夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「マリリン 7日間の恋」:世紀の大スターを果敢に演じたミシェル・ウィリアムズの確かな視点

マリリン 7日間の恋」(原題: My Week with Marilyn)は、2011年公開のイギリスのドラマ・伝記映画です。コリン・クラークによる2冊の著作「My Week with Marilyn」、「The Prince, the Showgirl and Me」を基にした作品で、数々の伝説に彩られた女優マリリン・モンローと年下の英国人青年との知られざる純愛を描いています。第69回ゴールデングローブ賞で映画演技賞(ミュージカル・コメディ部門)主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)を受賞、第84回アカデミー賞で主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)と助演男優賞ケネス・ブラナー)にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:サイモン・カーティス
脚本:エイドリアン・ホッジス
原作:コリン・クラーク
   「My Week with Marilyn」、「The Prince, the Showgirl and Me」
出演:ミシェル・ウィリアムズマリリン・モンロー
   ケネス・ブラナーローレンス・オリヴィエ
   エディ・レッドメイン(コリン・クラーク)
   ドミニク・クーパー(ミルトン・H・グリーン)
   ジュリア・オーモンドヴィヴィアン・リー
   ゾーイ・ワナメイカー(ポーラ・ストラスバーグ)
   ダグレイ・スコットアーサー・ミラー
   エマ・ワトソン(ルーシー)
   ジュディ・デンチ(シビル・ソーンダイク)
   トビー・ジョーンズ(アーサー・ジェイコブ)
   ほか

あらすじ

1956年、イギリスの上流家庭の四男坊のコリン・クラーク(エディ・レッドメイン)は、銀幕の中でセクシーに歌い踊るマリリン・モンローミシェル・ウィリアムズ)に憧れていました。。両親からあまり期待されていなかった彼は、以前から憧れていた映画の世界に飛び込むことを決意します。コリンは両親の友人でもあるローレンス・オリビエ(ケネス・ブラナー)の映画製作会社に出向いて、使い走りの仕事にありつきます。ある時、オリビエが監督・主演をつとめる新作映画「王子と踊り子」の相手役に、マリリン・モンローが抜擢され、コリンは運よく、第三助監督として撮影に関わることになります。ロンドン・ヒースロー空港に、マリリンが新婚の夫アーサー・ミラーダグレイ・スコット)を伴って飛行機から降り立ち、報記者会見場で、マリリン、オリビエ、オリビエ夫人である女優のビビアン・リージュリア・オーモンド)らが登壇します。記者の狙いはマリリンで、彼女の当意即妙の返しに、会場は沸き立ちます。制作への期待も高まる中、撮影前の台本読みで早くもトラブルが持ち上がります。オリビエ、シビル・ソーンダイク(ジュディ・デンチ)ら英国演劇界の重鎮たちや撮影所のスタッフたちが揃う中で、マリリンだけがなかなか現れません。オリビエに言いつけられたコリンが楽屋へ様子を見に行くと、そこには緊張と焦燥で、疲れ切った素顔のマリリンがいました。その傍らには、彼女の演技コーチのポーラ・ストラスバーグ(ゾーイ・ワナメイカー)がついており、「彼女はまだ準備できていないと伝えて」と言い渡されて部屋を追い出されます。何とか始まった本読みの最中でも、マリリンは演技面での疑問はすべてポーラに助言を求めるので、オリビエは苛立ちを隠しきれません。不安の中で撮影がスタートするが、やはりトラブルは続発します。マリリンは緊張と不安に重なって、オリビエらとの演技法の違いによりNGテイクを連発してしまいます。さらに毎日続く遅刻に業を煮やしたオリビエはコリンに、マリリンとアーサー・ミラーの宿泊するホテルに出向いて様子を探ってこいと命じます。そこで彼は、廊下の暗がりで泣き崩れているマリリンと出くわします・・・。

レビュー・解説 

単なるマリリン・モンローのコピーや通り一編の解釈で演じると、おそらく映画は薄っぺらなものになった思われますが、あくまでもミシェル・ウィリアムズが同じ女優としてマリリン・モンローの心理を読み、しっかりと演じきっていることを感じさせる、見応えのあるドラマです。最初はマリリン・モンローミシェル・ウィリアムズではタイプが違うのでのは?と思ったのですが、実際に観てみると、最も重要な事は実在した人物の解釈を映画として、役者としてきっちりと演じきることと実感しました。

 

この映画の見どころのひとつは、ミシェル・ウィリアムズが劇中劇で踊る「王子と踊り子」のソロ・ダンスです。オリジナルのマリリン・モンローのソロ・ダンスと見比べてみましたが、デッド・コピーではなく、お茶目なところが強調されています。おそらく、これがミシェル・ウィリアムズの解釈なのでしょうが、マリリン・モンローは精神的に不安定な部分がある一方で、天真爛漫な性格の持ち主でもありました。緊張と焦燥、オリビエらとの演技法の違いによる対立など、ともすれば暗くなりがちな映画に、ミシェル・ウィリアムズは見事にメリハリをつけています。

 

