夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ビル・カニンガム&ニューヨーク」:シンプルでストイックなストリート・ファッション写真家のドキュメンタリー

ビル・カニンガム&ニューヨーク」(原題:Bill Cunningham New York)は2010年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。ニューヨーク・タイムズ紙でファッション・コラムと社交コラムを担当、50年以上にわたってニューヨークのファッション・トレンドを写真に収めてきた、ストリートファッション・スナップの元祖的存在と言われる写真家ビル・カニンガムの仕事ぶりと、謎に包まれた私生活に迫ったドキュメンタリーです。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:リチャード・プレス
脚本:リチャード・プレス
出演:ビル・カニンガム
   アナ・ウィンター
   トム・ウルフ
   エディッタ・シャーマン
   ほか

あらすじ

ニューヨーク・タイムズ紙で長年ファッション・コラム「ON THE STREET」や社交コラム「EVENING HOURS」を担当しているファッション・フォトグラファー、ビル・カニンガム。50年以上もニューヨークの街角に出てファッショントレンドを追い続け、ストリートファッション・スナップの元祖とも言える彼に撮られることは、ニューヨーカーにとっては誇りです。彼は80歳になる今でもブルーの作業着姿で自転車に乗って街角に現れ写真を撮り、夜にはチャリティーパーティーやイベントに顔を出し、さらにパリのファッション・ウィークに出向くなど、仕事に情熱を燃やし続けています。客観性を保つためにパーティーでは食事はおろか、水すら口にしないというほど、仕事に対する姿勢はストイックであり、世界中のファッション愛好家が尊敬する存在です。その一方で、彼が雨の日に着るポンチョはテープで補強され、彼の住むカーネギーホールの上のスタジオアパートの小さな部屋は、今まで撮影した全ネガフィルムが入ったキャビネットのほかは、簡易ベッドが置いてあるのみです。コーヒーは安いほどおいしいと主張するなど質素な生活を送り、仕事以外には無頓着です。2008年、ビル・カニンガムはフランス文化省から芸術文化勲章オフィシエを叙勲されます。その時に催されたパーティーで、「私のしていることは仕事ではなく喜び」と彼は語ります。仕事をこよなく愛するビル・カニンガムの姿をカメラは追います。

レビュー・解説 

80歳を過ぎてなお、ニューヨーク・タイムズ紙にふたつのコラムを持ち、街角で写真を撮り、夜のパーティに顔を出し、パリのファッション・ウィークに出向くビル・カニンガムは、まるで少年のような人懐っこい笑顔が魅力的です。母から受け継いだという細やかさとともに、父から受け継いだという社交性が、ファッション愛好家に好かれ、ヴォーグ編集長のアナ・ウィンターをして「私たちはビルのために服を着るのよ」と言わしめた彼のポジションを作ったのかもしれません。

 

金より自由を優先する彼のライフスタイルは、ストイックなほどシンプルです。「キッチンやバスルームは掃除を必要とする部屋が増えるだけ」という彼の住むアパートは、ネガを保管するキャビネットと簡易ベッドが置いてあるだけです。週末には教会に通う彼ですが、仕事に打ち込むあまり恋愛にいそしむ事もありませんでした。まるで仙人のようにストイック生活ですが、ファッションが好きな彼はそれでとても幸せそうで、そこには一種の清々しささえ漂っています。

 

この映画の制作期間は10年で、そのうちうち8年はビルを説得するのにかかった時間だそうです。ビル・カニンガムは撮影に乗り気ではなく、撮影スケジュールも組めませんでした。撮影クルーは1年間、来る日も来る日もニューヨークタイムズのオフィスで待機、彼が出てくるのを待ち受けました。ワイヤレスマイクを装着させてもらうのに1か月かかり、それも気の向いた時にだけ可能で、「今晩パーティーに同行させてもらえないか?」「自転車の後を追って撮影していいか?」といったお願いごとは、机の上に残すメモ書きでビルに伝えられました。

 

ビル・カニンガムの言葉をいくつか。

The best fashion show is definitely on the street. Always has been, and always will be.

