夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「最高の花婿」:保守的フランス人の両親とアラブ系、ユダヤ系、中国系、アフリカ系の移民の娘婿達の差別ネタの応酬が魅力の爆笑コメディ

「最高の花婿」(原題:Qu'est-ce qu'on a fait au Bon Dieu ?、英題:Serial (Bad) Weddings)は2014年公開のフランスのコメディ映画です。フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督、クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビーら出演で、 多様な人種や文化、宗教が混在するフランス社会を背景に、四姉妹の結婚相手をめぐる大騒動をユーモラスに描いています。フランス本国で1,300万人の観客を動員、2014年の年間興収成績1位のヒットとなり、世界146ヶ国で公開され、高いスコアを記録した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
脚本:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン/ギィ・ローラン
出演:クリスチャン・クラヴィエ(クロード・ヴェルヌイユ、四姉妹の父)
   シャンタル・ロビー(マリー・ヴェルヌイユ、クロードの妻、四姉妹の母)
   アリ・アビタン(ダヴィド・ヴェニシュ、次女の夫、ユダヤ人、事業に失敗)
   メディ・サドゥン(ラシッド・ベナセム、長女の夫、アラブ人、国選弁護士)
   フレデリック・チョー(フシャオ・リン、三女の夫、中国人、銀行の幹部)
   ヌーム・ディアワラ(シャルル・コフィ、四女の恋人、コートジボワール出身)
   フレデリック・ベル(フイザベル・ヴェルヌイユ、長女、弁護士)
   ジュリア・ピアトン(オディル・ヴェルヌイユ、次女、歯科医)
   エミリー・カン(セゴレーヌ・ヴェルヌイユ - 三女、画家)
   エロディ・フォンタン(ロール・ヴェルヌイユ、四女、テレビ局の法務に勤務)
   パスカル・ンゾンジ(アンドレ・コフィ、シャルルの父、退役軍人)
   サリマタ・カマテ (マドレーヌ・コフィ、シャルルの母)
   タチアナ・ロホ(ヴィヴィアン・コフィ - シャルルの妹)
   ほか

あらすじ

2011年のフランス。ロワーヌ地方のシノンに暮らすクロード・ヴェルニイユ(クリスチャン・クラヴィエ)と妻のロビー(シャンタル・ロビー)には4人の娘がおり、

  • 長女イザベル(フレデリック・ベル)は、アラブ系の移民でイスラム教徒のラシッド(メディ・サドゥアン)と、
  • 次女オディル(ジュリア・ピアトン)は、ユダヤ系の移民でユダヤ教徒ダヴィド(アリ・アビタン)と、
  • 三女セゴレーヌ(エミリー・カーン)は、中国系の移民のシャオ・リン(フレデリック・チョウ)と、

結婚しています。敬虔なカトリックで保守的なド・ゴール主義者のクロードはこれが気に入らず、家族全員が集まった食事会でも差別的な言動を繰り返しますが、彼の怒りとは裏腹に、妻のマリーや娘、その婿達は互いに親交を深めていきます。翌年のクリスマスに家族が再びシノンで会した際も、クロードは婿達に相変わらずの態度を見せますが、フランスの国歌を歌い上げ、ミサにも付き合ってくれる彼らの姿を見て、態度を軟化させます。

一方、四女のロール(エロディー・フォンタン)も、コートジボワール出身のアフリカ系の移民の舞台俳優シャルル(ヌーム・ディアワラ)の求婚を受け入れます。しかし、両親の反応を懸念したロールは、シャルルという名のカトリック教徒であるとだけ伝え、アフリカ人であることを伝えることが出来ませんでした。シャルルも故郷で家族に婚約したことを話しますが、父アンドレパスカル・ンゾンジ)からフランス人との結婚は許さないと釘を刺されてしまいます。

これまで娘たちの為に祝福はしたものの、教会で挙式もできずに内心はがっかりで、異人種の宗教儀式から食事のルールまで、異文化への驚きと気遣いに疲れ果てていたヴェルニイユ夫妻は、ロールの婚約者がカトリック教徒と聞いて安堵するのも束の間、年明けにロールが連れてきたシャルルと対面し、絶望のどん底に突き落とされます・・・。

レビュー・解説

ヨーロッパの中でも移民や異人種間結婚の多いフランスを舞台に、田舎の中産階級である保守的なフランス人の両親と、娘婿や娘の恋人のアラブ系、ユダヤ系、中国系、アフリカ系の移民たちが、お互いに面と向かって差別ネタを応酬する、爆笑フレンチ・コメディです。

 

異人種間結婚を題材に差別ネタの応酬が魅力の爆笑フレンチ・コメディ

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異人種間の結婚が多いフランス

フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督は、フランスでは異人種間の結婚が多いことを新聞で読んで、本作の制作を思い立ったといいます。

