夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「人生スイッチ」:ちょっとしたきかっけで暴走する感情とそれがもたらす様々な結果を、風刺を効かせユーモラスに描いたアンソロジー

「人生スイッチ」(原題:Relatos salvajes(西), 英題: Wild Tales)は、2014年公開のアルゼンチン・スペイン合作のブラック・コメディ映画です。アルゼンチンのダミアン・ジフロン脚本・監督により、不運の連鎖や暴力と復讐によって思いも寄らぬ運命をたどる6人の男女の姿を、6つの独立した短編から成るアンソロジー形式で描いています。第87回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ダミアン・ジフロン
脚本:ダミアン・ジフロン
出演:リカルド・ダリン〜「ヒーローになるために」
   オスカル・マルティネス〜「愚息」
   レオナルド・スバラーリャ〜「エンスト」
   エリカ・リバス〜「HAPPY WEDDING」
   リタ・コルテセ〜「おもてなし」
   フリエタ・ジルベルベルグ〜「おもてなし」
   ダリオ・グランディネッティ〜「おかえし」
   ほか

あらすじ

  • 「おかえし」
    モデルの女が仕事で指定された飛行機に乗ると、隣席の男が彼女の元カレを知っていました。さらに乗客全員が彼と関わりがあることが判明、しかもみんな彼にひどい仕打ちをしていました。そしてCAの一言に機内は凍りつきます・・・。
  • 「おもてなし」
    ある日、ウェイトレスが働くレストランに、彼女の父親を自殺に追いやり、母親を誘惑した高利貸しの男が来店します。恨みが再燃した彼女は、同僚が提案した殺鼠剤入りの料理を出しますが、そこへ男の息子がやって来ます・・・。
  • 「エンスト」
    山に囲まれた一本道を男が新車で走り抜けます。追い越しを邪魔するボロ車を抜き去り、男は捨て台詞を吐きます。ところがパンクしてしまい、タイヤ交換をするうちに、先に抜いたボロ車が追いついて来ます。運転手に新車をボコボコにされた男は、逆襲に出ますが・・・。
  • 「ヒーローになるために」
    古いビルを爆破する仕事をする男の車が、駐車禁止区域でもないのにレッカー移動されます。翌日、陸運局の窓口で訴えを無視され大暴れすると、その姿がハデに報道され会社を解雇されてしまいます。さらに妻には離婚を言い渡され、職探しの為に停めていた車を再びレッカー移動されるに至り、男はある計画を思いつきます・・・。
  • 「愚息」
    裕福な男の息子が人を轢いてしまい、男は顧問弁護士に相談、使用人に50万ドルで身代わりになってもらうことにします。しかし検察官にばれ、100万ドルで買収しますが、さらに、弁護士、使用人が金やマンションを要求してきて、男は息子に自首しろとキレてしまいます・・・。
  • 「HAPPY WEDDING」
    結婚式の最中に、花婿が招待した同僚が浮気相手と花嫁が気付きます。泣きながら屋上に出た彼女は、休憩していたシェフとコトに及びます。そこに花婿が来るが、開き直った花嫁は「全財産はぎ取ってやる!」と恫喝して会場に戻り、花婿の浮気相手に復讐を果たしますが・・・。

レビュー・解説

ちょっとしたきかっけで暴走する感情とその顛末を、時に意地悪く、時に反体制的に、風刺を効かせ、あっけらかんと、面白可笑しく描いたアンソロジーで、どの短編も楽しめる作品です。

 

原題の Relatos salvajes は、「野生的な話」という意味ですが、これは「衝動のままに、文明と未開を隔てている越えてはいけない一線を越えていく話」(ダミアン・ジフロン監督)のアンソロジーとなっています。この映画の狙いとして、ダミアン・ジフロン監督は次のように語っています。

人生において、逮捕されたり死にたくなければ自分自身を抑制しなくてはならない時がある。だから、喧嘩したくても出来ないときもあるんだ。でも、抑制していることの代償も大きい。生きていた方が良いけど、あれを言えば良かった、こうすれば良かった、と過去を思い悩むことになる。芸術や脚本の中では抑制する必要なんてない。最後の最後まで突き進んで、その経験を変換して観客に見せればいいんだ。血や苦悩が見えても、観客は大いに笑ってくれると思うよ。抑制するのではなく、反抗することの楽しさや欲求を理解できるだろうから。

 

何故、今までこんな作品がなかったんだろうと思うくらいの面白さですが、コロンブスの卵にもちょっとした悩みはあったようです。

商業的にというだけではなく、芸術的にも、同じような映画で成功した例がないことが1つ問題だったと言えるかな。こういう作品ではお客が呼べないと業界が思っている中で、自信を持ち続けることは困難だった。でも、偉大なプロデューサーに素晴らしいキャストとクルーも皆脚本を信じてくれたんだ。(ダミアン・ジフロン監督)

 

また、異なった監督が手がけるオムニバスではなく、ひとりの監督が手がけるアンソロジーで、見る側も安心して観れることが大ヒットした理由のひとつになっているかもしれません。感情の暴走がもたらす様々な結果により、作品の深みを感じることができます。人々は小さい頃から、感情を抑えることをしつけられます。それは決して悪い事ではない。もし、人々が感情を解き放っていたら、この世は争いごとだらけになってしまうでしょう。それでも、感情の解放に共感を覚えるのは、人間の野性的な本能をくすぐられるからなのでしょうね。ちなみに私が特に気に入ったのは、「おかえし」、「ヒーローになるために」と「HAPPY WEDDING」でした。

 

なお、アルゼンチンは国内で政情不安が起こるたびに映画産業は停滞を強いられましたが、メキシコやブラジルにならぶラテンアメリカの映画大国として発展してき歴史もあり、本作のような素晴しい作品が輩出するんですね。

 

リカルド・ダリン〜「ヒーローになるために」

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エリカ・リバス〜「HAPPY WEDDING」

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動画クリップ(YouTube

撮影地(グーグルマップ)

 

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