夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アクト・オブ・キリング」:未だ罰せられる事のないインドネシアの大量虐殺事件の加害者の心情を生々しく描き出すドキュメンタリー

アクト・オブ・キリング」(原題:The Act of Killing)は、2012年公開のイギリス、デンマークノルウェー合作のドキュメンタリー映画です。1965年、インドネシア大統領スカルノがクーデターにより失脚、その後、右派勢力による「共産党員狩り」と称した大虐殺が行われ、100万人以上が殺害されたと言われる9月30日事件を追った作品で、加害者たちの心中や殺人の実態に迫っています。当時、大量虐殺に関わった加害者たちを取材し、彼らにその時の行動をカメラの前で再現させるという手法をとった異色のドキュメンタリーです。事件がインドネシア国内ではいまだにタブーであり、名前を明かすと危険であるとの理由から、製作に関わった多くの現地スタッフは匿名でクレジットされています。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた他、全米批評家協会賞最優秀ドキュメンタリー賞など全世界50以上の映画賞を受賞した作品で、2014年には姉妹編の「ルック・オブ・サイレンス」が公開されています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:アンワル・コンゴ
   ヘルマン・コト
   アディ・ズルカドリ
   ほか

あらすじ

1965年、インドネシアスカルノ大統領親衛隊の一部がクーデター未遂事件を起こし、収拾にあたった軍のスハルト少将らは、事件の背後にいたのは共産党だとして、西側諸国の支援を得ながらインドネシア各地で100万規模の人々を虐殺しました。その実行者たちは、今も「国民的英雄」として暮らしています。虐殺の被害者への取材を軍から妨害されたジョシュア・オッペンハイマー監督は、加害者への取材を開始します。北スマトラ州の州都である大都市メダンで虐殺の実行者たちを取材中に、彼らが嬉々として過去の行為を再現するのを見たオッペンハイマー監督は、殺人を好きな形で再現し映画にすることを提案します。加害者たちは、映画スター気取りで当時の殺人の様子を詳細に演じて見せますが、その再演は彼らにある変化をもたらしていきます・・・。

レビュー・解説 

半世紀前の大量虐殺事件に関して、自らの行為を正当化しようとしながらも悪夢に苛まれる、未だ罰せられることのない加害者たちの生々しい心情を映し出すこの作品は、法や処罰といった常識を超えて人間の本質に迫り、まさにドキュメンタリーの力を見せつける作品です。

 

虐殺の実行者たちが今も大手を振って町を闊歩し、過去の殺人を誇らしげに語るのを目の当たりにしたオッペンハイマー監督は、彼らが自分たちで好きなように殺人を再現し、映画にすることを提案しましたが、これは加害者であれば誰にでも通用するアイデアではありません。ドキュメンタリーの中で映画作りの先頭に立つアンワル・コンゴは、映画館を根城にする「プレマン」と呼ばれるギャングでした。アメリカ文化に強い影響を受けている彼とその取り巻きは、映画スター気取りで殺人者を演じ、虐殺を再現していきます。

 

大量虐殺の後、インドネシア政府は共産主義者の残酷さを強調するプロパガンダ映画を製作し、国民に誤った認識を植えつけてきました。ドキュメンタリーに登場する新聞社の社主は、共産主義者が憎まれるようにするのが仕事だったと語ります。またアンワルとともに虐殺を実行したアディは、殺した後で共産主義者を悪者に見せるのは簡単なことで、残酷だったのは共産主義者たちではなく、実は自分たちだと平然と語ります。彼らはこうした矛盾をわきまえているおり、映画の中でも振れることがありません。

 

しかしアンワルは違います。共産主義者にまつわるプロパガンダを信じているかのように見える彼は自分を美化する映画を作ろうとしますが、その一方で正直な彼は美化された自分が本来の自分と違うという矛盾に直面します。未だに悪夢に苛まれる彼の内面に葛藤があったのでしょう。自分を美化するイメージを生み出したいと思う一方で、みずから拷問の犠牲者を演じることにより自分の痛みと向き合います。加害者の中でも地位の低い実行者たちは、みなこうした葛藤を抱いているのではないかと思われますが、このように痛みと向き合うアンワルとの出会いが、このドキュメンタリーを際立つものにしていることは間違いありません。

 

指示を出す側であろうが、実際に手を下す側であろうが、虐殺は責められるべきです。しかしながら、指示をしただけで実際には手を下していない新聞社の社主や当時の地位の高い者たちは、アンワルのように虐殺の悪夢に苦しめられることも、良心の呵責に苛まれるなく、未だ有力者として君臨していることを考えると、人間社会の不完全さを強く感じざるを得ません。

 

取材の対象を加害者に変更したことについて、ジョシュア・オッペンハイマー監督は次のように語っています。

軍の妨害があったことは確かですが、私が加害者を撮り続けたのは生存者が撮れなかったからではありません。最も差し迫った問題は、加害者が咎められることもなく権力を持ち、あのように語っていること、いま何が起きているのか、そして、人間にとって殺すとはどういう意味があるのかということです。生存者を題材にした映画にはそれを明らかにすることはできません。

 

ベルリンで本作の試写を行った際に、「ナチ親衛隊が虐殺を再現しているようなものだ」と観客の一人がコメントしましたが、オッペンハイマー監督はこれに対して、「それは全く違う。ナチ親衛隊はもはや存在しないが、ドキュメンタリーで描いているインドネシアの暗殺者たちは依然として政府に守られている。」と答えています。

 

アンワル・コンゴ

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ヘルマン・コト

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アディ・ズルカドリ

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関連動画(YouTube

映画の進行とともに変化して行くアンワル

 

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関連作品

アクト・オブ・キリング」の姉妹編

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