夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」:デンマーク王室のユニークな三角関係による社会改革の史実を、豪奢にリアルに味わい深く描く

「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(原題:En kongelig affære)は、2012年の公開のデンマークスウェーデンチェコ合作の伝記ドラマ映画です。18世紀のデンマーク王室最大のスキャンダルと言われる史実をもとに、ニコライ・アーセル監督、 マッツ・ミケルセンアリシア・ヴィキャンデル、ミケル・ボー・フォルスゴーら出演で、王クリスチャン7世と王妃カロリーネ・マティルデ、侍医ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセの運命的な三角関係を描いています。第62回ベルリン国際映画祭銀熊賞ニコライ・アーセル脚本賞、ミケル・ボー・フォルスゴーが男優賞)を受賞、第85回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ニコライ・アーセル
脚本:ニコライ・アーセル/ラスマス・ヘイスターバング
原作:ボーディル・スティンセン=レト「Prinsesse af blodet」
出演:マッツ・ミケルセン(ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ、王室の侍医)
   アリシア・ヴィキャンデル(カロリーネ・マティルデ王妃、英国王室出身)
   ミケル・ボー・フォルスゴー(クリスチャン7世、精神を病むデンマーク国王)
   トリーヌ・ディルホム(ユリアーネ・マリーエ王太后、先王の二番目の妃)
   デヴィッド・デンシック(オーベ・ヘー=グルベア、ストルーエンセと対立)
   トーマス・ガブリエルソン(ランツァウ、ストルーエンセを利用する貴族)
   サイロン・ビョルン・メルヴィル(ブラント、ストルーエンセの側近)
   ベント・マイディング( ベルンストルフ、枢密院議長)
   ハリエット・ウォルター(オーガスタ、キャロラインの母、英国王太子妃)
   ローラ・ブロ(ルイーセ・フォン・プリセン、女官、後にキャロラインの親友に)
   ほか

あらすじ

絶対王政末期の18世紀後半、野心家のドイツ人ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ(マッツ・ミケルセン)は、精神を病んだデンマーク国王クリスチャン7世(ミケル・ボー・フォルスガード)の侍医となります。王の唯一の理解者であり親友となる一方、ストルーエンセは孤独な王妃カロリーネ・マティルデ(アリシア・ヴィカンダー)の心も虜にし、禁断の恋に落ちていきます。啓蒙思想を信奉するストルーエンセは、やがて国王の言動を操り、事実上の摂政として数々の改革に乗り出していきますが、不満を募らせた保守派貴族たちは密かに政変を起こそうと画策します・・・。

レビュー・解説

デンマーク王室の史実に基づき、三角関係、社会改革、政治といった普遍的テーマを、インデペンデントとは思えないほど、豪華かつリアルに味わい深く描き、世界的な共感を得た時代劇です。

ユニークで個性的な3人の関係

18世紀後半、デンマーク国王クリスチャン7世とカロリーヌ王妃、待医ストルーエンセの三角関係は、デンマークの学校で教えられるほど有名な話で、これまでオペラ、書籍、バレエなどが作品化されています。この三人は王室や政治中枢の内部からの変革を起こし、現代のデンマーク民主主義の礎を作った、いわば革命家であることに、ニコライ・アーセル監督は興味を惹かれたと言います。この三人はそれぞれ実に個性的で、その三角関係もユニークです。

  • ストルーエンセ:非常に現代的な考えを持った医者で、心を病んでいる国王に聡明さ、繊細さを見出し、二人の間の真の友情が生まれる。
  • 国王クリスチャン7世:ストルーエンセが心の支えになるが、必ずしも王妃を愛しておらず、ストルーエンセとカロリーヌ王妃が愛しあうようになっても、ある意味彼らを許す。
  • カロリーヌ王妃:イギリス王室よりデンマーク王室に嫁ぐも、民衆の悲惨さや国王の寵愛が得られないことに心を痛めており、ストルーエンセが心の支えになる。

三人の関係は愛憎の三角関係と言うよりは小さなファミリーのような絆で、本作はその絆が壊れていく物語でもあります。

 

