夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」:リース・ウィザースプーンとスーダンの元難民をキャストに、家族の絆を描いたヒューマン・ドラマ

「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」は2014年公開のアメリカ、インド合作のヒューマン・ドラマ映画です。フィリップ・ファラルドー監督、マーガレット・ネイグル脚本、リース・ウィザースプーンらの出演で、両親と住む場所を失い、難民となった3600人のスーダンの若者たちを全米各地に移住させた80年代の実話を基に、言語も文化も異なるスーダンの若者たちと彼らの就職の世話をするアメリカ人の姿と家族の絆を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:フィリップ・ファラルドー
脚本:マーガレット・ネイグル
出演:リース・ウィザースプーン(キャリー)
   コリー・ストール(ジャック)
   アーノルド・オーチェン(マメール
   ゲール・ドゥエイニー(ジェレマイア)
   エマニュエル・ジャル(ポール)
   サラ・ベイカー(パメラ)
   アフェモ・オミラミ(モーヤン博士)
   ヴィクター・マッケイ(リード)
   ほか

あらすじ

  • 1983年に始まったスーダン内戦では、10万人以上もの子どもたちが親を亡くし孤児となりました。それから十数年後、アメリカとスーダンが協力し、難民キャンプで育った「ロスト・ボーイズ」と呼ばれる若者たち3600人のアメリカ各地への移住が計画されます。
  • カンザスシティーの職業紹介所で働いていたキャリー(リース・ウィザースプーン)は、スーダンから来たマメール(アーノルド・オーチェン)ら3人の就職の世話をすることになり、空港まで迎えに行きます。電話を見るのも初めて、車にも乗り慣れず、牧場を見ると猛獣はいないか確認する、面接では珍回答の連続で、なかなか仕事が決まらない彼らに最初はイラつくキャリーでしたが、その成長を見守るうちに思いがけない友情が芽生え始めます。
  • 新生活が軌道に乗り始めたかに見えたころ、仲間の1人が「いくら働いても誰にも相手にされない」と怒りと悲しみを爆発させて問題を起こし、警察に連行されてしまいます。その事件は、アメリカ生活でマメールたちがひっそりと耐えていた痛みや不満を露にしてしまいます。そんな彼らを目の当たりに詩い、傷つかないようにと他人と距離を置いて生きてきたキャリーが3人の為に立ち上がります・・・。

レビュー・解説 

映画化にあたり1000人の「ロスト・ボーイズ」に取材し、さらに実際の「ロスト・ボーイズ」をキャスティングしたこの映画は、ハリウッド映画らしいストーリー展開ですが、歴史、文化の差、家族の絆など、様々な気づきが得られる感動的なドラマに仕上がっています。

 

フィリップ・ファラルドーは、カナダ出身の監督で、社会政治学と国際関係学を学んだ後、20か国で短編映画20作を作り上げ、その後、アジア人のカナダ移住を描いた政治風刺ドキュメンタリーを監督しています。2000年には初の長編作で数々の賞を獲得し、2011年の「ぼくたちのムッシュ・ラザール」は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされています。移民など、国際的視野で人を描くことが多い彼は、本作について次のように語っています。

1994年に、ドキュメンタリーを作っていた友人と戦時中のスーダンに滞在していた。2度の集中砲火に遭い、国連から避難を言い渡された。人々を置き去りにし、自分たちだけが助けられることに罪の意識を感じた。もちろん僕に責任はないけれども、その場を飛び立つ時、彼らを見捨てたと感じたんだ。その感覚が消えないままこの脚本を読んだ。あの場に戻って、彼らの物語を語り継ごうと思ったんだ。

僕たちが何を彼らに与えられるかだけじゃなく、彼らが僕らに何を与えられるかを知ることが重要なんだ。1人の人間同士としてね。世界の見方はいくらでもあるし、僕らのものがすべてではない。本作のテーマはそんなところにある。僕の映画に共通するテーマは‘人’なんだ。自分のことは知っているし、少なくとも知っているつもりではある。じゃあ自分の周りの人のことは知っていると言えるかな。他人を自分の人生に迎え入れるのは大きな賭けだ。でも賭ける価値のあるギャンブルだよ。(フィリップ・ファラルドー監督)

  

「彼らはみんな心の内にこのストーリーを抱えている。本人たちだけが持つ偽りのない魂をこの映画に込めて欲しかった。」というフィリップ・ファラルドー監督は、スーダン人キャストを外国に移住させられたスーダン人の中から選んでいます。マメール役のアーノルド・オーチェンは、父親の死後、2歳の時に母親と共に戦地から逃げてきました。ジェレマイア役のゲール・ドゥエイニーとポール役のエマニュエル・ジャルは、共に元ロストボーイズで幼い頃に少年兵にさせられ無情な扱いを受けています。世界中にコールするなどキャスティングは大変だったようですが、アフリカ系アメリカ人では得られない、独特の雰囲気を醸し出しています。

 

キャリーが就職の世話をする三人のロスト・ボーイズ

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ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(2005年)でアカデミー主演女優賞を受賞した後、長らく低迷が続いていたリース・ウィザースプーンですが、「わたしに会うまでの1600キロ」で再びアカデミー主演女優賞にノミネート、話題作「ゴーン・ガール」のプロデュースと、2014年は復活を印象づける年でした。本作への出演も、彼女の復活に向けた意欲が感じられます。

これは2つの異なる世界、文化が出会う話だと思ったの。マメールたちはアメリカで新しい人生をスタートさせるけれども、文化的違いを乗り越えるのは誰にとっても難しいチャレンジよ。それは受け入れるアメリカ人にとっても同じことで、この物語は皆の間の垣根を取り払って、共通する孤独や忍耐、家族の大切さという人間性をお互い見出していく物語なの。たくさんのいい問題提起になると思ったわ。

