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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「君と歩く世界」:両足を失ったシャチの調教師の女性と、朴訥な労働者階級の格闘家のハードなラブ・ストーリー

フランス映画 ベルギー映画

「君と歩く世界」(原題:De rouille et d'os、英題:Rust and bone)は、2012年公開のフランス・ベルギー合作の映画です。クレイグ・デイヴィッドソンによる同名の短編集を原作とし、ジャック・オーディアール監督、マリオン・コティヤールマティアス・スーナールツ出演で事故で両足を失ったシャチの調教師と、彼女の心の支えになろうとする朴訥な格闘家の男との愛を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ジャック・オーディアール
脚本:ジャック・オーディアール/トーマス・ビデガン
原案:クレイグ・デイヴィッドソン「Rust and Bone」
出演:マリオン・コティヤール(ステファニー、シャチのトレーナー)
   マティアス・スーナールツ(アリ、警備員として働く格闘家)
   アルマン・ヴェルデュール(サム: アリの息子)
   セリーヌ・サレット(ルイーズ、ステファニーの友人)
   コリンヌ・マシエロ(アナ、アリの姉、スーパーのレジ係)
   ブーリ・ランネール(マルシャル、監視カメラ設置業者)
   ジャン=ミシェル・コレイア(リシャール、 アナの夫)
   ほか

あらすじ

南フランス、アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師、ステファニー(マリオン・コティヤール)は、シャチのショーを指揮している最中にステージが崩落、両脚の膝から下を失う大怪我を負ってしまいます。過酷なハンディキャップを抱え、彼女は生きる希望を失っていきます。そんな失意のどん底に沈んだステファニーの心を開かせたのは、ナイトクラブの元用心棒で今は夜警の仕事をしているシングルファーザー、アリ(マティアス・スーナーツ)でした。彼は他者への愛を表現する術を知らない不器用な男でしたが、他の人々のように同情心でステファニーに接するのではなく、両足がないことを知りながら彼女を海の中へと導いていきます。やがてステファニーは、粗野だが哀れみではなく実直に接してくるアリとの触れ合いを重ねるうちに、諦めていた生きる喜びを呼び覚まされていきます・・・。

レビュー・解説 

冒頭、アリの息子が空腹を訴えるシーンから始まるこの映画は、甘いラブストーリーを連想させる邦題とは裏腹に、血と肉の骨太な実存を感じさせます。愛を表現する術を知らない不器用な格闘家に扮するマティアス・スーナールツと、それに救われ、やがて包み込んでいくようなマリオン・コティヤールのパフォーマンスが凄いです。

 

前作「預言者」でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞したジャック・オーディアールは、犯罪に生きる男たちの姿をとらえたフィルム・ノワールで知られる映画監督ですが、「預言者」で刑務所という閉鎖した重苦しい空間を描いたことから、「次はもっと明るい、女性も登場する広い世界を描きたい」として生まれた作品です。脚本を書き上げた段階で、ステファニー役はマリオン・コティヤール以外にいないと、ジャック・オーディアール監督は考えました。

 

一方、マリオン・コティヤールは、環境活動家、動物愛好家かつ、グリンピースの代弁者でもあり、ショーのシャチを扱うこの映画の出演には抵抗がありましたが、かねてからやりたかったジャック・オーディアール監督の作品であることと、今までに演じたことがない稀な境遇に陥る女性役であることから、出演を決めました。この映画と「ダークナイト・ライジング」の撮影時期が重なり、彼女は子供が生まれた直後にも関わらず、アメリカとフランスを行ったり来たりで撮影するというハードなものになりましたが、困難をものともせず、常に新たな挑戦をすることにより未知のキャラクターを学び自分のものにしていくという、映画に対する彼女の果敢な姿勢が伺われます。また、彼女はセックス・シーンが大の苦手なのですが、この作品は例外だったと語っています。

私はとても彼女のキャラクターに入り込んでいたので、彼女が楽しめたことがとても嬉しかったわ。これは愛の映画であり、肉欲の映画であり、血の味のする映画であり、心とセックスの映画なの。だから、セックス・シーンがないと、何かが欠けてしまうの。(マリオン・コティヤール

 

