夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「美女と野獣」:フランス流の映像/比喩表現にレア・セドゥが命を吹き込むVFX映画

美女と野獣」(原題: La Belle et la Bête)は、2014年公開のフランス、ドイツ合作のファンタジー/ロマンス映画です。これまでに何度も映像化されてきたフランスの古典的物語を、最新の映像技術を駆使して映画化したものです。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:クリストフ・ガンズ
脚本:クリストフ・ガンズ/サンドラ・ヴォ=アン
原作:「美女と野獣
出演:レア・セドゥ(ベル)
   ヴァンサン・カッセル(野獣 / 王子)
   アンドレ・デュソリエ (商人)
   エドゥアルド・ノリエガ(ペルデュカス)
   ほか

あらすじ

主人公のベルは裕福な商人の父と三人の兄、双子の姉と共に暮らしていましたが、父の所有する船が嵐で遭難し一家は破産してしまいます。一家は田舎に移り住み、質素な生活を始めますが、贅沢に慣れた3人の兄と2人の姉は不満を募らせます。末娘のベルは、家族で過ごす毎日に幸せを感じていました。一カ月後、港に父親の船が打ち上げられ、父は長男マキシムと港に向かいますが、船は借金のカタとして差し押さえられ、マキシムはどこかに行ってしまいます。父は、マキシムを探して彼の馴染みだった酒場に向かいますが、そこにはマキシムに借金を踏み倒されたペルデュカスがいました。ペルデュカスに身ぐるみ剥がされそうになった父は、酒場を逃げ出します。家に戻る途中の森で吹雪に見舞われた父は、偶然見つけた古城に逃げ込み、九死に一生を得ます。古城には主の姿が見えず、温かい食事と子供たちに頼まれた土産物が用意されていました。父は土産物を手に家に帰ろうとしますが、ベルに頼まれたバラがないことに気付き、庭園のバラを一輪、手折ります。その瞬間、恐ろしい野獣が現われ、バラの代償に商人の命を要求します。1日の猶予を与えられ帰宅した父から事情を聞いたベルは、身代わりを買って出て野獣の城へと駆けつけます。古城に着いたベルに対し、野獣は高価なドレスを贈り、「城内を自由に散策して良い」と告げ、何の危害も加えませんでした・・・。

レビュー・解説 

美女と野獣」は、フランスの異類婚姻譚(人間と異なる存在と人間とが結婚する説話)で、1740年にヴィルヌーヴ夫人によって最初に書かれました。現在広く知られているのはそれを短縮して1756年に出版された、ボーモン夫人版です。異類婚姻譚でよく知られている例としては、ギリシア神話のキューピッドとプシケーの物語、グリム童話では「かえるの王さま 」、日本では「鶴女房」などがあります。ヨーロッパの異類婚姻譚に登場する動物は、元が魔法や呪いで姿を変えられた人間とされるものが多く、また逆に妖精が魔法で動物の姿となっていたというものも多数存在します。「美女と野獣」は典型的なヨーロッパ型の異類婚姻譚です。

 

クリストフ・ガンズ監督の「美女と野獣」は、 1946年 ジャン・コクトー監督(フランス) 1991年 ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ監督(ディズニー・アニメ、アメリカ) 2009年 デヴィッド・リスター監督(オーストラリア) に次ぐ、四度目の映画化です。映画以外にも、「美女と野獣」は、多くバレー化や舞台ミュージカル化されています。 クリストフ・ガンズ監督の「美女と野獣」は、本家フランスによる映画化にふさわしく、母親が子供に「美女と野獣」の絵本を読み聞かせるという、原作を意識した作りになっています。フランスらしいローキー、絵画調の映像が特徴的で、母親が読んで聞かせる絵本の挿絵から実際の動画、実際の動画から絵本の挿絵にモーフィングする心憎い演出も見られます。特殊効果を駆使していますが、フランス国民もこうした映画をフランスで作ることができると思っていなかったようです。

 

絵画的な映像〜クリストフ・ガンズ監督「美女と野獣」  

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クリストフ・ガンズ監督の「美女と野獣」は、1740年のヴィルヌーヴ夫人版をベースにしていますが、野獣になった理由など、独自のエピソードも織り込まれており、より感動的なものになっています。一方で、ベルが野獣の元に戻った理由がわからない、という声も聞かれます。この点に関して、クリストフ・ガンズ監督は次のように語っています。

「私は役者の演技だけではなく、象徴=シンボルを散りばめながらそこを表現しました。例えば部屋の装飾、光、衣装、アクセサリーなど細部にそれぞれ意味があるんです。ただベルが野獣と会話しながら恋に落ちていくのではない。彼女をとりまく環境すべてが、徐々に野獣に惹かれる過程を表している。ベルの心情を、そうした細部に宿らせたのです。しかし西洋の文化の中では、もっとわかりやすく表現することが好まれる。その点、ディズニー版の方がいいと感じる人もいると思います。」

「『美女と野獣』には、実はとても深いテーマがあります。例えばタイトルにしても、(フランス語の)エンドとイズが音では同じ言葉なので、実は野獣は精神の崇高さから美しく、ベルは相手を挑発するような官能性から野獣、という解釈もできる。そんな深い問いかけもある作品なんです。」

冒頭で、ベルがバラの花や自然が好きなことが示唆されていますが、古城を囲む自然のみならず、野獣とのやりとり、野獣が与える衣装や食卓、住環境などが、徐々に彼女にとって好ましいものに変化しているのがわかります。最初、白のドレスで強ばっていたベルが、緑のドレスで嬉々として森を駆け回り、ブルーのドレスで野獣と踊るシーンでは駆け引きをベルから仕掛けています。この時、既に恋心が芽生えていたと見るべきでしょう。里帰りする際の、真っ赤なドレスが象徴的です。

 

レア・セドゥが演じるベルは、冒頭、やや頼りなげな印象ですが、徐々に芯の強さが姿を現し、野獣と渡り合うシーンでは現代的な強ささえ感じます。野獣が与える様々なドレスも、若々しく着こなしています。このあたり、普段はジーンズ姿で活動的なレア・セドゥならではかもしれません。クリストフ・ガンズ監督は、レア・セドゥについて次の様に語っています。

「彼女は複数の顔をもっているところが魅力ですね。少女っぽいところ、大人の女性の一面、かと思えば急にボーイッシュな人間になったり、さまざまな顔がある。今回の『美女と野獣』では、数日の間にパパっ子である少女から野獣に惹かれる恋する大人の女になっていく。まさに彼女はそのシーンに求められている顔を瞬時に使い分けて演じてくれました。」

「キャストが編集の場を訪れることもよくあったのですが、彼女は撮影が終わるとすごくボーイッシュで、ジーンズとかでくるんです。『あれ? 昼間のプリンセスはどこへ行っちゃったの?』という感じ(笑)。普段は本当に気さくな女性で、でもスクリーンに映るとこの上なくフェミニン。いろいろな表情を使い分けられる素晴らしい女優さんです。」

 

レア・セドゥ演ずるベル〜クリストフ・ガンズ監督「美女と野獣

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クリストフ・ガンズ監督の特殊効果を駆使した「美女と野獣」は、原作を意識した構成の中で、フランス流の絵画調の映像や比喩的表現にレア・セドゥが生気を吹き込む、新たなフランス映画のあり方を示す作品です。

 

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  「ルルドの泉で」(2009年)

  「シモンの空」(2012年)

  「マリー・アントワネットに別れをつげて」(2012年)

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