夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「人生はビギナーズ」:75歳でゲイ宣言した明るい父と、美人女優との恋愛に踏み込めない内省的な息子をユーモラスに描く

人生はビギナーズ」(原題:Beginners)は、2010年公開のアメリカのドラマ/ヒューマン&ロマンティック・コメディ映画です。自分はゲイだと突然カミングアウトし人生を謳歌する75歳の父親、その姿に戸惑いを隠せない内省的な息子に訪れたフランス人女優とのロマンスを、暖かな眼差しでユーモラスに描いています。第84回アカデミー助演男優賞クリストファー・プラマー)を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:マイク・ミルズ
脚本:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー(オリヴァー、イラストレーター、38歳)
   クリストファー・プラマー(ハル、オリヴァーの父、元美術史家、ゲイ)
   メラニー・ロラン(アナ、オリヴァーがパーティで出会ったフランス人女優)
   ゴラン・ヴィシュニック(アンディ、ハルの恋人)
   メアリー・ペイジ・ケラー(ジョージア、オリヴァーの母、変わっている)
   キーガン・ブース(幼い頃のオリヴァー)
   コスモ(アーサー、ジャック・ラッセル犬)
   ほか

あらすじ

  • 38歳独身のアートディレクター、オリヴァー(ユアン・マクレガー)は、ある日突然、父親のハル(クリストファー・プラマー)に「私はゲイだ」とカミングアウトされます。44年連れ添った母がこの世を去り、癌を宣告された父が、自分らしい人生を楽しみたいという宣言でした。元々は厳格で古いタイプの人間だったハルでしたが、カミングアウトをきっかけに若々しいファッションをまとい、パーティやエクササイズに精を出し、若い恋人アンディ(ゴラン・ヴィシュニック)と出会って、ゲイの友人たちに囲まれて幸せそうに過ごすようになります。
  • 父のカミングアウトに戸惑いを隠せず、仕事で描くイラストと愛犬アーサーが友達という内省的な性格で、父と母の間に愛はあったのか?、二人の間に生れ育った自分とは?と、過去をひきずるオリヴァーとは裏腹に、父の生き方は潔く、父の振りまく愛に周囲の人は心を開き、また父もその愛を受け入れます。身体は癌に冒され、最期の日は近づいていましたが、心は衰えることなく、前向きに生きようとしていました。母のこと、恋人のこと、人生のこと・・・、そんな父と語り合ったオリヴァーは、父もまた親や母との距離をおき、葛藤を抱えていたことを知り、改めて自分の生き方を見つめ直しますが、やがて父との永遠の別れが訪れ、再び自分の殻に閉じこもってしまいます。
  • 心配した仕事仲間が無理やり連れ出したホームパーティで、オリヴァーは風変わりな女性アナ(メラニー・ロラン)と出会います。オリヴァーはハルの死が受け入れられずにいましたが、アナは精神的に不安定な父親に葛藤を抱えていました。いくつかの別れを経験し、身構えて距離を置く術を知っている二人でしたが、まるで初めての恋のようにお互い惹かれ合い、アナはオリヴァーの喪失感を癒し、オリヴァーはアナの優しさに心を委ねていきます。二人の幸せな日々は続きますが、アナがオリヴァーの家で暮らし始めた頃から、うまくいかなくなり、またしてもオリヴァーは一人になることを選んでしまいます。昔のように愛犬アーサーと取り残されたオリヴァーでしたが、父の最期の教えが彼の背中を強く推します・・・。

レビュー・解説 

内省的な主人公、いくつかの別れを経験し身構える術を覚えた二人と、ちょっと暗めの設定ですが、マイク・ミルズ監督は暖かな眼差しでユーモラスに描いており、思わず二人を応援したくなります。カミングアウトした亡き父は元より、オリヴァーのナレーションの際に挿入されるグラッフィクスや、時折、回想で登場するオリヴァーの母のエキセントリックな行動、オリヴァーにちょこちょこと付いて回り、話し相手になるジャック・ラッセル犬のアーサーが、この映画のトーンを暖かいものにしています。

 

主人公のオリヴァーを演じるユアン・マクレガーは、突出して目立つと言うより、映画にとけ込みながらうまくリードして行くタイプでし。好きな俳優の一人ですが、この映画でもその持ち味を遺憾なく発揮しています。

彼はとても自然に演技を進めていく。彼の存在感や繋がり方を見れば分かると思う。あまり演技というものをしないのかも。人と一緒に何かをするというより、もっと微妙なニュアンスの演技を見せて、周りの人をよく見せてくれる。(マイク・ミルズ監督)
http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/mikemills/

 

