夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」:若く刺激的な世代に翻弄されながらも、中年の危機を乗り越える夫婦を、面白おかしく、ほろ苦く描く

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(原題::While We're Young)は、2014年公開のアメリカのコメディ映画です。ノア・バームバック監督・脚本・製作、ベン・スティラーナオミ・ワッツアダム・ドライバーアマンダ・サイフリッドら出演で、ブルックリンで暮らす中年のカップルが、若い世代に翻弄されながらも中年の危機を乗り越える姿をコミカルに描いています。  

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー(ジョシュ)
   ナオミ・ワッツ(コーネリア)
   アダム・ドライバー(ジェイミー)
   アマンダ・サイフリッド(ダービー)
   チャールズ・グローディン(ブライトバート
   アダム・ホロヴィッツフレッチャー)
   ブラディ・コーベット(ケント)
   ほか

あらすじ

  • ブルックリンで暮らすドキュメンタリー映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)とその妻でプロデューサーのコーネリア(ナオミ・ワッツ)は、子供を持たず自由な日々を送っているつもりでしたが、ジョシュは新作を完成させられないままアートスクールで講師を務め、コーネリアは著名な監督である父の作品ばかりを手がけており、行き詰まりを感じています。ある日、ジョシュはアートスクールでジェイミー(アダム・ドライバー)とダービー(アマンダ・サイフリッド)の若い夫婦と知り合い、夫婦ぐるみで付き合うようになります。ユニークなセンスを持ち、常識にとらわれずクリエイティブな生活をする二人に刺激を受け、ジョシュとコーネリアはエネルギーを取り戻していきます。
  • ジョシュはジェイミーの映画製作を手伝うことになり、ジェイミーはたまたま連絡してきた彼の友人であるケント(ブラディ・コーベット)を映画の題材にしようと提案します。その矢先にケントは自殺未遂を起こし、ジョシュが調べるとケントはアフガニスタンからの帰還兵だということがわかります。帰還兵のドキュメンタリーということでジェイミーの映画には多くの出資者が現れ、着々と製作が進みます。その一方で、ジョシュは自分の映画を一向に完成できず、コーネリアの父で著名なドキュメンタリー映画監督であるブライトバート(チャールズ・グローディン)に製作中の映画を見せても、辛らつな評価が返ってきます。
  • ブライトバートと親しくなったジェイミーの姿を見たジョシュは、彼に利用されたと確信、コーネリアに話しますが信じてもらえず、二人は激しく言い争います。しかも、パーティでコーネリアがジェイミーとキスをしていたことをジョシュが知ったことで、夫婦関係は破たん寸前になります。そんな中、ジョシュはケントがジェイミーに連絡を取ったのは偶然ではなく、元から計画されたことと知ります。ジェイミーのドキュメンタリーはヤラセだったことにジョシュは怒りを爆発させ、ブライトバートの祝賀パーティでそれを暴露します・・・。

レビュー・解説

仕事も停滞、子宝にも恵まれない40代の夫婦が、20代の野心的な夫婦に翻弄されながらも、中年の危機を乗り越える姿を、ニューヨークの若者文化を交えながら、面白おかしく、そしてほろ苦く描いたコメディです。

 

冒頭、イプセンの舞台劇「棟梁ソルネス」の一節が引用されます。

ソルネス:近頃、若者が怖くてな。
ヒルデ:若者が?
ソルネス:ああ、だからドアを閉めて閉じこもっているのさ。今に連中がやってきて、踏み込んでくるぞ。
ヒルデ:なら、ドアを開けて入れてあげたら?彼らも静かに入ってくるわ。あなたにとっても良いことよ。
ソルネス:ドアを開ける?こっちから開ける?

