夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「マージン・コール」:世界金融危機の発端となる損失に気づいた男たちの24時間をスリリングに描く

マージン・コール」原題:Margin Call)は、2011年公開のアメリカの映画です。2008年に発生したリーマン・ショック/世界金融危機をモデルに、危機に陥るのアメリカの大手投資銀行の24時間を、ケヴィン・スペイシー他、ハリウッドの実力派スターの出演で描いています。日本では劇場公開されていませんが、ソフトで視聴可能です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:J・C・チャンダー
脚本:J・C・チャンダー
出演:ケヴィン・スペイシー(サム・ロジャース)
   ポール・ベタニー(ウィル・エマーソン)
   ジェレミー・アイアンズ(ジョン・チュルド)
   ザカリー・クイント(ピーター・サリヴァン
   ペン・バッジリー(セス・ブレッグマン)
   サイモン・ベイカー(ジャレッド・コーエン)
   スタンリー・トゥッチ(エリック・デール)
   デミ・ムーア(サラ・ロバートソン)
   ほか

あらすじ

2008年、ニューヨーク、ウォール街のとある投資銀行で、非公表の大量解雇が始まります。即日退去を言い渡されたリスク管理部門の責任者エリック・デール(スタンリー・トゥッチ)は、その部署でリストラから生き残った数少ない1人部下でアナリストのピーター・サリヴァンザカリー・クイント)にUSBメモリーを手渡し、「用心しろ」という意味深な言葉を残します。その夜、工学博士号を持つピーターはエリックから引き継いだUSBのデータを分析、会社のポートフォリオにおける不動産担保証券MBS,、いわゆるサブプライム商品)の価格変動率が、HV(ヒストリカル・ボラティリティ:過去のデータに基づいて算出した変動率)を上回る可能性があることに気が付きます。過度のレバレッジにより会社の資産が25%減少すれば、時価総額を上回る損失を負いかねません。すなわち、会社は、倒産をも招きかねない、総資産を超える損害リスクのある大量のMBS保有している、という結論に達します。既に状況は逼迫しており、明日にもリスクが顕在化する危険がありました。上司のウィル・エマーソン(ポール・ベタニー)とサム・ロジャース(ケヴィン・スペイシー)は緊急役員会の招集を進言します。8兆ドルもの資産の命運を左右しかねない会社の存亡の瀬戸際で、経済的・道徳的にも崖っぷちに立たされた役員達が導き出した結論は、市場が気付く前に全ての不良資産を早急に売りさばくことでした。サムは「無価値のものを誰にも知られないように売りぬく」という決定は、顧客や市場の信頼を失うことが明白であり、自分の信念に反すると社長に抵抗します。解雇されたエリックも脅されて会社に戻され、サムは取締役会の決定として出された指示を部下に伝達し、実行します。当然の事ながら自分もリストラされると覚悟していましたが、成し遂げたサムが聞いたのは「お前は生き残った」という言葉でした。「MBSを売り抜くことを指示した」自分の部下の多くが解雇されている中、自分だけ生き残ったことを知り、サムはいたたまれず社長に「辞める」と言いに行きますが・・・。

レビュー・解説

マージン・コールとは、投資家が保有するポジション(資産の持ち高)に、預託している保証金以上の評価損が生じた場合、追加の保証金を払い込むか、決済するかの意思決定を促すシステムです。サブプライムローン問題は、ローン債券を組み込んだ金融商品を取り扱う投資銀行も莫大な損失をもたらしました。タイトルは、いわばマージン・コールを正しく通知しなければならない投資銀行が、逆にそれを突きつけられる格好になった事に由来します。

 

市場がまだボタンを押し続けている時に、崩壊が避けられないことを知った銀行屋たちを、一晩、缶詰にしてみたかったという J・C・チャンダー監督・脚本のこの映画は、リーマン・ブラザーズやリチャード・ファルド元最高経営責任者(CEO)をモデルにしていますが、基本的にフィクションです。物語は、危機に気づいた担当者から、最高経営責任者(CEO)まで話が上がり、重役会議で決定された対策が翌日、実施されるまでの様々な階層や性格の銀行マンの動きに濃縮して、金融破綻の発端をスリリングに描いています。

 

登場人物の階層

ピーター(ザカリー・クイント)、セス(ペン・バッジリー

<エリック(スタンリー・トゥッチ)・・・解雇される

<ウィル(ポール・ベタニー)・・・年収250万ドル

<サム(ケヴィン・スペイシー

<ジャレッド(サイモン・ベイカー)、サラ(デミ・ムーア

ジョン(ジェレミー・アイアンズ)・・・最高経営責任者(CEO)、年収8600万ドル

 

憧れて入社したという若い社員は先輩の年収が気になりますが、事態が深刻になるとクビを恐れて泣き出します。一方、トップに近いほど、他社に先駆けて不良資産を売り抜ける事を主張するなど、お金に厳しい反応をします。階層や性格によって反応も様々ですが、「こんな会社辞めてやる」という人は一人もいません。父親メリルリンチに勤めていたという J・C・チャンダー監督は、銀行屋は同族意識が強く、簡単には辞めないと語っています。

 

金がこの映画のキーのひとつになっていますが、ウィルが部下に聞かれて年収250万ドルのその使い道の内訳を教えているのが、興味深いです。

  • 税金:半分
  • 住宅ローン:30万ドル
  • 両親の生活費:15万ドル
  • 自動車購入費:15万ドル
  • 食費:10万ドル
  • 洋服代:2.5万ドル
  • 預金:40万ドル
  • 娯楽遊興費:7.6万ドル(接待費で落とせるが・・・)

 

リーマン・ブラザーズのリチャード・ファルド元最高経営責任者(CEO)をモデルにしたという年収8600万ドルのジョン・チュルド(ジェレミー・アイアンズ)らは、他社に先駆けて不良資産を売り抜けようとします。

JOHN TULD: What have I told you since the first day you walked into my office? That there are three ways to make a living in this business... Be first, be smarter, or cheat. Well I don’t cheat, and even though I like to think we have got some pretty smart people in this building of the two remaining options, it sure is a hell of a lot easier to just be first.
JARED COHEN: Sell it all today...

