夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」:モンタナの片田舎で真摯に生きる平凡な女性たちの姿をリアルに描いた、見ごたえのある群像劇

「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(原題:Certain Women)は2016年公開のアメリカの群像劇ドラマ映画です。メイリー・メロイの短編小説集「Both Ways is the Only Way I Want It」、「Half in Love」を原作に、ケリー・ライヒャルト監督・脚本、ローラ・ダーンクリステン・スチュワートミシェル・ウィリアムズ、リリー・グラッドストーンら出演で、アメリカ北西部モンタナの片田舎を舞台に、厄介なクライアントに振り回される女性弁護士ローラ、郊外の新居を砂岩を飾りたい主婦ジーナ、夜間学校で法律を教える女性弁護士エリザベス、牧場で動物たちと暮らすジェイミーらの女性たちが、それぞれ悩みを抱えながらも真摯に生きる姿を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ケリー・ライヒャルト
脚本:ケリー・ライヒャルト
原作:Maile Meloy'著「Both Ways is the Only Way I Want It」 、「Half in Love」 
出演:ローラ・ダーン (ローラ・ウェルズ)
   クリステン・スチュワート(エリザベス・トラヴィス
   ミシェル・ウィリアムズジーナ・ルイス)
   リリー・グラッドストーン (ジェイミー)
   ジェームズ・レグロス(ライアン・ルイス
   ジャレッド・ハリス(ウィリアム・フラー)
   ルネ・オーベルジョノワ(アルバート
   サラ・ロディエ(ガスリー・ルイス)
   ほか

あらすじ

  • 女性弁護士のローラ・ウェルズ(ローラ・ダーン)は、気難しいクライアントのフラー(ジャレッド・ハリス)に振り回されています。フラーは仕事中の怪我の争議に関して、ローラの事務所に足繁く通ってきます。「貴方の怪我に会社側の責任があるのは間違いないが、最初に提示された補償金を受け取った以上、それ以上会社の責任を追及することができない」とローラは再三説明しますが、フラーはどうしても納得しません。フラーは別の弁護士の見解を聞きに行きますが、そこで得られた回答はローラと全く同じものでした。帰宅する途中、妻と喧嘩したフラーは、妻が運転する車から降りてローラの車に乗り込みます。「前の雇い主を撃ち殺してやりたい」と、フラーはローラに語ります。その夜、フラーは警備員を人質に取って、以前、勤めていた会社に閉じこもります。駆けつけたローラは、フラーの要求に従って会社の保管資料を読み上げます。そこには会社が補償金を出来る限り支払わないようにするための術策が詳細に記されていました。それを聞いたフラーは人質を解放、ローラは警察に通報し、フラーは逮捕されます・・・。
  • 思春期の娘がいるジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)とライアン(ジェームズ・レグロス)は、郊外にセカンドハウスを建てようとしています。無神経な夫と反抗的な娘ガスリー(サラ・ロディエ)に、ジーナはうんざりしています。セカンドハウス用の敷地でのグランピングした後、二人はアルバート(ルネ・オーベルジョノワ)の家に立ち寄ります。彼の敷地には、新居にぴったりな砂岩があり、二人は砂岩を売ってくれとアルバートに頼み込みます。アルバートはライアンの話には耳を傾けますが、ジーナの話は聞こうとしません・・・。
  • エリザベス(クリステン・スチュワート)は、弁護士をしながら夜間学校で法律を教えています。牧場で動物たちとの世話する孤独な先住民のジェイミー(リリー・グラッドストーン)は、ある夜、エリザベスのクラスに紛れ込みます。ジェイミーはエリザベスと親しくなりますが、片道4時間もかかる通勤が大変なエリザベスは、夜間学校で教えることを辞めてしまいます。ジェイミーは、夜通し車を運転して、エリザベスが暮らす街に向かいます・・・。

レビュー・解説

メイリー・メロイの短編小説を原作に、モンタナの片田舎の保守的な土地柄とそこで悩みながらも真摯に生きる平凡な女性たちの姿を、ケリー・ライヒャルト監督が類を見ない共感力と表現力でリアルに描き出した、見ごたえのある群像劇映画です。

 

モンタナの片田舎の平凡な女性たちをリアルに描いた見ごたえある群像劇

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メイリー・メロイの短編小説を原作にした群像劇

原作者のメイリー・メロイはモンタナ州で生まれ育った作家です。ケリー・ライヒャルト監督は、メイリー・メロイがニューヨーク・タイムズに寄稿した短編小説の土地とキャラクターの描写に惹かれ、彼女にアプローチして本作が実現しました。彼女の短編集「Both Ways is the Only Way I Want It」 、「Half in Love」に収録された4つの短編「Tome」 、「Travis B.」 、 「Native Sandstone」 、「Thirteen & a Half」を基に脚色されており、それぞれが、