恋人のアナを演じるメラニー・ロランは、美しくも不思議な強さを感じる女優です。彼女がノーメイクで煙草を吸いながらインタービューを受けるビデオを見たマイク・ミルズ監督が彼女の惚れ込み、彼女の為に脚本をフランス人女優という設定に書き換えて起用したという入れ込みようです。

メラニーは野生の動物のようだ(笑)。僕はそこに魅了された。彼女はとても直感的で、感覚の流れに身を委ねることができる。いい意味で予想がつかない。そして一瞬に対してとてもリアルで真実がある。同時に、彼女自身も脚本家で監督でもある。だからシーンの連続性を見失わないし、カメラがどこにあるのかも常に把握している。とても知的で、自然にテクニカルなことが分かる人で、物事をどう成し遂げるべきかを理解している。そうしたところから直感へ飛び込むのがとてもうまい、僕の好きなタイプの役者だ。(マイク・ミルズ監督)
http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/mikemills/

 

実は、この映画はマイク・ミルズ監督自身の体験を元にした、半自叙伝的な映画でもあります。彼の父はミュージアム・ディレクターで、75歳でゲイである事をカミングアウト、母も少しエキセントリックで芸術的でした。マイク・ミルズもかつてグラフィック・デザイナーで、また、片時も離れることのない犬を飼っています。

75歳の父親が色気づいて、男をほしがる様子を目の当たりにするのに少し戸惑いはあったよ。とにかく、彼はとてもポジティブになり、ずっと僕に何でも表現するようになって、自分のいろんな面を見せるようになった。だから全体的にほとんどがポジティブな体験だった。母が亡くなった時に、父が萎んで消えてしまうんじゃないかという不安に駆られたけど、カミングアウトしてみたら、突然、生き生きとするようになった。だから逆に感謝していた。ゲイになることでずっと活き活きとしていたから。

書く上で一番に気をつけたのは、ナルシスティックになりすぎないようにしたことかな。事故憐憫でなく、自分の感情を大事にし過ぎないように。自分が書いているのはあくまでストーリーであり、人に対してコミュニケートしなければならない。最初はドキュメンタリー映画に興味があったんだ。自分が見たこと、自分の知っている人たちについて書くことで、そうしたドキュメンタリー的な傾向を続ける目的でやってきた。自分が興味を持つのは、自分の父が感じていたとてもリアルな欲求や不安だ。自分や自分の世代の人たちが感じていた欲求や不安についても。だから僕が始めるきっかけとなったドキュメンタリー的要素にとても似たノリがあるんだと思う。(マイク・ミルズ監督)http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/mikemills/

 

ゲイをカミングアウトしたハルを演じるクリストファー・パルマーは、82歳でアカデミー助演男優賞を受賞、史上最高齢でオスカーを受賞した俳優となりました。これだけの高齢でゲイを演じる柔軟性と、オスカーを受賞するほどの演技力は驚きです。ちなみに、クリストファー・プルマーはカナダ、ユアン・マクレガースコットランドメラニー・ロランはフランス、ゴラン・ヴィシュニックはユーゴラスビア出身と、メイン・キャストにアメリカ人がいません。

 

ジャック・ラッセル犬のアーサーを演じるコスモも、マイク・ミルズ監督が見た数多くのジャック・ラッセル犬の中から選ばれました。何百万年も生きた魂を持っている様に見え、また、人の目をまっすぐに見ることができるのが、選択の理由だそうですが、なぜかメラニー・ロランには懐かなかったそうです。メラニー曰く、彼女が監督やユアン・マクレガーと話しているのを見て、コスモにライバル視されたとの事ですが、メラニーはコスモからも野性的に見えたのかもしれません。

 

周りの人をよく見せる主役ユアン・マクレガー〜「人生はビギナーズ!」

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美しくも不思議な強さを感じるメラニー・ロラン〜「人生はビギナーズ!」

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クリストファー・パルマー(右)とゴラン・ヴィシュニック〜「人生はビギナーズ!」

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エキセントリックな母を演じたメアリー・ペイジ・ケラー〜「人生はビギナーズ!」

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ジャック・ラッセル犬のコスモ〜「人生はビギナーズ!」 

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動画クリップ(YouTube) 

OLIVER: Hello?
HAL: Oliver?
OLIVER: Yeah.
HAL: I'm not sorry I woke you! I went to Akbar tonight.
OLIVER: You did?
HAL: They had wonderfully loud music. In-sit, in-sit, in-sit. What kind of music is that?
OLIVER: Probably house music?
HAL: "House music."

オリヴァー:もしもし?
ハル:オリヴァー?
オリバー:ああ。
ハル:起こしたようだな。アクバーに行った。
オリヴァー:そう。
ハル:大きな音で最高の音楽が・・・、なんて音楽だい。
オリヴァー:多分、ハウス・ミュージック
ハル:「ハウス・ミュージック

 

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