夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「SPY/スパイ」:おばさんがスパイになったら?コメディエンヌの魅力をフルに引き出すポール・フェイグ監督の爆笑スパイ・アクション

SPY/スパイ」(原題:Spy)は、2015年公開のアメリカのアクション・コメディ映画です。ポール・フェイグ監督、メリッサ・マッカーシージェイソン・ステイサムジュード・ロウら出演で、CIAの内勤分析官が現場のエージェントになり、スーツケース型核爆弾の闇取引を阻止しようと悪戦苦闘する姿をコミカルに描いています。日本では劇場未公開ですが、ソフトで視聴できます。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ポール・フェイグ
脚本:ポール・フェイグ
出演:メリッサ・マッカーシー(スーザン・クーパー)
   ジェイソン・ステイサム(リック・フォード)
   ローズ・バーン(レイナ・ボヤノフ)
   ジュード・ロウ(ブラッドリー・ファイン)
   ミランダ・ハート(ナンシー・B・アーティングストール)
   ボビー・カナヴェイルセルジオ・デ・ルーカ)
   アリソン・ジャニー(エレイン・クロッカー)
   ピーター・セラフィノーウィッチュ(アルド)
   モリーナ・バッカリン(カレン・ウォーカー)
   リチャード・ブレイク(ソルサ・ドゥディエフ)
   ナルヒス・ファクフリ(リア)
   ラード・ラウィ(ティホミル・ボヤノフ)
   ビョルン・グスタフソン(アントン)
   50セント(本人役)

   ほか

あらすじ

ワシントンD.C.にあるCIAオフィスで働くスーザン・クーパー(メリッサ・マッカーシー)は、現場のエージェントの目となり耳となって彼らを誘導する内勤の分析官です。ある日、核爆弾の売買を阻止する任務を遂行中に、パートナーのエージェントであるブラッドリー・ファイン(ジュード・ロウ)が冷酷な武器商人の娘、レイナ(ローズ・バーン)によって殺されてしまいます。レイナはファインとリック・フォード (ジェイソン・ステイサム)ら、CIAのトップエージェントの身元を知っており、身元を知られていないスーザンはテロリストに核爆弾を売ろうとするレイナを阻止する為に自ら現場のエージェントになることを志願、上司のエレイン・クロッカー(アリソン・ジャニー)はこれを許可します・・・。

レビュー・解説

普通のおばさんがスパイになったら?コメディエンヌの魅力をナチュラルに引き出すポール・フェイグ監督が、メリッサ・マッカーシーを主演に、大物俳優二人を助演に迎えて放つ、豪華でダイナミックな爆笑スパイ・アクションです。

 

オープニングでパーティ会場にタキシード姿のジュード・ロウが登場、見る映画を間違えたか?をと思う間も無く、アクション・シーンに続きます。そして流れるオープニング・クレジットは007風のクォリティの高いもので、本作の質の高さを暗示します。実際、ジェイソン・ステイサムジュード・ロウといった大物スターを助演に起用、海外ロケをするなど、それなりにコストをかけ、丁寧に作られた作品です(制作費は前作「ブライズメイズ 史上最悪のウエディングプラン」の倍以上)。

 

ポール・フェイグアメリカの俳優、映画監督、プロデューサー、脚本家で、「ブライズメイズ 史上最悪のウエディングプラン」の監督で大ブレイクしました。第84回アカデミー賞では脚本賞クリステン・ウィグ、アニー・マモロー)と助演女優賞メリッサ・マッカーシー)にノミネートされるなど、コメディエンヌを魅力を引き出すのに長けた監督です。以降も女性を主役にしたコメディを撮ることが多いのですが、親しくなる友人はいつも女性、大の親友になったのも女性で、自分を女性的な男性と捉えるフェイグ監督は、女性のユーモアのセンスは男性のように攻撃的ではなく、協調的でより面白いと言います。

僕が知っている面白い女性たちは、長い間、「意地悪な恋人」や「理解のない妻」を演じることを強いられてきた。女性たちがコメディでそんなひどい役を演じるのを見るのは、とても悲しかった。(ポール・フェイグ監督)

確かに、本作がブラッドリー・ファインが主役のコメディなら、スーザン・クーパーは冷たく事務的だったり、的外れなサポートをしてブラッドリーを窮地に追い込むような役に描かれそうです。

