夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「恋人たちの食卓」:豪華な中華料理と美人三姉妹、食と性を風刺しながら親子を描くヒューマン・コメディ

「恋人たちの食卓」(原題: 飲食男女、英題: Eat Drink Man Woman)は1994年公開の台湾のヒューマン・コメディ映画です。アン・リー(李安)監督による父親三部作の3作目で、現代の台湾を舞台に、美しい三姉妹それぞれが繰り広げるの恋愛模様を、100種類以上にも及ぶ豪華な中華料理の数々が彩ります。第67回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。

 

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監督:アン・リー
脚本:アン・リー/ジェームズ・シェイマス/ワン・ホイリン(王恵玲)
出演:ラン・シャン(郎雄)ーチュ氏(老朱)、料理長、3人の娘を男手一つで育てる
   ヤン・クイメイ(楊貴媚)ーチアジェン(家珍)、長女、高校教師
   ウー・チェンリン(呉倩蓮)ーチアチエン(家倩)、次女、キャリアウーマン
   ワン・ユーウェン(王渝文)ーチアニン(家寧)、三女、大学生
   シルヴィア・チャン(張艾嘉)ーチンロン(錦栄)、長女の友人、シングルマザー
   グァ・アーレイ(歸亞蕾)ーリャンおばさん(梁母)、チンロンの母、未亡人
   ウィンストン・チャオ(趙文瑄)ーリーカイ(李凱)、次女の同僚
   ルー・チンチョン(盧金城)ーミンダオ(明道)、長女の同僚、体育教師
   チェン・チエウェン(陳捷文)ーレイモン(雷豪)、次女の恋人、画商
   チェン・チャオロン(陳昭栄)ークオルン(国倫)、三女の恋人
   ほか

 

【あらすじ】

台北の一流ホテルの名シェフだったチュ氏(郎雄)は、男手一つで3人の娘を育ててきました。長女のチアジェン(楊貴媚)は高校の教師、次女のチアチエン(呉倩蓮)は航空会社のキャリア・ウーマン、三女のチアニン(王渝文)は、アルバイトに忙しい大学生です。日曜日には家族全員が集まり、豪華な晩餐を囲むのが一家の習慣でしたが、娘たちには重荷でした。ある日曜日、味にうるさい次女は父の味覚が衰えたと非難します。コックになりたかった彼女は、女には無理と父に道を絶たれたことを恨んでいました。そんな折、小学生の娘と二人暮らしの隣人、チンロン(張艾嘉)の母で、未亡人のリャンおばさん(歸亞蕾)が米国から帰国します。父のよい話相手になるのではと期待しながら、三姉妹もそれぞれ恋にいそしみます。長女は差出人不明のラヴレターに、新任のバレーボールのコーチ、ミンタオ(盧金城)からだと思い、胸をときめかします。社長からアムステルダム支社の副社長を打診された次女は、本社から来たエリート社員のリーカイ(ウィンストン・チャオ)に惹かれます。三女はボーイフレンドのクオルン(陳昭榮)とデートします。チュ氏は、忙しく料理があまり上手でないチンロンに代わって小学生の娘に弁当を作ります。やがて三女は、いつもの日曜日の晩餐の席で「彼と暮らす、子供ができた」と爆弾発言、家を出ていきます。一方、リーカイを大学時代に姉を振った男と勘違い、混乱した次女は、年来の恋人の元を訪れますが、彼の家には別の女がいました。長女のへのラヴレターは生徒のいたずらと分かり、悔しくて泣きじゃくる彼女をミンタオが慰めます。次の日曜日の晩餐、長女は「ミンタオと今朝、教会で結婚した」と告げ、彼女も家を出て行きます。数週間後の日曜日、娘たちと夫たち、チンロン、リャンおばさんを招いた晩餐会で、今度は父が「チンロンと結婚する、家も売る」と爆弾発言します。それまでためらっていた次女は、父の一言でアムステルダムに行く事を決めます・・・。

 

父親が調理する豪勢な中華料理を囲む晩餐を核に、同時進行する三人の美人姉妹の恋愛と親子の関係を、ユーモアを交えながら手際よく二時間の映画にまとめるアン・リー監督の手腕が見事です。

 

父親は、毎日曜日、朝から一日がかりで晩餐を作ります。寡黙な父親にとって唯一の愛情表現とも思えるのですが、娘たちには重荷です。また、晩餐の娘たちの話題にも、父親の無愛想な受け答えでは話が続きません。「家」がつく名前とは裏腹に、恋愛にかまける三人の娘は早く家を出たいと思っています。父親も承知で、

チュ氏:娘なんか分からんし、分かりたくもない。勝手に出て行くがいい。料理と同じで、出来上がる頃には興味が失せる。

と友人に強がりますが、一方で

チュ氏:飲む、食べる、男と女、食と性は人間の欲望だ。一生それに振り回される。それしかないのか?腹立たしいな。

と、愚痴をこぼします。映画の原題、「飲食男女」はここからから来ています。

父親の友人は、娘の一人に、

友人:(娘の父親は)自分の感情を全部押さえ込んで、黙っている。もし、不満をぶちまけでもしたら、その時は病院は担ぎ込むんだな。腹の中の大掃除をしてもらうしかない。

と諭しますが・・・。

 

ユーモアのある会話も多いですが、長女が神妙に牧師の話を聞くシーン、次女の熱烈なラブシーン、父親が料理するアヒルの口に息を吹き込むシーンを立て続けにカットバックする、まさに「飲食男女」を揶揄するようなアン・リー監督のユーモアのセンスには思わず笑ってしまいます。調理シーンがふんだんにあり、料理映画としても、トップ・クラスです。

 

毎週、日曜日には父親が作った豪華な晩餐を囲む

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中華料理の数々が素晴らしい

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父親のチュ氏(老朱)を演じるラン・シャン(郎雄)

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長女のチアジェン(家珍)を演じるヤン・クイメイ(楊貴媚)

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次女のチアチエン(家倩)を演じるウー・チェンリン(呉倩蓮)

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三女のチアニン(家寧)を演じるワン・ユーウェン(王渝文)

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ユーモラスなカットバック

教会で牧師の話を聞く長女

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>>次女の熱烈なラブシーン

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>>料理するアヒルの口に息を吹き込む父親

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