夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」:気鋭の俳優と巧みなプロットと展開で描く、リアルでスリリングで示唆に富むヒューマン・ドラマ

「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(原題:A Most Violent Year)は、2015年公開のアメリカの社会派ヒューマン・ドラマ映画です。J・C・チャンダー監督・脚本、オスカー・アイザックジェシカ・チャステインらの出演で、ニューヨークが最も暴力的で危険だった1981年の燃料用石油業界を舞台に、事業拡大を目指す経営者がビジネスの現場で直面する危機と苦渋の選択をリアルかつスリリングに描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:J・C・チャンダー
脚本:J・C・チャンダー
出演:オスカー・アイザックアベル・モラレス)
   ジェシカ・チャステイン(アナ・モラレス)
   デイヴィッド・オイェロウォ(ローレンス検事)
   アルバート・ブルックス(アンドリュー・ウォルシュ )
   アレッサンドロ・ニヴォラ(ピーター・フォレンテ)
   ほか

あらすじ

歴史的に最も暴力犯罪が多く危険だったと言われる1981年のニューヨーク。競合の厳しい中、燃料用石油を販売する会社を経営する、移民のアベルオスカー・アイザック)とその妻アナ(ジェシカ・チャステイン)は、事業拡大のために土地購入の頭金として全財産を投入します。その直後、積荷のオイルが強奪される事件が続発、資金繰りが悪化する中、法を犯して銃で自衛するか否か、判断を迫られます。さらに、脱税の嫌疑をかけられ、家族が不審者の脅威がさらされるなど、次々にトラブルが襲いかかります。悪い噂が広まり、銀行からも融資を断られ、夫婦の関係もぎくしゃくします。刻一刻と破産が迫る中、孤立無援のアベルはトラブル解決のために奔走しますが、その猶予はわずか30日しかありません・・・。

レビュー・解説 

成長する小さな会社の経営者が、積荷の強奪、脱税容疑の追求といった逆風に直面、厳しい選択をしながら、念願の土地を手に入れるまでの話を、巧みなプロットとストーリー・テリング、そして気鋭の俳優によるパフォーマンスで描いた、リアルでスリリング、それでいて考えさせられる、見応えのある映画です。

 

5〜6年かけて暖めたというJ・C・チャンダー監督の脚本は、プロットやサブ・プロットが吟味されており、リアルでスリリング、娯楽性の高いものです。またチャンダー監督を含め、主演のオスカー・アイザックジェシカ・チャステインはいずれも40歳前後、近年、にわかに注目を集め、高い評価を得ており、スターダムを駆け上がる気鋭の人々よって作り出された本作は、ダイナミックで緊迫感があります。その一方で

  • 積荷の強奪が続発、検察は何もせず、逆に脱税の調査をしかけてくる中で、自衛の為に運転手に違法な銃を持たせるべきか?
  • 事業を成功させる為に不正会計はやむえないことなのか?
  • 資金繰りが逼迫する中で、ギャングに金を借りるか、妻が蓄えた裏金に手をつけるか?

といった問題を見る者に投げかけて来ます。

 

このあたり、大いに満足しているのですが、もっともらしいようで実は意味不明な「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」という邦題がどうしてもピンとこないので、ここから少し映画を読み解いてみます。アメリカン・ドリームは、「人種や社会的階層によらない均等な機会を活かし、勤勉と努力によって勝ち取ることの出来るとされるアメリカでの成功の概念」です。映画では、事業を拡大しようとする移民の経営者夫婦や、同じく移民の運転手が成功を夢見ており、それをアメリカン・ドリームと言えばその通りです。また主人公のアベル・モラレスは、有能・勤勉を示唆する名前で、それはアメリカン・ドリームの実現に必要とされる素養そのものでもあります。ただし、アメリカン・ドリームはいわずものがなの大前提であり、主人公の妻が一度だけそれを口にするだけで、映画ではそれを論っているわけでもないので、敢えて抽象的な概念を邦題に取り込む必要はないのではないかと思います。

 

主人公の妻が「アメリカン・ドリーム」という言葉を使うのは、不正会計を疑う主人公に反論する時です。

ANNA: You’ve been walking around your whole life like this all happened because of your hard work, good luck, and charm. Mr. Fxxking American Dream. Well this is America... but it’s not a dream, and that wasn’t good luck helping you out all those years... IT WAS ME! Doing the things you didn’t want to know about... You stole from me!