ユニークな三角関係がひとつのテーマ

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人物描写と現実感を重視した演出

こうした関係に心を奪われたアーセル監督は脚本を書き、4年かけて資金を集めています。本作の制作費は約700万ドルですが、その半分をデンマーク政府、残りをドイツ政府、ドイツのテレビ局、スウェーデンの民間の基金から得ています。衣装、セット、儀式の再現など、時代劇はコストがかかりがちで、700万ドルの予算は決して多いとは言えません。アーセル監督は、10年来の気心の知れたスタッフとともに徹底的に予算配分を詰める一方、40日とインデペンデントにしては長い撮影期間を確保しています。さらに舞踏場の3シーンを一晩で撮影するなど、密度の濃いプランニングにより、700万ドルの予算とは思えない仕上がりを実現しています。また、衣装やセット、儀式などにこだわり、華美一辺倒に時代を描くのではなく、あくまでもキャラクターを主体にリアルに描いています。さすがに当時の病気や不潔さなどの描写は抑えていますが、彼は時代を客観的に捉えており、古めかしいシーンや、埃っぽく、むっとするようなシーンも登場します。一方、キャラクターを表現するのに必要と思える部分、即ち、衣装、かつら、馬などにはお金をかけ、また、時代劇には通常使用しない、ハンディカメラを多用しています。

 

人口約500万と小国のデンマークで、限られた予算でこのような優れた映画が作られた背景には、こうしたストイックな制作姿勢があったわけです。ここには、厳しい制約を設けることにより虚飾を排し、ハンディカメラで時系列に刻々と現在を切り取っていくなど、映画本来の伝統的価値へと立ち返るデンマークの運動「ドグマ95」の流れが脈々と生きているのではないかと思います。

俳優陣の活躍

本作には侍医と王妃の不倫の愛というメロドラマ的要素もあり、この部分はアーセル監督にとって初挑戦でした。「風邪と共に去りぬ」(1939年)が好きというロマンティストのアーセル監督は、演出意図をきちんと実現してくれる優れた俳優たちによって、これを乗り切ることができたと言います。王妃役のアリシア・ヴィキャンデルは撮影時23歳、侍医役のマッツ・ミケルセンは46歳でしたが、年齢差を感じさせることなく、見事に二人の関係を演じています。期待を裏切らないマッツ・ミケルセンは元より、2010年にスウェーデン映画で長編映画デビューし、ローカルに注目され始めたばかりのヴィキャンデルも女性の持つ情熱を見事に表現しています。

 

国王のクリスチャン7世を演じるミケル・ボー・フォルスゴーも注目に値します。本作が長編映画デビュー作ですが、心を病みながらも聡明で繊細な国王を見事に演じています(実在の国王は聡明で才能に恵まれていたが為政者として十分な教育が成されず、枢密院に脅され統合失調症のような感情障害を患っていたとされる)。まだ演劇学校の学生だったフォルスゴーをアーセル監督が抜擢された彼は、見事、期待に応え、ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞しました。これは異例のことで、身に余る栄誉と思ったのか、これを辞退しようとした彼は、映画祭の審査委員長に「お前は本当に気違いか?」と言われたそうです。ともあれ、優れた俳優が発掘されたことは事実で、彼はその後も順調に長編映画に出演、第89回アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表となった「ヒトラーの忘れもの」(2015年)にも出演しています。

 

マッツ・ミケルセン(ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ、デンマーク王の侍医)

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マッツ・ミケルセン(1965年〜)は、コペンハーゲン出身のデンマークの俳優。デンマーク語、英語、スウェーデン語に堪能。俳優になる前は体操選手、プロダンサーだった。国立演劇学校で学び、1996年に長編映画デビュー、「しあわせな孤独」(2004年)など多くのデンマーク映画に出演、「キング・アーサー」(2004年)でハリウッド進出し、「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年)で国際的知名度を得る。「アフター・ウェディング」(2008年)、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012年)などアカデミー外国語映画賞ノミネート作品に出演する一方、「偽りなき者」(2012年)でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞している。

 

アリシア・ヴィキャンデル(カロリーネ・マティルデ王妃、英国王室出身)

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アリシア・ヴィキャンデル(1988年〜)は、ヨーテボリ出身のスウェーデンの女優。「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012年)、「戦場からのラブレター」(2014年)、「エクス・マキナ」(2015年)などに出演、「リリーのすべて」(2015年)でアカデミー助演女優賞を受賞している。「イングリッド・バーグマン〜愛に生きた女優」(2016年)では、イングリッド・バーグマン役でナレーションを務めている。

 

ミケル・ボー・フォルスゴー(クリスチャン7世、精神を病むデンマーク国王)

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ミケル・ボー・フォルスゴー(1984年〜)は、デンマーク出身の俳優。映画デビュー作の本作で第62回ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞している。その後も長編映画に出演、第89回アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表として出品された「ヒトラーの忘れもの」(2015年)にも出演している。

