夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「デリカテッセン」:ホラー/SF/ユーモアを融合、独特の美的感覚とユーモアで人心が荒廃したアパルトマンを描き出したダーク・コメディ

デリカテッセン」(原題:Delicatessen)は、1991年公開のフランスのダーク・コメディ映画です。監督・脚本はこれが長篇デビューとなるジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロ、ジル・アドリアン共同脚本、ドミニク・ピノン、マリー・ロール・ドゥニャら出演で、終末戦争後のパリに残った精肉店とその階上のアパルトマンに住む人々が織りなすダーク・コメディを描いています。新人監督作品賞、脚本賞などセザール賞を4賞、受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ジャン=ピエール・ジュネ/マルク・キャロ
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ/マルク・キャロ/ジル・アドリアン
出演:ドミニク・ピノン(ルイゾン、クラペットのアパルトマンに越してきた芸人)
   マリー・ロール・ドゥニャ(ジュリー・クラペット、肉屋の娘)
   ジャン・クロード・ドレフュス(クラペット、肉屋の親父)
   カリン・ヴィアール(メレ・プリュス、肉屋の愛人)
   ティッキー・オルガド(タピオカ氏、アパルトマンの住人)
   アンヌ・マリー・ピザーニ(タピオカ夫人、アパルトマンの住人)
   ほか

あらすじ

核戦争から15年、生き残りの人々が食料をあさる荒廃したパリの街はずれ、ルイゾン(ドミニク・ピノン)は職を求めてデリカテッセン(肉屋)にやってきます。ところが、店の主人(ジャン・クロード・ドレフュス)は、カモをおびき寄せては肉にしてしまう恐しい男でした。その娘で心優しいジュリー(マリー・ロール・ドゥニャ)は、気のいいルイゾンに好意を寄せます。犠牲者が増えるのが堪まらないジュリーは、反体制の菜食主義者「地底人」たちと手を組み、秘かにルイゾン救出する作戦に乗り出します。デリカテッセンの上のアパルトマンの住人たちは、突然侵入してきた地底人たちと上を下への大騒ぎになります。風呂場に水を溜め、追手に水で反撃するというルイゾンの最後の一手も失敗し、ルイゾンとジュリーに肉屋の手が迫ります・・・。

レビュー・解説

ホラーとSFとユーモアを巧みに結びつけ、独特の美的感覚とユーモア感覚で人心が荒廃したアパルトマンを描き出し、低予算の長編デビュー作ながら、「アメリ」と並んでジャン=ピエール・ジュネ監督の代表作のひとつとなったダーク・コメディです。

 

一階の肉屋の親父とそのアパルトマンに引っ越してきた芸人、肉屋の娘、肉屋の愛人、アパルトマンの住人たち、反体制のレジスタンスたちが繰り広げるダーク・コメディは、ジャン=ピエール・ジュネ監督と友人のマルク・キャロ監督が共同で執筆した「ロスト・チルドレン」 (1995年)が無名の監督のデビュー作としてはコストがかかりすぎで実現が難しかった為に、低予算でできるオリジナル作品として製作されたものです。その為、制約のあるセットで、キャストに両監督の友人や家族を動員して撮影、小道具もかき集めた古いガラクタを利用しています。

 

一階に肉屋があるアパルトマンに住んでいたジャン=ピエール・ジュネ監督は、毎朝、肉屋が肉切り包丁をチャン、チャンと擦り合わせる音で目が覚めたと言います。これを聞いた彼の恋人が、近所の人を切り刻んでいると言ったことがアイディアの発端となりました。これに、

など、当時の彼が愛したものすべてを要素として取り込んで制作されたのが、この作品です(ジャン=ピエール・ジュネアメリカを旅行した際に、ホテルの食事が人肉のようにまずかったことから、この映画のアイディアを思いついたという異説がありますが、真偽の程は定かではありません)。

 

ジャン=ピエール・ジュネが愛したロベール・ドアノーの写真集

 Robert Doisneau: Paris: Les Halles Market(Amazon

 

オープニングで、ゴミやガラクタに紛れ込んだクレジットが、舐めるようなカメラワークで、一種、美しく映し出され、目を引かれます。同様、エンド・クレジットも秀逸で、並々ならぬセンスを感じます。作中、随所に埋め込まれたユーモアのセンスが抜群で、特に、ドミニク・ピノン扮するルイゾンカリン・ヴィアール扮するメレ・プリュスが、並んで腰掛けてベッドのスプリングを調べるシーンや、ティカティカ・ウォークというダンスを踊るシーンが傑出しています。他にも、肉屋と愛人の情事で軋むベッドの音に、アパルトマンの住人が次々とシンクロしていく様など、随所にユーモアが満載で、アパルトマンの住人も奇人変人ばかりで滑稽です。低予算で製作された長編デビュー作でありながら、独特の美的感覚とユーモア感覚が随所に生かされた本作は、後に製作された彼の名作「アメリ」(2001年)と並んで、ジャン=ピエール・ジュネ監督の代表作のひとつとなりました。