 

SPY/スパイ」は高度な駆け引きや危険、世界への脅威などを典型的なスパイ映画のように描きながらも、笑える映画になっていますが、決してスパイ映画を茶化すものではなく、アクションは真面目に描いているとフェイグ監督は言います。彼は、ジェームズ・ボンド・シリーズや、ジェイソン・ボーン・シリーズの大ファンで、ダニエル・クレイグ主演の「カジノ・ロワイヤル」(2006年)を見て、スパイ映画を作りたいと思いました。彼は、カジノ、タキシード、マティーニが登場するような世界観が好きなのです。しかし、コメディに生きる彼にボンド映画の監督を頼む人はいません。そんな折、「007 スカイフォール」(2012年)を見た彼は、女性がスーパー・スパイになる映画はどうだろうか?と思い立ち、すぐに脚本を書いて、自ら監督、プロデューサーを務めて、映画化を実現しました。もちろん、カジノ、タキシード、マティーニ、そしてほんのわずかですが、アストン・マーティンも出てきますし、彼のスパイ映画への深い愛がある為、パロディにも風刺にもなっていません。

 

フェア・ゲーム」(2010年)にも描かれているように、米政府がCIA女性エージェントの実名を公表したプレイム事件で女性スパイの存在が生々しくクローズアップされましたが、フェイグ監督はこの映画のリサーチで「少なくとも人々を自分側に取り込もうとする諜報の世界では、信頼を得やすい女性の方が男性よりスパイに適していることが証明されている」という趣旨の記事をいくつか読んだと言います(女性スパイは人の仕草を読んだり、直感に優れているとも言われます)。本作ではアクション映画を背負う男性スター俳優が脇役に回り、コメディエンヌが主役で大活躍する訳ですが、はてさて女性の方がよりスパイに向いているのかどうか、非常に面白い設定です。

 

メリッサ・マッカーシーを主役に持ってきたことにより、フェイグ監督は「おばさんがスパイになったら?」という面白さを前面に出しています。彼女が演じるスーザン・クーパーは内勤とは言え、CIAの分析官であり、格闘もできるのですが、むしろ協調心に富み、ドジも踏む、とても人間らしい性格です。スパイのイメージとこの人間的性格のギャップで、ワインも選べない、スクターで敵を追ってもすぐコケるなど、無理に作り込んだギャグではなく、リアルで自然な面白みが演出されており、なりすます旅行者の女性なども超現実的で笑えます。

 

ジュード・ロウの起用が夢だったというフェイグ監督は、コメディには意外とも思われるアクション俳優のジェイソン・ステイサムを同時に起用しています。かつてスタントマンの卵でもあったフェイグ監督は、ステイサムの出演する映画を全て見るほどの大ファンで、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998年)や「アドレナリン」(2006年)を見てステイサムは面白いと思い、彼の役を探し続けていたと言います。フェイグ監督がステイサムの為にあつらえたリック・フォード役は、いいスパイなのですが、自分がやるべき仕事をスーザンがやることになって心乱されるという設定で、この役に限ってはストレートな映画だとステイサムに言い続けたと思います。結果はハナから大成功で、いつものステイサムが出てきて、いつものステイサムのように話すのですが、それがとても可笑しいという仕掛けになっています。因みに、彼がスパイとしてやってきたことを延々と並べ立てるセリフが何回かありますが、これまで出演した映画の内容を被せた内容になっているという凝りようです。

 

さて、主要キャスト全員に女性を配した最新作「ゴーストバスターズ」が公開されましたが、フェイグ監督はネットで殺害予告を含めた厳しい反発を受けたそうです。「男性俳優の主演で男性が監督し、若い男性をターゲットに作られてきた」映画界への執着なのか、彼はそれまでの2年間にも人生最悪の女性嫌悪発言などの猛攻撃を受け続けており、背筋が凍ったと言います。男性が主役であれ、女性が主役であれ、面白ければそれでいいと思うのですが、自由な国アメリカでは、保守勢力の気勢も半端なく自由なようです。

 

メリッサ・マッカーシー(スーザン・クーパー)

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メリッサ・マッカーシーは、アメリカの女優、コメディアン、脚本家、プロデューサー。2011年の「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」でブレイク、アカデミー助演女優賞にノミネートされています。本作では、スタントウーマンがつきましたが、積極的にアクションに挑戦、傷だらけになりながらもアクション・シーンを演じるプロ意識を見せています。