  • Tome→女性弁護士ローラとそのクライアントのエピソード
  • Travis B.→夜間学校で法律を教える教師エリザベスと、牧場で働く孤独なジェイミーのエピソード(原作の牧場で働く青年が、映画では女性として描かれている)
  • Native Sandstone→郊外の別荘用に砂岩を入手する主婦ジーナのエピソード
  • Thirteen & a Half→主婦ジーナの、反抗的な思春期の娘ガスリーのエピソード

に対応しています。

 

原作ではこれらは全く独立した短編で、本作も一見、オムニバス映画のようですが、

  • 女性弁護士ローラが主婦ジーナの夫と不倫をしている
  • 女性弁護士ローラが働く弁護士事務所に、夜間学校の教師を探して牧場で働くジェイミーが訪ねて訪れる
  • 反抗的な思春期の娘ガスリーが主婦ジーナの娘として登場する(原作にはジーナの娘は登場しない)

という形で脚色され、各エピソードが関連付けられた群像劇となっています。但し、関連の度合いは緩く、ストーリーに大きな影響を与えるものではありません。むしろ、これらの関連付けはモンタナの片田舎の世界観を構築する意味合いが強いものです。

人を惹きつける芸術性の高いストーリー・テリング

本作の素晴らしい点は、モンタナの片田舎で様々な目に見えない壁に直面しながら真摯に生きる普通の女性たちを、共感力、表現力豊かに、リアルに描き出している点です。それは「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」というおしゃれな邦題とは裏腹の、悩みながらも生き続ける泥臭く、女性たちの現実的な生き様です。

  • 女性弁護士ローラは、女性であるが故にクライアントが彼女の言うことになかなか納得してくれないという悩みを抱えています。徒労感を感じながらも、彼女は忍耐強く、時に女性らしく、優しさときめ細かさでクライアントに対応しています(前向きで優しい役柄は、ローラ・ダーンのはまり役です)。
  • 主婦ジーナとその家族は、モンタナの田舎町を逃れ、郊外でグランピングをしながら週末を過ごします。尽くすことを強いられるジーナは無神経な夫と反抗的な娘にうんざりし、いらいらが募っています(こうした女性の感情的で嫌らしい面を交えた演技をさせると、ミシェル・ウィリアムズは天下一品です)。彼女の夢は、郊外建てるセカンドハウスを本物の砂岩で装飾することです。彼女は砂岩の持ち主である老人と交渉しますが、老人は夫の話しか聞かず、彼女の言うことに耳を傾けようとしません。
  • 農場の動物たちを相手に孤独で単調な農作業に明け暮れる先住民のジェイミーは、ある夜、人恋しさから夜間学校の授業に紛れ込み、教師と親しくなります。しかし、片道4時間もかけて通うのが大変な教師は、夜間学校で教えることを辞めてしまいます。ジェイミーは夜通し車を運転して、教師が暮らす街に向かいます・・・(リリー・グラッドストーンの表情に、アジア系とは異なる、アメリカ先住民特有の確固とした不動の意思を感じます)。

 

ミルトン・エイヴリーの絵 やアリス・ニールの絵、スティーブン・ショアの駐車場の写真などを参考にフィルムで撮影された本作で、ケリー・ライヒャルト監督はモンタナの片田舎の風景やそこで暮らす女性たちの姿をしっかりと描き出しています。特に、延々と映し出される冬の牧場での農作業は圧巻です。また、「ウェンディ&ルーシー」(2008年)、「ミークズ・カットオフ」(2010年)に続いてケリー・ライヒャルト監督とは三度目のコラボになるミシェル・ウィリアムズと、アメリカ先住民系の女優リリー・グラッドストーンはともにモンタナ州出身で、同州を舞台とする本作の真正さを高めています。

 

なかなか毅然とすることができない女性弁護士のローラ、尽くすことを強いられ、家族への不満が募る主婦のジーナ、あまりに不器用なジェイミーと、彼女らは決して優等生ではありません。また、ケリー・ライヒャルト監督はフェミニストで、差別的な要素も描かれていますが、本作はそうした問題提起を第一義としたものでもありません。本作で描かれているのは、あくまでもモンタナの保守的な片田舎で、悩みながらも真摯に生きる女性たちの現実的な姿です。

 

ローラ・ダーン (ローラ・ウェルズ)