ジョン:君たちが私のオフィスに出入りする様になってからずっと言い続けてきたように、この業界で生き残るには、先手を取るか、頭を使うか、人を欺くかだ。不正は嫌いだ。また、優秀な人材には事欠かないが、人に先んじる方がよっぽど簡単だ。
ジャレッド:すべて売却します。

SAM ROGERS: John... let’s just say we pull that off, which is saying something... the real question is... who are we selling this to?
JOHN TULD: The same people you’ve been selling this to for the last two years... and whoever else will buy it.
SAM ROGERS: If you do this you’ve killed that market for years. It’s over. And you are selling something you know has no value.
JOHN TULD: We are selling to willing buyers at the current fair market price, so that WE may survive, Sam.
SAM ROGERS: You’ll never sell a thing to any one of them again.
JOHN TULD: I understand.

サム:よく、考えてください。首尾よく売却が成功するとして、そもそも誰に売却するのですか?
ジョン:これまでに買ってくれた相手にだよ。
サム:しかし売却を断行すれば、市場の機能は停止してしまう。価値のない商品を売るのですよ。
ジョン:購買意欲のある買い手に正当な価格で売るまでだ。そうやって、我々は生き残るのだ。
ジョン:ですが、二度と商売が出来なくなります。
サム:分かってる。

JOHN TULD: It’s the big one. Most of us aren’t gonna make it out of this one.
SAM ROGERS: Us?
JOHN TULD: The street.
SAM ROGERS: What are you talking about?
JOHN TULD: This won’t be the last ‘situation’ I will be having this week. It’s just the start.

ジョン:今回の問題は大きい。我々は多くを失う事なる。
サム:我々?
ジョン:ウォール街さ。
サム:よくわかりませんが。
ジョン:これが最後ではない。今週抱える事になる様々な問題の単なる始まりに過ぎない。

 

それを当たり前のようにやり過ごし、さらにジョンは次の一手を打とうとします。

JOHN TULD: They’re just the same thing over and over. We can’t help ourselves, and you and I can’t control it, stop it, slow it, or even ever so slightly alter it... We just react... and we get paid well for it if we’re right... and get left by the side of the road if we’re wrong. There’s always been and there’s always gonna be the same percentage of winners and losers, happy fxxks and sad sacks, fat pigs and starving dogs in this world... yes there may be more of us today... but the percentages... they always stay exactly the same.

ジョン:歴史は同じ事を何度も繰り返しているんだ。我々は自分たちを救うことができないんだ。コントロールしたり、止めたり、緩めたり、ほんのわずか、変えることさえできないんだ。ただ対応し、成功すれば金になる。失敗すれば終わるだけ。勝者と敗者はいつも同じ数だけいる。幸福と不幸が隣り合わせの世の中さ。もちろん、今日は敗者が多いかもな。だが両者の割合は決して変わらない。

SAM ROGERS: You’re keeping the kid?
JOHN TULD: Keeping him? He’s getting promoted. It’s all hands on deck now Sam, there’s going to be a lot of money to be made coming out of this mess, we’re going to need all the brains we can get around here.

サム:あの若い奴は残したので?
ジョン:残した?昇進させたのさ。今こそ総力を挙げて金を取り戻す時だ。優秀な人材がいる。

 

市場の迷惑も顧みず、まるで良心をどこかに埋めて来てしまったかのようですが、この映画にはヒーローが登場しません。描かれているのは、厳しい競争社会の中で金を稼ぐことが目的化し、社会や人々の為になるという潜在能力を失う組織の悲劇です。金への欲望がある限りなくなることのない悲劇かもしれませんが、少なくても過熱しないような工夫は必要でしょう。年収が異常に高騰しているのではないかと思うのも、私だけではないような気がします。

 

ピーター(左:ザカリー・クイント)、セス(右:ペン・バッジリー

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エリック(スタンリー・トゥッチ

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ウィル(ポール・ベタニー

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サム(ケヴィン・スペイシー

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ジャレッド(左:サイモン・ベイカー)、サラ(右:デミ・ムーア

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ジョン(ジェレミー・アイアンズ

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関連作品 

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  「大逆転」(1983年)

  「ウォール街」(1987年)

  「摩天楼を夢見て」(1992年)

  「ジャマイカ 楽園の真実」(2001年)

  「ザ・コーポレーション」(2004年)

  「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」(2005年)

  「キャピタリズム~マネーは踊る~」(2010年)

  「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」(2010年)

  「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭」(2012年)

  「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」(2013年)

  「マネーショート 華麗なる大逆転」(2015年)

 

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オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜」(2013年)

  「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(2015年)

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マージン・コール (字幕版)

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