「ゴーン・ガール」:妻の失踪で明るみに出る結婚生活の落とし穴
「ゴーン・ガール」 (原題:GONE GIRL) は、2014年公開のアメリカのミステリー/サスペンス/ドラマ映画です。2012年発表のギリアン・フリンの同名ベストセラー・ミステリー小説を基にし、幸福だと思われていた夫婦の妻の失踪をきっかけに、妻殺害嫌疑の渦中の人となってしまう夫と、事件の顛末を描いています。
目次
スタッフ・キャスト
監督: デヴィッド・フィンチャー
脚本: ギリアン・フリン
原作: ギリアン・フリン「ゴーン・ガール」
出演: ベン・アフレック(ニコラス “ニック”・ダン、バーの経営者)
ロザムンド・パイク(エイミー・エリオット・ダン、 ニックの失踪した妻)
エミリー・ラタコウスキー(アンディ・フィッツジェラルド、ニックの愛人)
ニール・パトリック・ハリス(デジー・コリングス、エイミーの元彼)
タイラー・ペリー(タナー・ボルト 、 ニックの弁護士)
キャリー・クーン(マーゴ・ダン、ニックの双子の妹でバーの共同経営者)
キム・ディケンズ(ロンダ・ボニー刑事)
ほか
あらすじ
ミズーリ州の田舎町。結婚して5年目のニック(ベン・アフレック)とエイミー(ロザムンド・パイク)は、誰もが羨む理想のカップルでした。ところが、エイミーは結婚記念日に突然姿を消してしまいます。部屋には争った形跡があり、大量の血液が拭き取られていることも判明、警察は他殺と失踪の両面から捜査します。ロンダ・ボニー刑事(キム・ディケンズ)の操作で、ニックが妻の日常や妊娠を知らなかったこと、夫婦には金銭問題や家庭内暴力があったこと、エイミーが銃を求めていたことが明らかになります。エイミーの回想シーンで、夫婦は不況の影響で仕事を失い、ニックの母親がガンになった為、エイミーが愛するニューヨークから彼の地元であるミズーリ州の田舎町に引っ越しするなど、かつて幸せだった結婚生活が変化する様子が描かれます。ニックはダラけるようになり、エイミーに隠れて浮気をしていました。人妻の謎めいた失踪事件は茶の間の注目を集め、小さな町に全米中からマスコミが殺到し、ニックは疑惑と批判の矢面に立たされます・・・。
レビュー・解説
大まかな筋は知っていたのですが、絵も美しく、なかなか楽しめる映画です。ミステリーの謎解きもさることなから、エイミーやニックの外見の変化や、心の動きを拾ってもおもしろいし、また、夫婦関係に関して示唆する事を拾うこともできます。
ニックの語り〜「ゴーン・ガール」オープニング
When I think of my wife, I always think of her head. I picture cracking her lovely skull, unspooling her brain, trying to get answers. The primal questions of a marriage: What are you thinking? How are you feeling? What have we done to each other?
妻の事を考える時、いつもその頭を思う。愛らしい頭蓋骨を開いて、脳を解きほぐし、答えを知りたい。結婚の基本的な問い:何を考えている?どう感じている?僕たちはどうしたんだ?
デヴィッド・フィンチャーが監督したこの作品は、暗めのトーンの中にもしっかりした絵作りが特徴的です。日中の屋内シーンでは窓やドアにグリーンスクリーンを張り、屋外の風景を合成する(屋内に露出を合わせると外の風景が白く飛んでしまう為)などの工夫も凝らされています。この作品でロザムンド・パイクがアカデミー主演女優賞にノミネートされ、
- ブラッド・ピット、タラジ・ヘンソン〜「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
- ジェシー・アイゼンバーグ〜「ソーシャル・ネットワーク」
- ルーニー・マーラ〜「ドラゴン・タトゥーの女」
に、次いで4作連続で彼の作品がアカデミー賞にノミネートされました。また、「ゴーン・ガール」は、彼の監督作品で最高の興行成績を記録しています。
リース・ウィザースプーンは、原作の映画化権を獲得、自身が主役を務めるつもりでしたが、デヴィッド・フィンチャー監督から製作の構想を聞いて自分は適役でないと判断、主役を辞退しました。デヴィッド・フィンチャー監督は、35歳のロザムンド・パイクをエイミー役に起用した理由のひとつとして、彼女が外見では年齢がわからず、自在に年齢を演じ分けられることを挙げています。
エイミー役には、シャーリーズ・セロン、ナタリー・ポートマン、エミリー・ブラント、ルーニー・マーラ、オリビア・ワイルド、アビー・コーニッシュ、ジュリアン・ヒュー、ジェシカ・チャステインらが候補に挙っていました。 ロザムンド・パイクは、