ハードな展開のストーリーですが、薄っぺらくならずにキャラクターに厚みを出して来るのは、マリオン・コティヤールならでしょう。彼女は、先輩の大女優であるケイト・ブランシェットや、ジュリアン・ムーアにも絶賛されていますが、アカデミー主演女優賞を受賞した「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」を観ただけでは、その素晴しさの半分しかわからないかもしれません。彼女は演じる役によって表情が変わり、作品の中でもストーリーに添って変えていきます。またそれがことごとくリアルです。彼女は、ステファニーの役作りに高校の同級生の少女二人と相手役のマティアス・スーナールツを利用していますが、抽象論ではなく実際の「人」に基づいた緻密な役作りがリアリティの秘訣かもしれません。

役作りをする時はいつも、人に触発されるわ。私の周囲の人、私の知らない人、本に読んだ様々な人物などです。(マリオン・コティヤール

 

原題の「De rouille et d'os」は「錆と骨」と言う意味で、ボクシングで殴られ、歯で唇を切って口の中に広がった血の味のことです。これは、原作のクレイグ・デイビッドソンの短編集のタイトルの流用ですが、現実の過酷さを容赦なく描写する原作のトーンは残しながら、映画は男と女のむき出しの感情をぶつけ合いとその関係の変遷に光と希望を見い出しており、また足を切断する人物を原作の男性から女性に変えています。原作者のクレイグ・デイヴィッドソンは、この変更を認めたばかりか、原作より良いと絶賛しています。

 

思うに、人は痛みがあるから、その生を実感できるのかもしれません。事故の前は、ステファニーもアリも愛とは無縁でした。

ステファニー:彼女は?恋人はいるの?
アリ:いや。
ステファニー:いないの?
アリ:恋人じゃない。
ステファニー:じゃ、何?ヤルだけの関係?
アリ:(頷く)
ステファニー:何人もいるの?
アリ:(首を振る)
ステファニー:こういう話はいや。
アリ:別にどうでも。君の男関係は?
ステファニー:事故の前?
アリ:ああ。
ステファニー:シモンがいた。
アリ:一人だけ?
ステファニー:他にもいたけど、数は多くないわ。あの頃の私は見られるのが快感・・・。男達を誘惑して、その気にさせるの。でも、その先は興味ない。
アリ:今は?
ステファニー:何もない。感覚も忘れたわ。まだ、機能するかしら?
アリ:欲望もない?
ステファニー:そうは言ってない。欲望はある。もうこの話は終り。

 

<ネタバレ>

ステファニーは事故で足を失うという痛み、アリは子供を失いかけた痛みから、愛を実感するようになります。

アリ:切るな、お願いだ。

ステファニー:切らないわ。

アリ:三時間も昏睡状態だった。死んだのかと・・・。恐ろしかった・・・。俺を見捨てるな。

ステファニー:見捨てないわ。

アリ:愛してる。

アリ:(独白)手や足を骨折すると、やがてカルシウムが表面を覆う。より頑丈になることも。だが、決して元の状態には戻らない。戦うたびにそのことを考える。最新の注意を払う。だが、いつか、必ず痛みが襲う。針で刺す様に。ガラスが割れるように。

痛みがあるから、愛に癒され、愛を覚えるが、愛もまた壊れやすいものであるから、なおさら尊いのかもしれません。

<ネタバレ終わり>

 

マリオン・コティヤール(ステファニー)

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ベランダの車いすの上でステファニーがとるシャチを操るアクションは、当初、脚本にはなく、マリオン・コティヤールの提案で取り入れられたものですが、最終的に予告編にも取り入れられる見どころのひとつになりました。

 

マティアス・スーナールツ(アリ)

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言葉少なで、愛情表現の仕方を知らない朴訥な格闘家を、マティアス・スーナールツは彼自身が本当にそうなのではないかと思われるほど、よく演じています。

撮影地(グーグルマップ) 

ステファニーが勤めていたマリンランド 

 

ステファニーとアリが出会ったディスコ

動画クリップ(YouTube) 

ステファニーがシャチと心を通わせるするシーン

 

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関連作品

「君と歩く世界」の原作本(Amazon

  

ジャック・オーディアール著「君と歩く世界」( 原題:RUST AND BONE)

 

ジャック・オーディアール監督作品のDVD(Amazon

  「リード・マイ・リップス」(2001年)

  「真夜中のピアニスト」(2005年)

  「預言者」のDVD(2009年)

  「ディーパンの闘い」(2015年)

 

マリオン・コティヤール出演作品のDVD(Amazon

  「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」(2007年)

  「インセプション」(2010年)

  「コンテイジョン」(2011年)

  「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)

  「ダークナイト ライジング」(2012年)

  「エヴァの告白」(2013年)

  「サンドラの週末」(2014年)

  「ディオールと私」(2015年)

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