「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」:隙を見せられない緊迫した駆け引き、理想さえ踏みにじる熾烈な選挙戦
「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(原題: The Ides of March) は、2011年公開のアメリカのポリティカル・サスペンス&ドラマ映画です。2004年の民主党大統領予備選挙に立候補したハワード・ディーンの選挙スタッフだったボー・ウィリモンが同選挙に着想を得て、2008年に書いた戯曲「Farragut North」を原作とし、ジョージ・クルーニーが共同脚本・監督、ジョージ・クルーニー、ライアン・ゴズリング、フィリップ・シーモア・ホフマンらの出演で、米大統領選挙に向け複数の州でその予備選が同時開催される選挙戦最大のヤマ場「スーパー・チューズデー」を控えた各陣営の駆け引きなど選挙の裏側に迫る濃密な人間ドラマを描いています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ジョージ・クルーニー
脚本:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ/ボー・ウィリモン
原作:ボー・ウィリモン「Farragut North」
出演:ライアン・ゴズリング(スティーヴン・マイヤーズ)
ジョージ・クルーニー(マイク・モリス知事)
フィリップ・シーモア・ホフマン(ポール・ザラ)
マリサ・トメイ(アイダ・ホロウィッチ)
ポール・ジアマッティ(トム・ダフィー)
エヴァン・レイチェル・ウッド(モリー・スターンズ)
ジェフリー・ライト(トンプソン上院議員)
ジェニファー・イーリー(シンディ・モリス)
グレゴリー・イッツェン(ジャック・スターンズ)
マックス・ミンゲラ(ベン・ハーペン)
ほか
あらすじ
アメリカ合衆国大統領の座をめざし、民主党予備選の最有力候補に躍り出たマイク・モリス(ジョージ・クルーニー)の陣営は、いよいよ迎えた天下分け目のオハイオ州予備選を目前に、選挙ツアー最大の正念場を迎え、緊張と熱気に包まれていました。ペンシルベニア州知事として確固たる政治家の実績を積んだモリスは、申し分ないルックスで弁舌に優れ、カリスマ性も十分、そのうえ清廉潔白な人柄と揺るぎない政治信条で多くの有権者を魅了し、ライバル候補のプルマン上院議員をじわじわと引き離しつつあります。来る3月15日のオハイオ州予備選に勝利すれば、その勢いに乗って共和党候補をも打ち破り、ホワイトハウスの主になることはほぼ確実で、いよいよ一週間後に迫ったスーパー・チューズデーの決戦に全米の注目が集まっていました。ベテラン参謀のキャンペーン・マネージャー、ポール・ザラ(フィリップ・シーモア・ホフマン)とともにモリスを支えるのは、弱冠30歳にして周囲も一目置く辣腕ぶりを発揮する広報官スティーヴン・マイヤーズ(ライアン・ゴズリング)。彼もまた、モリスの語る理想に心酔する一人でした。
ある日、スティーヴンのもとに、プルマン陣営の選挙参謀トム・ダフィ(ポール・ジアマッティ)が電話をかけてきます。極秘の面会を求められ、一度は拒んだスティーヴンですが、何らかの情報提供をちらつかせるダフィの言葉巧みな誘いに負けてしまいます。ダフィの目的は、スティーヴンを自陣営に引き抜くことでした。だがモリスに心酔しているスティーヴンは、その申し出を即座に拒絶します。その夜、スティーヴンは選挙スタッフのインターンである若く美しい女性モリー(エヴァン・レイチェル・ウッド)とホテルで親密な一夜を過ごし、束の間の安らぎを得ます。翌日、スティーヴンはダフィとの密会の件をポールに打ち明け、謝罪しますが、何より忠誠心を重んじるポールの怒りは想像以上でした。二人の間には亀裂が生じ、ダフィとの密会は新聞記者アイダ(マリサ・トメイ)にも嗅ぎつけられてしまいます。圧倒的優勢を見込んでいたスーパー・チューズデーの雲行きも怪しくなり、スティーヴンを取り巻く状況はまたたく間に悪化していきます。そんな中、ポールは、忠誠心が無いとスティーヴンにクビを宣告します・・・。
レビュー・解説
フィクションであり、史実を啓示するものではありませんが、「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」は緊迫した駆け引きと、豪華キャストの好演が光る映画です。特に、ジョージ・クルーニー、フィリップ・シーモア・ホフマンといったベテラン俳優に渡り合いながら、ライアン・ゴズリングが理想に燃えた青年から冷徹な参謀に変わっていく様が見事です。
スーパー・チューズデイに向けて選挙戦は加熱し、選挙戦を仕切る参謀達は緊迫した駆け引きや、ネガティブ・キャンペーンの攻防を繰り広げます。不用意に隙を見せると一瞬にして潰される、厳しい世界が描かれています。
言論の自由を尊ぶアメリカでは、日本に比べてネガティブ・キャンペーンに寛容です。特定の候補を宣伝しない政治活動への献金の上限額を撤廃するスーパー PAC が導入されてから、さらにネガティブ・キャンペーンが加熱しているとも言われていますが、本作でも対立候補にネガティブな情報を流すシーンが出て来ます。
同様な選挙戦を描いた映画にクリントン元大統領の選挙戦をなぞった「パーフェクト・カップル」(1998)があります。双方とも、政治や選挙戦の理想と現実のギャップを描いていますが、フィクションである本作の方がよりひねりの効いたプロットになっています。また、本作に登場する20歳のインターンの女性、モリー・スターンズは、モニカ・ルインスキーを意識したものでしょう。
政治家にとって、スキャンダルを巡る攻防はいわば仕事の一部ですが、モニカのように素人の若い女性がスキャンダルに巻き込まれるのは大変なことです。政争に巻き込まれたモニカは、そのプライバシーを赤裸々に暴かれ、大々的にバッシングされるなど、高い代償を払わされました。自尊心をズタズタにされたモニカの自殺を恐れた両親は、モニカがシャワーを浴びる時もドアを開けっ放しのままにさせていたほどでした。本作のモリー・スターンズも、過酷な運命にさらされることになります。
尚、原題の「The Ides of March」は古代ローマ暦の3月15日を意味します。ジュリアス・シーザーが暗殺された日で、政治的な裏切りを暗示するタイトルです。
スーパー・チューズデイについて
スーパー・チューズデー は、通常、アメリカの大統領選挙がある年の2月または3月のひとつの火曜日を指します。その日は多くの州で同時に予備選挙や党員集会が開催され、一日で最大の代議員を獲得することができます。各候補は自党の大統領候補としての指名を確保するために、この日に向けて必死になります。
ライアン・ゴズリング(スティーヴン・マイヤーズ)
ジョージ・クルーニー(マイク・モリス知事)
フィリップ・シーモア・ホフマン(ポール・ザラ)
マリサ・トメイ(アイダ・ホロウィッチ)
ポール・ジアマッティ(トム・ダフィー)
関連作品
ライアン・ゴスリング出演作品のDVD(Amazon)
「Half Nelson」(2006年)・・・北米版、リージョン1、日本語なし
「ラースと、その彼女」(2007年)
「ブルーバレンタイン」(2010年)
「ラブ・アゲイン」(2011年)
「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年)
「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)
「ラ・ラ・ランド」(2016年)
「ブレードランナー 2049」(2017年)
「ファースト・マン」(2019年)
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