夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ブルーバレンタイン」:ひとつの愛の誕生と痛々しい崩壊を、緻密に交錯する脚本と生々しい演技で描く

ブルーバレンタイン」(原題: Blue Valentine)は、2010年公開のアメリカのロマンス/ドラマ映画です。デレク・シアンフランス監督・脚本、ライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズ主演で、結婚7年目を迎えたとある夫婦の過去と現在を交錯させながら、その愛の軌跡を描き出す R 指定のリアルなラブストーリーです。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:デレク・シアンフランス
脚本:デレク・シアンフランス/ジョーイ・カーティス/カミーユ・ドラヴィーニュ
出演:ライアン・ゴズリング(ディーン・ペレイラ
   ミシェル・ウィリアムズ(シンディ・ヘラー)
   フェイス・ワディッカ(フランキー、シンディの娘)
   マイク・ヴォーゲル(ボビー・オンタリオ、 シンディのかつての恋人)
   ほか

あらすじ

ディーン(ライアン・ゴズリング)とシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)の夫婦は、娘のフランキー(フェイス・ウラディカ)との3人で暮らしています。長年の勉強の末、看護師の資格を取って病院で忙しく働く妻・シンディに対し、夫・ディーンはビールを飲んでから仕事にでかけるマイペースなペンキ屋。お互い相手に対し不満を抱えているが、口に出せば平和な生活が壊れてしまうことも知っています。

出会った頃の二人は若く、夢があり、お互いに相手に夢中で毎日が輝いていた幸せな日々でした。ディーンは高校のドロップアウト、シンディーは医学生で、不幸な両親と祖母と暮らしていました。二人は出会い、シンディーが妊娠が判明します。元カレのボビーの子供でした。シンディーの妊娠を知らないボビーは仕事中のディーンを襲いますが、シンディはディーンを家族に紹介、二人は結婚しました。

数年後のある週末、ペットが死んだ日、ディーンはシンディをモーテルに連れて行こうとします。車の中でシンディーは、ボビーに会ったことをディーンに伝え、ディーンはあわてます。モーテルで二人は口論になり、翌朝、シンディはモーテルから一人で病院に向かいます。病院で、彼女のボスは彼女に好意を持っていることを伝え、シンディは戸惑います。ディーンは酔っぱらって病院に現れボスを殴り、ボスはシンディをクビにします。ディーンは「もう一度チャンスをくれ。娘に片親で育たせるのか。」と問い、シンディは「親が傷つけあう姿を子供に見せたくない。」と、応えます。

そんな二人の過去と現在が交錯しながら、二人の愛の行方が描かれます・・・。

レビュー・解説

美しいながらもズシンとくる映画です。命あるものはいずれ死を迎えますが、愛や結婚も例外ではないのかもしれません。ひとつの愛の誕生と直視しがたい崩壊を描くこの映画を、主演のライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズはリアルに生々しく演じています。10年以上も脚本を改訂し続けたという緻密な構成と、即興によって醸し出される緊迫感が素晴しい映画です。

 

監督・脚本を担当したデレク・シアンフランスは、20歳の時に経験した両親の離婚に触発されて、この映画を作りました。彼は大きなショックを受け、映画制作を通して、男女関係が如何に始まり、如何に終わるかを理解したいと考えました。映画制作には12年かかり、現場での即興や、触発的な出来事による追加や変更で、脚本は67版を重ね、非常に完成度の高いものになりました。この間、デレク・シアンフランスはドキュメンタリーの制作に携わりながら、この映画の資金を確保しました。

 

ミシェル・ウィリアムズは2003年に、ライアン・ゴズリングは2005年に出演を約束し、以降、デレク・シアンフランスは他の俳優の起用を考えることはありませんでした。しっかりとした脚本があるのにも関わらず、デレク・シアンフランスは二人の俳優に即興でやって欲しいと伝えました。セリフを覚えるのが苦手なライアン・ゴズリングはこれを歓迎しましたが、脚本を気に入っていたミシェル・ウィリアムズには、少々、ショックだったようです。

 

