「スウィート17モンスター」(原題:The Edge of Seventeen)は、2016年公開のアメリカのヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。ケリー・フレモン・クレイグ監督・脚本、ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェンナー、ヘイリー・ルー・リチャードソンら出演で、唯一無二の親友と兄が出来ているのを知り、疎外感からとんでもない行動に出てしまう冴えない女子高生ネイディーンの姿を描いています。ヘイリー・スタインフェルドが第74回ゴールデン・グローブ賞コメディ/ミュージカル部門女優賞にノミネートされた作品です。
「スウィート17モンスター」のDVD(Amazon)
目次
スタッフ・キャスト
監督:ケリー・フレモン・クレイグ
脚本:ケリー・フレモン・クレイグ
制作:ジェームズ・L・ブルックスほか
出演:ヘイリー・スタインフェルド(ネイディーン・フランクリン、主人公、高2生)
ヘイリー・ルー・リチャードソン(クリスタ、ネイディーンの親友)
ブレイク・ジェンナー(ダリアン、ネイディーンの兄)
ウディ・ハレルソン(ブルーナー、ネイディーンの高校の教師)
キーラ・セジウィック(モナ、ダリアンとネイディーンの母親)
ヘイデン・セットー(アーウィン・キム 、ネイディーンのクラスメイト)
エリック・キーンリーサイド(トム、ダリアンとネイディーンの父親)
レイン・マクニール(TCBYヨーグルト・ガール)
ケイティ・スチュアート(ジーニー)
アレクサンダー・カルヴァート(ニック・モスマン、ネイディーンの思い人)
メレディス・モンロー(グリア、ブルーナーの妻)
ほか
あらすじ
- 高校2年生のネイディーン・フランクリン(ヘイリー・スタインフェルド)は、口は達者ですが、自己嫌悪に陥りがちな「こじらせ女子」です。いじめられっ子だったネイディーンは、勝ち組の優等生で、母モナ(キーラ・セジウィック)のお気に入りの兄ダリアン(ブレイク・ジェンナー)を疎ましく思う一方、唯一の親友クリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)が心の支えでしたが、彼女が天敵の兄ダリアンと交際を始めたことで関係が悪化していきます。
- 唯一の理解者だった父トムが4年前に他界して以来、ネイディーンは孤独でしたが、そんな彼女に級友のアーウィン(ヘイデン・ゼトー)が声をかけます。しかし、彼女はアーウィンの気持ちに気付かず、イケメンのニック・モスマン(アレクサンダー・カルヴァート)に惹かれます。学校でクリスタに会ったネイディーンは、自分と兄のどちらかを選ぶよう迫りますが、選択などできないと断るクリスタにネイディーンは絶交を言い渡してしまいます。
- 歴史教師のブルーナー(ウディ・ハレルソン)に思いの丈をぶちまけたネイディーンは、彼を頼るようになります。彼女はアーウィンと遊園地に行ったり、彼の家を訪れたりしますが、相変わらずアーウィンの気持ちに気付きません。ネイディーンは母モナと喧嘩、勢いでセックスを匂わせるメールをニックに誤送信してしまいます。ニックはネイディーンをデートに誘いますが、思わせぶりなメールを送っておきながら、セックスの前にやたらと互いを知りたがる彼女に失望します。一方、彼女と喧嘩した母モナは、娘が逃げ出したのではと不安になり、ダリアンに捜させます。
- ネイディーンは担任のブルーナーを呼び出し、彼の家へ向かいます。ダリアンとクリスタはネイディーンを迎えに来ますが、父の死以来、荒んだ心を隠してきたダリアンは、彼女の態度に惨めなのはネイディーンだけではないと怒って帰ってしまいます・・・。
レビュー・解説
17歳の少女にとっての人生の一大事をリアルで等身大に描いた些細な脚本を、ヘイリー・スタインフェルドが天賦の資質で演じきった、質の高いヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。
「モンスター」と大変な邦題がついていますが、中味は質の高いコメディ&ヒューマン・ドラマ映画です。風変わりでいじめられっ子の17歳の主人公は、唯一の親友を優等生の兄にとられてしまいますが、これは彼女にとって人生最大のピンチとも言えるものです。原題の「The Edge of Seventeen」は17歳の危機といった意味で、本作は誰にでもありそうなそんなピンチを描いた作品ですが、恐らくは観客の関心を掴む為に、「モンスター」と奇をてらった邦題にしたのではないかと思われます。これだけの質の良い作品にこんなタイトルをつけなければ見てもらえないという日本の映画界の現状が悲しくもありますが、口だけは達者な主人公が教師や母親にたてつくことから「モンスター」という邦題にしたというよりは、むしろ主人公はどこにでもいるような自分を持て余す17歳の少女で誰もが持つ心身の発達途上のアンバランスさを持っており、それをあたかも心の中に小さなモンスターを飼っているかのように表現したのが邦題であると解釈したいところです。
