「12モンキーズ」(原題:Twelve Monkeys)は、1995年公開のアメリカのSFファンタジー&ドラマ映画です。フランスの映像作家クリス・マルケル監督の名作短編「ラ・ジュテ」(La Jetée、1962年)に触発されたデイヴィッド&ジャネット・ピープルズ夫妻が脚本を執筆、テリー・ギリアム監督、ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピットら出演で、人類絶滅の危機を救うべく未来からやって来た男の運命をサスペンスフルに描いています。第68回アカデミー賞で、助演男優賞(ブラッド・ピット)、衣装デザイン賞にノミネートされた作品です。
目次
スタッフ・キャスト
監督:テリー・ギリアム
脚本:デヴィッド&ジャネット・ピープルズ
出演:ブルース・ウィリス(ジェームズ・コール)
マデリーン・ストウ(キャサリン・ライリー博士)
ブラッド・ピット(ジェフリー・ゴインズ)
クリストファー・プラマー(ドクター・ゴインズ)
デヴィッド・モース(ドクター・ピータース)
ジョン・セダ(ホセ)
H・マイケル・ウォールズ(植物学者)
ボブ・エイドリアン(地質学者)
サイモン・ジョーンズ(動物学者)
キャロル・フローレンス(天体物理学者)
ビル・レイモンド(微生物学者)
フランク・ゴーシン(ドクター・フレッチャー)
ほか
あらすじ
- 20世紀末、突如発生した謎のウイルスにより99%が死に至った人類は、汚染された地上を捨て、地下での生活を余儀なくされました。2035年、科学者グループは原因を探る為に服役中の囚人ジェームズ・コール(ブルース・ウィリス)を時間旅行させ、過去の世界に送り込みます。彼は子供時代に目の前で1人の男が殺される光景を目撃し、その強烈な思い出を何度も悪夢に見てはうなされていました。廃墟と化した地上の街の調査で不気味な猿のマークを見つけたコールは、それが人類滅亡の元凶らしい「12モンキーズ」という集団のものだと教わります。特赦を条件に彼に与えられた任務は、「12モンキーズ」を探り、ワクチンを作るために必要となるウイルスの原株のありかを突き止めて、入手することでした。
- 1996年に向けて旅立った彼は、機械の故障の為か、1990年のフィラデルフィアに降り立ちます。その不審な言動から逮捕された彼は、精神病医学者のキャサリン・ライリー(マデリーン・ストウ)に妄想癖と診断され、精神病院に入れられます。そこで彼は、自分の父は神であると自称する入院患者ジェフリー・ゴインズ(ブラッド・ピット)と出会います。コールは脱走騒ぎを起こし、拘束衣を着けて独房に入れられますが、忽然と姿を消します。
- 21世紀に戻された彼は経過報告を済ませ、再び過去への旅を命じられます。今度は第1次大戦中のフランスに送られ、戦場で囚人仲間のホセと再会した後、本来の目的地である1996年に到着します。頼る者のないコールは、今や精神科医として成功しているライリーの前に現れ、強引に彼女の助けを得ます。二人はフィラデルフィアに向かい、街角で猿のマークを見つけます。「12モンキーズ」はジェフリーが主宰する過激な環境保護団体で、彼の父親は細菌学の世界的な権威ゴインズ博士(クリストファー・プラマー)でした。ジェフリーの関与を知ったコールは彼の邸宅に向かいますが、警官隊に取り囲まれ、21世紀に呼び戻されます。
- 再び1996年に現れたコールは、「12モンキーズ」のアジトの前でライリーと再会します。「12モンキーズ」はいよいよ大きな行動に出るらしい、ウイルスを盗んで世界各地にばら蒔くのだろうか・・・。事態が進展するにつれ、ライリーがコールの言うことを信じるようになる一方、コールは自らの未来の記憶を疑い始めます。いつしかライリーに思いを寄せていたコールは、任務を捨てて彼女とこの世界で暮らすことを決意します。変装して空港に向かう二人は、「12モンキーズ」が動物園から動物たちを逃がしたことを知ります。その直後、彼らは空港でゴインズ博士の助手の男を目撃します。男の目的が世界各地にウイルスをばら蒔くことだと察したコールは、銃を片手に彼を追います・・・。
レビュー・解説
