「クワイエット・プレイス」:ホラー初挑戦で記録的ヒット、見えぬ恐怖と静寂が館内を包む、エミリー・ブラント主演のサスペンス・ホラー
「クワイエット・プレイス」(原題:A Quiet Place)は、2018年公開のアメリカのサスペンス・ホラー映画です。ジョン・クラシンスキー監督、エミリー・ブラントら出演で、姿の見えない地球外生命から身を潜め、物音をたてずに密かに生きる家族に迫る恐怖を描いています。ヒロインのエヴリンをエミリー・ブラントが、その夫を彼女の実生活の夫であるジョン・クラシンスキー監督が演じています。第91回アカデミー賞で音響編集賞にノミネートされた作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ジョン・クラシンスキー
脚本:ブライアン・ウッズ/スコット・ベック/ジョン・クラシンスキー
原案:ブライアン・ウッズ/スコット・ベック
出演:エミリー・ブラント(イヴリン・アボット)
ジョン・クラシンスキー(リー・アボット)
ミリセント・シモンズ(リーガン・アボット)
ノア・ジュープ(マーカス・アボット)
ケイド・ウッドワード(ビュー・アボット)
レオン・ラッサム(老人)
ほか
あらすじ
- 2020年、宇宙からやって来た地球外生命体が世界中を恐怖に陥れています。生命体は盲目ですが、聴覚が異常に発達しており、それを利用して人間を捕食していました。そんな中、アボット一家は手話を使用して音を立てずに意思疎通を図ることにより逞しく生き延びています。ある日、物資を補充した帰りに長女リーガン(ミリセント・シモンズ)が与えた与えた玩具で末っ子のビュー(ケイド・ウッドワード)が音を立ててしまい、ヒューは生命体に殺されてしまいます。
- その後、一家は「決して、音を立てない」というルールを守り、手話を使い、裸足で歩き、道には砂を敷き詰め、日々、静寂の中で暮らしながら生き延びています。末弟の死以来、自分を責め続けるリーガンは、両親は弟のマーカス(ノア・ジュープ)をより愛していると感じるようになります、ビューが死んだのはお前のせいじゃない」と父親のリー(ジョン・クラシンスキー)は言い聞かせますが、リーガンは受け入れようとせず、一家の中でより疎外感を強めていきます。
- ある日、釣りに行くリーがマーカスと同行しようとしたリーガンは、妊娠中の母親イヴリン(エミリー・ブラント)を見ているようにと言われます。水音が声を覆う滝で、リーとマーカスはビューの死とリーガンが抱えている家族への不信感について話し合います。マーカスは「リーガンを愛しているなら、はっきりそう伝えないとダメ」と言います。帰宅する途中、2人は妻を亡くして悲嘆に暮れる老人に遭遇、老人は叫び声を上げ、生命体に殺されます。それは、あたかも妻なき後の孤独な生活を恐れての自殺のようでした。
- その頃、産気付いたイヴリンは安全な地下室に移動しますが、その途中で誤って音を立ててしまいます・・・。
レビュー・解説
ホラー初挑戦で歴代ホラー映画興行収入トップテン入り、目に見えぬ地球外生命体の恐怖と静寂が館内を包む、子どもたちへの思いを込めたジョン・クラシンスキー監督xエミリー・ブラント夫妻主演のサスペンス・ホラー&ドラマ映画です。
ホラー初挑戦で記録的大ヒットの快挙
不用意に音をたてると一瞬にして地球外生命体に捕食されてしまうという過酷な環境で必死に生き延びる家族のドラマを描いた作品で、静寂の中に張り詰める緊張感の下、生命体の描写もほとんどなければ、登場人物のセリフもほとんどありません。生命体の概要デザインもポスト・プロダクションまでなされなかったというほど、余分なものを徹底的に削ぎ落とし、シンプルに主題にフォーカスしています。序盤の終わりにはエミリー・ブラントが扮するエヴリンが妊娠していることがわかり、この厳しい環境下で如何に出産するのかに観客の関心が集まります。
長編映画の監督が三作目、ホラー映画の監督は初めてというジョン・クラシンスキーが手がけたこのシンプルな低予算映画は、なんと歴代のホラー映画興行収入ランキングのトップテン入りする快挙を成し遂げてしまいました。
ホラー映画興行収入ランキング
タイトル | 公開年 | 制作費 (万ドル) |
興行収入 (億ドル) |
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 | 2017 | 3500 | 7.00 |
アイ・アム・レジェンド | 2007 | 15000 | 5.85 |
ジョーズ | 1975 | 7000 | 4.71 |
エクソシスト | 1973 | 1200 | 4.41 |
死霊館のシスター | 2018 | 2200 | 3.66 |
ハンニバル | 2001 | 8700 | 3.52 |
クワイエット・プレイス | 2018 | 1700 | 3.41 |
死霊館 | 2013 | 2000 | 3.18 |
死霊館 エンフィールド事件 | 2016 | 4000 | 3.20 |
アナベル 死霊人形の誕生 | 2017 | 1500 | 3.06 |
The Numbers: All Time Worldwide Box Office for Horror Movies(as of 4/5/2019)他