アナ:自分が一生懸命働いたから、幸運だったから、魅力的だったから、今の成功があるとあなたは思っている。とんだアメリカン・ドリーム野郎よ。ここはアメリカ、でも夢の中の話じゃないのよ。何年もあなたを助けてきたのは幸運じゃなくて、あなたが知りたくもないことをやってきた私なのよ。あなたは私から掠め取っているのよ! 

ここでは、「アメリカン・ドリーム」が本来の意味ではなく、「非現実的な夢想家」という侮蔑の意味で使われています。もし、この意味で邦題を「アメリカン・ドリーマー〜」としたのであるならば日本語でこのニュアンスは伝わりにくいでしょうし、何よりも数々の葛藤を抱える主人公は必ずしも「非現実的な夢想家」としては描かれていません。むしろ妻の言葉から読み取るべき重要なものは、反語的に使われている「アメリカン・ドリーム」ではなく、すべて自分の力で成してきたと錯覚している主人公の慢心です。同様、会社を急成長させたのはいいが、妻以外にも、従業員、業界、親族への対応が適切かという視点も重要でしょう。

 

次に、「念願の土地を手にいれること」を「理想」した場合、代金を支払うのは当然のことですのでそれを「代償」とは言わないの当然としても、積荷が襲撃されたことも因果関係が明確に描かれておらず、それも「代償」とは言えません。焦点は資金をどう調達するか、銀行に融資を断られるリスクを冒して運転手に違法な銃を持たせるかどうかということになりますが、経営者や運転手の判断とその結果を見る限り、失うもの、即ち「代償」が何なのか、それほど単純でがありません。

 

主人公は「正しいことをする」ことをモットーとしていますが、これは夢の実現方法の話で、アメリカン・ドリームそのものではありませんし、また「正しいことをする」は当然の話で「理想」でも何でもありません。さらに「正しいことをする」といっても、法律的に正しい、倫理的に正しい、経営者として正しいと様々な含みがあります。仮に、法律的に正しいことを「理想」だとしても、その実現に代償が伴うという簡単な構図ではありませんし、法令を遵守しなければ、逆に事業を失うという代償を支払うことになります。一方で、成功は常に誰かの助力の上に成り立っていることを考えれば、「正しいことをする」主人公が「正しくない」妻や、親族、従業員、業界にどう対応するかは重要な視点です(但し、これを代償とは言わない)。

 

最後は「念願の土地を手にいれること」を理想とし、そのために「正しいことをする」という信念を曲げることを「代償」とする解釈です。これはもっともらしいのですが、先に述べたように「正しいことをする」といっても、法律的に正しい、倫理的に正しい、経営者として正しいと様々な意味に取れますし、また、エンディングの主人公のセリフには信念を曲げたのかどうか、意味深なものがあります。さらに、終盤に主人公がとる行動に、「理想」とか「代償」とは全く異なる、重要な視点が示唆されます。

 

妻はアルマーニ、夫は仕立ての良いテイラード・スーツを纏うなど、成金趣味的な描写もありますが、映画の視点は「理想」と「代償」といった単純な構図ではなく、競合や暴力に直面した時にどう対処するか、白黒をはっきりできない、正解があるようでないようなグレイな世界での主人公の対応です。これはアメリカン・ドリームを目指す人のみならず、大なり、小なり、何かに挑戦する人、即ちほとんどの人に共通する問題です。それがこの映画を見た多くの人が思わずいろいろ考えてしまう理由でしょう。本作は決して高い視点から「理想」と「代償」を描いているわけではありません。長所もあれば、短所もある人間のリアルな選択、性格とか人生観が反映される生々しい選択を、ダイナミックに描いているのであり、その選択を是とするか、非とするかは、あくまでも観客の判断に委ねられているのです。

僕は映画監督として家族を養わなければいけないし、子供を大学に行かせたいし、みんなと同じようにおしゃれな車が好きだ。だから人生で何らかの選択をする時、僕は責任を負っている。白黒はっきりした選択なんて、今まで一度もなかった。いつだってグレーだったんだ。ストーリーのことを言えば、そういうグレーな領域にこそ、人間を描き出すヒューマンストーリーは見つかるものだ。どの道を選び、どこへ向かおうとしているのかというね。本作でも、そこを描いたつもりだよ。(J・C・チャンダー監督)

ちなみに監督は、彼らが暴力的で危険な年を如何に生きたかという視点で「A Most Violent Year」というタイトル(原題)をつけたそうです。

 

