ティルダ・スウィントン〜型破りな役に挑戦、別人のように姿を変え続ける、スタイリッシュで個性的なオスカー女優
ティルダ・スウィントン(1960年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優、パフォーミング・アーティスト、モデル、ファッション・ミューズ(デザイナーを触発する人)です。ケンブリッジ大学で政治学と社会学を専攻した才媛で、在学中に脚本家に興味を持ったのがきっけで、演劇に関わるようになり、卒業後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで演劇を学びます。180センチの長身、クールで中性的な風貌と知的な演技が評価され、魔女や天使、女王、女ボスなどキーマン的な存在感ある役柄を演じることが多く、インディーズ系の映画からハリウッドの大作映画まで幅広く活躍、「フィクサー」(2007年) でアカデミー助演女優賞を受賞しています。
目次
作品と演技の傾向
個性的な風貌が理由でキャスティングされることが多い一方、スウィントン自身は予算やスタジオのネームバリューではなく、「実験的か」、「わくわくするか」といった視点で、出演する作品を選択すると言います。彼女はもともと、
の両極端にしか興味はなく、その中間をきっちりとカリスマ的に演じるということには興味がありません。最近の例で言えば、ルカ・グァダニーノとのコラボ作品である「胸騒ぎのシチリア」(2015年)では、「アメリカ訛を覚えようとするイギリスの女優」という当初の設定を、「声を失った有名ロック歌手」に変えた脚本で演じています。また、「ドクター・ストレンジ」(2016年)では、魔術を操るチベットの高僧を白人女性に置き換えた役を演じています。鼻の赤い道化を演じているわけではありませんが、いずれも非常に極端な設定です。いわば眉唾ものの役を大真面目で演じるわけですから、これは茶番、道化と言えるわけです。スウィントンはそこに女性の微妙な心の襞を巧みに重ねます。観る者は、いわゆる茶番、道化のようには感じません。
こうした姿勢は、役作りにも反映しており、個々の作品で同じ女優とは思えないほど印象を変えてきます*1。最近だけでも、
- ソーシャルワーカー〜「ムーンライズ・キングダム」(2012年)
- バンパイア〜「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」(2013年)
- 道化的政治家(入れ歯を着用)〜「スノーピアサー』(2013年)
- 80歳の大富豪〜「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)
- 声を失った女性ロック歌手〜「胸騒ぎのシチリア」(2015年)
- 最高位の魔術師〜「ドクター・ストレンジ」(2016年)
- 双子のジャーナリスト(一人二役)〜「ヘイル、シーザー!」(2016年)
と、変化に富んだ幅広い役を演じていますが、そこには彼女なりの哲学があります。
私が積極的に取り組むものは多くありませんが、そのひとつに新しい形を作ることがあります。私は映画を観る時、違った映画に同じ人を見るとひどくがっかりします。私は新しい顔が観たい。1986年の第二作目ではそうできなかったので、私自身がこう言うと偽善者なってしまいますが、でも二つ以上の映画に出るならば、できる限り、違った顔をしなければいけないと思うのです。(ティルダ・スウィントン)
スウィントンが「フィクサー」でアカデミー助演女優賞を受賞した役は女性顧問弁護士ですが、彼女はこの女性弁護士が自分には合わない窮屈な仕事をしている解釈し、メイクやファッションを微妙にチグハグなものしています。さらに、彼女は敢えて時間をかけて自分の体重を増やしています。
服や下着がいつも身体を締め付け、服が身体にフィットしないというムズムズ感を、彼女が持っているようにしたかったから。(ティルダ・スウィントン)
体重を増やすことにより、他の作品のスウィントンの印象からも大きく変わる、巧みな役作りです。
アカデミー賞受賞は彼女にとってもサプライズだった様ですが、オスカー像はアメリカのエージェントに上げてしまったようで、その後も一向に守りに入る気配がありません。50歳を過ぎてもなお、型破りな役に挑戦し続ける彼女の秘密は、女優と言うよりはパフォーミング・アーティストに近いメンタリティーにあるのかもしれません。
主な出演作品
ティルダ・スウィントン出演作品のDVD(Amazon)
「オルランド」(1992年)
「アダプテーション」(2002年)
「ブロークン・フラワーズ」(2005年)
「フィクサー」(2007年)
「ミラノ、愛に生きる」(2009年)
「ムーンライズ・キングダム」(2012年)
「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)
「エイミー、エイミー、エイミー!こじらせシングルライフの抜け出し方」(2015年)
「胸騒ぎのシチリア」(2015年)
「ドクター・ストレンジ」(2016年)
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違う映画では、できる限り違った顔をするというティルダ・スウィントン
ブロンド〜「リミッツ・オブ・コントロール」(2009年)
ソーシャルワーカー〜「ムーンライズ・キングダム」(2012年)
イヴ〜「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」(2013年)
メイソン〜「スノーピアサー」(2013年)
マダム.D〜「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)
ダイアナ〜「Trainwreck」(2015年、日本未公開)
エイシェント・ワン〜「ドクター・ストレンジ」(2016年)
サッカー姉妹(双子)〜ヘイル 、シーザー(2016年)