https://www.the-numbers.com/box-office-records/worldwide/all-movies/genres/horror
シンプルな設定に子供への思いを込める
実はジョン・クラシンスキーはホラー映画が苦手で、本作出演の打診があった際も断ろうとしたそうですが、二番目の娘が生まれて間もなかった彼は脚本の子供を守ろうとする家族に強く共感、その様子を見た妻のエミリー・ブラントに背中を押され、
- 脚本を書き変え家族要素を強めること
- 自ら監督を務めること
を条件に監督・脚本・出演を引き受けて実現したのが本作です。本作がホラー映画初出演となるエミリー・ブラントも、脚本を読むうちに自らの出演を決めたという、夫婦揃っての子供への思いが込められた作品でもあります。
エミリー・ブラントの魅力で引っ張る
静寂の中に張り詰める緊張感が本作の最大の魅力で、序盤の終わりにはエミリー・ブラントが扮するエヴリンが妊娠していることがわかり、この厳しい環境下で如何に出産するのか、観客の関心を彼女が一身に背負います。イギリス女優らしくこれ見よがしの派手さありませんが、美しいにもかかわらず彼女の一種泥臭く、現実味のあるパフォーマンスには他の女優にはない魅力があります。「メリー・ポピンズ リターンズ」のロブ・マーシャル監督は、「彼女と同じ部屋(現場)で、彼女の演技を見ない限り、彼女がなぜこれほどまでに素晴らしい女優かわからない」と彼女を評していますが、何週間も前から周到に準備していたジョン・クラシンスキー監督は、本作のクライマックスであるバスタブ・シーンをワン・テイクで決めてみせ、余韻で凍りついた現場の雰囲気を「今日のお昼は何にするの?」という一言でさらりと変えてみせるエミリー・ブラントに、ロブ・マーシャル監督のエミリー・ブラント評を実感したといいます。
エミリー・ブラントの凄さ
エミリー・ブラントは「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)、「プラダを着た悪魔」(2006年)、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)、「サンシャイン・クリーニング」(2009年)など、当初はちょいワル的な助演をやることが多かったのですが、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)で正統派の主役を務めます。その後、「アジャストメント」(2011年)や「LOOPER/ルーパー」(2012年)などのSF作品に出るようになり、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)、「ボーダーライン」(2015年)では大幅に肉体改造し、アクションに挑戦しています。彼女の演技にはこれ見よがしの派手さはありませんが、女優としてのイメージが固定化しないように様々な役柄に挑戦しながら、確実にステップアップしてきています。
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」では撮影期間中に妊娠してしまったり、「ボーダーライン」では愚図なFBI捜査官を演じ映画として高い評価を得たももの、制作者との間に映画の狙いにずれがあり「オッパイがいうことを聞かない」とヌードを辞退したり、観客にはヒロインがスマートではないという批判を浴びるなど、それなりの困難に突き当たっていますが、それを表に出さない彼女にはイギリス人女優の芯の強さを感じます。不評もあって彼女は「ボーダーライン」の続編には出演しなかったのですが、作品そのものの評価がガタ落ちになったのは実に興味深いところです。最近ではミュージカル・ファンタジー「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)に出演していますが、このようにこれまでとは違った傾向の作品に出演してそれを確実にものにするのは大変なことで、本作も彼女初のホラー映画であり大きなジャンプなのですが、それを感じさせないのが彼女の凄いところです。
厳しい環境下で子供を産み育てるということ
本作の厳しい環境下で子供を生むという設定に、太古の時代は地球外生命体ならずとも地上の天敵に襲われる危険に晒されながら人間は子供を産み育てていたんだろうなとか、 今でも紛争地域では危険に晒されながら子供を産み育てているに違いないとか、漠然と考えながら観ていましたが、後に、
- 音を出せない世界に泣かずにはいられない赤ちゃんを生むとはなにごと
- 地球外生命体が支配する世界に生まれる赤ちゃんは不幸
といった批判があることが知り、驚いてしまいました。末子を失った痛手から立ち直るかのように新たな子を設けたようでもありますが、本作は子を守る親の責任は描いているものの、困難な環境で子を持つこと自体の是非には触れていません。感じ方、考え方、いろいろですが、どんなに厳しくとも赤ちゃんを守るというのではなく、厳しいから赤ちゃんを持たないというのは、本末転倒のような気もします。
