「家族の庭」(原題:Another Year)は、2010年公開のイギリスのドラマ映画です。マイク・リー監督・脚本、ジム・ブロードベント、レスリー・マンヴィル、ルース・シーンらの出演で、家庭菜園が趣味の満ち足りた初老の夫婦の日常と、彼らを訪ねてくる友人たちの悲喜こもごもを、四季の風景の移ろいとともに描いています。第83回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされた作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:マイク・リー
脚本:マイク・リー
出演:ジム・ブロードベント(トム)
レスリー・マンヴィル(メアリー)
ルース・シーン(ジェリー)
ピーター・ワイト(ケン)
オリヴァー・モルトマン(ジョー)
デイヴィッド・ブラッドリー(ロニー)
カリーナ・フェルナンデス(ケイティ)
マーティン・サヴェッジ(カール)
ほか
あらすじ
地質学者のトム(ジム・ブロードベント)と医学カウンセラーのジェリー(ルース・シーン)は、長年連れ添ってきた誰もがうらやむ初老のおしどり夫婦です。それぞれ現役で働きながらも、休日は市民菜園での畑仕事に精を出し、穏やかで満ち足りた日々を送っています。唯一の気がかりは、弁護士をしている息子ジョー(オリヴァー・モルトマン)が、30歳を過ぎてもいまだに結婚できずにいることくらいです。そんな夫婦のもとに足繁く通うジェリーの同僚メアリー( レスリー・マンヴィル)は、離婚歴のある独身で、男運のなさを嘆いては酒を飲むという問題を抱えています。ある日、ジョーが恋人のケイティ(カリーナ・フェルナンデス)を連れてやって来ますが、小さい頃から知っているジョーのことが気になりだしたメアリーは・・・。
レビュー・解説
初老の夫婦の元を尋ねてくる人々との会話が主の映画ですが、夫婦が耕す市民菜園の四季に移ろいに重ね合わせ、訪ねて来る人々、特にメアリーの様子が変化していき、冬のクライマックスに向かっていく様が凄まじいです。夫婦の家での会話を主としてここまで盛り上げていくマイク・リー監督の手腕、優れた脚本、優れた俳優によるヴィヴィッドな会話と演技、特にメアリーを演じるレスリー・マンヴィルの熱演が光ります。
原題の「Another Year」は、「また一年」といった意味でしょうか。夫婦の耕す家庭菜園が、春夏秋冬の一年で一回りすることを意味すると思われます。
夫婦は夫が地質学者、妻が医学カウンセラーという設定です。知的ですが気取ったところもなく、感情に流されることもありません。彼らは育てた野菜を料理し、訪ねてくる人々に振る舞い、ワインを飲み、話を聞いては機微に富んだ会話をします。訪ねてくる人々は、いろいろと問題を抱えていますが、夫婦のさりげないもてなしに癒されます。老夫婦が市民菜園を耕す事について、マイク・リー監督は次のように語っています。
これは郊外が舞台ですが、一般論で言えば都市生活者の精神的な部分を描いた映画です。市民菜園は、育む事と、生命のサイクルの暗喩です。
また、冬に向かいメアリーは、強く孤独を感じる事になりますが、初老の夫婦との関係について、マイク・リー監督は次のように語っています。
これはとても難しい問題です。答えのない問題です。何か、救いが欲しいところです。実際、彼女が必要としているのは愛情、ケア、育むことです。この映画の道徳的なジレンマは、どのようにしてそれを与えるか、与えるものの立ち場で何処に線を引くかです。誰かが線を踏み越え、ドアを閉めなければならなくなった時、どうするかです。メアリーは線を踏み越えてしまうのです。
夫婦はとても安定しています。確かに、良い齢のとり方をした夫婦はそうなのかもしれませんが、程度は別にしても、メアリー、ケン、そしてロニーなど、何かと問題を抱えている方が、むしろ普通に見えなくもありません。少なくとも、ドラマを牽引しているのは、これら問題を抱える人たちです。そういう意味では、夫婦はこうした人たちを浮かび上がらせる為の戯画(「トムとジェリー」はアメリカのアニメの主人公の名前)であり、映画という舞台をストイックに切り盛りする監督の化身でもあり、人間が普遍的に持つであろう老いや孤独、心の痛みといった問題はメアリーやケンやロニーに託しているのかもしれません。
ジム・ブロードベント(トム、右)とルース・シーン(ジェリー、左)
レスリー・マンヴィル(メアリー)
ピーター・ワイト(ケン)
デイヴィッド・ブラッドリー(ロニー)
オリヴァー・モルトマン(ジョー、左)とカリーナ・フェルナンデス(ケイティ、右)
市民菜園の春夏秋冬
撮影地(グルーグルマップ)
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関連作品
「ハイ・ホープス 」(1988年)
「ターナー、光に愛を求めて」(2014年)