「僕の大切な人と、そのクソガキ」(原題:Cyrus)は、2010年公開のアメリカのヒューマン・コメディ映画です。デュプラス兄弟監督・脚本、 ジョン・C・ライリー、ジョナ・ヒル、マリサ・トメイ、 キャサリン・キーナーら出演で、理想の女性と出会ったバツイチの中年男が、彼女の21歳のマザコン息子による嫌がらせに悪戦苦闘する姿を描いています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ジェイ・デュプラス/マーク・デュプラス
脚本:ジェイ・デュプラス/マーク・デュプラス
出演:ジョン・C・ライリー(ジョン、バツイチ男、何かと元妻に頼る)
ジョナ・ヒル(サイラス、モリーの息子、21歳のマザコン青年)
マリサ・トメイ(モリー 、サイラスの母、ジョンの新しい恋人)
キャサリン・キーナー(ジェイミー、ジョンの前妻)
マット・ウォルシュ(ティム、ジェイミーの婚約者)
ダイアン・ミゾタ(ジョンがパーティで出会うアジア系の女性)
ほか
あらすじ
7年前に離婚して以来、冴えない毎日を過ごしていたバツイチ男のジョンは、元妻とその夫が開いたパーティで魅力的な女性モリーと出会います。すっかり惚れ込んだジョンは、デートを約束、誰もが驚く中、デートを重ねます。二人は親密になっていき、ジョンは、モリーが21歳になる息子サイラスが同居していることを知ります。歓迎ムードで迎えてくれたサイラスにジョンは安心しますが、ジョンの靴がなくなるという出来事が起こり、友好的に見えたサイラスとの関係が変化していきます・・・。
レビュー・解説
もはや日常的とも言えるアメリカの離婚・再婚の風景の中で起きるちょっとした事件の顛末を描く本作は、豪華なオスカー級俳優が性格俳優の部分で「らしさ」をナチュラル演じた、質の高いヒューマン・コメディに仕上がっています。
離婚も多いが、再婚も多く、血の繋がらない兄弟がいる家庭が珍しくないというアメリカですが、マメな男性、モテる男性ならいざしらず、そうではない男性にとって、再婚は決してハードルが低いことではありません。そんなバツイチ駄目男を、ジョン・C・ライリーが演じているわけですが、ジェイ・デュプラス監督は、次の様に語っています。
脚本を書く時に、ジョン.C.ライリーを想像したんだ。知られた俳優で、個人的にも知っているし、何年も注目していて、僕らは大ファンだったんだ。僕らの撮り方からすれば、もし彼が出演できれば、僕らが想像して脚本に書いたすべてのことが、少しずつ可笑しくなり、感動的になり、悲劇的になってと、拡大していくんだ。数ヶ月かけて脚本を書くうちに、ジョンなしにはこの映画を作れないって気持ちになってしまったんだ。(ジェイ・デュプラス監督)
ジョン・C・ライリー(ジョン、バツイチ、何かと元妻に頼る)
かくして、「シカゴ」(2002年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたこともあるライリーの出演が実現したわけですが、さらに前妻役に、「マルコヴィッチの穴」(2001年)、「カポーティ」(2006年)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたキャサリン・キーナー、新しい恋人役に「いとこのビニー」(1992年)でアカデミー助演女優賞を受賞、「イン・ザ・ベッドルーム」(2001年)、「レスラー」(2008年)でも同賞にノミネートされたマリサ・トメイと、豪華なキャスティングが実現します。これはライリーあればこそのキャスティングで、この強烈な熟年女優二人の相手ができる俳優はそうそういません。
マリサ・トメイ(モリー 、サイラスの母、ジョンの新しい恋人)
キャサリン・キーナー(ジェイミー、ジョンの前妻)
ライリー扮するジョンは前妻のジェイミーと離婚して7年になりますが、未だ独り身です。冒頭、そんなライリーの元にジェイミーがやってきて、婚約したのでパーティに来て欲しいと伝えます。日本では考えにくかもしれませんが、アメリカでは男女としての関係が破綻して離婚しても、困った時にはお互い相談するなど、友人としての付き合いを継続する風潮があります。特に子供がいる場合、離婚しても親としての務めは果たさねばなりませんので、離婚相手とうまくやることは必須になります。また、お互いの新しいパートナーと家族ぐるみの付き合いをすることも珍しくないようです。女性の自立が進み、異性として魅力を感じなくなるとさっさと離婚するが、友人の一人としての関係は続けるという風潮のようですが、片方が独身のままだと座りが悪く、ギクシャクするところがあります。ジェイミーとその新しいパートナーが、ジョンに新しい恋人を見つけるよう奨めるのには、そんな背景があります。
