマの恋愛妄想」
本人はいたって真面目だが、アルマの一件を書く単純さが笑いを誘う。BGMもコメディ・タッチ。
撮影地(グーグルマップ)
- アルマらが通う学校
- アルマらが酒や煙草を手に入れるスーパー
- アルマらが乗降するバス停
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関連作品
少女の性を描いた映画のDVD(Amazon)
「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)
「17歳の肖像」(2009年)