夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ザ・クリミナル 合衆国の陰謀」:プレイム事件で証言を拒み収監された女性記者を基にした政治サスペンス&ヒューマン・ドラマ

「ザ・クリミナル 合衆国の陰謀」(原題:Nothing But the Truth)は、2008年公開のアメリカ合衆国のポリティカル・サスペンス&ヒューマン・ドラマ映画です。2003年にアメリカで実際に起きた「プレイム事件」をもとに、情報源守秘という自らの信念を貫いてアメリカの国家権力と対立することとなった女性記者を描いたフィクションです。製作会社が作品完成直後に破産してしまった為、劇場での一般公開はほとんどされておらず、日本でも劇場未公開ですが、ソフトで視聴可能です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ロッド・ルーリー
脚本:ロッド・ルーリー
出演:ケイト・ベッキンセイル(レイチェル・アームストロング 、サンタイムズ記者)
   マット・ディロン(パットン・デュボア 、 FBI特別検察官)
   ヴェラ・ファーミガ(エリカ・ドーレン、レイチェルの息子の同級生の母親)
   デヴィッド・シュワイマー(レイ・アームストロング 、 レイチェルの夫、作家)
   アンジェラ・バセット(ボニー・ベンジャミン、レイチェルの上司、彼女を支援)
   ノア・ワイリーアヴリル・アーロンソン、サンタイムズ紙法務担当)
   アラン・アルダアルバートバーンサイド、サンタイムズが雇った敏腕弁護士)
   ほか

あらすじ

アメリカ大統領暗殺未遂事件が発生し、米国政府はベネズエラ政府の陰謀としてベネズエラに報復攻撃を始めます。「サンタイムズ」紙の女性記者レイチェル(ケイト・ベッキンセイル)は、ベネズエラの関与を否定する報告文書があったにもかかわらず政府がそれを握りつぶしたとする事実を掴んで記事にします。記事は大スクープとして反響を集めますが、レイチェルは連邦政府からの情報提供開示請求を拒否したことから、法廷を侮辱したとして判事の判断で収監されてしまいます。「サンタイムズ」紙の全面的なバックアップを受け、レイチェルは国家権力と戦うことになります。さらに、レイチェルの記事によってベネズエラの関与を否定する報告を上げたCIAのエージェントであることを暴かれたエリカ(ヴェラ・ファーミガ)が、右翼の男に射殺される事件が起き、レイチェルは激しいショックを受けます。それでも、レイチェルは頑なに情報提供者の名前を明かそうとせず、弁護士バーンサイドアラン・アルダ)は「表現の自由」と「メディアの役割」を最高裁で強く訴えるますが、国の安全保障が優先されるとしてレイチェルの訴えは退けられます。レイチェルの収監は1年に及び、遂には夫レイ(デヴィッド・シュワイマー)とも離婚、息子ティミーの親権も奪われてしまいます。彼女に情報提供したことを認める元政府関係者が現れ、彼女は既に知っていたと証言します。それでも情報提供者を明かそうとしない彼女に、ホール判事は収監に意味がないとして釈放を決めますが、納得できないFBI特別検察官デュボア(マット・ディロン)は、釈放直後のレイチェルを改めて法廷侮辱罪で逮捕、最長5年の懲役を2年に減刑することを条件に、レイチェルに情報提供者の開示を迫ります・・・。

レビュー・解説 

映画の序盤で、クラスメートがいじめを告げ口したとレイチェルの息子が訴え、レイチェルはこれを諭します。

Timmy Armstrong: You're not supposed to tattle.
Rachel Armstrong: You're not supposed to have to put up with bullies, either.

ティミー:告げ口は良くないよ。
レイチェル:いじめを我慢する必要もないのよ。

ところが、アメリカでは政府関係者がメディアに告げ口をすることは許されず、メディアはその情報源を秘匿することができません。レイチェルは新聞記者ですが、アメリカではシールド法(shield law)によって保護している州も多いものの、連邦レベルでは取材源の秘匿が認められないのです。

 

2005年にCIAエージェントの身元を政府高官がメディアに漏らすという事件(プレイム事件)がありました。政府高官氏名の証言を拒否したニューヨーク・タイムズ紙の記者ジュディス・ミラーが、法廷を侮辱したとして85日間に渡り収監されました。身元を暴かれたCIAエージェントのヴァレリー・プレイムも、収監された記者ジュディス・ミラーも女性でした。この映画は、この事件を基に彼女たちの葛藤や闘いを夫や子供との関係を含めて、独自の視点で描いています。事実と異なる部分も少なくなく、事件を基にしたフィクションとなっています。

