「マイ・サマー・オブ・ラブ」:ヨークシャーの夏と成長の痛み
「マイ・サマー・オブ・ラブ」(原題:My Summer of Love)は、2004年公開のイギリスのドラマ映画です。ヘレン・クロスの同名小説を原作に、パヴェル・パヴリコフスキー監督、ナタリー・プレス、エミリー・ブラントら出演で、イギリス北部のヨークシャーの田舎町を舞台に、2人の少女の危うい関係を描いています。日本では劇場未公開ですが、ソフトで試聴できます。
目次
スタッフ・キャスト
監督:パヴェル・パヴリコフスキー
脚本:パヴェル・パヴリコフスキー/マイケル・ウィン
原作:ヘレン・クロス
出演:ナタリー・プレス(モナ)
エミリー・ブラント(タムジン)
ほか
あらすじ
イギリス北部、ヨークシャーのある夏、二人の少女が出会います。田舎での空虚な日常生活に興味を失い、どこか違う世界を待ちわびているモナ(ナタリー・プレス)の前に、美しく高慢なタムジン(エミリー・ブラント)が表れます。都会から避暑に訪れたタムジンはモナを自分の別荘に誘い、二人は急速に親密になり二人だけの時間を過ごすようになります。
兄のフィル(パディ・コンシダイン)が犯罪者だった過去を悔い改め、熱狂的なキリスト教信者へと転身したことにモナは戸惑い、自分にも宗教を強要する兄に苛立ちを感じていました。そんな兄を魔性の魅力で翻弄するタムジンに、モナは絶対的な信頼を寄せていきます。更に、何不自由なく暮らす優雅なタムジンが、実は父親の不倫に苦しみ、拒食症で亡くなった姉を助けられなかった悲しみに暮れていることを知り、モナは自分だけがタムジンを幸せに出来ると思うようになります。タムジンとの甘く危険な共犯関係に魅了されるモナは、全てを捨てタムジンと暮らそうとします・・・。
レビュー・解説
ヨークシャーの暑い夏に、ナタリー・プレス、エミリー・ブラント、二人の主演女優の好演が光る、甘くて苦いラブストーリーです。
ヨークシャーの夏を過ごす、未成熟で不安定な二人の少女を描いた映画で、観終わった後にかすかな胸の痛みを残します。それは、少女達が成長する痛みでしょう。エミリー・ブラントは美しく高慢な少女を見事に演じきり、女優として成長していく上で大きな評価を得ました。ナタリー・プレスも、正直だが問題も多い田舎の少女を驚くほどうまく演じています。二人の少女の熱演と、美しいヨークシャーの風景が、この映画を魅力的なものにしており、あたかも同じ夏を同時進行で過ごしているような気持ちになります。
この映画の生命線は二人の少女ですが、そのキャスティングは難航し、選考に8ヶ月もかかりました。結果、パヴェル・パヴリコフスー監督は、タムジン役にエミリー・ブラントという完璧な選択をし、また、共演のナタリー・プレスとエミリー・ブラントの相性も最初から完璧なものだったといいます。映画公開時、エミリー・ブラントは21歳、ナタリー・プレスは24歳でしたが、映画では二人ともまったく十代そのものに見えます。さらに、出演者のアドリブも取り入れられており、ナタリー・プレスが考え事をする時に落書きをすることに気づいた監督は、これをモナ(ナタリー・プレス)が壁にタムジン(エミリー・ブラント)の肖像を描くシーンとして取り入れ、オープニング・クレジットにも流れています。また、エミリー・ブラントが映画で初めてのラブ・シーンに挑戦していますが、とても初めてとは思えない堂々とした演技で、既にこの時から大物感全開です。
パヴェル・パヴリコフスキー監督の徹底したロケハンの後、ヨークシャー州トッドモーデンを中心に5週間かけて撮影が行われました。この年はヨークシャー州がここ50年で最高の暑さに見舞われましたが、これも映画にはこれがプラスに働いているのではないかと思われます。
エミリー・ブラントは、「マイ・サマー・オブ・ラブ」でイヴニング・スタンダード英国映画賞新人賞などの受賞、ノミネートを受けた後、
- 2006年公開の「プラダを着た悪魔」でハリウッドに進出、メリル・ストリープのアシスタント役を演じ、ゴールデングローブ賞 助演女優賞や英国アカデミー賞助演女優賞にノミネート、
- 2009年公開の「サンシャイン・クリーニング」でエイミー・アダムズの妹役を演じ、サテライト賞助演女優賞ノミネート、
- 同年公開の「ヴィクトリア女王 世紀の愛」ではヴィクトリア女王を演じ、ゴールデングローブ賞 主演女優賞にノミネート、英国アカデミー賞ブリタニア賞を受賞、
- 2012年公開の「LOOPER/ルーパー」で放送映画批評家協会賞アクション映画女優賞にノミネート
など、着々と女優のキャリアを積み上げるとともに、2014年公開の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」では、ヒロインを演じる為に徹底した肉体改造を行い、初のアクション・シーンに挑戦しています。
エミリー・ブラントは、10歳のころから吃音を意識するようになり、「一生この状態なのかと思ったらたまらない」と、12歳の頃には全く話すのをやめてしまったそうです。ある日、学校の演劇で先生に「北部なまり」を話すように言われたことがきっかけで徐々に回復し、それから5年間ほどで流ちょうに話ができるようになりました。この経験から「もっと誰か他の人を演じてみたい」と女優の道に進み、天職を得た訳ですが、人生、いつ不幸が幸福につながるかわかりません。私の好きな女優の一人であり、また、今後のさらなる活躍に期待を寄せている女優の一人です。
ナタリー・プレス(モナ)
エミリー・ブラント(タムジン)
撮影地(グーグルマップ)
関連作品
"My Summer of Love" by Helen Cross
「プラダを着た悪魔」(2006年)
「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)
「サンシャイン・クリーニング」(2009年)
「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)
「LOOPER/ルーパー」(2012年)
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)
「クワイエット・プレイス」(2018年)
「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)
少女の性を描いた映画のDVD(Amazon)
「17歳の肖像」(2009年)
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