続いて、ナオミ・ワッツ扮するコーネリアが、友人の赤ちゃんに「三匹の子豚」を話して聞かせようとしますが、コーネリアはよく話を思い出せず、アドリブでごまかします。

コーネリア:三匹の子豚は木の枝で家を建てました。狼がやって来て・・・。
ジョシュ:吹き飛ばした?
コーネリア:その前よ。
ジョシュ:「5匹の子豚」の歌は違う・・・。
コーネリア:狼が家を吹き飛ばすたびに、子豚は家を建て直しました。

正解は、

  • 狼は最初の子豚が建てたわらの家の扉を叩いて、「子豚くん子豚くん、俺を中に入れておくれ」と言い、断られると息をかけて子豚の家を吹きとばし、子豚を食べてしまいます。
  • 二番目の子豚は木の枝で家を建てますが、狼と同様のやり取りの末に、一番目の子豚と同じように食べられてしまいます。
  • 三番目の子豚はレンガで家を建て、狼が息を吹きかけても吹き飛ばすことができません。煙突から忍び込もうとした狼は、煮えたぎる熱湯に飛び込み、子豚に食べられてしまいます。

ですが、コーネリアの即興は、若者に扉を叩かれ、翻弄される中年夫婦を暗示しています。

 

イカとクジラ」(2005年)を制作した後、バームバック監督はカップルに関する映画を作りたいと思いましたが、脚本がうまくまとまらず中断しました。その後、中年に関して考えた時に、彼の映画を驚くくらい若い頃に見ている世代がいることに気づき、世代をまたぐ視点でカップルの映画をまとめ上げたのが本作です。半自伝的な「イカとクジラ」では両親が離婚する十代の青年が、「フランシス・ハ」(2012年)ではダンサーになる夢を諦める20代後半の女性が主人公でしたが、本作ではバームバック監督と同年代の、中年の危機を迎えた40代の夫婦が主人公で、彼らが若者に出し抜かれる現実をコミカルに描いています。

 

ブルックリンで暮らすドキュメンタリー映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)とその妻でプロデューサーのコーネリア(ナオミ・ワッツ)は、仕事は思うようにならず、子宝にも恵まれず、行き詰まりを感じています。かつて野心的だったジョシュは、ドキュメンタリー映画で一発、当てましたが、コーネリアと結婚するも次作が遅々として進まず、著名なドキュメンタリー映画監督である彼女の父、ブライトバートの助力も頑なに拒み、悶々としています。最近子供が出来た友人とも縁遠くなり、いわゆる中年の危機に直面しつつあります。そんな折、ジョシュは彼を尊敬しているというジェイミー(アダム・ドライバー)とダービー(アマンダ・サイフリッド)の若い夫婦と知り合い、夫婦ぐるみで付き合うようになります。ユニークなセンスを持ち、常識にとらわれずクリエイティブな生活をする二人に刺激を受け、ジョシュとコーネリアはエネルギーを取り戻していきます。ここが本作の見所のひとつで、特にナオミ・ワッツのヒップホップダンスは一見に値します。

 

若い人に刺激を受け、さらに彼らに投資したり、助力することは悪いことではないのですが、年齢的な限界が近づく中子供を持つなど、若い人との交流では解決できないこともあります。また、体力的な面や、クリエイティブな能力、社会の捉え方など、彼らと同じ生き方が難しい面もあり、若い人からの刺激は必ずしも中年の危機の解決にならないのですが、そんな中、尊敬しているという言葉を真に受けていたジョシュは、実はブライトバートに近づくためにジェイミーに利用されただけだと知ります。さらに彼が助力したジェイミーのドキュメンタリーはヤラセだったことがわかり、怒り心頭に達したジョシュは、これを暴露するためにブライトバートの祝賀パーティに乗り込みます。

 

<ネタバレ>

ブライトバートの祝賀パーティに乗り込んだジョシュは怒りに任せてヤラセを暴露しますが、ジェイミーの作品のインパクトに比べればヤラセなど取るに足りないレベルのもので、ジョシュはあえなく自爆します。惨めな自分自身と向き合ったジョシュは、コーネリアと本音で語り合い、中年に危機を乗り越えます。一年後、養子を引き取りに向かった空港で、スマートフォンで電話をかける早熟な赤ちゃんを見かけて、ジョシュとコーネリアは目を剥きます。はてさて、今度は養子の赤ちゃんに翻弄されることになるのか、前途多難な(?)二人の顔のアップで映画は終わります。

<ネタバレ終わり>

 