(この映画への出演は)予定にはなかったの。数年の間、私は何をやりたいのわからず、満足できない選択ばかりしていたわ。事の発端は、私が面白くて活発な女性を演じたいと思っていたことにあったの。マーガレット・ネイグルの脚本を読んで感動し、フィリップ・ファラルドー監督に会った時に、最初に「この映画は君の為の映画じゃない、それをはっきしておきたい」って言われて、嬉しかったわ。アフリカの人たちを救うアメリカの白人のお嬢さんを演じたいわけじゃなかったので、本当に満足だった。私の役は、彼らと同様、心乱され迷っていて、家族もいないの。家族とはどんなものか、どこにあるのかを、語る良い機会だったわ。」(リース・ウィザースプーン

  

ロストボーズ達の過酷な経験、家族の絆、言葉や文化の差など、様々な気づきが得られるかと思いますが、エンディングに並行して流れるジェレマイアのスピーチにフィリップ・ファラルドー監督の想いが込められているかのようです。

Jeremiah: This is the story of my brothers and sisters. When we were children, our fathers said, "Let something of me survive." We did not even know what does it mean. But then we saw our family murdered... and our villages destroyed, and then we understood. We held inside ourselves the memories of our forefathers and their teachings... so that we could move forward in the world. Like an invisible bridge their memory connects our old life with our new. They say we were saved by coming to the United States. But we also saved each other. And although our differences may divide us... our common humanity unites us. For we are brothers and sisters, all of us. We try to share this wonderful world we call home. They call us the Lost Boys of Sudan. I don't think we are lost. I think we are found.

ジェレマイア:これは私の兄弟姉妹の話です。私たちが子供の頃、父が「内なるものを失うな」と言いました。私たちは、それが何を意味するのかわかりませんでした。でも、私たちの家族が殺され、村が破壊されるの見て、私たちは理解しました。私たちが世界の中で前に進んで行ける様に、私たちの中に祖先の記憶や教えが生きているのです。それはこれまでの生活を新しい生活につなげる、見えない橋のようなものです。私たちはアメリカに来て救われたと言われます。でも、私たちはお互いを救ったのです。私たちの違いは私たちを分けるかもしれませんが、ともに人間であるということが私たちを結びつけています。私たちはみな、兄弟であり、姉妹です。この素晴らしい世界、私たちが家族と呼ぶものを皆さんと分かち合いたいと思います。私たちはスーダンのロスト・ボーイと言われますが、私はもやは迷子ではありません。私たちは、既に家族の元にいます。

  

このスピーチを聞きながら、「すべての現存する人類は母方の家系をたどると、約12-20万年前に生きていたアフリカ女性にたどりつく」という「ミトコンドリア・イブ」の話を思い出しました。人類が家族であるということは、決して夢物語ではないのかもしれません。

ヒトの進化はアフリカ限定だった!(日経ビジネス)

 

リース・ウィザースプーン(キャリー)

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コリー・ストール(ジャック、右)

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ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)で実在の小説家アーネスト・ヘミングウェイを演じ、注目を浴びた俳優。キャリーの上司の存在感を、いい感じで出している。

 

アーノルド・オーチェン(マメール、左)とサラ・ベイカー(パメラ、右)

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アーノルドはスーダン人で、父親の死後、2歳の時に母親と共に戦地から逃げた。サラは、ボランティア役でコミカルな味を出している。

 

ゲール・ドゥエイニー(ジェレマイア)

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スーダン人で、元ロスト・ボーイズ。幼い頃に少年兵にさせられ無情な扱いを受けた経験がある。

 

エマニュエル・ジャル(ポール)

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スーダン人で、元ロスト・ボーイズ。幼い頃に少年兵にさせられ無情な扱いを受けた経験がある。

 

クース・ウィール(アビタル)

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スーダン人。

動画クリップ(YouTube) 

タイトルの由来ハックルベリー・フィンの嘘〜「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」

TEACHER: Having all read Huckleberry Finn, can anyone tell me what "the good lie" means?
WOMAN: Huck uses lies to survive in undesirable situations.
TEACHER: Exactly. But later in the book, the lies change. How so?
MAMERE: They change because Huck changes.
TEACHER: Yes. Keep going.
MAMERE: When he tells the slave hunters that he has no slaves, his lie is credible. So he lies well. But what is more important... is that it is an unselfish lie, because it saves Jim. Jim's freedom means more to Huck than the money he would get for turning him in. So it is a good lie. TEACHER: Could not have said it better.

教師:ハックルベリー・フィンを読んでみて、「良い嘘」とは何か説明出来る人はいますか?
女性:ハックは好ましくない状況で生き残る為に、嘘を使います。
教師:その通り。でも物語の後半、嘘が変わります。どう変わりますか?
マメール:ハック自身が変わり、嘘も変わります。
教師:そう、続けて。
マメール:奴隷狩りする人に奴隷はいないと言う時の彼の嘘は、疑いの余地のないものです。彼は上手に嘘をついています。でも、より重要なのは、それはジムを救う為の利己的ではない嘘だということです。ハックにとって、ジムの自由は彼を引き渡す事によって得られるお金よりも重要だったのです。だから、これは「良い嘘」です。
教師:申し分ない答えです。

撮影地(グーグルマップ)  

 

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関連作品 

フィリップ・ファラルドー監督作品のDVD(Amazon

  「ぼくたちのムッシュ・ラザール」

 

リース・ウィザースプーン出演作品のDVD(Amazon

  「カラー・オブ・ハート」(1998年)

  「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(1999年)

  「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(2005年)

  「MUD -マッド-」(2013年)

  「わたしに会うまでの1600キロ」(2014年)

 

移民を描いた映画 

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