「ヘイル、シーザー!」:1950年代のハリウッド映画撮影現場を再現、まぬけな俳優やスタジオ幹部ら映画人を豪華キャストで描くコメディ
「ヘイル、シーザー!」(原題:Hail, Caesar!)は、2016年公開のアメリカのコメディ映画です。ジョエル&イーサン・コーエン兄弟監督・脚本、ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、レイフ・ファインズら出演で、1950年代のハリウッドを舞台に、スター俳優の誘拐事件をめぐる騒動を描いています。
「ヘイル、シーザー!」のDVD(Amazon)
目次
キャスト・スタッフ
監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン(エディ・マニックス)
ジョージ・クルーニー(ベアード・ウィットロック)
レイフ・ファインズ(ローレンス・ローレンツ)
アルデン・エーレンライク(ホビー・ドイル)
ジョナ・ヒル(ジョー・シルヴァーマン)
スカーレット・ヨハンソン(ディアナ・モラン)
フランシス・マクドーマンド(C・C・カルフーン)
ティルダ・スウィントン(ソーラ・サッカー/セサリー・サッカー)
チャニング・テイタム(バート・ガーニー)
アリソン・ピル(コニー・マニックス)
ウェイン・ナイト(エキストラ)
クリストファー・ランバート(アーン)
フレッド・メラメッド(フレッド)
パトリック・フィッシュラー(脚本家)
デヴィッド・クラムホルツ(脚本家)
フィッシャー・スティーヴンス(脚本家)
クランシー・ブラウン(「ヘイル、シーザー!」の出演者)
ロバート・ピカード(ラビ)
カイル・ボーンハイマー(アシスタント・ディレクター)
ドルフ・ラングレン(ソ連潜水艦の艦長)
マイケル・ガンボン(ナレーター)
ほか
あらすじ
1950年代、ハリウッドが夢を作り世界中に贈り届けていた時代、テレビの台頭に危機感を抱いたハリウッドは、スタジオの命運を賭けて史上空前のスペクタクル超大作「ヘイル、シーザー!」の撮影が開始します。しかしその撮影中に、主演俳優であり世界的大スターのウィットロック(ジョージ・クルーニー)が何者かに誘拐されるという大事件が発生します。スタジオが大混乱に陥る中、事件解決への白羽の矢を立てられたのは貧乏くじばかりを引いている「スタジオの何でも屋」エディ(ジョシュ・ブローリン)でした。お色気たっぷりの若手女優(スカーレット・ヨハンソン)や、みんなの憧れのミュージカルスター(チャニング・テイタム)、演技がどヘタなアクション俳優(アルデン・エーレンライク)など撮影中の個性溢れるスターたちの騒動をさばきながら、エディは難事件に挑んでいきます・・・。
レビュー・解説
1950年代の様々なハリウッド映画の撮影シーンを再現、まぬけな歴史スペクタル主演俳優や、スターの不始末を片付けるスタジオの幹部ら当時の個性的な映画人を豪華キャストで描く本作は、コーエン兄弟が戦後のハリウッド映画を称える贅沢なコメディです。
本作を監督したコーエン兄弟は、これまでに
- 「オー・ブラザー!」(2000年)
- 「ディボース・ショウ」(2003年)
- 「バーン・アフター・リーディング」(2008年)
にジョージ・クルーニーを起用していますが、最初の「オー・ブラザー!」を監督した時に、まぬけな二枚目俳優が「ヘイル、シーザー!」という宗教大作を撮るというアイディアを彼に話しました。この話を彼がいたく気に入った為、当初は映画にするつもりはなかったのですが、数年後に腰を据えて脚本を書くことになったといいます。
ジョージ・クルーニーが演じるベアード・ウィットロックは、
など、当時のハリウッド大作映画の伝説的俳優を参考にしています。第2次世界大戦が終わり、最盛期を迎えたハリウッドは、テレビに差別化する為に大掛かりなセットを駆使し、大量のスターを起用した娯楽大作を生み出していました。
- ジョージ・クルーニー(ベアード・ウィットロック)
しかし、こうした華やかなハリウッド映画の舞台裏は、陰りを見せ始めていました。背景にあったのは、テレビの普及や、独占禁止法による規制などですが、1940年代の終りに下院非米活動委員会が共産主義への圧力を強め、亡命者や共産党員が多いハリウッドにも官憲の手が及んで10人が有罪判決を受けます(ハリウッド10)。さらに、1950年代に入るとメジャー系映画会社の経営が崩壊し始め、官憲による共産党狩り(レッドパージ)が進む中、アメリカに亡命してきたチャップリンなど、多くの左翼的、容共的とみなされた映画人がアメリカの映画産業を追われ、国外に亡命し始め、ハリウッド映画の内容にも大きな影響を与えることになります。こうした時代の流れが、ジョージ・クルーニー扮するベアード・ウィットロックが誘拐される背景となっています。
そしてこの映画の主軸となる誘拐事件に彩りを添えるのが、虚実入り交じる当時の映画人たちです。
- ジョシュ・ブローリン演じるエディ・マニックスは、実在の映画スタジオMGMの重役兼プロデューサーで、長きに渡ってMGMの映画すべての収支を記録する一方で、時に色めくスターの私生活を隠蔽し、そのイメージを守ったフィクサーとして知られています。本作では、スタジオの様々な問題を片付ける一方、陰りを見せる映画産業から成長する航空機産業へ転職すべきか悩む、敬虔なクリスチャンとして描かれています。
