夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「恋人たちの予感」:フェイク・オーガズムが有名にした優れたロマンティック・コメディ

恋人たちの予感」(原題:When Harry Met Sally...)は、1989年公開のアメリカのロマンティック・コメディ映画です。初対面で互いに最悪の印象を持った二人が、「男女の間に友情は成立するか」という命題に悩みつつ、11年後に結ばれるまでをニューヨークを舞台に描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ロブ・ライナー
脚本:ノーラ・エフロン
撮影:バリー・ソネンフェルド
出演:ビリー・クリスタル(ハリー・バーンズ)
   メグ・ライアン(サリー・オルブライト)
   キャリー・フィッシャー(マリー )
   ブルーノ・カービー(ジェス)
   ほか

あらすじ 

  • 77年のシカゴ、大学を卒業したばかりのハリー・バーンズ(ビリー・クリスタル)とサリー・オルブライト(メグ・ライアン)は、交通費を節約する為に同じ車でニューヨークに出ることになりますが、事あるごとに2人は意見を衝突させ、二人の出会いは最悪のものとなりました。
  • それから5年後、ジョン・F・ケネディ空港で、出張の見送りに来た恋人ジョンと長いキスを交わしているサリーのもとにハリーが姿を現わします。二人はお互いが相手の名前を覚えていましたが、飛行機の中で隣り合わせになったハリーとサリーはまたしても口論、しかしもうすぐ結婚するというハリーの様子は以前とは違っていました。
  • さらに5年後、離婚直前のハリーと、ジョンとの別れから立ち直ろうとしているサリーが再会します。これを機会に2人は友達同士になり、デートを重ねるようになりますが、2人の会話はお互いの悩みばかり。ジョンとの恋にケリをつけたと思い込みたいサリーと、妻と離婚した現実を受け入れられないハリーの関係は、時として相手へのロマンティックな思いを振り払うことになります。二人はお互いの親友を紹介し合おうとしますが、逆にハリーの親友ジェス(ブルーノ・カービー)とサリーの親友マリー(キャリー・フィッシャー)が意気投合し、2人を残してどこかへ消えてしまいます。
  • ある夜、サリーの泣きじゃくる電話を受けたハリーは、彼女のアパートヘ駆けつけ、独身主義者のジョンが自分以外の女と結婚すると聞きショックを受けたサリーを慰めるうちに、ついに一夜を共にしてしまいます。以来、二人の関係は、変に相手を意識してぎくしゃくし、ハリーの言い訳が逆に混乱を招いたりもします・・・。

レビュー・解説 

ロマンティック・コメディの名手と言われるノーラ・エフロンの脚本で、同じくメグ・ライアンと組んだ「めぐり逢えたら」、「ユー・ガット・メール」同様、優れた内容の映画です。「女性のメイクにベースがあるように、私には憂鬱のベースがあり、時にその下に沈んだり、その上に浮いたりしている。」とロブ・ライナーは語っています。ハリーはいわば落ち込むロブ・ライナーの分身、サリーは楽観的で明るいノーラ・エフロンの分身で、ノーラが脚本に投げ込んだセリフを、ロブがどこか途中で腰を折るという絶妙のバランスとなっています。

 

また、バリー・ソネンフェルド撮影のニューヨークの美しい風景が、芽生えつつあるロマンスに気づかぬハリーとサリーを散文詩のように際立たせるとともに、時折、挿入される何組かの老夫婦の出会いと現在のエピソードを語るシーンが、すれ違う現実に悩む二人の間柄を浮かび上がらせるなど、素晴らしい映画となっています。「恋人たちの予感」はこれだけで、十二分に鑑賞に耐える作品ですが、実はこの映画には、良くも悪しくもこの映画をすこぶる有名にしてしまったシーンがあります。それは・・・(音量を下げてご覧ください)

 

フェイク・オーガズム〜「恋人達の予感

Harry: What are you saying, that they fake orgasm?
Sally: It's possible.
Harry: Get outta here!
Sally: Why? Most women at one time or another have faked it.
Harry: Well they haven't faked it with me.
Sally: How do you know?
Harry: Because I know.
Sally: Oh, right, that's right, I forgot, you're a man.
Harry: What is that supposed to mean?
Sally: Nothing. It's just that all men are sure it never happened to them and that most women at one time or another have done it so you do the math.
Harry: You don't think that I could tell the difference?
Sally: No.
Harry: Get outta here.

ハリー:オーガズムのふりだと言うのか?
サリー:かもよ。
ハリー:よせよ。
サリー:女は皆、一度は経験あるのよ。
ハリー:僕とはないね。
サリー:何故わかる?
ハリー:わかるさ。
サリー:当然そう言うわね、男だもの。
ハリー:どういう意味?
サリー:男は皆、そう思っていて、女は皆、その経験があるということよ。
ハリー:見て区別がつかない?
サリー:そうよ。
ハリー:バカ言え。

といった会話の後に、なら、やって見せようと「フリ」に突入します。そして、最後にそれを見ていた老婦人が、ウェイトレスに

Lady from another table: I'll have what she's having.

別テーブルの婦人:「彼女と同じものを」

とオーダーし、トドメをさします(よっぽどいいものを食べたと思ったのでしょうね)。このシーンが撮影された場所は、

 

カッツ・デリカテッセン(グーグル・マップ)

 

といい、一躍、有名になってしまい、ニューヨークのガイドブックには、必ずと言っていいほど掲載されるほどの名所となりました。ハリーとサリーが座った席の天井には、

 

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「ハリーとサリーが座った席はこちら、サリーと同じものをお楽しみください」というサインがぶら下がっています。

 

当初、このシーンは脚本になく、ハリーとサリーが女性のフェイク・オーガズムについて語るだけでしたが、実際にテーブルで演じた方が良いとメグ・ライアンが提案、ロブ・ライナー監督がこれを気に入って脚本に入れました。「彼女と同じものを」はビリー・クリスタルの提案で、このセリフ言う老婦人はロブ・ライナーの実母が演じました。 メグ・ライアンは一度目の演技では緊張しており、まずまず、二度目はまるで結婚12年目のようでNG、ロブ・ライナー監督が隣に座って「こうやるんだ」と演技指導を行いました(キング・コングもうらやむような模範演技だったそうです・・・)。

 

無事、大きな山場の撮影が終わり、エキストラも賞賛したのですが、ロブ・ライナー監督がポツリ。

ロブ・ライナー監督:俺がやるべきではなかった。
ビリー・クリスタルメグ・ライアンは大丈夫ですよ。
ロブ・ライナー監督:俺は、母親の前でオーガズムを演じたんだぜ。

スクリーング・テストでは、すべての女性がこのシーンに大笑い、男性は黙りこくっていたそうです。また、イン・フライト・ムービー版では、このシーンは丸々カットされてしまいました。

 

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関連作品 

ノーラ・エフロン脚本 x メグ・ライアン主演作品のDVD(Amazon

  「めぐり逢えたら」(1993年)

  「ユー・ガット・メール」(1998年)

 

ノーラ・エフロン監督作品のDVD(Amazon

   「ジュリー&ジュリア」(2009年)

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