夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

【閑話休題】中露機の韓国防空識別圏侵入が意味すること

先日、投稿した拙稿【閑話休題】韓国の本音、韓国政府の交渉術、恨、日本が考えたいこと - 夢は洋画をかけ廻るを、knori さんにご紹介いただきました。

 

knori.hatenadiary.jp

 

どうも、ありがとうございますm(_ _)m。

 

さて、その私の拙稿で、

米中の防衛ラインが38度線から後退してきた場合に、日本はどう対処するのかをよく考える必要がある
【閑話休題】韓国の本音、韓国政府の交渉術、恨、日本が考えたいこと - 夢は洋画をかけ廻る

と書いたばかりなのですが、なんと竹島付近で中露機が韓国の防空識別圏に侵入、 韓国軍機が領空侵犯したロシア機に360発も警告射撃をするという事件が起きました(ロシアは否定)。まさに米中防衛ラインが38度線から竹島まで、南下してきたようで興味深いです。

 

目次

中露機が竹島付近で韓国防空識別圏に侵入

韓国軍の合同参謀本部によると、

 

さらに、

  • 中露が合同訓練をしていた可能性がある。中国機は日本の防空識別圏にも入った。(韓国軍関係者)
  • 午前中に韓国防空識別圏に入った軍用機は中国のH6爆撃機2機、ロシアのTU95爆撃機2機と1機のA50(韓国軍合同参謀本部関係者)

  • 韓国空軍戦闘機は韓国防空識別圏に無断で入った中国とロシアの軍用機に計30回ほど無線で警告通信を行ったが、応答がなかった。独島(竹島)付近の領空を2回にわたり侵犯したA50に向けては、1度目は約80発、2度目は約280発の警告射撃を実施した。(聯合ニュース

  • 日本海を飛行していたロシア軍用機が2度にわたり竹島周辺で領空侵犯した。自衛隊機の緊急発進により(ロシア軍機に)対応した。(韓国軍機による警告射撃も)竹島の領有権に関するわが国の立場に照らして到底受け入れられず、極めて遺憾であり、韓国に対し強く抗議するとともに再発防止を求めた。(菅官房長官) 

  • 露中の合同飛行は2019年の軍事協力計画の枠内で実施されたものであり、第三国に対してとられた行動ではない。(ロシア国防省
  • ロシア国防省は、自国の戦略爆撃機が韓国領空を侵犯したことを否定。韓国の軍用機がロシア爆撃機の進路を横切り、同爆撃機と交信しなかったと指摘したほか、韓国のパイロットが公海上でロシア軍機の飛行を邪魔したのはこれが初めてではないとした。(ロシア通信)

  • 韓国の防空識別圏は領空ではなく、いずれの国もそこにおいて移動の自由を享受できる。(中国外務省)

という情報もあります。

 

A-50(Amazon

 

TU-95(Amazon

 

TU-16(H6は中国ライセンス生産機)(Amazon 

THAAD(終末高高度防衛ミサイル)をめぐる中露の圧力

中露機がつるんで防空識別圏に侵入するのは珍しく、またロシア機が竹島付近に侵入するのは始めてのようです。軍事専門家による分析はまだ見ていませんが、私の気づいたことを書いておきます。

  • 中露両国は、中露善隣友好協力条約(2001年)により軍事的にも協力関係にあり、度々、合同軍事演習を行っている。
  • 米軍が韓国に配備したTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)に、「アメリカのグローバルなミサイル防衛網の一角」として中露は強く反発している。
  • 中国は 韓国の THAAD 配備受け入れへの報復として、韓国人への商用複数ビザの発行や韓国芸能人の中国興行を制限、また、THAADの用地を提供したロッテに制裁措置を講じ、百貨店などを中国全土に100店舗以上展開するロッテの中国市場からの撤退を余儀なくするほど追い込んだ。また現代自動車も制裁を受け、販売低迷により人員削減と一部工場の閉鎖に追い込まれた。
  • 韓米同盟遵守、及び北朝鮮の核、ミサイル開発に対抗する為に、韓国は THAAD を導入せざる得ず、これを見てとった中国は韓国に対して、
    1. THAAD の追加配備をしない
    2. アメリカのミサイル防衛に参加しない
    3. 日・韓・米の安保協力を軍事同盟化しない
    という要求を突きつけた。対中貿易に大きく依存し、中国による経済制裁に苦しんでいた韓国はこれらを即刻、受け入れた。(2017年10月)

  • (日米韓3カ国連携は)軍事同盟の水準にまで発展することは望ましくない。米国だけでなく、日本との協力も重要になってきているが、あくまでも北の核とミサイルに対応するためのもの。日本が北の核問題を理由に軍事大国化の道を歩もうとするなら、東南アジア諸国連合の国々との関係においても望ましくない。(文大統領、2017年11月)