本作は、いわば善良な中年夫婦が若者に騙されるわけで、後味の悪いという人がいます。確かに、スレスレのことをしながら成功をものにする野心的なジェイミーには共感できず、単純で要領の悪いジョシュに感情移入するものの、彼は成功しません。ジョシュよりもジェイミーに近いというバームバック監督も、怒りが湧いてきて、何度も脚本を書き直したといいます。しかしながら、彼は「後味の悪さ」を頑として譲りません。ジェイミーは他人を利用しただけで罪を犯した訳ではなく、義父を取られたと言っても、そもそも義父の助力を拒んできたのはジョシュ自身です。また、現実の世界でも、名声を得たバームバック監督に近づき、彼を利用しようとする野心家がいるでしょうが、それは業界では当然のことで、そうした野心家を悪者にすることはバームバック監督にとって全く意味がないことです。「イカとクジラ」、「フランシス・ハ」もそうですが、安易な成功に持ち込むのではなく、厳しい現実を受け入れ、ほろ苦さの中で登場人物を成長させるという、この「後味の悪さ」が彼の作品の持ち味なのです。

 

ベン・スティラー(左、ジョシュ)とナオミ・ワッツ(右、コーネリア)

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アダム・ドライバー(左、ジェイミー)とアマンダ・サイフリッド(右、ダービー)

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チャールズ・グローディン(ブライトバート

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アダム・ホロヴィッツ(右、フレッチャー)

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ジョシュとコーネリアの友人。赤ちゃんができて縁遠くなる。

サウンドトラック

 ・・・リンク先で視聴できます

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」サウンドトラックCD輸入版(Amazon

1.Golden Years by James Murphy
2.Concerto for Lute, 2 Violins and Continuo in D Major, RV 93: III. Allegro by Tom Finucane, New London Consort, Philip Pickett
3.All Night Long (All Night) by Lionel Richie
4.Buggin Out by A Tribe Called Quest
5.The Ghost in You by THE PSYCHEDELIC FURS
6.The Inch Worm by Danny Kaye
7.Only the Stars Above Welcome Me Home by James Murphy
8.Falling (Duke Dumont Remix) by Haim
9.Eye of the Tiger by Survivor
10.Recorder Concerto in C Major, RV 443: II. Largo (From "The Wild Child") by Antoine Duhamel, Michel Sanvoisin, Antoine Duhamel Orchestra
11.Waiting for a Girl Like You by Foreigner
12.Nineteen Hundred and Eighty-Five by Paul McCartney, Wings
13.We Used to Dance by James Murphy
14.Golden Years by David Bowie
Digital Booklet: While We're Young (Noah Baumbach's Original Motion Picture Soundtrack) 

動画クリップ(YouTube

リズム感はあまり良くないというナオミ・ワッツが、バームバック監督を涙が出るほど笑わせたというヒップホップダンス。女優魂を感じる。

撮影地(グーグルマップ)

 

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」のDVD(Amazon

関連作品

ノア・バームバック監督xアダム・ドライバーのコラボ作品Amazon

  「フランシス・ハ」(2012年)

 

ノア・バームバック監督作品のDVD(Amazon

  「イカとクジラ」(2005年)

 

ベン・スティラー出演作品のDVD(Amazon

  「アメリカの災難」(1996年)

  「メリーに首ったけ」のDVD(1998年)

  「ミート・ザ・ペアレンツ」のDVD(2000年)

  「ローヤル・テネンバウムス」のDVD(2002年)

  「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」(2008年)

 

ナオミ・ワッツ出演作品のDVD(Amazon

    「マルホランド・ドライブ」(2001年)

  「21グラム」(2003年)

  「キング・コング」(2005年)

  「イースタン・プロミス」(2007年)

  「フェア・ゲーム」(2010年)

  「インポッシブル」(2012年)

  「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)

「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014年)

  「チャック 〜“ロッキー”になった男〜」(2016年)

 

アダム・ドライバー出演作品のDVD(Amazon

  「リンカーン」(2012年)

  「フランシス・ハ」(2012年)

  「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)

  「奇跡の2000マイル」(2013年)

スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)

    「ミッドナイト・スペシャル」(2016年)

  「沈黙 -サイレンス-」(2016年)

「パターソン Paterson」(2016年)

     「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)

ローガン・ラッキー」(2017年)

  「ブラック・クランズマン」(2018年)

 

アマンダ・サイフリッド出演作品のDVD(Amazon

  「ミーン・ガールズ」(2004年)

  「マンマ・ミーア」(2008年)

  「レ・ミゼラブル」(2012年)

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