第二次世界大戦時の沖縄で、敵兵に見つからないようにと、兵士が塹壕の中で泣く赤ちゃんに手をかけたという悲しい話があります。そこまで極端ではないにせよ、「子どもの声がうるさい」という地域住民の声で保育園の建設を断念などという昨今の話を聞くと、子どもたちの声を聞きつけてその芽をつんでしまう地球外生命体は実は我々の中にいるのではないか、子どもたちが住みにくい世界にしているのは我々自身ではないかと思ってしまいます。
興行成績的には大成功した本作ですが、静寂の中、息を飲んで鑑賞する為、観客がポップコーンなど食べれる雰囲気でなく、大きな収入源である館内販売の売上が伸びずに映画館は痛し痒しだったそうです。続編に意欲を燃やしていたジョン・クラシンスキー監督は既に脚本に取りかかっていましたが、来年5月公開の予定で監督に決まったようで、エミリー・ブラントも出演するようです。これを機会に音が出ないお菓子が開発されれば、映画館はよりハッピーかもしれません。
エミリー・ブラント(1983年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。父は弁護士、母は元女優で演劇講師。10歳から吃音症に悩み、12歳の頃には話すのを諦めるほどだったが、北部訛りで話すことにより克服。「もっと誰か他の人を演じてみたい」と、女優の道に進む。2001年に舞台、2003年に映画にデビュー、「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)でいくつかの賞を受賞、「プラダを着た悪魔」(2006年)でハリウッド進出、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)、「サンシャイン・クリーニング」(2009年)頃までは、ちょいワル的な助演が多かった。「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)で正統派の主役を務め、その後、「アジャストメント」(2011年)や「LOOPER/ルーパー」(2012年)などのSFに出演、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)、「ボーダーライン」(2015年)では肉体改造し、アクションに挑戦、本作ではホラー映画に、「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)ではミュージカル・ファンタジーに挑戦している。本作で夫役を演じるジョン・クラシンスキー監督は、実生活の夫。妹のフェリシティはスタンリー・トゥッチと結婚している。
ジョン・クラシンスキー(リー・アボット)
ジョン・クラシンスキー(1979年〜)は、ボストン出身のアメリカの俳優、映画監督。イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニーや国立劇場研究所で演技を学ぶ。2005年、テレビシリーズで人気を得、2009年に映画監督デビュー。「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)、「ドリームガールズ」(2006年)、「だれもがクジラを愛してる。」(2012年)、「デトロイト」(2017年)などに出演している。本作で妻役を演じるエミリー・ブラントは、実生活の妻。
ミリセント・シモンズ(リーガン・アボット)
ミリセント・シモンズ(2002/2003年〜)は、聴覚障害のある女優。本作および「ワンダーストラック」(2017年)で知られる。聴覚障害は1歳の頃の薬物過剰投与が原因で、後天的なもの。アメリカ手話を学んだ家族の中で育つ。人工内耳を着用している。
ノア・ジュープ(マーカス・アボット)
ノア・ジュープ(2005年〜)は、イギリスの俳優。「ナチス第三の男」(2017年)で映画デビュー、「サバービコン 仮面を被った街」(2017年)、「ワンダー 君は太陽」(2017年)及び本作への出演で知られる。
ケイド・ウッドワード(ビュー・アボット)
ケイド・ウッドワード(2011年〜)はアメリカの俳優。本作及び「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)への出演で知られる。
撮影地(YouTube)
- 冒頭のゴーストタウン
- アボット一家が渡る橋
- アボット一家の家
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「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)
「ドリームガールズ」(2006年)
「デトロイト」(2017年)
「マイ・サマー・オブ・ラブ」(2004年)
「プラダを着た悪魔」(2006年)
「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007年)
「サンシャイン・クリーニング」(2009年)
「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009年)
「LOOPER/ルーパー」(2012年)
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)
「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年)