フィラデルフィアの街並みや刑務所跡、発電所跡を背景に、ディテールが作り込まれた独特な世界観を構築、時間旅行者の決定論的運命にほのかに甘いラブストーリーをオーバーラップさせ、現実と幻想が交錯するテリー・ギリアム監督の心にくい演出、ブルース・ウィリス、ブラッド・ピットの新たな演技スタイルが際立つ、見ごたえのある傑作SFファンタジー&ドラマ映画です。
時間旅行者の決定論的運命にラブストーリーを重ねた傑作SFファンタジー
テリー・ギリアム監督による独特な世界観
フランスのクリス・マルケル監督の作品に、廃墟になった近未来のパリで少年時代の記憶に取り憑かれた男を描いた「ラ・ジュテ」(La Jetée、1962年)という短編映画があります。撮影した映画フィルムをスチル写真にして組み合わせ、ナレーションをつけた、フォトロマンと呼ばれるユニークな作品です。デヴィッド&ジャネット・ピープルズ夫妻による本作の脚本はこの作品に触発されたものですが、テリー・ギリアム監督は事前に「ラ・ジュテ」を観ておらず、オマージュと言うよりは彼の独創性が強く押し出された作品になっています。
第一次世界大戦(1914年〜1918年)、1990年、1996年、2035年を行ったり来たりと、やや複雑な印象ですが、本作の魅力はプロットの精緻さよりも、むしろ、
- 刑務所や発電所の跡を利用、ディテールがしっかりと作り込まれた独特な世界観
- ブルース・ウィリス、ブラッド・ピットの新たな演技スタイル
- 決定論的運命にほのかに甘いラブストーリーがオーバーラップした構成
- 現実と幻想が交錯する心にくい演出
といった点にあります。
フィラデルフィアの街並みを背景にした未来の廃墟
刑務所跡を利用した精神病院
ディテールが作り込まれたユニークな世界観
ブルース・ウィリス、ブラッド・ピットの新たな演技スタイル
ブルース・ウィリスと言えば世界で最も運の悪い男、次々と身に振りかかる絶望的な困難を、スリリングに時にユーモラスに乗り越えていく「ダイ・ハード」シリーズ(1988年〜)のマクレーン刑事のイメージが強いのですが、「シックス・センス」(1999年)、「LOOPER/ルーパー」(2012年)などでは運命から逃れることができない主人公を悲喜劇的に演じています。いずれもスリリングで時にユーモラスですが、運命に対する位置付けが「ダイ・ハード」シリーズと対称的で、いわば表の裏の様な関係にあります。ブルース・ウィリスが初めてこの裏のキャラクターを演じたのが本作です。
一方、本作に出演する前のブラッド・ピットは、青い瞳のセクシーな美青年のイメージが抜けきらず、本人はそのイメージから脱却しようと必死でした。当初、ジェフェリー向きではないと思いましたが、タイプ・キャストの嫌いなギリアム監督は、これまでにやったことのない役をやりたいというブラッド・ピットの熱意に動かされ、彼に賭けました。早口でしゃべる気の触れた男を演じさせる為に、ギリアム監督は彼に話し方のコーチまでつけましたが、ブラッド・ピットは見事に期待に応え、本作で初めてゴールデングローブ助演男優賞を受賞、アカデミー助演男優賞にノミネートされました。彼にとって、名実ともにキャリアの転機となった作品です。
決定論的運命を描いた悲劇だが、回帰が希望を感じさせる
<ネタバレ>
世界各地にウイルスをばら蒔こうとするゴインズ博士の助手を空港で目撃したコールは、銃を片手に彼の後を追います。男のウイルス散布を阻止すべく銃を向けたコールは、キャサリンの目の前で警備の警官に撃たれてしまいます。おぼろげな少年時代の記憶に残っていた自分の目の前で射殺される男が、実は現場に居合わせた少年時代の自分が目撃した大人の自分だったことを、薄れる意識の中でコールは悟ります。コールを涙ながらに看取ったキャサリンは、現場を見つめる少年にコールを見出し、悲しみの中で微笑みます。ゴインズ博士の助手はウィルスを持って飛行機に乗り込みますが、未来からコールを送り出した科学者が隣の席に座り、「保険業」と自己紹介します。
未来に戻らずに1996年に残ってキャサリンと暮らすという夢はかなわず、銃弾に倒れてしまうコールは悲劇的ですが、エンド・クレジットに流れるルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」(原題:What a Wonderful World)と相まって、暗さが感じられない不思議な余韻が残るエンディングです。
