夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ターナー、光に愛を求めて」:イギリスの著名な画家の後半生を、史実に基づき、ヴィヴィッドに描いた伝記映画

ターナー、光に愛を求めて」(原題:Mr. Turner)は2014年公開のイギリス・ドイツ・フランス合作のの伝記映画です。マイク・リー監督、ティモシー・スポール主演で、18世紀の末から19世紀にかけて活躍したイギリスのロマン主義の画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの後半生を描いています。第67回カンヌ国際映画祭で、主演男優賞(ティモシー・スポール)、ヴァルカン賞(ディック・ポープ)を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:マイク・リー
脚本:マイク・リー
撮影:ディック・ポープ
出演:ティモシー・スポール (ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、画家)
   ドロシー・アトキンソン (ハンナ・ダンビー、ターナーの忠実なメイド)
   マリオン・ベイリー( ソフィア・ブース、ターナーの2番目の恋人)
   ポール・ジェッソン(ウィリアム・ターナーターナーの父親、息子と同居)
   レスリー・マンヴィル(メアリー・サマーヴィル、天文学者ターナーの友人)
   マーティン・サヴェッジ (ベンジャミン・ヘイドン、画家、ターナーの友人)
   ルース・シーン(サラ・ダンビー、ターナーの最初の恋人、二人の娘を持つ)
   サンディ・フォスター(エヴァリーナ・デゥポイス、ターナーとサラの娘)
   エイミー・ドーソン(ジョージアナ・トンプソン、ターナーとサラの娘)
   ジョシュア・マクガイア(ジョン・ラスキン、芸術批評家)
   フェネラ・ウールガー(エリザベス・イーストレイク、芸術批評家)
   ジェームズ・フリート(ジョン・コンスタブル、画家)
   カリーナ・フェルナンデス(ミセズ・コギンス)
   トム・ヴラシア(アルバート王子)
   シネイド・マシューズ(ヴィクトリア女王
   リチャード・ブレマー(ジョージ・ジョーンズ、画家)
   デヴィッド・ホロヴィッチ(プライス医師、ターナーの主治医)
   ピーター・ワイト(ジョセフ・ギルコット、ターナーパトロン
   ジェイミー・トーマス・キング(デヴィッド・ロバーツ、画家)
   ロジャー・アシュトン=グリフィス(ヘンリー・W・ピッカースギル、画家)
   サイモン・チャンドラー(オーガスタス・コールコット、画家)
   レオ・ビル(ジョン・ジェイブズ・エドウィン・メイオール、米出身の写真家)
   エドワード・デ・ソウザ(トーマス・ストザード、画家)
   ほか