- 「誘惑」のニコール・キッドマン
- 「氷の微笑」のシャロン・ストーン
- ケネディ・ジュニアの妻キャロリン・ベセット=ケネディ
に、身振りや、よそよそしい雰囲気のインスピレーションを得ました。また、時期の異なるエイミーを演じる為に、三回にわたり6キロの体重を増減しました。太る為にビールとハンバーガーを詰め込み、やせる為に1日4時間もプロボクサーとエクササイズをし、8キロを40分で走りました。
エイミーがパンケーキを焼くシーンがありますが、これは当初、脚本にはありませんでした。緊張が続くシーンの中で、気軽な気持ちでちょっとした親しさを示すとともに、二人の間にある基本的な愛情、あるいは他の部分では見られないエイミーの一面を表現したかったと、ロザムンド・パイクは語っています。確かにこのシーンは意外でしたが、エイミー像が膨らむのは事実です。
俳優を選ぶ際に、デヴィッド・フィンチャー監督は写真を検索しますが、彼はベン・アフレックの写真にある種の笑顔があるのを発見しました。それはニックのある感情と性格を端的に示す笑顔でもありました。デヴィッド・フィンチャー監督は、すぐにベン・アフレックをニック役に起用します。他にブラッド・ピット、セス・ローゲン、ライアン・レイノルドがニック役の候補に挙っていました。ベン・アフレックは特に好きという俳優ではありませんでしたが、この映画の少し力が抜けた感じの表情が気に入りました。
ベン・アフラックは、9歳年下のキャリー・クーンと双子の役を演じることが気なりました。結局、彼はニックの年齢を30歳と想定して演じました。また、彼はこの映画で初めて正面フルヌードとなりました。ヨーロッパ映画風に役者の虚栄を排し、登場人物をありのままに描きたいと、デヴィッド・フィンチャー監督に言われて、これに同意しました。
ニックの愛人役を演じたエミリー・ラタコウスキーの出番は少ないのですが、密度の高いパフォーマンスが印象的です。主役を差し置いて「エミリー・ラタコウスキーにやられた」という人がいるくらい、インパクトが強いです。エミリー・ラタコウスキーはロンドンの出身のモデルで、デヴィッド・フィンチャー監督は、ベン・アフレックに紹介された Robin Thicke's x Blurred Lines のミュージック・ビデオを見て初めて彼女を知りました。「私は生徒になる準備ができていたし、監督は素晴らしい先生。彼が100テイク撮りたいと言えば、私は彼の為にそれをやりたいの」というエミリー・ラタコウスキーのプロ意識に、デヴィッド・フィンチャー監督は感心しました。たまたま Robin Thicke's x Blurred Lines のミュージック・ビデオを見て彼女のプロ意識は感じていましたが、映画の出演経験があまりない彼女が「ゴーン・ガール」でこれだけのパフォーマンスを発揮できるのも、彼女のプロ意識故でしょう。
ロンダ・ボニー刑事を演じたキム・ディケンズはベテラン女優ですが、田舎の刑事役をうまく演じています。彼女は、アラバマ州生まれの自称カントリー・ガールですが、ニューヨークが好きな主役のエイミーにはない雰囲気をさりげなく出しています。それは、いつの間にかエイミーを見ると緊張し、ロンダを見るとほっとしているいったレベルのもので、気にも留めなかったのですが、「脇役は主役のストーリーに奉仕するもの、主役とは異なった要素を描く事ができなければならない。役に応じて、自在に演じる事ができなければならない。」という彼女の考えを知り、なるほどと思いました。
タイトルの「ゴーン・ガール」は、行方不明の少女の意味ですが、あえて「Girl」(少女)としているのは、エイミーが両親の著作の中で「アメージング・エイミー」(素晴らしいエイミー)として世に知られた少女だった事に由来します。
動画クリップ(YouTube)
- エミリー・ラタコウスキー出演のミュージック・ビデオ
撮影地(グーグルマップ)
- ニックとエイミーが住んでいた家〜「ゴーン・ガール」
関連作品
「セブン」(1995年)
「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)
「ドラゴン・タトゥーの女」(2011年)
「プライドと偏見」(2005年)
「17歳の肖像」(2009年)
「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013年)
「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(1997年)・・・脚本、出演
「恋におちたシェイクスピア」(1998年)・・・出演
「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007年)・・・監督、脚本
「消されたヘッドライン」(2009年)・・・出演