ジェイミーに招待されたパーティでマリサ・トメイ扮するモリーに出会い、ジョンにもようやく運が向いてきますが、そこに立ちはだかるのがモリーの連れ子のサイラスです。連れ子がいる場合には一緒に暮らすことになるので、再婚と言っても本人同士の気持ちのみならず、連れ子との相性が重要な問題となります。ジョナ・ヒル演じるサイラスは21歳で、一般的には独立して不思議のない、親は親、子は子と言える年齢ですが、母を奪われたくないマザコン青年で、外面はいいものの、子供のようにジョンの靴を隠したり、二人を仲を邪魔しようと画策したりします。サイラスにパニック障害の既往があることから、母親のモリーもなかなか子離れできません。サイラスを演じたジョナ・ヒルについて、マーク・デュプラス監督は次のように語っています。
ジョナ・ヒルには、多くの人が知らない、暗い面があるんだ。彼は極めて知的で、人間とは何か考えている。公園のベンチに一緒に座り、人々を眺めながら、少しばかり込み入った不思議なことを何時間も話せる人間で、僕らは実際にそうしたし、僕らの映画はそんなところから生まれるんだ。彼は、何か違ったことを僕らと一緒にやりたいと熱心に思っており、チームの一員として張り切っている新人の様だったよ。それは、映画に伝染するんだ。彼は、即興がうまく行かないような困った時でも、きっとうまく行くと信じている、いわば、マスコットみたいな存在だったよ。(マーク・デュプラス監督)
「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年)で主役を演じて成功を収めたジョナ・ヒルは、数多くのコメディに出演するようになりましたが、この時期はちょうど新しい可能性を探っており、本作でも安易に笑いを取りに走ることなく、マザコン青年を真剣に演じてみせています。こうした彼の新しい可能性への挑戦は、「マネーボール」(2011年)、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)で実を結び、いずれの作品でもアカデミー助演男優賞にノミネートされています。
他に、ほんの少しの出番ですが、ダイアン・ミゾタという日系アメリカ人が女優が出演しています。彼女は元々はダンサーで、テレビ番組やコマーシャルに出演していましたが、映画「ブギーナイツ」(1997年)など幾つかの映画への出演で頭角を現し、「オースティン・パワーズ ゴールドメンバー」(2002年)、「SAYURI」(2005年)にも出演、テレビの司会者も務めています。
ダイアン・ミゾタ(ジョンがパーティで出会うアジア系の女性)
邦題の「僕の大切な人と、そのクソガキ」は、ミス・リーディングな気がしないでもないのですが、お馬鹿コメディというよりは、日常的とも言えるアメリカの離婚、再婚の風景を切り取ったヒューマン・コメディで、
- 悲劇的で、可笑しくて、感動的なダメ男を演じるジョン・C・ライリー
- ピュアで可愛らしい熟女を演じるマリサ・トメイ
- ちょっと姉御肌で優しい熟女を演じるキャサリン・キーナー
- 外面は良いが暗い内面を持つマザコン息子を演じるジョナ・ヒル
という、はまり役のオスカー俳優たちのナチュラルなパフォーマンスやリアクションが見所です。デュプラス兄弟は撮影に当たって俳優による即興を重視しますが、アダム・マッケイ監督とウィル・フェレルのコンビや、ジャド・アパトー監督のコメディのように即興に笑いを求めるのではなく、自然さを求めています。本作のいずれの俳優もお馬鹿コメディを演じられる芸域の広さを持っていますが、本作では性格俳優の部分で「らしさ」をナチュラル演じた、質の高いヒューマン・コメディに仕上がっています。
オスカー級俳優のナチュラルなパフォーマンスによる質の高いヒューマン・コメディ
2000年代に入ってから、アメリカのインディペンデント映画にマンブルコアという自然主義的な流れが生まれました。低予算でアマチュア俳優を使い、若い男女がいつもいるような場所でいつも通りしゃべるといった、日常のシーンをそのまま描写するのが特徴で、日常会話のようなつぶやく(マンブル)ような話し方からマンブルコアと呼ばれています。デュプラス兄弟はこのジャンルで成功した、タランティーノ監督も注目している逸材で、本作では、そうしたマンブルコアの流れを汲みながら、若い男女の日常をアマチュア俳優を演じる代わりに、離婚・再婚に悩む中年の日常をプロの俳優がナチュラル に演じているのですが、こうした新たな試みにオスカー級の俳優がこぞって出演、質の高いコメディにしてしまうアメリカ映画界の懐の深さに感心してしまいます。
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