「フライト236」:乗客を救った機長の暴かれた前科と再生の実話
「フライト236」(原題:Piché, entre ciel et terre)は、2010年公開のカナダの映画です。エア・トランサット236便の不時着事故を題材としており、航空パニック映画と分類されることがありますが、内容はパニック映画というよりも実話に基づくヒューマン・ドラマです。236便の機長だったロベール・ピシェの不時着事故に至るまでの半生と、その後のアルコール依存症からの脱却までを描いています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:シルヴェイン・アルシャンボール
脚本:イアン・ローゾン
出演:ミシェル・コート(ロベール・ピシェ)
マキシム・ルフラグアイ(若い頃のロベール・ピシェ)
ソフィー・プレジェント(レジーナ)
イザベル・ゲラード(ルイーズ)
ノーマンド·ダマー(セラピスト)
ヴィンセント・ルクレール(ピーター・ヒル)
ほか
あらすじ
物語は2001年に実際に発生したエアトランザット236便滑空事故に基づいています。カナダのトロント・ピアソン国際空港からポルトガルのリスボン国際空港に向かう途中に 使用機材のエアバス A330 が燃料切れとなり、大西洋上の巡航高度からアゾレス諸島のラジェス空軍基地へ動力なしで緊急着陸します。操縦していたピシェ機長は乗客を救ったヒーローとして注目を浴びますが、刑務所で服役していた過去が暴かれ、一転してバッシングを受けます。過去の悪夢から逃れる様に酒に頼るうちに、彼はアルコール依存症になり、家族との関係も悪化してします。アルコール依存治療の為の施設に入所した機長が、半生を振り返る形で物語は進行します。
レビュー・解説
旅客機の場合、機種にもよりますが高度の十数倍の距離を無動力で滑空できると言われています。エアトランザット236便が完全に無動力になった高度は約1万メートルですので、最大で百数十キロ先まで飛ぶことができる計算になります。実際には旋回操作やランディング・ギヤーを出したり、フラップを出したりするので、これより短くなります。着陸できる施設のない洋上を飛行中の無動力滑空はほぼ墜落を意味しますが、エアトランザット236便はアゾレス諸島のラジェス空軍基地まで約120キロと、ぎりぎり着陸できる位置にあり、これは大きな幸運でした。とは言うものの、エンジン停止後に半径百数十キロ以内、時間にして十数分以内に、やり直すことなく着陸しなければならないというのは、パイロットにとっては非常に大きなプレッシャーになります。見事にこの難局を乗り切り、一躍ヒーローとなったピシェ機長ですが、その先には思わぬ難局に直面します。
「フライト236」は、以下の点で、二年後に公開されたデンゼル・ワシントン主演の「フライト」と類似しています。
- 旅客機の機長を、弱さを併せ持つ一人の人間として描いている
- 飛行機事故から乗客を救うが、バッシングを受ける
- アルコール依存症に苦しむ、また、ドラッグとも関わりがある
最も大きな違いは、「フライト」がハリウッド的な娯楽性の高いフィクションであるのに対して、「フライト236」は実話に基づいたリアリティの高い伝記的映画であることです。地味ではあるが現実を描くという点では「フライト236」に説得力がありますが、この二作を見比べてみると、ハリウッド映画の特徴がよくわかります。
高速での着陸を余儀なくされたためバーストした主脚の車輪(実際の事故機)
ミシェル・コート(ロベール・ピシェ)
緊急着陸シーン〜「フライト236」
緊急降下を伝えるアナウンスの際、客室乗務員が整列してキャビン内を行進、配置に着くシーンが印象的です。乗客がパニックに陥るのを防ぐ為、危機マニュアルに従ったデモンストレーションでしょう。乗客の不安な様子の描写もリアルです。
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