あらすじ

19世紀のイギリス。オランダ旅行から帰って来たターナーティモシー・スポール)は、無事を喜ぶ父(ポール・ジェッソン)に温かく迎えられます。父は絵の具やカンヴァスを調達し、アトリエ兼住居に設けたギャラリーで買い手をもてなすなど、助手としてターナーを支えていました。最愛の父と働き者の家政婦のハンナ(ドロシー・アトキンソン)と幸せに暮らすターナーでしたが、彼には世間に隠している娘が二人いました。未亡人のダンビー夫人(ルース・シーン)との間にできた子供でしたが、ターナーは二人の関係が終わってからは金銭的な援助もせず、会いに行くこともありませんでした。大切なパトロンの一人であるエグルモント卿の屋敷ペットワース・ハウスで贅沢な時を過ごしたターナーは、閃きを求めてまた旅に出ます。船で辿り着いた港町マーゲイトでふらりと入った宿の窓から見える光きらめく海に、ターナーは創作意欲をかきたてらます。女将のブース夫人(マリオン・ベイリー)は親切でしたが、ターナーは旅先では偽名を使うという習慣を押し通します。旅から戻り、創作に没頭していたターナーの元に自然科学者のサマヴィル夫人(レスリー・マンヴィル)が訪ねてきます。ターナーの父は、知識と教養に溢れた夫人と互角の会話を交わします。学校教育を受けなかったターナーに、独学で学んだ読み書きを教えたのはそんな父でした。父に似て50代になっても好奇心旺盛なターナーは、夫人が見せてくれたプリズムの実験に夢中になります。ロイヤル・アカデミーの会員にして教授を務めるターナーは、さっそくサマヴィル夫人の実験にインスパイアされた色彩と光についての持論を講義します。しかし、科学と美術を結び付けることなど思いもつかない芸術家たちは、ただ呆然とするだけでした。そんな中、父の持病の気管支炎が悪化、やがて遂に力尽きた父は妻を精神病院で死なせたことを悔やんでいると告白して息を引き取ります。優しい父の面影が心を離れず、ターナーは娼館で娼婦をスケッチしながら慟哭します。年に1度の大イベントであるロイヤル・アカデミーの展覧会が近付き、作品がびっしりと展示された会場を回り、最後の仕上げをする画家たちにアドバイスを送っていたターナーは、自分の作品の隣に並ぶ最大のライバルのコンスタブルの絵を見て、突如完成していたはずの自分の絵に赤い絵の具を塗りつけます。笑い出す者、傑作が台無しだと非難する者で騒然となるが、ターナーは思わぬ決着をつけます。ブース夫人の元を度々訪れていたターナーは、夫人と徐々に心を通わせ、人生で初めて穏やかな愛を知ります。その一方で、彼の絵画は増々大胆かつ挑戦的になっていき、批評家が「実に感動的だ」と絶賛すれば、女王陛下は「薄汚い絵だわ」と吐き捨て、ターナーへの評価は真っ二つに分かれていきます・・・。

レビュー・解説

この映画出演の為に絵の描き方を二年間学んだというティモシー・スポールのなりきったパフォーマンス、人物描写や時代描写を重視したマイク・リー監督の演出、そしてディック・ポープの映し出す美しい映像が素晴しい映画です。

 

マイク・リー監督は徹底的に調査した上で、史実を拾いながら一本の映画にまとめあげていますが、他の監督作品同様、ヒロイズムや寓意といったメッセージよりも、生き生きとした人物描写を重視しており、初めて彼の作品を観る人は、多少、面食らうかもしれません。映画としての完成度は非常に高いのですが、そういう意味では、絵画ファンと、マイク・リー監督の作風をある程度理解している人の受けの方が、より良いかもしれません。

 

私の場合、必ずしも絵画ファンというわけではないですが、ターナーの描いた絵も、ディック・ポープが映し出す映像も素晴しいと感じました。また、労働者階級を描く事が多いマイク・リー監督ですが、比較的若いうちに成功したとは言え、ターナーも労働者階級の出身で、そして何よりも彼のメイドや宿屋の女将など、彼に関わる市井の人々のリアルな描写に労力を割いているのは、如何にもマイク・リー監督らしいところです。実在の人物を描いた映画ですが、この時代、本当にこんな人がいたんだろうなと感じさせるリアルな演出は、他の作品同様、脚本無しで俳優と共に作り上げていくやり方で、実にマイク・リー監督らしい、ヴィヴィッドな作品です。

 

ティモシー・スポール (ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

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ドロシー・アトキンソン (ハンナ・ダンビー) 

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マリオン・ベイリー( ソフィア・ブース)

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ポール・ジェッソン(左:ウィリアム・ターナー)と
レスリー・マンヴィル(右:メアリー・サマーヴィル)

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動画クリップ(YouTube

関連作品

マイク・リー監督作品のDVD(Amazon

  「ハイ・ホープス 」(1988年)

  「ネイキッド」(1993年)

  「秘密と嘘 」(1996年)

  「キャリア・ガールズ」(1997年)

  「人生は、時々晴れ」(2002年)

  「ヴェラ・ドレイク」(2004年)

  「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)

  「家族の庭」(2010年)

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