「バベットの晩餐会」:北欧の寒村の暖かいフランス料理
「バベットの晩餐会」は、1987年公開のデンマークのドラマ映画です。アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン)の同名小説を原作に、ガブリエル・アクセル監督、ステファーヌ・オードランら出演で、19世紀後半のデンマークを舞台に、質素な生活を送っているプロテスタントの村人たちとカトリックの国フランスからやってきたひとりの女性との出会いと当惑、そしてある晩餐会の一夜を描いています。第60回アカデミー賞で、最優秀外国語映画賞を受賞した作品です。
目次
スタッフ・キャスト
監督:ガブリエル・アクセル
脚本:ガブリエル・アクセル
原作:アイザック・ディネーセン「バベットの晩餐会」
出演:ギタ・ナービュ(ナレーター)
ステファーヌ・オードラン(バベット、フランスから亡命して来た女性)
ビルギッテ・フェダースピール(マーチーネ、牧師の娘 )
ヴィーベケ・ハストルプ(若いころのマーチーネ、ローレンスに求愛される)
ボディル・キュア(フィリパ、牧師の娘)
ハンネ・ステンスゴー(若いころのフィリパ 、パパンに求愛される)
ポウエル・ケアン(牧師、マーチーネとフィリパの父親)
ヤール・キューレ(ローレンス、スウェーデンの将軍)
グドマール・ヴィーヴェソン(若いころのローレンス、 スウェーデンの士官)
ジャン=フィリップ・ラフォン(アシール・パパン、有名な仏バリトン歌手)
ほか
あらすじ
北欧の寒村で慎ましく暮らす神父と二人の娘、村人達。姉妹は求愛を容れる事なく、父に仕える道を選びます。父亡き後も姉妹は嫁がず、村人達とともに父の教えを守っていました。ある嵐の夜、姉妹は鎮圧されたパリ・コミューンから逃れて来た女を受け入れ、女は無給の料理人として住み込みます。年月が流れ、村人達は老いて信仰心が薄れます。姉妹は父の生誕100年を記念する晩餐会を催し、村人達を招待することにします。料理人は晩餐会の料理を作らせて欲しいと姉妹に願い出ます・・・。
レビュー・解説
原作は、デンマークの女性作家アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン)の同名小説「バベットの晩餐会」で、英語版とデンマーク語版があります。英語版が先に執筆され、後に出版されたデンマーク語版は内容が少し異なっていますが、映画は英語版に基づいています。この作家は、英語で執筆する際は男性名のアイザック・ディネーセンを、デンマーク語の際は女性名のカレン・ブリクセンを名乗っています。カレンは20代にパリで絵画の修業をしたり、文芸誌に寄稿したりした後、スウェーデン貴族と結婚、ケニアに移住し、夫婦でコーヒー農園を経営します。しかし結婚生活が破綻、離婚し、経営もうまくいかず、デンマークに帰国して、本格的に作家活動を始めました。映画「愛と哀しみの果て」の原作「アフリカの日々」は彼女の作品です。
映画「バベットの晩餐会」の圧巻は、後半のフランス料理の調理シーンです。昨今のステンレス製の無機的な業務用キッチンではなく、100年以上昔の家庭の台所で作るフランス料理は美しいだけではなく、とても暖かく見えます。
北欧の寒々とした村の光景とこの暖かい調理シーンが対照的です。北ヨーロッパでは質素倹約を旨とするプロテスタントが多く、そのため食事も質素であると言われています。この映画でも、姉妹や村人達はフランス料理に懐疑的でした。質実なプロテスタントの信条と、豪奢なフランス料理の至福が交錯します。料理人は高級料理店のシェフであった事、貧しくとも生きられる芸術家である事を告白します。
ストイックなプロテスタントの姉妹、パリを逃れた芸術的女性シェフを描いた「バベットの晩餐会」は、若くしてパリで芸術を修行、結婚とアフリカでの事業に挫折、帰国して作家活動に取り組んだ原作者自身の生き方と深く関連しているように思われます。「バベットの晩餐会」は1987年度アカデミー外国語映画賞を受賞しました。
デンマークは人口560万の小さな国ですが、時折、「バベットの晩餐会」のように素晴らしい映画が作られます。他にも「アフター・ウェディング」(2006年)など、心に残る作品が少なくありません。
関連作品
料理や調理シーンを描いた映画
「しあわせな孤独」(2002年)
「ストリングス〜愛と絆の旅路〜」(2004年)
「ある愛の風景」(2006年)
「ビルマVJ 消された革命」(2008年)
「100,000年後の安全」(2010年)
「アルマジロ」(2010年)
「アクト・オブ・キリング」(2012年)
「ヒトラーの忘れもの」(2015年)
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