 

主人公のルイゾンを演じたドミニク・ピノンは、本作をきっかけにジャン=ピエール・ジュネ監督作品の常連となり、彼の作品には必ず出演しています。また、長編映画の出演が二作目のカリン・ヴィアールは、美形にも関わらずしれっとコメディを演じるなど、大物感たっぷりです。実際、彼女はセザール賞の常連となるなど、フランスを代表する大女優の一人となりました。日本での公開作が少ないのが残念ですが、最近作では「パリ警視庁:未成年保護部隊」(2011年) 、「エール!」(2014年)で、素晴らしいパフォーマンスを披露しています。

 

ドミニク・ピノン(ルイゾン、クラペットのアパルトマンに越してきた芸人)

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ドミニク・ピノン(1955年〜)はフランス出身の俳優。ジャン=ピエール・ジュネ監督作品の常連で、ジュネの作品には必ず出演している。

 

マリー・ロール・ドゥニャ(ジュリー・クラペット、肉屋の娘)

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マリー・ロール・ドゥニャ(1960年〜)はフランスの女優。英語劇の吹き替えを専門に活躍している。

 

ジャン・クロード・ドレフュス(クラペット、肉屋の親父)

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ジャン・クロード・ドレフュス(1946年〜)はフランスの俳優、コメディアン、作家。ヒールの肉屋をコミカルに演じた本作で、セザール賞助演男優賞にノミネートされている。

 

カリン・ヴィアール(メレ・プリュス、肉屋の親父の愛人)

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カリン・ヴィアール(1966年〜)はフランスの女優。美形にも関わらずしれっとコメディを演じるなど、本作が長編映画出演二作目とは思えない大物感がたっぷり。実際、セザール賞の常連となるなど、後にフランスを代表する大女優の一人になった。日本で公開されている作品は限られるが、最近作では「パリ警視庁:未成年保護部隊」 (2011年) 、「エール!」 (2014年)で、卓越しsたパフォーマンスを披露している。

 

アパルトマンの住人

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先にアパルトマンに住んでいた男。逃亡を図るが、見つかり、肉にされる。

 

アパルトマンの住人

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コンドームを膨らましている。二箇所にパッチが当ててあるが、彼には子供が二人いる。

 

アパルトマンの住人

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自殺未遂常習犯。

 

アパルトマンの住人

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タツムリばかり食べている。このシーンではカメレオンを擬態している。

 

アパルトマンの住人

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おもちゃばかり作っている。 

 

菜食主義者レジスタンスたち

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地底で暮らしている。穀物欲しさに、ジュリーと組んでルイゾンの救出に向かう。

サウンドトラック

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            ・・・リンク先で視聴できます

1. デリカテッセン(オープニング・テーマ)
2. ティカ・ティカ・ウォーク
3. 泡のような回想
4. 水中キッス
5. ひとつの鞄
6. デュオ(屋根の上の二人)
7. 精神錯乱のサーカス
8. アコーデオンのワルツ
9. あなたの涙
10. ボンゴ・ボレロ
11. オールド・ハワイの夢
12. パイ焼き職人
13. パリの舗道
14. 名誉の勲章
15. 闘技士の入場
16. デリカテッセン(エンディング・テーマ)

動画クリップ(YouTube

 

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関連作品

ジャン=ピエール・ジュネ監督xドミニク・ピノンコラボ作品のDVD(Amazon

  「デリカテッセン」 (1991年)・・・マルク・キャロとの共同監督

  「ロスト・チルドレン」 (1995年)・・・マルク・キャロとの共同監督

  「アメリ」(2001年)

  「ロング・エンゲージメント」(2004年)

  「ミックマック」(2009年)

  「天才スピヴェット」(2013年)

 

ドミニク・ピノン出演作品のDVD(Amazon

  「ディーバ」(1981年)

  「フランティック」(1988年)

 

カリン・ヴィアール出演作品のDVD(Amazon

  「ダニエルばあちゃん」 (1990年)・・・輸入版、日本語なし

  「憎しみ」(1995年)

  「斧」 (2005年)

  「しあわせの雨傘」(2010年)

  「パリ警視庁:未成年保護部隊」 (2011年)

  「エール!」 (2014年)

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