最高のファッションショーは、常にストリートにある。今までもそうだったし、これからもそうだ。

I let the street talk to me, and that's how you get it. When you're out, you stay out and the street speaks to you. That's how you find out what people are wearing, what's new, what's happening. If you're not on the street, you don't know anything. It's simple: Go on the street and do it.

街が語りかけてくるのを待つんだ。街に身を置けば、街が語りかけてくる。それで人々が何を来ているのか、何が新しいのか、何が起きているのかわかるんだ。街に出なければ何もわかりはしない。簡単なことだ。街に出て、街の語りかけるのを待つんだ。

I'm not a photographer. I just photograph what I see.

写真家じゃない。ただ見たものを撮り、記録しているだけだ。

The problem is I'm not a good photographer. To be perfectly honest, I'm too shy. Not aggressive enough. Well, I'm not aggressive at all. I just loved to see wonderfully dressed women, and I still do. That's all there is to it.

問題は、私はあまり良い写真家ではないことだ。正直に言えば、私は弱気だ。私は写真家ほど積極的ではない。いや、まったく積極的ではない。私は素晴らしく着飾った女性を観るのが好きだったし、今も好きだ。それがすべてさ。

The wider world perceives fashion sometimes as a frivolity that should be done away with in the face of social upheavals and problems that are enormous. The point is, in fact, that it’s the armor to survive the reality of everyday life.

ファッションに否定的な声もある。「混乱を極め問題を抱えた社会で、ファッションが何の役に立つ? 事態は深刻だ」と。だが要するに、ファッションは鎧なんだ、日々を生き抜くための。手放せば文明を捨てたも同然だ、僕はそう思う。

If you don’t take money, they can’t tell you what to do, kid. That’s the key to the whole thing.

金をもらわなければ、彼らは口出しできない。すべてに言える事さ。

Money is the cheapest thing. Freedom is the most expensive thing.

金は最も安っぽいものだ。自由は最も高価なものだ。

I just try to play a straight game, and in New York that's very... almost imspossible. To be honest and straight in New York, that's like Don Quixote fighting windmills.

私は誠実に働こうとしているだけだ。それがニューヨークではほぼ不可能だ。正直でいることは、風車に挑むドンキホーテのようだ。

My dear, it’s not work, it’s pleasure.

仕事じゃない。喜びだ。

I don’t work, I only know how to have fun everyday.

私は仕事をしない。毎日、どうやって楽しむか知っているだけだ。

He who seeks beauty will find it.

美を追い求めるものは、いつか美を手にするだろう。

 

ビル・カニンガムが使用するカメラ

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ビル・カニンガムの最近の作品(ニューヨークタイムズ

www.nytimes.com 

街でファションを発掘するビル・カニンガムと対照的に、ヴォーグ誌編集長アナ・ウィンターは同じニューヨークでファッションをリードする立場ありますが、彼女とヴォーグ誌の発行のプロセスを追った「ファッションが教えてくれること」を併せて観ると、違った視点からファッションを楽しめるのではないかと思います。

追記

ビル・カニンガムさんは2016年6月25日、脳卒中の為、入院先のニューヨークの病院で亡くなりました。87歳でした。多くの業績で尊敬を集めながら、謙虚さを貫かれたビル・カニンガムさんのご冥福を謹んでお祈りいたします。

 

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関連作品 

ニューヨークのファッション・リーダーを描いた映画のDVD(Amazon

  「ファッションが教えてくれること」(2009年)

 

ファッション業界を描いた映画のDVD(Amazon

  「プレタポルテ」(1994年)

  「アルマーニ」(2000年)

  「プラダを着た悪魔」(2006年)

  「ファッションを創る男 カール・ラガーフェルド」(2007年)

  「ココ・アヴァン・シャネル」(2009年)

  「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」(2012年)

  「イヴ・サンローラン」(2014年)

  「ディオールと私」(2015年)

 

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