夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「プラトーン」:ベトナム終戦10年後、初めてベトナム戦争に正面から向き合った名作

プラトーン」(原題:Platoon)は、1986年公開のアメリカの映画です。オリバー・ストーン監督・脚本、チャーリー・シーントム・ベレンジャーウィレム・デフォー出演で、ベトナム戦争の最前線を舞台に、アメリカ軍による無抵抗のベトナム民間人虐殺・放火、米兵たちの間で広がる麻薬汚染、仲間内での殺人、誤爆など、地獄のような戦場、兵士達の赤裸々な姿と現実のベトナム戦争を描いています。アメリカ国内だけで予算の20倍を超える1億3800万ドルの興行収入を記録、第59回アカデミー賞では作品賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:オリバー・ストーン
脚本:オリバー・ストーン
出演:チャーリー・シーン(クリス・テイラー)
   トム・ベレンジャー(ボブ・バーンズ2等軍曹)
   ウィレム・デフォー(エリアス・グロージョン3等軍曹)
   ケヴィン・ディロン(バニー)
   フォレスト・ウィテカー(ビッグ・ハロルド)
   ジョン・C・マッギンリー(レッド・オニール)
   フランチェスコ・クイン(ラー)
   デイル・ダイ(ハリス大尉)
   ジョニー・デップ(ガーター・ラーナー)
   ほか

あらすじ

1967年のベトナム共和国(いわゆる「南ベトナム」)。白人のクリス・テイラー(チャーリー・シーン)は自分と同年代の、しかも少数民族や黒人・貧困層という、アメリカ合衆国の底辺層である若者が、職業と現金を求めて次々と軍に徴兵されていく現実に憤りを覚え、両親の反対を押し切り大学を中退、陸軍に志願、ベトナム戦争の戦場へやってきます。しかし、南ベトナム解放民族戦線のゲリラ戦に悩まされ、高温多湿の鬱蒼としたジャングルで対峙する戦場の過酷さと兵士達の荒んだ心は、彼の想像を遥かに超えるものであり、現地に配属された当日に正義漢ぶった自身の決断を後悔します。

クリスは、カンボジア国境付近のアメリカ陸軍第25歩兵師団のある小隊(プラトーン)に配属されます。そこは、冷酷非情、顔の深い傷痕が象徴するように何度も死線をくぐりぬけ、戦鬼と化した鬼軍曹バーンズ(トム・ベレンジャー)と、戦場にありながらも無益な殺人を犯してはならないという信念の持つ班長のエリアス軍曹(ウィレム・デフォー)が取り仕切る小社会でした。クリスはその中で時に戦い、時に戦友たちとマリファナをたしなみ、徐々に小隊に、兵隊に、そして戦争になじむとともに、人間の最大の罪悪である戦争の真っ只中に放り込まれます。戦争はさらに過酷さを増し、敵のアンブッシュやブービートラップばかりか、味方の誤砲撃までもが小隊を襲い、戦友は次々と倒れていきます。

ある日、生き残った戦友たちはベトコンの基地と思われる小さな村を発見し、真実を吐かない村民をバーンズが銃殺します。バーンズの非情さに怒りを爆発させたエリアスが殴りかかり、「軍法会議にかけてやる」と叫び、彼の平和主義的言動を心良く思っていなかったバーンズとの対立が決定的となります。そんな中、大規模なベトコンの大部隊との戦闘が間近かに迫ってきます・・・。

レビュー・解説 

この映画のすばらしいのは、ベトナム戦争の最前線の小隊に飛び込んだ青年の眼を通して、アンブッシュ、ブービー・トラップ、誤爆、民間人の虐殺、仲間割れなど、その実態をタブーなしに描いている点でしょう。ベトナム帰還兵であるオリバー・ストーン監督のアメリカ陸軍偵察部隊員としての実体験に基づくリアリティと、チャーリー・シーン、オスカーの助演男優賞にノミネートされたウィレム・デフォーなど、気鋭の俳優の熱演も見逃せません。

 

タイトルの「プラトーン」は軍隊の編成単位の一つで、30名から60名程度で構成される小隊の意味です。映画はクリスが配属された小隊(プラトーン)を舞台に、彼が内外で遭遇する事件を描いてます。アン・ブッシュやブービー・トラップ、夜襲など北ベトナム軍に典型的な戦術や、ソンミ村の虐殺事件をにおわせるようなアメリカ兵による民間人の虐殺、オリバーストーンが実際に遭遇したアメリカ兵による民間人のレイプをプロットに織り込み、小隊で遭遇する事件を通してベトナム戦争そのものに向き合っています。

 

また、オリバー・ストーン監督は、撮影に先立ち、軍のアドバイザーの元、夜の歩哨を含む2週間にわたる兵士基礎訓練を俳優達に行っています。これは彼らを一致団結させる為ではなく、睡眠時間を奪い、疲れさせ、実際の兵士の状況に入り込ませる為のものでした。この映画には、まだ無名だったジョニー・デップが出ているのですが、彼はそうした厳しいオリバー・ストーン監督の指導に耐えきれず、吐きそうになり、連続してカットを撮り続ける事ができなくなるほどでした。しかしながら、オリバー・ストーン監督はジョニー・デップをハリウッド映画に初めて起用しただけではなく、「プラトーン」の主役にすることを考えるほど高く評価していました。後のジョニー・デップの活躍を見ると、オリバー・ストーン監督の眼に狂いは無かったことがわかります。

 

ベトナム終戦から40年になりますが、ベトナム戦争を描いた有名な映画としては、

(1975年 サイゴン陥落、南ベトナムが崩壊してベトナム戦争終結
1978年 「ディアハンター」公開
1979年 「地獄の黙示録」公開
1986年 「プラトーン」公開
1987年 「フルメタル・ジャケット」公開
1987年 「ハンバーガー・ヒル」公開
1987年 「グッド・モーニング・ベトナム」公開
・・・

 

などがあります。「ディアハンター」がラスベスにロシアン・ルーレットをしにいく男の話を、「地獄の黙示録」がジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」を、それぞれベトナム戦争の場に置き換えて描いているのに対して、「プラトーン」は初めてベトナム戦争に正面から向き合って描かれたハリウッド映画です。1970年代半ば、ハリウッドではベトナム戦争がタブーであり、「プラトーン」のように正面から向き合う内容の映画はなかなか日の目を見ることができませんでした。実際、1976年頃には完成していたにもかかわらず、「プラトーン」の脚本は数多くのスタジオに拒否され続け、6000万ドルの低予算で映画化を実現するまでに約10年かかったことになります。以降、「フルメタル・ジャケット」、「ハンバーガー・ヒル」、「グッド・モーニング・ベトナム」とベトナム戦争の事実や、現実を踏まえたヒット作が続きますが、そういう意味では、時期的に早かった「ディアハンター」、「地獄の黙示録」の名作と並んで、「プラトーン」は初めてベトナム戦争に正面から向き合った映画として高く評価されるべき作品です。

 

ちなみに、DVDのカバー写真にも使われている有名なシーンは、1968年に Art Greenspon によって撮影された写真を模したものだと言われています。

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チャーリー・シーン

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トム・ベレンジャー

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ウィレム・デフォー

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ジョニー・デップ

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