不思議な感じがする悲劇ですが、ラブストーリでもあり、死と復活の話でもあります。恐らく、前作の「未来世紀ブラジル」よりも、希望が感じられる作品です。(テリー・ギリアム監督)
http://www.filmscouts.com/scripts/interview.cfm?File=ter-gil
暗さが感じられない理由のひとつは、大人のコールが死んでも子供のコールが生きていることです。ウィルスがばらまかれ、99%が死に至り、汚染された地上を捨てて地下での生活を余儀なくされる人類の運命は、既に決定されたものです。コールはこれを変えることができないまま命を落としますが、現場に居合わせた少年のコールはやがて大人になって、再びキャサリンと出会うことができます。彼が死ぬのは決定された運命ですが、少年のコールが回帰的にキャサリンに再会できることが希望につながります。
暗さが感じられないもうひとつ理由は、未来からやってきた科学者がウィルスの原株を持ち帰り、ワクチンによって人類の明るい未来を取り戻すことが暗示されていることです。エンディングで科学者は「保険業」と自己紹介します。保険は不幸そのものを阻止するものでありませんが、人々を救済することができます。ウィルスの蔓延という不幸を変えることはできませんが、持ち帰ったウィルスの原株からワクチンが作られ、未来の人類が地上の世界を取り戻す希望が暗示されています。
<ネタバレ終わり>
ルイ・アームストロング「この素晴らしき世界」
エンド・ロールに流れるルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」(原題:What a Wonderful World)は、ベトナム戦争を嘆き平和な世界を夢見た音楽プロデューサーが1967年に作詞・作曲したもので、イギリスで大ヒット、全英チャートで1位となった曲です。その後、映画「グッドモーニング、 ベトナム」(1987年)で、南ベトナムの牧歌的田園風景とテロや空爆など戦争の現実を映す印象的なシーンのサウンドトラックとして使用され、アメリカでも発表時を凌ぐリバイバル・ヒットとなりました。
緑の木々が見える、赤いバラも見える
私とあなたの為に花が咲く
なんて素晴らしい世界なんだろうと、私は思う
青い空と白い雲が見える
明るく祝福された昼と、暗く神聖な夜
なんて素晴らしい世界なんだろうと、私は思う
・・・
と歌われる日常の光景の美しさは、まさにコールがキャサリンと暮らすことを夢見た世界のものです。そして、ウィルスに汚染された地上を捨て地下での生活を余儀なくされた人類が、ワクチンの開発によって取り戻すであろう地上の生活そのものです。
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アメリカを舞台にアメリカ人俳優が出演するアメリカ映画ですが、フランス映画に触発された決定論的で回帰的な脚本、そしてイギリスのギリアム監督が演出する独特な世界観が、ヨーロッパ的な味わいを感じさせる作品です。決定論的展開にほのかに甘いラブストーリーがオーバーラップした構成をとても気に入っていますが、臆面ないとも言えるこの構成は当時の映画だからできたことで、美しさよりももっともらしさが重視されがちな現在の映画では難しいことかもしれません。
ブルース・ウィリス(ジェームズ・コール)
ブルース・ウィリス(1955年〜)は、ドイツ出身のアメリカの俳優、プロデューサー、ミュージシャン。1980年代から、テレビや映画のコメディ、ドラマ、アクションで活躍している。「ダイ・ハード」シリーズ(1988年〜)の主人公ジョン・マクレーン役でよく知られている。他にも「パルプ・フィクション』(1994年)、「シックス・センス」(1999年)など、興行的成功を収めた数多くの作品に出演している。
マデリーン・ストウ(1958年〜)は、ロサンゼルス出身のアメリカの女優。父はイギリス人、母はコスタリカ人。10歳の時からピアノをはじめ、コンサートで弾くまでになったが、教師が亡くなったことがきっかけで音楽から距離を置く。その後、大学でジャーナリズムと映画を学びながら舞台に立つ。テレビにも出るようになり、長い端役出演の後に、29歳で映画デビュー、「ショート・カッツ」(1993年)などに出演している。