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ローラ・ダーン(1967年〜)は、カリフォルニア州出身のアメリカの女優。父は俳優のブルース・ダーン、母は女優のダイアン・ラッド。1973年、母親の出演作品「白熱」に出演、その後、演劇学校で演技を学ぶ。「ブルーベルベット」(1986年)、「ランブリング・ローズ」(1991年)、「ジュラシック・パーク」(1993年)、「遠い空の向こうに」(1999年)、「ザ・マスター」(2012年)、「きっと、星のせいじゃない。」(2014年)、「わたしに会うまでの1600キロ」(2014年)、「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年)、「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(2016年)、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)、「ジェニーの記憶」(2018年)などに出演、「ランブリング・ローズ」でアカデミー主演女優賞、「わたしに会うまでの1600キロ」で同助演女優賞にノミネートされている。

 

クリステン・スチュワート(エリザベス・トラヴィス

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クリステン・スチュワート(1990年〜)は、ロス・アンジェルス出身のアメリカの女優。「トワイライト」シリーズのベラ・スワン役で知られ、若手としては異例の「A級リスト俳優」(年間2000万ドル以上の出演料を手にするハリウッド俳優)入りした女優である。「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007年)、「アドベンチャーランドへようこそ」(2009年)、「アクトレス〜女たちの舞台〜」(2014年)、「アリスのままで」(2014年)、「パーソナル・ショッパー」(2016年)などの出演している。「アクトレス〜女たちの舞台〜」で、アメリカ人女優としての初のセザール賞助演女優賞を受賞している。

 

ミシェル・ウィリアムズジーナ・ルイス)

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ミシェル・ウィリアムズ(1980年〜 )は、モンタナ州出身のアメリカの女優。9歳の時にサンディエゴへ移り、演技を学び始める。14歳の時に「名犬ラッシー」(1994年)で映画デビュー、以降、主にインディペンデント映画を中心に活動している。「ブロークバック・マウンテン」(2005年)でアカデミー助演女優賞に、「ブルーバレンタイン」(2010年)、「マリリン 7日間の恋」(2011年)で同主演女優賞に、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)で同助演女優賞にノミネート、「マリリン 7日間の恋」ではゴールデングローブ主演女優賞を受賞している。「ブロークバック・マウンテン」で共演したヒース・レジャーと婚約、長女を出産するも、2007年に婚約解消。その後の2008年1月に、ヒース・レジャーは薬物摂取による急性中毒でニューヨークの自宅で亡くなっている。

 

リリー・グラッドストーン (ジェイミー)

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リリー・グラッドストーン(1986年〜)は、モンタナ州出身のアメリカの女優。アメリカ先住民の血を引く。「Walking Out」(2018年)などに出演している。本作の演技が注目され、様々な女優賞にノミネート、受賞している。

撮影地(グーグルマップ)

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関連作品

「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」の原作本Amazon

  Maile Meloy "Half in Love"

  Maile Meloy "Both Ways Is the Only Way I Want It"

 

ケリー・ライヒャルト監督xミシェル・ウィリアムズのコラボ作品のDVD(Amazon

  「ウェンディ&ルーシー」(2008年)

  「ミークズ・カットオフ」(2010年)・・・北米版、日本語なし

 

ケリー・ライヒャルト監督作品のDVD(Amazon

  「Old Joy」(2006年)

  「ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画」(2013年)

 

ローラ・ダーン出演作品のDVD(Amazon

  「ブルーベルベット」(1986年)

  「ランブリング・ローズ」(1991年)

  「ジュラシック・パーク」(1993年)

  「遠い空の向こうに」(1999年)

  「ザ・マスター」(2012年)

  「きっと、星のせいじゃない。」(2014年)

  「わたしに会うまでの1600キロ」(2014年)

  「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年)

  「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)

  「ジェニーの記憶」(2018年)

  

クリステン・スチュワート出演作品のDVD(Amazon

  「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007年)

  「アドベンチャーランドへようこそ」(2009年)

  「アクトレス〜女たちの舞台〜」(2014年)

アリスのままで」(2014年)

  「パーソナル・ショッパー」(2016年)

 

ミシェル・ウィリアムズ出演作品のDVD(Amazon

  「名犬ラッシー」(1994年)

  「The Station Agent」(2003年)北米版、リージョン1、日本語なし

  「ブロークバック・マウンテン」(2006年)

ブルーバレンタイン」(2010年)

  「マリリン 7日間の恋」(2011年)

  「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)

 

リリー・グラッドストーン出演作品のDVD(Amazon

  「Walking Out」(2018年)・・・輸入盤、日本語なし

 

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