フランスが異人種間結婚のチャンピオンだということを新聞で読んで、非常に面白いテーマだと思ったのがきっかけです。私の家族はかなりの大家族ですが、この作品と同じように、中産階級で、カトリックで、兄弟が4人いて、異人種間結婚をしている人もいます。自分たちの経験談を盛り込みながら、いろんなコミュニティが寄せ集まって形成されている現代のフランス社会のポートレートを描けるのではないかと思ったんです。これまでそれぞれのコミュニティをあまりポジティブに描いてこなかったことへの反省と、社会を豊かにしてくれるコミュニティにオマージュを捧げるという意味も含まれています。(フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督)
https://wotopi.jp/archives/35344

差別ネタの応酬が痛快

フランスの田舎の保守的ブルジョアの両親と移民のアラブ人、ユダヤ人、中国人、アフリカ人の娘婿や娘の恋人たちが繰り広げる歯に衣着せない悪口や差別ネタが一種爽快なほど面白く、本作の最大の魅力になっています。

シナリオを書いている段階から、これはタブーなのかなと考えるシーンもありました。最初はおそるおそる卵の上を歩く様な感じでした。ただ、共同脚本家とは、この段階で自己検閲してしまったら映画は面白くならないだろうと話していました。根底に善意があり、キャラクターが魅力的で、役者におかしみがあれば、きっと上手くいくはずだと一種の賭けに出たんです。ふたを開けてみたら大成功でした。

そのような表現規制の傾向は本当に厄介だなと感じています。ポリティカル・コレクトネスや規制を気にし始めたら、コメディは作れません。我々はショッキングなことを描こうとして、映画を作っているわけではありません。人に何かを考えさせたり、人を楽しませたりするときに、ステレオタイプを誇張することは、どうしても必要だと思うんです。この作品でも確かにデリケートな問題を扱っていますが、そのようなことを怖がっていたら、喜劇にはなりません。面白く感じてもらうために我々が自己検閲をしてはいけないのではないかと思い、この作品を作り、人々に大胆なギャグを受け入れる素地があることがわかりました。なので、今後もそういった傾向とは闘っていきたいと思っています。もちろん善意があるのは前提ですけどね。世界や社会、描く人物に対して、悪意がなければ、何を言っても受け入れられると思います。
http://www.cinemacafe.net/article/2016/03/21/38969.html
http://realsound.jp/movie/2016/03/post-1169.html

驚くほど高かった評価

フランスでは公開と同時に、社会階級階級や住んでいる場所に関係なく多くの観客が押し寄せ、なんとフランスの人口6600万人に対して1,300万人を動員するなど、2014年の年間興収成績1位のヒットとなりました。懸念された差別ネタへのクレームも、白人の知識階級からちょっとクレームがあったくらいで、移民のコミュニティからのクレームはありませんでした。白人の知識階級からあったというクレームに関して、ショーヴロン監督は次のように述べています。

保守層からは、まるで人種を混成させることがすべていいかのように描いていて短絡的すぎる、左派からは差別的だと言われました。それぞれ気に入らないところがあったんだろうけど、少数派です。聞く耳を持たない人たちに特に反論はしません。大方のフランス人たちは、きちんとメッセージを受け取ってくれたので、嬉しいです。(フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督)
http://www.cinemacafe.net/article/2016/03/21/38969.html 

本作は146ヶ国で公開され、ドイツやイタリア、ベルギーなど移民が多い国だけではなく、メキシコ、スペイン、韓国などでも高い興行収入を記録、チリなど移民とあまり関係ない国でも好評でした。どういうわけか日本は146番目と最後に公開された国というのがなんとも残念ですが、歯に衣着せない差別ネタなどフランス的な部分がありながら、結婚、寛容、人種差別のような他の国の人々も感じている普遍的なテーマがしっかりと盛り込まれており、上滑りすることなく人々の心をしっかりと掴んだのではないかと思います。

差別ネタ満載なのに、何故、非難されない?

昨年の大晦日にTV放映されたお笑い番組「絶対に笑ってはいけない」で、ダウンタウン浜田雅功がアメリカの俳優エディー・マーフィに扮し、肌を黒くメイクしたことを受けて、イギリスのBBCやアメリカのメディアのニューヨークタイムズなどの海外メディアから「人種差別的」と非難の声が上がりました。これに関しては日本国内でも様々な見方があるようですが、映像ではなく言葉でとは言え、過激な差別ネタ満載にも関わらず、本作は非難の対象にならないばかりか、非常に高い評価を得ていることが興味深いです。この理由は、おそらく、

  • アラブ系、ユダヤ系、中国系、アフリカ系など多くの移民コミュニティがあるにも関わらず、これらをポジティブに描いて来なかったフランス映画としては画期的
  • 保守的なフランス人のみならず、アラブ系、ユダヤ系、中国系、アフリカ系と複数の移民を扱い、すべての人たちが偏見を持っていることを平等に描いている
  • 花婿達は社会的に成功しており、中産階級出身の娘たちと社会的階層もそれほど離れていない(階層が違えば、問題はさらに難しくなるかも)
  • 綺麗事の愛を描くのではなく、様々な問題がある中での愛を温かい眼差しで描いている

といったあたりで、これらがしっかりと観客に伝わっている為ではないかと思われます。ロバート・ダウニー・Jr.が黒塗りメイクで登場する「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」(2008年)や、本物の障害者を障害者の役で必ず登場させ、悪い障害者も平気で描くファレリー兄弟の作品の数々など、一見差別的でありながら、高い評価を得ている作品が他にもありますが、日本のコメディもそうした高みに登れっていけるかどうか、興味深いところです。

異文化コミュニケーションをうまくやるには?