ブラッド・ピット(ジェフリー・ゴインズ)
ブラッド・ピット(1963年〜 )は、オクラホマ出身のアメリカの俳優、映画プロデューサー。本作でアカデミー助演男優賞に、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(2008年)、「マネーボール」(2011年)で同主演男優賞にノミネートされている。プロデューサーとしての才覚もあり、「マネーボール」(2011年)でアカデミー作品賞にノミネート、「それでも夜は明ける」(2012年)、「ムーンライト」(2016年)で同作品賞を授賞している。
クリストファー・プラマー(ドクター・ゴインズ)
クリストファー・プラマー(1929年〜)は、カナダ出身の俳優。曾祖父が第3代カナダ首相。ピアニストから俳優に転向、カナダの舞台で活躍、1953年にはブロードウェイ・デビュー、1973年にトニー賞 ミュージカル主演男優賞を受賞している。1958年に映画デビュー、以降、テレビ・映画・舞台・ラジオと幅広く活躍。「終着駅 トルストイ最後の旅」(2009年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート、「人生はビギナーズ」(2011年)で同助演男優賞を受賞、82歳での受賞は演技部門の受賞者の最高齢となった。「ゲティ家の身代金」(2017年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、88歳でのノミネートは演技部門の最高齢記録を更新した。
サウンド・トラック
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1. 組曲プンタ・デル・エステ ~イントロダクション(12モンキーズのテーマ) 2. コール最初の夢|{志願義務}|トップサイド 3. きよしこの夜 4. 蜘蛛を探せ|{イントロダクション}|計画 5. 時間錯乱|精神病院へ|プラネットOGO 6. 番号違い|コール2回目の夢|蜘蛛の居場所 |{イントロダクション}(二つの月のタンゴ) 7. ヴィヴィセクション 8. スリープウォーク 9. {イントロダクション}(異次元に消えたコール) |検査室|隔離と鎮静 10. コール3回目の夢 11. 尋問|タイム・カプセル|ライリーの誘拐 12. ブルーベリー・ヒル 13. この素晴らしい世界 |
14. コール4回目の夢 15. コマンチ 16. アース・ダイド・スクリーミング 17. {イントロダクション}(12モンキーズ捜索) 18. 運命を決めた弾丸|トランクからブーツが |コールの望み 19. 写真調べ|ミッション・ブリーフ 20. 1996年へ 21. 逃亡者|運命的な恋|抜歯 22. {イントロダクション} (12モーンキーズのテーマ・リプリーズ) |キリンと・フラミンゴ 23. これがオレの夢だ|コールを呼び起こす |ルイとホセ 24. Dr.ピーターズ 25. 夢見る人は目覚める |
撮影地(グーグルマップ)
- 冒頭、コールが生物のサンプルを収集する廃墟の街
- コールが連行された警察署
- コールが入所させられる精神病院
- ライリーが講演をするボルティモア大学のホール
- コールとライリーが襲われたホームレスの巣窟
- 自然保護団体の拠点
- ライリーが薬と包帯を調達した給油所
- ゴインズ博士の邸宅(外観)
- ライリーがコールを問診したホテル
- 二人が変装の為の用品を調達したデパート
- ジェフェリーとその仲間が動物を逃した動物園
- 二人が変装した映画館
- 二人がタクシーを降りる空港(外部)
- 空港(内部)
関連作品
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12 Monkeys (Music from the Motion Picture) - Various Artists(iTunes)