J・C・チャンダーは、アメリカ脚本家・映画監督で、15年にわたってコマーシャルやドキュメンタリーでキャリアを積んだ後、2011年に「マージン・コール」で長編映画デビューし、第84回アカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされるなど、高い評価を得ました。監督2作目の「オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜」では、全編にわたってセリフのない海難映画を制作斬新なスタイルで高評価を得るとともに、ほぼ唯一の登場人物であるロバート・レッドフォードの好演が多くの映画賞を受賞し、アカデミー主演男優賞ノミネート漏れが問題となるなど、話題作ともなりました。第3作目の本作も、40もの賞にノミネートされるなど、高い評価を得ています。

 

オスカー・アイザックグアテマラ出身で、主にアメリカで活動する俳優、歌手です。マイアミで育ち、2005年にジュリアード学院卒業後、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』等に出演、2013年にコーエン兄弟監督の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」の主役として抜擢され、ゴールデングローブ賞 主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされるなど、注目を浴びます。その後も「エクス・マキナ」(2015年)、本作、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)と立て続けに出演、今後の活躍が期待されます。共演のジェシカ・チャステインとは、ジュリアード音楽院の同級で、ジェシカの紹介で主役を勝ち取りました。

 

ジェシカ・チャステインジュリアード学院演劇部門出身のアメリカ女優で、複数の舞台や学生映画に出演した後、テレビドラマを中心に活躍、2008年に映画デビュー、2011年には「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」で第84回アカデミー賞助演女優賞にノミネート、翌2012年には「ゼロ・ダーク・サーティ」で第85回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。彼女は出演作によって印象ががらりと変わりますが、本作でも一瞬誰かわからないほどです。2012年のカンヌ映画祭のパーティに同席したJ・C・チャンダー監督が、彼女に持ちかけて出演が実現しました。その後、

オスカーの母親はグアテマラ出身で、父親キューバ出身。本人はマイアミで育って、ジュリアード音楽院に入り、ウィリアムズバーグに住んでいて、コーエン兄弟の最新作「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」に出演しているから、会ってみて。アベル役は彼よ。

と同級のオスカー・アイザックを粘り強く推薦、さらに4ページにわたるメールでオスカーがアベル役にふさわしい理由を力説したと言います。チャンダー監督はメールをもらう前にオスカーの起用を決めたいたと言いますが、実力だけではなかなか役を得られないハリウッドで粘り強く役を得ながらキャリアを重ねてきたジェシカの人柄が偲ばれるエピソードです。

 

余談になりますが、当初はメイン・キャストにハピエル・バルデムとシャリーズ・セロンを想定しており、シャーリーズが辞退したため、ジェシカの起用が決まり、次にハピエルが監督との方針の違いにより降板、ジェシカの推薦でオスカーの起用が決まったという経緯があるようです。ジェシカもオスカーもそれなりの実力の持ち主ですが、彼らでさえ、このような形でキャリアを積み上げていかねばならないというところに、厳しいハリウッドの競合を見るような気がします。

 

オスカー・アイザックアベル・モラレス) 

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ジェシカ・チャステイン(アナ・モラレス) 

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デイヴィッド・オイェロウォ(ローレンス検事) 

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アルバート・ブルックス(アンドリュー・ウォルシュ ) 

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アレッサンドロ・ニヴォラ(ピーター・フォレンテ) 

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撮影地(グーグル・マップ) 

モラレスが手に入れたかった土地

モラレス:この土地は川に面しているので、世界中の業者から直接燃料を入手しタンクに入れることができる。10万ガロンの備蓄容量を確保でき、夏の価格が安い時期に買って、冬の高い時期に顧客だけではなく、競合相手にだって売ることができる、これは一番重要なことだ。トラックで燃料を運ぶだけではない、事業の成否だってコントロールできるんだ。でも、この土地が欲しい本当の理由は、飛ぶが怖いときこそ飛ばなきゃならないということなんだ。さもなければ、一生、同じところに留まることになる。それは、俺には我慢できないんだ。

 

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関連作品 

J.C.チャンダー監督作品のDVD(Amazon

  「マージン・コール」(2011年)

  「オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜」(2013年)

 

オスカー・アイザック出演作品のDVD(Amazon

  「ドライヴ」(2011年)

  「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)

  「ギリシャに消えた嘘」(2014年)

  「エクス・マキナ」(2015年)

スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)

 

ジェシカ・チャステイン出演作品のDVD(Amazon

  「英雄の証明」(2011年)

  「ツリー・オブ・ライフ」(2011年)

  「テイク・シェルター」(2011年)

  「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)

  「インターステラー」(2014年)

     「オデッセイ」(2015年)

 

移民を描いた映画 

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