ジョシュ・ブローリン(エディ・マニックス)
- スカーレット・ヨハンソンが演じるディアナ・モランは、競泳選手から女優に転じ、水中レビューを得意としたエスター・ウィリアムズを参考にしています。映画で見せる清純な微笑みとは裏腹の、私生活のビッチぶりが堂に入っています。
スカーレット・ヨハンソン(ディアナ・モラン)
- チャニング・テイタムが扮するバート・ガーニーは、ジーン・ケリーを参考しており、軽やかな踊りとタップダンスを披露します。
チャニング・テイタム(バート・ガーニー)
- アルデン・エーレンライクが演じるホビー・ドイルは、ハワード・キール、ディック・フォラン、ジェイムズ・エリソン、ティム・ホルトといった当時の西部劇スターを参考にしており、アクロバティックな乗馬や拳銃さばき、投げ縄、弾き語りなどを披露します。中でも、最も難しかったというスパゲティで投げ縄をやってみせるシーンは類を見ません。
アルデン・エーレンライク(ホビー・ドイル)
- ヴェロニカ・オソリオ演じるホビーのデートの相手、カルロタ・ヴァルデスは、カルメン・ミランダを参考にしています。
ヴェロニカ・オソリオ
- レイフ・ファインズが演じるローレンス・ローレンツは、「恋の手ほどき」(1958年)でアカデミー監督賞を受賞しているヴィンセント・ミネリをモデルにしています。ヴィンセント・ミネリは、ジュディ・ガーランドと結婚、生まれた娘がライザ・ミネリです(ジュディ・ガーランドとは後に離婚)。ホビーを紳士的に演技指導をしながら、徐々に切れていくシーンが圧巻です。
レイフ・ファインズ(ローレンス・ローレンツ)
- フランシス・マクドーマンド演じるC・C・カルフーンは、長年編集者として活躍し、アカデミー名誉賞を受賞したマーガレット・ブースを参考にしています。出演時間は短いのですが、大ボケをかまします。
フランシス・マクドーマンド(C・C・カルフーン)
- ティルダ・スウィントン扮する双子のハリウッド・レポーター、ソーラ/セサリー・サッカーは、ハリウッド・レポーターのヘッダ・ホッパーと、双子のコラムニストのアン・ランダースとアビゲイル・ヴァン・ビューレンを参考にしています。帽子姿で登場、強烈な美しさを放っています。
ティルダ・スウィントン(ソーラ・サッカー/セサリー・サッカー)
4人のオスカー俳優、3人のオスカー候補を含む贅沢なキャスティングです。
- ジョージ・クルーニー(助演男優賞受賞)
- フランシス・マクドーマンド(主演女優賞受賞)
- フィッシャー・スティーヴンス(長編ドキュメンタリー賞を制作者として受賞)
- ティルダ・スウィントン(助演女優賞受賞)
- ジョシュ・ブローリン(助演男優賞ノミネート)
- ジョナ・ヒル(助演男優賞ノミネート)
- レイフ・ファインズ(主演男優賞ノミネート)
また、華やかなハリウッドの再現する為に、歴史スペクタクル、西部劇、水中レビューなど、様々な映画のシーンが出てきますが、実はこれが結構大変だったようです。
映画の中の映画のためのシーンを撮影するのは、ロジスティック的にはとても大きな挑戦だったね。毎週違う映画を撮影するようなものだからね。普通、アート部門や衣装部門、特殊効果部門は皆、ひとつの映画の撮影で、ひとつのことをするために準備するんだ。ウェスタンだったら、カウボーイと馬を用意し、スタッフと制作部門はそういう映画を撮る際に必要な問題を解決するために準備するわけだ。しかし、これだけいろいろなことをやろうとすると、ある週はウェスタン、翌週は違うジャンルになるから、カウボーイはもういらないけれど、タンクとシンクロの水泳選手を探して、どうやって照明を当てるかを考えなければならない。(ジョエル・コーエン監督)
コーエン兄弟の作品らしく、いずれも主役を張れそうなほどしっかりとキャラクターが描かれており、また見どころ満載でまさに百花繚乱の観がありますが、政治的な背景もあってか誘拐のカタルシスが十分ではなく、陰りはあるもののハリウッドはまだ華やかという背景と相まって、オチのインパクトが半減しているようでもあります。とは言うものの、そこはコーエン兄弟監督・脚本作品、十分に楽しめる内容で、笑いながらも思わず1950年代のハリウッドに思いを馳せてしまう、そんな作品です。
動画クリップ(YouTube)
- 「クォ・ヴァディス」(1951年)
- エスター・ウィリアムズの水中レビュー
- ジーン・ケリーのタップダンス
- カルメン・ミランダ
- ヴィンセント・ミネリ監督
- 編集者のマーガレット・ブース
- ハリウッド・レポーターのヘッダ・ホッパー
撮影地(グーグルマップ)
「ヘイル、シーザー!」のDVD(Amazon)
関連作品
コーエン兄弟監督作品
ジョージ・クルーニー出演作品
ジョシュ・ブローリン出演作品のDVD(Amazon)
「アメリカの災難」(1996年)
「ノーカントリー」(2007年)
「アメリカン・ギャングスター」(2007年)
「トゥルー・グリット」(2010年)
ジョナ・ヒル出演作品
スカーレット・ヨハンソン出演作品
ティルダ・スウィントン出演作品