マリリン 7日間の恋」という邦題ですが、コリンがマリリンに恋心を抱いたとしても、マリリンがコリンに恋心を抱いていたかどうかは疑問です。

もしマリリンが女王様だとしたら、敵側にスパイが必要なはず。あの状況に置かれた彼女は、自分の支持者として彼を見つけたんだと思う。それから、私は『王子と踊り子』を観ていた時に気づいたの。劇中でマリリンが演じたキャラクターは若い王様と恋に落ちるでしょ?マリリンは女優として真実味を探求する人だったのよね。もしかしたら、彼女は年下の男性と恋愛をした経験がなかったのではないかしら。年下の男性との恋愛がどのようなものなのかを、役のために知る必要があったのかもしれないわね。もう1つ考えたのは、目の前に居る、天真爛漫でオープンで目がキラキラしたコリンとの駆け引きを純粋に楽しんでいたのかもしれないっていうこと。マリリンは本質的に好奇心が強くて子どものような一面を持っていた女性だから、コリンほど無邪気な人を前にして、もて遊んでいたのかもしれない。彼ほど高潔で親切で優しくて寛大な人と一緒にいると、とっても良い気分になるものだしね。当時のマリリンは夫や演技コーチ、ビジネス・パートナーやローレンス・オリヴィエに見放されたと信じ込んでいて、わらにもすがりたい気分だったはず。それにコリンは特別な青年だったんだと思うの。人当たりが良くて、賢くて、騎士道精神あふれた紳士だから、彼女の寂しさを紛らわしてくれたのかもしれないわ。でも、全ては彼というよりもマリリンの問題だったんじゃないかな。私は今作をラブストーリーとして考えたことはないの。マリリンは彼との時間を恋愛として楽しんでいたわけではないと思うわ。(ミシェル・ウィリアムズ

一歩、間違えば、マリリンはコリンを利用した嫌な女になりかねないのですが、コリンが夢のような一週間を過ごして幸せを感じたとしても、決して恨む事はないであろう、憎めないマリリンをミシェル・ウィリアムズは巧みに演じ上げています。

 

ブロークバック・マウンテン」、「ウェンディ&ルーシー」、「ブルー・バレンタイン」など、個性的な個性的な役柄の多い彼女ですが、出演作の選び方について彼女は次のように語っています。

私はかねてから身近に居そうな人物を演じることに興味があるの。地下鉄で隣に座っているような人や、高校の同級生のような人、時には自分自身のような人をね。グラマラスであったり、人より成功していたりといった、完璧に洗練された役にはもともとあまり興味がないの。観客との間に隔たりを持ちたくないのかもしれないわ。上手に説明できないけれど、観客と映画の間にガラスがあるのは嫌なの。それは条件というよりも、私のテイストの問題かもしれない。観に行く映画や読む詩集を選ぶときもそうだけれど、私は完璧に磨かれた作品ではない方が好きなの。役選びでは自分の本来のテイストというものが自然に出てくるの。それ以外で特に条件はないわ。役選びをする上でのルールを記したリストがあるわけではなく、その瞬間に自分が魅力を感じた役、心に響くものがあった役を選ぶの。その作品を踏み台にして将来的に自分がどこへたどり着けるか、というようなことは、あまり考えないわ。ブロックを積み重ねるようには考えず、一日一日、その時に自分が感じたことを大切にしているの。(ミシェル・ウィリアムズ

 

ミシェル・ウィリアムズは、「マリリン 7日間の恋」の脚本を読んで「演じたい」と思ったものの、後になって「なんという大変な企画にかかわってしまったのかしら」と気づいたといいます。これほど難しい役柄を演じたことはなく、想像しうる範疇を超えていたそうですが、彼女がこの役に惹かれたのは、明らかにマリリン・モンローのスターダムではなく、未成熟さ、アンバランスさ故でしょう。世に既にある大スターのイメージに流されないことは大変だったに違いないのですが、ミシェル・ウィリアムズならではの視点で切り込んで、彼女なりのマリリン・モンローを演じきっているのは見事です。アカデミー助演女優賞にノミネートされた「ブロークバック・マウンテン」で共演、後に薬物摂取による急性中毒で亡くなったヒース・レジャーとの間に出来た娘を育てながら、「ブルー・バレンタイン」、本作と二年連続でアカデミー主演女優賞にノミネートされているミシェル・ウィリアムズですが、今後もこの勢いを期待したい女優です。

 

ミシェル・ウィリアムズの好演を支えている豪華なキャストも見逃せません。演技法でマリリンと対立するローレンス・オリヴィエを演じたケネス・ブラナーは、本作で助演男優賞にノミネートされています。また、マリリンに恋するコリン・クラークを演じたエディ・レッドメインの、爽やかな英国青年ぶりも見事です。女優としてのマリリンに理解を示し、ローレンス・オリヴィエに意見する大女優シビル・ソーンダイクを演じるジュディ・デンチも、彼女の現在の映画界における立ち場を思わせるような名演技です。中年になった往年の美人女優ヴィヴィアン・リーを演じるジュリア・オーモンドも素晴しいです。

 

パインウッド・スタジオ、イートン校、ウィンザー城など、「王子と踊り子」の撮影の際に実際にマリリン・モンローが辿った場所を追って撮影されているのも見どころのひとつです。

 

ミシェル・ウィリアムズマリリン・モンロー

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ケネス・ブラナーローレンス・オリヴィエ

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エディ・レッドメイン(コリン・クラーク)

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ドミニク・クーパー(ミルトン・H・グリーン)

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ジュリア・オーモンドヴィヴィアン・リー) 

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エマ・ワトソン(ルーシー)

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ジュディ・デンチ(シビル・ソーンダイク)

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動画クリップ(YouTube) 

ソロ・ダンス

撮影地(グーグルマップ)

 

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