17歳という特別な年齢の頃に誰もが経験する感情をリアルに描いている
監督・脚本を務めたケリー・フレモン・クレイグは、17歳という特別な年齢の頃に誰もが経験する
- 心地良い状況から放り出され、自分自身を直視しなくてならない状態
- 「みんな幸せそうなのに、私だけがダメ人間」という感覚の恐怖と孤独と苦痛
に興味があり、これを深く探りたいと考えたそうです。大人は「どんな感情や状況もずっと続くわけではない」と経験的に知っていますが、17歳の頃には誰もがこの地獄に終わりが見えず、自分の苦しみばかりに目が行き周囲が見えなくなり、抜け出せなくなってしまうわけです。本作は、そんな主人公のネイディーンが、少しだけ成長する物語です。
最初の脚本を書き上げたクレイグは、「ブロードキャスト・ニュース」(1987年)、「恋愛小説家」(1997年)、「ザ・シンプソンズ MOVIE」(2007年)の脚本や監督を務める一方、 「ビッグ」(1998年)、「セイ・エニシング 」(1989年)、「アンソニーのハッピー・モーテル」(1996年)、「ザ・エージェント」(1996年)などの名作をプロデュース、彼女に深く訴えかけてくる映画をたくさん作ってきた映画人で、ずっと憧れの存在だったジェームズ・L・ブルックスにダメ元で脚本を送ります。ブルックスは当時のことを、次のように語っています。
最初に彼女に会った時に、彼女がもたらすであろうことに強く印象づけられました。それは彼女の脚本や野望といったものではなく、彼女の使命感、どれだけ打ち込んで取り組むかということです。私はそれに惹かれて一緒に仕事を始めました。(ジェームズ・L・ブルックス、プロデューサー)
https://uproxx.com/movies/james-l-brooks-kelly-fremon-craig-edge-of-seventeen-interview/6/
この時、ブルックスはクレイグに、
- 伝えたいことがあなたに固有なことなので、自分で監督する以外にない
と言い、さらに、
- ティーンエイジャーに山ほどインタビューを行い、高校に入り浸って彼らの世界を正しく掴むこと
- 最も大切な最初の問い「この映画が人生の何について伝えるのか?」に答えを出すこと
をアドバイスしたといいます。言うは易し行うは難しですが、クレイグはこの約束をきっちりと果たします。六ヶ月にも渡るティンエイジャーの調査と、その後の何年にも及ぶテープの聴取と議論の結果、脚本の全てのセリフが変わり、同じものは全く残っていなかったと言います。彼女はこの時点で、正しい方向に進めていると確信、インタビューやリサーチを通して分かったことが、リアリティとして脚本に落とし込めていると実感したと言います。
私が毎日考えていたのは、そこに真正さを生むこと——これはリアル?本当に?小手先のやり方ではなく、真っ正面から誠実な姿勢でこれを描けている?真実とは?——という考えをすべての根底にして映画作りをしました。
ティーンに話を聞いたり、一緒に高校で過ごしてみたりして、彼らの生活を観察しました。語りたいストーリーを実際に生きてきた人たちと話すことで、使命感のようなものが生まれてきて——脚本を書いていると、彼らの顔が浮かびました。彼らに感情移入して、彼らのためにもストーリーをきちんと伝えなきゃならないと思いました。
誰もが自分という存在に戸惑っていて、「自分はひとりじゃない」と実感したくて、「本当の自分を知って、受け入れてほしい」という思いに駆られていたんです。ソーシャル・メディアの影響もあるでしょうね。ソーシャル・メディアでは、誰もが作り込んだ自分を世界に向けて発信しています。それは他人に消費されて、本当の自分からはどんどん離れていく。それがみんなを孤独にさせているんです。もっと深いところを探っていかなければ、その人の本当の姿を知ることはできません。
衣装にもすごくこだわりました。リアリティを出したかったし、無力感をかもす服が良かった——何度も洗われてくたびれた風合いを出したかったんです。ナディーンのルックスと服装を決めるのは大変でした。何時間もいろいろな組み合わせでたくさんの服を着てもらいました。(ケリー・フレモン・クレイグ監督)
https://i-d.vice.com/jp/article/wjd8q4/the-edge-of-seventeen-is-a-sixteen-candles-for-2016
何年もかけて嘘偽りのない真正な脚本が得られたものの、クレイグはキャスティングで苦労することになります。つまりリアリティを重視した脚本で、誰が演じても面白いように書かれた脚本ではない為に、脚本が役者を選んでしまうわけです。
