「ファッションが教えてくれること」(原題:The September Issue)は、2009年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。ファッション界において絶大な影響力、権力と、シングルマザーとしての一面を併せ持つ「ヴォーグ」編集長アナ・ウィンターと、840ページ、重量約5ポンド(約2キロ)とこれまでに出版された雑誌の中で最大のもののひとつとなった「ヴォーグ」2007年9月号の制作に密着しています。
「ファッションが教えてくれること」(Amazon)
目次
スタッフ・キャスト
監督: R・J・カトラー
出演: アナ・ウィンター(「ヴォーグ」編集長)
トム・フロリオ(同発行人)
キャンディ・プライス(同エグゼクティブ・ファッション・ディレクター)
グレイス・コディントン(同クリエイティブ・ディレクター)
アントレ・L・タリー(同エディター・アット・ラージ)
シエナ・ミラー(英女優、モデル、ファッション・デザイナー)
タクーン・パニクガル(ファッション・デザイナー)
カール・ラガーフェルド(独デザイナー、アーティスト、フォトグラファー)
ジャン=ポール・ゴルチエ(仏ファッション・デザイナー)
オスカー・デ・ラ・レンタ (ファッション・デザイナー)
ヴェラ・ウォン(ファッション・デザイナー)
マリオ・テスティーノ(フォトグラファー)
ほか
あらすじ
アメリカ版ヴォーグ2007年9月号、締め切り5ヶ月前。一年で最も重要な号の準備に編集部は混乱、カラー・ブロッキングのページの為の服をアナに却下され途方に暮れる編集部員を、クリエイティブ・ディレクターのグレイス・コディントンが慰めます。ロングアイランドのアナの別荘。大学で法律を学ぶ予定のアナの娘は、母の元でファッションの仕事の仕事はしないと語り、アナは複雑なまなざしで娘を見つめます。締め切り6週間前。アナのチェックを通過し、撮影を終えたページから次々とレイアウト・ボードに貼られていきます。アナはその一枚一枚を見て、採非を即断します。グレイスは自分の担当ページがボツになり、ため息をつきます。ローマでのシエナ・ミラー撮影の日。フォトグラファーのマリオ・テスティーノの意向でシエナのウィッグが変更になり、担当編集者は慌てます。締め切り1週間前。編集部に届いたマリオの写真をアナがチェックし、「写真が少なすぎる。どれも表紙に向かない。」と、マリオを編集部へ呼び出し、2枚の写真を合成することで解決します。9月号の締め切りの日、グレイスが最終決定のレイアウト・ボードを見つめます。アナは一旦却下したものの、全体のバランスをみて再度組み込んだ為、グレイスの担当のページが復活しています。やがてボードの写真が全て取り払われ、休む間もなく次の号の準備が始まります。
レビュー・解説
クリエイティブ・ディレクターのグレイス・コディントンのパートやデザイナーにもかなり時間を割いており、「ヴォーグ9月号」の企画から発行までのプロセスがエキサイティングです。非情で冷酷とも言われるアナ・ウィンターは、姓のウィンターに因んで「核の冬」(Nuclear Winter:核戦争が起った場合,大量の噴煙が太陽光を遮り,気温が大幅に低下、厳しい冬の現象が生起するとの仮説)、名前のアナに因んで「氷の女王」(Ice Queen)と呼ばれるますが、ドキュメンタリーはアナの人間的な側面も捉えています。彼女を良く知る人たちは、ヴォーグの業界への影響力が彼女の感性と無駄のないトップダウン型のマネジメントに支えられている事、ヴォーグで生き残っていく為にはタフでなければならないことを示唆します。「ヴォーグ」のサクセス・ストーリーを目に心地よく描いた「ファッションが教えてくれること」では、編集者/経営者としての厳しさの片鱗を伺うことができるものの、アナ・ウィンターの描写はシンプルでマイルドです。浮き沈みの激しいファッション業界に四半世紀も君臨するには、映画では描ききれないほどの並々ならぬ強さが必要だったのではないでしょうか。
写真の撮影風景〜「ファッションが教えてくれること」
写真を絞り込んでレイアウトボードに貼る〜「ファッションが教えてくれること」
一度ボツになり復活した写真〜「ファッションが教えてくれること」
年齢とともに美しくなるアナ(撮影時56歳)〜「ファッションが教えてくれること」
原稿を束ねた本を家に持ち帰り仕事をするアナ〜「ファッションが教えてくれること」
写真が思う様に仕上がらず、沈思黙考するアナ〜「ファッションが教えてくれること」
母の元では働かないという娘に複雑な表情のアナ〜「ファッションが教えてくれること」
トム・フロリオ(「ヴォーグ」発行人)
90年代初頭にアナがヴォーグの表紙に引き戻すまで、誰も毛皮を着ていなかった。我々が後押しすれば、それは売れる。
ロレアル社がデザイナーの件でアナに相談する。アナの役目はファッション業界のリーダーだ。
キャンディ・プライス(「ヴォーグ」エグゼクティブ・ファッション・ディレクター)
キャンディ・プライス:すべて、アナの感性よ。ヴォーグはアナの雑誌。彼女が何もかも決める。アナのヴォーグという教会ね。
インタビュアー:アナは司祭のようなもの?
キャンディ・プライス:いいえ、教皇よ。
トム・フロリオ(「ヴォーグ」発行人)
彼女は冷たいわけじゃない。気さくに接しないだけだ。 彼女は忙しい。彼女はビジネスに徹しているんだ。
アナの代わりに僕が愛想よく振る舞う。
グレイス・コディントン(「ヴォーグ」クリエイティブ・ディレクター)
生き残る道を学んでいかないと。自分の存在を認めさせ、必要とされるようになり、自分のやり方を見つけること。多くの人が来ては去っていく。つらさに耐えられなくなるのね。
「核の冬」、「氷の女王」とも言われる彼女の編集/経営スタイルは、様々なインタビューにおける彼女の言葉を拾う事により、より明確に浮かび上がります。
「もし冷たいとか無愛想に見えるなら、それは単に、私がベストを求めて戦っているからなのよ。」
「誰でも少なくても一度は解雇されるべきよ。私はそれでいい事を学んだわ。」
「私は学究的に成功したわけではないけれど、そう見せることにはかなりの時間を費やしたわ。」
「人々は優柔不断を最も嫌うの。例え不確かな事でも、私は明確に知っているように話し、決定するわ。」
「権力を求める現代女性としてまともに扱ってもらう為には、男性的に見えるべきであるという意見にはがっかりだわ。ここはサウジアラビアじゃないのよ、アメリカよ。」
「私は代表するのが得意よ。人は真の責任を負うことにより、素晴らしい仕事をするようになるわ。でも、サプライズは嫌。何が起こっているか、私は常に知っていたいの。」
「私は気配りしないわ。決して良い事とは思わないけど、市場調査にも従わないの。」
「企業がチームワークで経営されていると聞くと、私は落ち込んでしまうの。物事を進めるには、ビジョンと情熱を持ったリーダーが必要よ。」
「もし、文脈のない偉大なファッション写真に出会ったら、それはニューヨーク・タイムズの見出しのように、世界で何が起こっているのか伝えているのよ。」
「ファッションは知っているか、知らないかのどちらかよ。」
10 quotes that prove Anna Wintour is a born boss(The Telegraph)
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関連作品
「ヴォーグ」のクリエイティブ・ディレクター、グレース・コディントンのメモワール
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アナ・ウィンターをモデルにしたと言われる映画
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ファッション業界を描いた映画のDVD(Amazon)
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