口論するシーンでは、デレク・シアンフランスは二人を別々に呼び、ミシェル・ウィリアムズには「何としてでも議論をやめ、部屋から出るようにしろ」と、ライアン・ゴズリングには「なんとしてでも、説得しろ」と指示し、二人は相手にどのような指示が出ているのか知らないまま、非常に緊張感の高い演技を繰り広げられています。

 

見せ場のひとつである二人の歌とダンスのシーンでは、デレク・シアンフランスは、即興を自然に見せる為に、二人が何が得意なのかお互いに隠しておくよう、指示しています。このシーンに関して、ライアン・ゴズリングは次のように語っています。

もしこのウクレレを使って歌っているシーンが、予告編として使用されることが分かっていたら、もっと上手に歌っていたけれどね(笑)。これは夜に即興で撮影したシーンで、監督のデレク・シアンフランスから日没から日が昇るまで、おまえ(ライアン)を撮影するから、好きなことをやってくれと言われて、あのウクレレで歌うことになったんだ。ただ、特にウクレレを習ったわけじゃなく、自分流であのシーンは演奏していたんだ。

ちなみに、夜明けまでこのシーンを撮影したらしいのですが、最終的に映画に使用されたのはわずか2分だったそうです。

 

デレク・シアンフランス監督は、ディーンとシンディの出会った第一部を撮影してから、6年後に現在の第二部を撮影するつもりでしたが、これはプロデューサーに阻止されました。実は、第一部だけでも美しいラブストーリーになっており、第一部の撮影が終わった時点で、タイトルを単に「バレンタイン」としてリリースし、第二部の撮影は止めてもいいのではないか、真剣に議論されました。

 

二人の出会いを描いた第一部の「過去」の撮影終了後、第二部の「現在」の撮影に備え、ライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズは「齢を重ねる」為に一ヶ月ほど借家で過ごしました。食料品を買い出したり、料理を作ったりしながら、二人はお互いへの絡み方を覚えました。第二部の撮影期間中、ライアン・ゴズリングにとってペンキ屋のディーンとして生活する事が彼の役へのアプローチでしたが、実際に子供を持つミシェル・ウィリアムズにとって崩壊する家庭の母親になりきるのはつらい経験だったのではないかと、彼は語っています。

 

厳しい撮影だったようですが、ミシェル・ウィリアムズの元カレで娘マチルダの父でもあるヒース・レジャーが亡くなった際には、撮影を遅らせたり、また、フロリダ、ハワイなど様々な場所に設定していた脚本を、ミシェル・ウィリアムズが帰宅して娘に会えるよう、ニューヨークという設定に書き換えるなどの配慮を、デレク・シアンフランス監督はしています。

 

映画制作を通して、男女関係が如何に始まり、如何に終わるかを理解したかったという、デレク・シアンフランス監督は、その始まりが理屈でないように、その終りも理屈ではないという、抗し難い事実をこの映画で示唆しているかのようです。愛がひと時の幻想で、その始まりが美しければ美しいほど、その終りは切ないのかもしれません。自分自身のことであれ、映画であれ、これは直視したくない現実に違いありません。しかしながら、生物学的に女性が男性を必要とするのは子供が生まれて数年で、女性に生活力があれば、その後、男性を必ずしも必要としないという話を聞いたことがあります。過去の女性が家庭に縛られていた時代は終り、女性が仕事を持ち、自活可能となった現在、むしろ、こうした映画を通して現実を直視し、新たな男女関係のあり方を考えていく必要があるのかもしれません。

 

ライアン・ゴズリング

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ミシェル・ウィリアムズ

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歌とダンスのシーン

関連作品

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  「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年)

 

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  「ラースと、その彼女」(2007年)

ブルーバレンタイン」(2010年)

  「ラブ・アゲイン」(2011年)

  「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(2011年)

  「ドライブ」(2011年)

     「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)

ラ・ラ・ランド」(2016年)

  「ナイスガイズ!」(2016年)

  「ブレードランナー 2049」(2017年)

  「ファースト・マン」(2019年)

 

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  「名犬ラッシー」(1994年)

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  「ブロークバック・マウンテン」(2006年)

  「ウェンディ&ルーシー」(2008年)

 
「ミークズ・カットオフ」(2010年)・・・北米版、全リージョン、日本語なし

  「マリリン 7日間の恋」(2011年)

  「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(2016年)

  「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)

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