 

ジェイソン・ステイサム(リック・フォード)

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言わずと知れた、イギリスのアクション俳優。 イギリス代表チームに選ばれた高飛び込みの元選手で、「俳優として、すべてのシーンに責任があると思っている。もちろんアクションシーンもね。だから、そこだけを他人に任せるというのは、ちょっと違う気がする。可能な限り自分で演じ、その緊迫感で表現できることが大事だと思うんだ。」と、アクションをスタントなしで演じることが多い俳優です。

 

ローズ・バーン(レイナ・ボヤノフ)

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オーストラリア出身の女優。2009年度の最も美しい顔トップ100で1位に選ばれています。いわゆるコメディエンヌではありませんが、ポール・フェイグ監督作品と縁があるのか、「ブライズメイズ 史上最悪のウエディングプラン」でも、主人公のライバル役で出演しています。もともとレイナは19歳という設定でしたが、彼女の為にフェイグ監督が脚本が書き直しています。

 

ジュード・ロウ(ブラッドリー・ファイン)

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イギリス出身の俳優。「リプリー」(1999年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、その美貌と才能で名を馳せています。本作では、ジェームス・ボンドのようなスパイを演じています。

 

ミランダ・ハート(右、ナンシー・B・アーティングストール)

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イギリスの女優、コメディエンヌ。フェイグ監督は最初からナンシー役にミランダ・ハートを想定して脚本を書いたといい、身長185cmの彼女は、157cmのメリッサ・マッカーシーと凸凹コンビを演じています。

 

ボビー・カナヴェイルセルジオ・デ・ルーカ)

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ボビー・カナヴェイルアメリカの俳優で、

などに出演しています。本作でレイナ役を務めたローズ・バーンは私生活のパートナーで、その縁でデ・ルーカ役を引き受けました。映画では、二人は取引をする間柄ですが・・・。

 

アリソン・ジャニー(エレイン・クロッカー)

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アメリカの女優。エミー賞を7回も受賞(最多8回に次ぐ第2位)するほどの演技派女優で、本作ではスーザンの上司役を演じ、映画をピリリと締めています。

 

ピーター・セラフィノーウィッチュ(右、アルド)

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イギリスの俳優、コメディアン、脚本家、物真似芸人。本作では、イタリア語訛りの英語で、イタリア人らしさ全開のイタリア人連絡係を演じています。

 

モリーナ・バッカリン(中央、カレン・ウォーカー)

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ブラジル出身のアメリカの女優。美人でちやほやされる女性スパイを演じています。役名のカレン・ウォーカーは、グローバルなファッション・ブランド。

 

ナルヒス・ファクフリ(リア)

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ナルヒス・ファクフリは、ボリウッド映画で活躍する、インド系アメリカ人のモデル、女優です。本作がハリウッド映画デビュー作で、メリッサ・マッカーシー相手にナイフを使った見応えのあるアクションを披露しています。レストランの厨房で果物や七面鳥の腿、野菜、調理器具、鍋、フライパンなどが飛び交うこのシーンは、アクションに賭けたフェイグ監督の期待に応えるもので、リハーサル、振り付け、コンピュータでのビジュアル化に数週間、撮影にまる二日かけられました。

サウンドトラック

サウンドトラックにも楽しい曲が使われています。007シリーズ風のハイクオリティなオープニングクレジットには、シャリー・バッシー風の

・"Who Can You Trust" by Ivy Levan*3

が流れます。また、屋外コンサートで演奏されているのは、

・"Dancing Lasha Tumbai" by Andrey Danilko aka Verka Serduchka*4

ウクライナのバンドで、2007年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストで2位を受賞した曲を演奏しています。50cent がライブで歌う曲は、

・TWISTED (FEAT. MR. PROBZ) by 50 CENT*5

 

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撮影地(グーグルマップ)

パリやローマのシーンの一部も、ハンガリーで撮影されています。制作コストが安くつく為、ブダペストはよくパリやローマなどヨーロッパの都市の代替に使用されますが、ブダペストをいたく気に入ったフェイグ監督は、脚本の一部を書き替え、ハンガリーそのものを舞台に取り込んでいます。また、効果的なロケ地を丁寧に選んでいます。

 

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