大変だったわ。一年以上かけて1000人以上の少女のオーディションを行ったにもかかわらず、ネイディーン役が見つからなかったの。ネイディーンはとても感情的な存在で、そんな彼女を表現する感情の幅や広がりを持つ女優、それもコメディの間合いを知る女優なんて簡単には見つからないわ。でも、ヘイリーには持って生まれたものがあった。私は最初、気づかなかったけど、彼女はネイディーンそのものなのよ。彼女が演じると、体つきまで変わるのよ。何もかも素晴らしく、コメディの間合いも抜群だったわ。私自身が面白いと思わずに書いたセリフさえ、決めて見せたわ。存在さえしなかった行間のコミカルな瞬間さえ、表現したわ。私はゴー・サインを出した、彼女はネイディーンそのものだったのよ。
誇張でも何でもなく、彼女がいなければこの映画を作ることができなかったわ。ヘイリーのような女優はいない、いろいろ見たけど、誰ひとりとしていなかった。彼女は素晴らしいキャリアを築くとを思うわ。彼女はひどく感情的な異なる場面を、継ぎ目なく演じることが出来るのよ。どうやって演じているのかはわからないけど、どんな馬鹿な役をやっても彼女はそこに脆弱性をちらつかせる。それは、痛みからくるものなのだけれど、たやすいことじゃない。それを彼女はやってのけるのよ。(ケリー・フレモン・クレイグ監督)
親友クリスタ役のヘイリー・ルー・リチャードソン、母親モナ役のキーラ・セジウィックを始めとし、兄アリアン役のブレイク・ジェンナー、教師ブルーナー役のウディ・ハレルソン、級友アーウィン役のヘイデン・セットー、イケメンのニック役のアレクサンダー・カルヴァートらの好演も光りますが、プロデューサーのブルックはクレイグが四人の男性のキャラクターをしっかりと描いてることも高く評価しています。また、どのキャラクターにも最後には感情移入してしまう、脚本の人物描写が素晴らしい作品です。
ヘイリー・スタインフェルド(ネイディーン・フランクリン、主人公、高校2年生)
ヘイリー・スタインフェルド(1996年〜 )は、カリフォルニア出身のアメリカの女優・歌手。父はユダヤ系、母方の祖父はフィリピンの家系。「トゥルー・グリット」(2010年)で数々の賞を受賞、アカデミー助演女優賞にもノミネートされた。「トゥルー・グリット」では15000人から選ばれたが、当時13歳のヘイリー・スタインフェルドは演じたマティは法や取引に関して主張するシーンが多く、これを澱みや気負い無く自然に話せる13歳の少女は他にいなかったと言われている。本作でも口が達者なネイディーンを演じているが、彼女の利発さは健在だ。他に「はじまりのうた」(2013年)、「思い出のマーニー」(2015年、声)などに出演しており、今後の成長が楽しみな女優である。
ヘイリー・ルー・リチャードソン(クリスタ、ネイディーンの親友)
ヘイリー・ルー・リチャードソン(1995年〜)は、フェニックス出身のアメリカの女優。地元フェニックスでダンサーをつとめ、16歳の時にロサンゼルスに移住、2012年から女優を始める。「スプリット」(2016年)に出演して注目される。本作では、押しの強い主人公とは対照的な優しい役回りで、助演として主役を巧みに引き立てている。
ブレイク・ジェンナー(ダリアン、ネイディーンの兄)
ブレイク・ジェンナー (1992年〜)は、アメリカの俳優、歌手。リアリティ番組「Glee プロジェクト〜主役は君だ!」で優勝、テレビドラマ「Glee/グリー」に出演。 リチャード・リンクレイター監督の半自伝的作品「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(2016年)で主役を掴んでいる。本作では一見、優等生の鼻持ちならない役だが、後半はしっかりと観客の共感を得る。
ウディ・ハレルソン(1961年〜 )は、テキサス出身のアメリカの俳優。悪役やスキャンダラスな役を得意とし、危険な男だけでなく間抜けな男も演じられる。マフィアの雇われ殺し屋の父と、弁護士秘書の母の間に生まれる。殺人犯の父は、服役中に死去。弟のブレット・ハレルソンも俳優。大学卒業後、ニューヨークで演技を学ぶ。舞台デビューの後、テレビ・シリーズ「チアーズ」でお茶の間の人気を獲得、映画「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年)で頭角を現す。翌々年には、「ラリー・フリント」で実在のポルノ雑誌編集者を演じてアカデミー主演男優賞にノミネート、「メッセンジャー」(2009年)では同助演男優賞にノミネートされている。大麻合法化活動家として有名で、数々の問題行動を起こすことでも知られている。
- 道路で踊り狂い交通渋滞を引き起こした上に警官を殴って逮捕(1993年)
- マリファナを栽培して逮捕(1996年)
- 環境保護を訴えてゴールデンゲートブリッジに登り逮捕(1996年)
- ロンドンでタクシーの後部座席を破壊して逮捕(2002年)