歴史的な事実

本作は、基本的に史実に基づいており、そのポイントは

  • ストルーエンセはフランス革命より先に社会改革を始めた
  • 改革はトップダウンという珍しい形で進められた
  • これは啓蒙主義者の平民が侍医という形で宮廷に入り込むことにより実現した
  • 一方で、王妃との不倫、検閲の再開など、権力を持ったが故の堕落もあった
  • 不倫は国王との関係を壊すものではなく、むしろ三人は小さなファミリーだった

といった点にあります。

 

<ネタバレ>

結局、王妃との不倫が宮廷内に知られることになり、反ストルーエンセ勢力がこれを大衆操作に利用、ストルーエンセを失脚、処刑に追い込みます。議会は王の同意なく処刑を執行でき、恩赦という形でしか影響力を行使できない王には処刑日を知らせぬままに、処刑を実行したもののと考えられています。デンマーク国立図書館には、「ストルーエンセとブラント(ストルーエンセの側近)を救いたかった)」と書き込まれたクリスチャン7世の手書きの絵が保存されています。王妃はドイツに追放され、子供たちに会うことも許されませんでした。反ストルーエンセ勢力はストルーエンセが行った数々の社会改革を元に戻しますが、クーデターに成功した国王の息子が20年〜30年かけてストルーエンセが行った改革、さらに進んだ改革を実現します。本作では一通に集約されていますが、王妃は秘密裏に何通もの手紙を子供たちに書いていたことが知られています。息子がストルーエンセの社会改革を実現したのは単なる偶然ではなく、王妃からの手紙に影響を受けてと考えるのが自然かもしれません。

 

クリスチャン7世の手書きの絵(デンマーク国立図書館蔵)

Christian VII - Portraits of Struensee and Brandt

「ストルーエンセとブラント(ストルーエンセの側近)を救いたかった」と書き込まれている。

<ネタバレ終り>

普遍的な社会問題

本作では、格差などの当時の社会問題、社会福祉と財源、反動勢力、政治抗争、メディア(壁新聞)による大衆操作などが描かれていますが、300年たった現在も人間社会の本質は変っていないとアーセル監督は言います。例えば、カロリーネ王妃の手紙に「宗教と疑惑が支配」という一節がありますが、これは現在、中東で起きていることと同じと彼は言います。また、国民皆保険制度の導入など、オバマ米大統領格差是正の為に社会福祉に尽力しましたが、反動勢力の抵抗にあい、実質、骨抜きにされたとも言われています。オバマ米大統領、先の米大統領選のクリントン候補は、それぞれアフリカ系米国人、女性とマイノリティ、多様性の受容を推進するリベラルでしたが、大統領選では差別的発言を繰り返す実業家出身のトランプ候補が勝利しました。こうした揺り戻しがある点も、300年前も変っていません。しかし、こうした揺り戻しも一概に悪いとは言えないかもしれません。ストルーエンセが権力を握って堕落の兆候が見られたとの同様、主流になりつつあったアメリカのリベラルにも知らず知らずのうちに何かしら驕りが入り込んでいた可能性もあるのではないかと思われます。

余談:日本の社会変革を阻むもの

余談になりますが、日本では長期化する安倍政権に対し、森友学園、加計問題に端を発する一連の問題に内閣支持率が急落しています。これも揺り戻しと言っていいかもしれません。ただ、モリ・カケ問題は本質的な問題ではないと私は感じています。例えば、日本最大の社会問題のひとつである少子高齢化は簡単に予見できたものですが、これをうまく揺り戻すことができない社会構造に大きな欠陥があると感じています。それは恐らく、

  • 短期的で模倣的、均質的な単一民族的思考
  • 組織横断的な連携性、柔軟性、機動性に欠ける硬直化した縦割り行政

といった社会の変革を阻むものですが、これを意識的に修正していかないと、防衛問題など、少子高齢化に匹敵するほどの大問題を抱え込むことになるかもしれません。

サウンドトラック

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1 Caroline's Theme
2 King's Arrival
3 Summer Castle
4 Inoculation
5 Caroline's Idea
6 Love Scene
7 Hope Theme
Queen's Chamber
9 King of Prussia
10 We Are a Family
11 Revolution
12 Christian Signs
13 Execution
14 Journey of the Letter
15 Adagio

撮影地(グーグルマップ)

 

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