夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」:老いた落ち目の俳優が自身に求めた存在意義

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(原題: Birdman or The Unexpected Virtue of Ignorance)は、2014年公開のアメリカのドラマ/ブラック・コメディ映画です。監督は「バベル」(2006年)のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、「バットマン」シリーズの主人公を演じたマイケル・キートンがかつてのヒーロー映画で人気だったハリウッドスターに扮し再起をかけてブロードウェイの舞台に挑む姿を、「ゼロ・グラビティ」の撮影監督エマニュエル・ルベツキがほぼワンカットの擬似的長回し映像で捉えています。この作品は、第87回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞をはじめとする数々の映画賞を受賞しています。

 

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目次

スタッフキャスト

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/ニコラス・ジャコボーン
   /アーマンド・ボー/アレクサンダー・ディネラリス・Jr
出演:マイケル・キートン(リーガン・トムソン、元スター俳優)
   エドワード・ノートン(マイク・シャイナー、ブロードウェイの有名俳優)
   エマ・ストーン(サム・トムソン、リーガンの娘で付き人、薬物依存症だった)
   ナオミ・ワッツ(レズリー・トルーマン、ブロードウェイ初出演の女優)
   ザック・ガリフィアナキス(ジェイク、リーガンの弁護士で友人)
   アンドレア・ライズボロー(ローラ・オーバーン:リーガンの恋人で女優 )
   エイミー・ライアン(シルヴィア: リーガンの元妻でサムの母親)
   リンゼイ・ダンカン(タビサ・ディッキンソン:NYタイムズの演劇批評家)
   ほか

あらすじ

リーガン・トムソン(マイケル・キートン)は、かつては「バードマン」という大作映画で主役のヒーロー、バードマンを演じ、3本で数十億ドルの興行収入を稼ぐほどのスター俳優でしたが、それ以降ヒットに恵まれないまま20年以上経った落ち目のハリウッド俳優です。60代となり、家庭でも失敗したリーガンは「かつてバードマンを演じた俳優」として惨めな生活を送っていました。単なる落ちぶれたアクション俳優ではなく、アーティストとしての自分に存在意義を見いだそうとしたリーガンは、ブロードウェイ進出を決断、かつて俳優にを志すきっかけとなったレイモンド・カーヴァーの短編小説「愛について語るときに我々の語ること」を舞台向けに脚色し、自ら演出と主演を務めます。プロダクションは親友の弁護士のジェイク(ザック・ガリフィアナキス)が担当し、共演者にはリーガンの恋人であるローラ(アンドレア・ライズボロー)、初めてブロードウェイの劇に出演するレスリーナオミ・ワッツ)が選ばれます。また、自分の娘で、薬物依存症から回復したばかりのサム(エマ・ストーン)をアシスタントとして加え、本公演前のプレビュー公演は目前に迫りますが、舞台制作を通して自身の抱える根深い問題と直面することになったリーガンは、今の自分を嘲る心の声に悩まされるようになります。リハーサルの最中、1人の俳優が怪我で降板すると、その代役としてブロードウェイで活躍するマイク・シャイナー(エドワード・ノートン)が選ばれます。俳優として卓越した才能を見せながらも、身勝手なマイクの言動に振り回され、プレビュー公演は散々な結果に終わり、娘サム(エマ・ストーン)との溝も深まります。また、公演の成功の鍵を握る批評家からも「俳優ではなく単なる有名人」と面と向かってこき下ろされ、本公演の酷評を宣告される中、本公演が始まります・・・。

レビュー・解説 

緊迫感に溢れた、素晴らしい映画です。落ち目の役者が、精神的に追いつめられながらも自分の存在意義を見いだそうとする様が、長回しによるリアルな臨場感、アップで映し出される激しいセリフのやりとりや、ドラムのサウンドによる緊迫感の中で映し出されています。虚実入り交じり、リアルでありながら幻想的なストーリーを、息をつく間もなく展開する非常にレベルの高い脚本と演出です。また、マイケル・キートンは「バットマン」、エドワード・ノートンは「インクレディブル・ハルク」、エマ・ストーンは「アメイジング・スーパーマン」、ナオミ・ワッツは「タンク・ガール」とメイン・キャラクターがすべて、スーパーヒーロー映画出演の経験者であることも、虚実入り交じる中でのリアリティを高めています。

 

