「愛されるために、ここにいる」(原題:Je ne suis pas là pour être aimé)は、2005年公開のフランス映画です。人生に疲れた初老の男が、タンゴ教室で若い女性と出会い、互いに秘めた感情が高まっていく姿を、美しいタンゴの調べとともに繊細に描いています。フランスで小規模に公開されたが話題を呼び、半年以上のロングランを記録、セザール賞で3部門ノミネートされた作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ステファヌ・ブリゼ
脚本:ステファヌ・ブリゼ/ジュリエット・サレ
出演:パトリック・シェネ(ジャン=クロード・デルサール 、父の事務所を継承)
アンヌ・コンシニ(フランスワーズ・リュビオン、 幼少時の愛称ファンファン)
ジョルジュ・ウィルソン(ジャン=クロードの父親、偏屈な老人)
リオネル・アベランスキ(ティエリー、 フランスワーズの婚約者、執筆に没頭)
シリル・クトン(ジャン=クロードの息子、司法執行官の仕事を辞めたい)
ほか
あらすじ
50歳を迎えたジャン=クロードは、長年務めてきた裁判所の執行官という仕事にも嫌気が差し、施設にいる高齢の父親や、離婚した妻との間の一人息子との関係もぎくしゃく、人生に疲れ果てていました。医者から健康のために運動することを薦められたジャン=クロードは、職場の向かいのビルのタンゴ教室のレッスンを受けることにします。初めてのレッスンからの帰り際、ジャン=クロードはフランソワーズという若い女性に声をかけられるます。彼女は子供のころジャン=クロードの近所に住んでおり、意外な再会に二人は打ち解けた雰囲気になっていきます。ジャン=クロードとフランソワーズはレッスンの度に踊るようになり、徐々に惹かれあいますが、フランソワーズは自分が結婚間近であり、結婚式で踊るためにレッスンを受けていることをジャン=クロードに隠していました・・・。
レビュー・解説
映像の色調や、セリフの間合いが二、三十年前のフランス映画のようです。バックを流れる情感あふれるタンゴが、この映画のしっとりとした叙情的なトーンにオーバーラップしてきます。主演のパトリック・シェネ、アンヌ・コンシニの音楽に物言わせる、抑えた演技も見事です。男と女のちょっとした出来事を、音楽を絡めて情感たっぷりにまとめ上げるのは、かつてフランス映画が得意としたところですが、ハリウッド映画全盛の今、「愛されるために、ここにいる」は、逆に新鮮な感動を与えてくれます。
パトリック・シェネ(ジャン=クロード・デルサール 、父の事務所を継承)
パトリック・シェネ(1947年〜)はフランスの俳優、映画監督、脚本家。「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)、「Tu seras mon fils」(2011年)、「麗しき日々」(2013年)などに出演している。
アンヌ・コンシニ(右、フランスワーズ・リュビオン、 幼少時の愛称ファンファン)
アンヌ・コンシニ(1963年〜)は、フランスの女優。高田賢三が監督した「夢・夢のあと」(1981年)で映画デビュー、「あるいは裏切りという名の犬 」(2004年)、「愛されるために、ここにいる」(2005年)、「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)、「クリスマス・ストーリー 」(2008年)、「ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part2 ルージュ編」(2008年)、「誘拐」(2009年)などに出演している。
ジャン=クロードにもフランソワーズにも、様々な事が起こり、二人の関係は変化していきますが、それにあわせて、二人が踊るタンゴも変化していくのが、見事です(フランソワーズの左手と表情に注目)。
テーマのタンゴは、ゴタン・プロジェクトのメンバー、ミュラーとマカロフが、この映画の為に作曲、演奏したものです。
El Baile Final by C. H. Muller & E. Makaroff ~ Je ne suis pas là pour être aimé
他にも、カルロス・ディ・サルリの作品など、タンゴの名曲が流れます。
原題の Je ne suis pas là pour être aimé は、「私は愛される為にここにいる訳ではない」と言う意味ですが、これは邦題と全く逆になります。ステファヌ・ブリゼ監督は、
原題「愛されるためにここにいる訳じゃない」は、ある(権利に対する)要求という形をとっています。それは、タイトルが意味することと反対のことだと理解するべきものなのです。
と述べています。フランスワーズはジャン=クロードに、「友達としてまたダンス教室で会いましょう」と言いますが、これは彼女の本心ではないとジャン=クロードの秘書に喝破されます。邦題の「愛されるために、ここにいる」は、彼女の本心を意訳したものでしょう。
一方で、邦題は誤訳であり、「愛するために、ここにいる」が正しいという説もあります。ジャン=クロードはフランスワーズに、「二度と会いたくない」と答えますが、秘書に諌められて再びダンス教室に会いにいきます。この時のジャン=クロードの気持ちが、「(愛される為にここにいる訳ではなく、)愛するために、ここにいる」であるとするものです。 邦題を「愛されるためにここにいる訳じゃない」とするのは、さすがにわかりにくいので、私は「愛されるために、ここにいる」で良いのではないかと思いますが、いずれにせよ、フランスワーズ視点で見るか、ジャン=クロード視点で見るかの違いに過ぎず、本編の解釈に関わる問題ではありません。
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