  • 米国の提案で日米韓の3ヶ国で行う計画だった軍事演習を、韓国の反対により米韓の2ヶ国で行う。(2017年11月)
  • 韓国海軍国際観艦式の際に自衛艦旭日旗を掲揚しないよう要請。(2018年9月)
  • 自衛隊哨戒機に韓国海巡洋艦がレーダー照射。(2018年12月)
  • 韓国海軍艦艇から3カイリ(約5.5キロ)以内に近付いた軍用機には、火器管制用レーダーを照射して警告すると、国際法上根拠のない異常な指針を韓国国防省が日本の防衛省に通告(2019年1月)
  • 韓国大統領府の国家安保室長が日韓秘密軍事情報保護協定(2016年)を将来的に終了することを示唆(2019年7月18日)
  • アメリ国務省報道官が「韓日の日韓秘密軍事情報保護協定を全面的に支持する。これは、北朝鮮の最終的で完全に検証可能な非核化を達成し、地域の安定および平和を維持するための重要な手段」と牽制。(2019年7月18日)

 


アメリカ陸軍 THAAD 弾道弾迎撃ミサイルシステム(Amazon

中露機の韓国防空識別圏に侵入が意味すること

中露にとって韓国の経済がどうなろうが、たいした問題ではないでしょう。両国の最大の関心事は米軍の THAAD の脅威を排除することと日米韓を分断すること。そんな中、中国に締められてもあからさまに米国にたてつくことができない韓国は、矛先を日本に向けているように見えます。日韓の関係が悪化する中、

  • 日韓秘密軍事情報保護協定の終了を示唆した韓国をアメリカが牽制した為、中露が韓国防空識別圏に侵入し、「韓国よ、わかってるな」と釘を刺す
  • 領空侵犯に対する韓国空軍の反応についてロシア機がデータを収集する
  • これをきっかけに竹島北方領土尖閣諸島と各々が日本との領土問題を抱える中・露・韓が協力、日本包囲網を作るというお互いのメリットを出しながら、日・韓・米の安保協力に楔を入れるという一挙両得を狙う

ように見えます。ロシアは軍事力ランキング第二位で、中国は第三位、この二カ国がつるんで見せることは、アメリカに対して非常に大きい意味を持ちます。また、ロシア機だけが警告射撃を受けるほど奥深く侵入していることも興味深いです。経済で大きなプレゼンスを示す中国に対して、ロシアは軍事力で大きなプレゼンスを示そうとしているようにも見えます(他の国が抗争しているところに出没し、俺を忘れるなよとプレゼンスを示して利益を得ようとするのはロシアの得意技)。

余談:南下する米中防衛ライン

かつて計画されていた日米韓の合同演習は中止となり、北朝鮮からの圧力で米韓の合同演習も小規模化しています。軍事境界線の敵対行為停止が南北で合意され、非武装地帯の地雷撤去が始まり、軍事境界線を挟んで飛行禁止区域や軍事訓練禁止区域が設定されました。韓国の情報機関からは対北の諜報や公安の機能がなくなり、脱北者は地方の学校に送り込まれて親北教育に従事、学校の教科書も北朝鮮を賛辞する内容に書き換えられています。

 

緊張緩和が進み、THAAD が配備された頃の状況からはどんどん変化しています。このままでは、韓国軍に対する戦時作戦統制権が米韓連合司令部から韓国軍に移管され、THAAD も在韓米軍も撤収ということになるかもしれません。今回、中露機が侵入した離於島竹島日中韓防空識別圏が交錯する地域ですが、米軍が引けばこうした地域が新たな米中防衛ラインになっていくかもしれませんね。南北の緊張緩和は見越してか、アメリカはアジアで最も緊迫した地域を台湾と想定しているようです。アメリカが日本を無視するということはないかと思いますし、日本がいきなり中華民国日本自治区とか、ロシア連邦日本共和国とか、朝鮮大和連合国日本道とかになることもないかと思いますが、今度は日本が中国、ロシア、ひょっとしたら韓国にも締め上げられる立場になってしまうかもしれませんね。

 

さて、冒頭で紹介した knori さんによると、

たぶん、韓国は、日本が普通の国集団的自衛権)になることを恐れているのか、あったまにきているのか、根本は、というか政治家の本音はここにあるのじゃないかと思う。

あんだけの戦争をした国が、個々人はあっけらかんとしていて、集団的自衛権を持たれたら、やっぱ、周りの国は、嫌だろうなぁ、と思う。

韓国と日本 - knoriのブログ 

 

とのこと、ごもっともです(「中・露・韓が」という見方もできるかもしれません)。終戦後、アメリカが日本の面倒を一手に見てくれたおかげで、日本人はあっけらんかんと自由を享受できました。しかし、そんなアメリカもかつての世界の警察としての権威を失い、猛追する中国と貿易戦争を始め、世界秩序維持の分担を求めるなど、やや息切れしつつあります。改憲在日米軍基地も嫌々な日本の面倒を、どこまで見てもらえるか、ちょと心配です。そう言えば、終戦当時には、日本を分割統治するという案もあったとか・・・。いっそ手分けして、日本の面倒を見てもらうという手もある?

 

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近畿は中国とアメリカの共同統治だったらしいけど、今の米中関係だと中国は近畿を全部よこせといいそうですね。あるいは近畿をアメリカに渡して花を持たせ、山陽、山陰、九州(沖縄も?)をイギリスから買っちゃうかな?自由に太平洋に出入りできるし、地球温暖化で注目されている北極海航路につながる日本海を安定航行できるので、ロシア、中国にはメリットが大きそうです。でも、こうなるとアメリカにとって日本の戦略的な価値は小さくなり、七面倒臭いだけになってしまう?