マイケル・キートンは、主人公のリーガンは今まで演じたキャラクターの中で最も彼自身に似ていない性格と言っていますが、ヒーロー映画出演や観客の反応を経験したことは確実に彼の演技に生かされているであろうし、また、主人公がまるで彼自身であるかのように感じさせるのはまさに役者の凄さ、役者の役者たる所以を見せつけられるようです。アカデミー主演男優賞にノミネートされた熱演です。

 

エドワード・ノートンは、「インクレディブル・ハルク」でハルクを蘇らせた立役者ですが、癇に障ることを言う癖があり一緒にやりづらいところがあることから、「アベンジャーズ」ではマーク・ラファロがハルク役に起用されました。実は「バードマン」の脚本を読んだエドワード・ノートンがそれについて意見を述べる一幕がありましたが、監督は主人公が書いた脚本に彼が演じるマイクが意見するシーンがあることを指摘しました。既に、彼の性格を織り込んだ脚本が書かれており、リアリティを高める工夫がなされていたわけです。彼もアカデミー助演男優賞にノミネートされています。

 

長まわしの撮影では、ちょっとしたミスで長時間の演技を一からやり直すことになりますが、最も多くミスをして他の役者に迷惑をかけたのがエマ・ストーンでした。かなりのプレッシャーがかかっていたのではないかと思いますが、見事、それを跳ね返し、初めてアカデミー助演女優賞にノミネートされるほどの演技を披露しています。この親にしてこの子あり(?)といった感じの跳ねっ返り娘を熱演していますが、終盤に父の胸で見せる表情のアップが印象的です。

 

ナオミ・ワッツは、ハリウッド女優には珍しくギラギラしたものを感じさせない女優ですが、ブロードウェイの舞台に初出演という、変に擦れていない、優しいところのある女優はまさにはまり役で、好印象を持ちました。

 

 <ネタバレ>

さて、自身の存在意義を求め、追いつめられて舞台で実弾を使った主人公ですが、それでは悲劇かと言うと微妙です。追いつめられながらも、それは役者としての究極の自己表現でもありました。逆に、生き長らえて、彼が他の手段で自分らしく存在意義を確認できたかと言うと、それは疑問と言わざるを得ません。死は遅かれ早かれ、誰にでも訪れます。そして、父がバードマンの役者として未だに愛されていたことを娘は知ります。捨て身のスーパリアリズム(無知がもたらす予期せぬ奇跡)で人に愛されようが、かつてのバードマンの役者として愛されようが、そこに大きな違いはありません。彼が望んでいたのは、ただひとつ「愛される」ことでしたから。

 

冒頭に引用されるレイモンド・カーヴァーの詩

And did you get
what you wanted from this life, even so?
I did.
And what did you want?
To call myself beloved,
to feel myself beloved on the earth.
「たとえそうだとしても、君はこの人生に望んだものを得たのかな?」
「得たとも」
「それでは、君は何を望んだのだろう?」
「自らを愛されるものと呼ぶこと、この世界で自分が愛されるていると感じること」

<ネタバレ終わり> 

 

マイケル・キートン

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エドワード・ノートン(右)

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エマ・ストーン

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ナオミ・ワッツ

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撮影地(グーグル・マップ) 

  • 舞台シーンの撮影が行われたセント・ジェームズ劇場
  • バーのシーンが撮影されたザ・ラム・ハウス

 

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関連作品 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督xナオミ・ワッツのコラボ作品のDVD(Amazon

  「21グラム」(2003年)

 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品のDVD(Amazon

  「アモーレス・ペロス」(2000年)

  「バベル」(2006年)

  「BIUTIFUL ビューティフル」(2010年)

  「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)

    「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)  

 

マイケル・キートン出演作品のDVD(Amazon

  「ビートルジュース」(1988年)

  「バットマン リターンズ」(1992年)

  「から騒ぎ」(1993年)

  「ジャッキー・ブラウン」(1997年)

スポットライト 世紀のスクープ」(2015年) 

 「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年)

  「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年)

 

エマ・ストーン出演作品のDVD(Amazon

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    「マルホランド・ドライブ」(2001年)

  「キング・コング」(2005年)

  「イースタン・プロミス」(2007年)

  「フェア・ゲーム」(2010年)

  「インポッシブル」(2012年)

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年)

「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014年)

  「チャック 〜“ロッキー”になった男〜」(2016年)

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