夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アモーレス・ペロス」:愛と喪失を荒々しくもリアルに描くイニャリトゥ監督の長編デビュー作は、既に最大傑作とも言える大作だった

アモーレス・ペロス」(原題:Amores Perros)は2000年公開のメキシコのドラマ映画です。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ギレルモ・アリアガ脚本、ガルシア・ベルナルら出演で、同じ交通事故の現場に居合わせた境遇の異なる男女3人の愛の苦悩を、オムニバス風に描いています。2000年のカンヌ国際映画のグランプリを皮切りに国際映画祭を総なめし、初の長編映画監督でその構成力・演出力を高く評価されたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのハリウッド進出を決定づけた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:ギレルモ・アリアガ
出演:エミリオ・エチェバリア(エル・チーボ )
   ガルシア・ベルナル(オクタビオ
   ゴヤ・トレド(バレリア)
   アルバロ・ゲレロ(ダニエル)
   バネッサ・バウチェ(スサナ)
   ホルヘ・サリナス(ルイス)
   マルコ・ペレス(ラミロ)
   ロドリゴ・ムライ・ブリサント(グスターボ)
   ホセ・セファミ(レオナルド)
   ルルデス・エチェバリア(マル)
   グスターボ・サンチェス・パラ(ハロチョ)
   ほか

あらすじ

この映画はメキシコ・シティを舞台とし、ひとつの交通事故に交差する3つのストーリーで構成されています。

  • 第一話:下町に住む青年オクタヴィオガエル・ガルシア・ベルナル)の兄のラミロ(マルコ・ペレス)は強盗で、妻のスサナ(ヴァネッサ・バウチェ)につらく当たります。兄との生活の不満を打ち明けるスサナに贈り物をして喜ばせようと、愛犬を闘犬に仕立て、金を作るオクタビオは、やがて彼女との駆け落ちを決意します。闘犬で金を稼ぎ、兄に黙ってスサナに渡すオクタヴィオと彼女は愛し合いながらも、スサナは街を出ようとしません。苛立つオクタヴィオは、闘犬場で自分の犬がハロチョ(グスターヴォ・サンチェス・パラ)に撃たれたことに怒り、彼にナイフを突き立て車で逃走、交通事故に遭います。ラミロは、強盗の最中に警官に撃たれて死亡、葬式でオクタヴィオはもう一度スサナを誘いますが・・・。
  • 第二話:スペインから来た誰もが顔を知る、美しい肢体のスーパーモデル、ヴァレリア(ゴヤ・トレド)は、妻との別居を決意した不倫相手の広告デザイナー、ダニエル(アルヴァロ・ゲレロ)と、彼女の愛犬とともに幸せな生活が始まった矢先、交通事故で瀕死の重傷を負ってしまいます。彼女は仕事の契約を切られ、ダニエルと口論する日々が続きます。しかも脚の傷が悪化し、切断しなければならなくなってしまいます・・・。
  • 第三話:元大学教授でありながら、今は殺し屋にまで落ちぶれた老人エル・チーヴォ(エミリオ・エチェヴァリア)は、廃墟のような家でたくさんの犬に囲まれ、常に数匹の犬と行動し、シティでごみ収集をしている暮らしています。殺人の依頼が舞い込み、彼はそのターゲットの周辺を調査し始めますが、その一方、昔捨てた自分の娘マル(ルルデス・エチェヴァリア)を見守る父親でもあり、時に彼女の後も追っています。やがて老人は、交通事故の現場で拾って助けた黒い犬とともに旅の身仕度を整え、マルの家を黙って訪ねます・・・。

レビュー・解説 

二時間半の大作ですが、ハンディ・カメラとアップを多用、臨場感と緊迫感に溢れ、現実感のある質感描写と相まって、非常にインパクトがあり、見応えのある作品です。長編監督デビュー作ですが、既に彼の最大傑作とも言える大作になっています。

 

映画は一つの交通事故に交差する三話から構成されますが、いずれの話も「愛と喪失」がテーマになっています。タイトルはスペイン語で「犬のような愛」を意味し、兄嫁に横恋慕する青年、不倫に走るスーパー・モデル、娘を捨てた事を後悔する落ちぶれた元大学教授と、人間として不完全な主人公達が、喪失に苦しみながらも、懸命に生きようとする姿を描いています。亡くなった息子の為に本作を作ったというアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、次のように語っています。

人は失ったもので形成される。人生は失うことの連続だ。失うことでなりたかった自分になるのではなく、本当の自分になれるのだ。(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)

 

全編、見どころが満載ですが、全話に何度か出てくる様々な視点から捉えた交通事故のシーンが圧巻です。このシーンは9台のカメラで同時に撮影されており、そのうち2台は車の屋根に、1台は路上のゴミ箱の中に設置されています。スーパー・モデルの車にダミー人形を乗せ、リモート・コントロール、これにスタント・ドライバーが運転する青年の車が激しくぶつかります。一か八かの賭けの撮影でしたが、スーパー・モデルの車が予想以上に弾き飛ばれ、100メートル以上離れていた場所に路上駐車していたタクシーに衝突して止まりました。一瞬ですが、映画にはこのタクシーも映っています。

 

<ネタバレ>

捨てた娘への愛を諦めきれない元大学教授が、犬の「ブラッキー」(Negro)とともに、黒い大地を踏みしめながら旅に出るシーンで映画は終わり、「ルチアーノへ、我らもまた失われし者ゆえ」と献辞が表示されます。ルチアーノは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが大学で教えている時に亡くした彼の息子の名前で、「ブラッキー」(Negro)はイニャリトゥ自身のニックネームです。つらい喪失は現実であり、いわば不毛の黒い大地ですが、その黒い大地を旅する力はまた愛であるという、彼の哲学が投影されているようなエンディングです。

<ネタバレ終り>

 

「愛と喪失」をテーマに三つの話が交差するいうプロットは、同じくアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ギレルモ・アリアガ脚本の「21グラム」(2003年)、「バベル」(2006年)に共通するもので、これらはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「愛と喪失」三部作と言っても良いでしょう。なお、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)は、三つの話が交差するという形はとっていませんが、引き続き「愛と喪失」を描いていると解釈することができます。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督にとって、これはライフ・ワークとも言えるテーマなのかもしれません。

 

ガルシア・ベルナル(オクタビオ

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ゴヤ・トレド(バレリア)

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エミリオ・エチェバリア(エル・チーボ ) 

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撮影地(グーグルマップ)

  • 事故のシーンが撮影された交差点

 

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関連作品 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品のDVD(Amazon

   「21グラム」(2003年)

  「バベル」(2006年)

  「BIUTIFUL ビューティフル」(2010年)

  「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)

「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)

 

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