ショーヴロン監督の実家は、映画の主人公であるヴェルヌイユ家と同じカトリック教徒で、彼の兄弟はマグレブリビアチュニジアアルジェリア、モロッコなどイスラム系の北西アフリカ諸国の総称)系女性と結婚、監督僕自身もアフリカ系の女性と結婚する予定と、まさに映画を地で行くようですが、異人種間の結婚をうまくやるコツについて、監督は次の様に語っています。

違う国の人との関係をうまくいかせるポイントは、あまり深く話さないことです。つきつめていってはダメです、100%わかりあえるはずはないのですから。あと政治の話もあまり深くしないほうがいいです。映画で食事を大切にしているのは、食事を共にすると同胞意識が生まれるからです。距離が縮まりますが、そこがいいのです。

あとは、異文化コミュニケーションで大切なのは笑いです。この映画をシリアスドラマとして描いていたら、観客は受け止められなかったかもしれません。もともと僕はコメディしか作れませんが、笑いは人を結びつける力があります。この映画は、どの国でも、同じシーンで笑いが起きて、そこがいいと思います。笑いには人種を超えて、人と人を結びつける力があります。(フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督)
https://wotopi.jp/archives/35344

フランスらしさが溢れるコメディ

因みにこの映画の上映会のあと、ある夫婦がショーヴロン監督のところに来て「自分たちの家族の問題と一緒です。私たちの物語のようでした。」と感想を述べたそうです。そこで、うまくいっているか監督が尋ねたところ、その夫婦は「いまだ悪夢のようです・・・。」と、答えたそうです。普通の結婚でもいいことばかりではありませんから、ましてや異人種間の結婚では不満が出てきても不思議はありません。イギリスのコメディならばこうした現実を自嘲的に描きそうなところですが、差別ネタで不満をたらたら言っておきながら、二重人格的にコロッと愛で包んでしまうのは、フランスのコメディならではないかと思われます。

 

なお、原題の「Qu'est-ce qu'on a fait au Bon Dieu ?」 は「我々は神に何をした?」という意味で、予期しない不幸な出来事を嘆く時に使用される慣用的な表現です。敬虔なカトリックであるヴェルニイユ夫妻の四人の娘が、こともあろうに揃いも揃って異教徒や異人種に嫁いでしまうという、夫妻の不幸の嘆きを暗示していますが、タイトルにこうした反語的な表現を持ってくるあたりにもフランスらしさを感じます。

 

クリスチャン・クラヴィエ(左、クロード・ヴェルヌイユ、四姉妹の父、カトリック
シャンタル・ロビー(右、マリー・ヴェルヌイユ、クロードの妻、四姉妹の母)

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メディ・サドゥン(左、ラシッド・ベナセム、長女の夫、アラブ人、国選弁護士)
フレデリック・ベル(右、フイザベル・ヴェルヌイユ、長女、弁護士)

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アリ・アビタン(左、ダヴィド・ヴェニシュ、次女の夫、ユダヤ人、事業に失敗)
ジュリア・ピアトン(右、オディル・ヴェルヌイユ、次女、歯科医)

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フレデリック・チョー(左、フシャオ・リン、三女の夫、中国人、銀行の幹部)
エミリー・カン(右、セゴレーヌ・ヴェルヌイユ - 三女、画家)

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ヌーム・ディアワラ(右、シャルル・コフィ、 四女の恋人、コートジボワール出身)
エロディ・フォンタン(左、ロール・ヴェルヌイユ、四女、テレビ局の法務部に勤務)

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パスカル・ンゾンジ(手前右、アンドレ・コフィ、シャルルの父、退役軍人)
サリマタ・カマテ (手前左、マドレーヌ・コフィ、シャルルの母)
タチアナ・ロホ(奥右、ヴィヴィアン・コフィ - シャルルの妹)

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撮影地(グーグルマップ)

 

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    「ぼくの国、パパの国」(1999年)

  「エデンより彼方に」(2002年)

  「しあわせの隠れ場所」(2009年)

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  「ラビング 愛という名前のふたり」(2016年)

  

「ア・ユナイテッド・キングダム」(2016年)・・・輸入版、リージョン1、日本語なし

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