- 空港でパパラッチを殴り、パパラッチがゾンビに見えたと釈明(2009年)
キーラ・セジウィック(モナ、ダリアンとネイディーンの母親)
キーラ・セジウィック(1965年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの女優。モデル兼女優のイーディ・セジウィックはいとこ。6歳の時に両親が離婚、15歳の時に舞台デビュー。1982年から1年間ソープ・オペラに出演、その後ハリウッドに進出するが仕事が入らずニューヨークに戻る。「愛と動乱のワルシャワ」(1985年)で映画デビュー、「7月4日に生まれて」(1989年)でトム・クルーズの恋人役を演じてブレイクする。「レモン色の空」(1988年)で共演したケヴィン・ベーコンと結婚、長男、長女がいる。本作では、娘を持て余し気味の母親を好演している。
ヘイデン・セットー(アーウィン・キム 、ネイディーンのクラスメイト)
ヘイデン・セットー (1985年〜)はバンクーバー出身のカナダの俳優。父と祖父は中国の画家という芸術一家に生まれる。2011年以降、映画への出演は少ないが、本作で大きくブレイクス、2017年のテレビドラマシリーズへの出演も決まっている。本作では、ネイディーンに気がある、優しいアジア系アメリカ人を演じている。
サウンドトラック
"The Edge of Seventeen" Soundtrack CD 輸入盤(Amazon)
1. Who I Thought You Were - Santigold 2. Ballroom Blitz - The Struts 3. Am I Wrong - Anderson.Paak feat.ScHoolboy Q 4. Bad Decisions - Two Door Cinema Club 5. Psycho (Explicit Content) - A$AP Ferg 6. Save Me - Aimee Mann 7. Genghis Khan - Miike Snow 8. Don't You Wait - Cloves 9. The Dickhead Song - Miles Betterman 10. Somebody Else (Explicit Content) - The 1975 |
11. When They Fight They Fight - Generationals 12. Hard Luck - Black Pistol Fire 13. When I'm Small - Phantogram 14. Big Jet Plane - Angus and Julia Stone 15. To Build a Home - The Cinematic Orchestra 16. Sky on Fire (Eo17 Remix) - Handsome Poets 17. Ghost in the Wind - Birdy 18. Nadine's Theme - Atli Örvarsson 19. The Hug - Atli Örvarsson |
撮影地(グーグル・マップ)
「スウィート17モンスター」のDVD(Amazon)
関連作品
ジェームズ・L・ブルックス監督・脚本、プロデュース作品のDVD(Amazon)
「アンソニーのハッピー・モーテル」(1996年)プロデュース
「ザ・エージェント」(1996年)プロデュース
「ザ・シンプソンズ MOVIE」(2007年)脚本
ヘイリー・スタインフェルド出演作品のDVD(Amazon)
「トゥルー・グリット」(2010年)
「思い出のマーニー」(2015年、声の出演)
ヘイリー・ルー・リチャードソン出演作品のDVD(Amazon)
「Columbus」(2017年)
ブレイク・ジェンナー出演作品のDVD(Amazon)
「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(2017年)
「ラリー・フリント」(1996年)
「今宵、フィッツジェラルド劇場で」(2006年)
「ノーカントリー」(2007年)
「暴走特急 シベリアン・エクスプレス」(2008年)
「メッセンジャー」(2009年)
「ゾンビランド」(2009年)
「ハンガー・ゲーム」(2012年)
「セブン・サイコパス」(2012年)
「ハンガー・ゲーム2」(2013年)
「猿の惑星: 聖戦記」(2017年)
「スリー・ビルボード」(2017年)
キーラ・セジウィック出演作品のDVD(Amazon)
「7月4日に生まれて」(1989年)
関連記事
*1:本文に戻る
*2:本文に戻る
*3:本文に戻る
The Edge of Seventeen (Original Motion Picture Soundtrack) - Various Artists(iTunes)