 

CIAエージェントのエリカを演じるヴェラ・ファミーガは、私が好きな女優の一人で、「ミッション:8ミニッツ」や「マイレージ・マイライフ」に出演、後者ではアカデミー助演女優賞にノミネートされるほどの演技派です。本作では、同じくプレイム事件を描いた「フェア・ゲーム」のナオミ・ワッツより、CIAエージェントらしさをより強く演じています。「フェア・ゲーム」では、ナオミ・ワッツが良き妻、母親であることに重点を置き、その素性が暴かれる恐ろしさを演出しているのに対して、本作のエリカは脇役で、主人公の女性記者レイチェルとは対照的に闘争心を強く出しています。ちなみに、劇中でエリカを嘘発見機にかけますが、撮影には本物が使用され、自分の名前をエリカと名乗ったヴェラに対して、嘘発見機は本物という判定を出しました。ヴァラの堂に入った演技、女優の女優たる所以を象徴するようなエピソードです。

 

CIAエージェントとして修羅場をくぐってきたエリカに対して、ケイト・ベッキンセールが演じる主人公のレイチェルは、包容力のある上司に恵まれた、良き母親でもある女性記者として描かれています。しかし収監され、エリカが右翼に暗殺される中盤以降、主張を貫く為に過酷な試練に直面する女性ジャーナリストに変貌していきます。

 

一方、マット・ディロンはレイチェルを追いつめるFBI特別検察官を、国家機密の漏洩を許せないグッド・ガイとして演じています。厳しく情報開示を迫られるレイチェルは可哀想ですが、国家機密をべらべらとしゃべるような国家公務員を許せないというのも真理です。また、厳しい中にも包容力のある優しいレイチェル上司を演じるアンジェラ・バセットも、はまり役です。短い出演時間で、素晴らしい存在感を示しています。


制作会社が完成直後に破産してしまった為、この映画は宣伝されることもなく、知名度も低いのですが、よく出来た作品です。

 

なお、原題の「Nothing But The Truth」は、アメリカの法廷で証言する場合に求められる宣誓に由来します。

Do you swear that all the testimony you will give in this court will be the truth, the whole truth, and nothing but the truth, so help you God?

あなたは、この法廷で真実を、真実のすべてを、そして真実のみを語ることを誓いますか?

また、邦題にある「合衆国の陰謀」とありますが、ベネズエラへの報復攻撃の謎解きに焦点を当てている訳ではありません。情報源提供者を秘匿する者を犯罪者(クリミナル)とすることが、合衆国の陰謀であるという意味かと思われます。

 

余談になりますが、レイチェルの情報提供者秘匿に立ちふさがった法廷を、タバコ企業の内部告発者を保護する手段としてメディアが逆に使ったことがあります。告発者が企業と守秘契約を結んでいる場合は不正を告発できませんが、法廷での宣誓証言には守秘契約の効力が及ばないことを利用したものです。詳しいいきさつは、映画「インサイダー」に描かれています。

  

夫を子供を持つ女性記者を演じるケイト・ベッキンセール

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夫と子供を持つCIAエージェントを演じるヴェラ・ファーミガ

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FBI特別捜査官を演じるマット・ディロン

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女性記者の上司を演じるアンジェラ・バセット

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関連作品 

プレイム事件を描いた映画のDVD(Amazon

  「フェア・ゲーム」(2010年)

 

告発に宣誓証言を利用した映画のDVD(Amazon

  「インサイダー」(1999年)

 

ケイト・ベッキンセイル出演作品のDVD(Amazon

  「から騒ぎ」(1993年)

  「ジェーン・オースティンのエマ」(1996年)

  「アンダーワールド」シリーズ(2003年〜2012年)

  「アビエイター」(2004年)

  「もしも昨日が選べたら」(2006年)

 

ヴェラ・ファーミガの出演作品のDVD(Amazon

  「クライシス・オブ・アメリカ」(2004年)

  「ディパーテッド」(2006年)

  「情事 セカンド・ラブ」(2007年)

   「マイレージ、マイライフ」(2009年)

  「ミッション: 8ミニッツ」(2011年)

        「ハイヤー・グラウンド」(2011年) iTunesで観る*1

  「死霊館」(2013年)

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