夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「悪の法則」:本当に悪いのは誰だ!?

「悪の法則」(原題:The Counselor)は、2011年公開のアメリカのクライム・サスペンス映画です。リドリー・スコット監督、マイケル・ファスベンダーブラッド・ピットキャメロン・ディアスペネロペ・クルスハビエル・バルデムら出演で、テキサスを舞台に危険な裏ビジネスに手を染めてしまった弁護士と周囲のセレブたちがたどる運命を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:リドリー・スコット
脚本:コーマック・マッカーシー
出演:マイケル・ファスベンダー(弁護士)
   ペネロペ・クルス(ローラ )
   キャメロン・ディアス(マルキナ
   ハビエル・バルデム(ライナー )
   ブラッド・ピット(ウェストリー )
   ほか

あらすじ

美しい恋人(ペネロペ・クルス)との輝かしい未来を夢見る若くてハンサムな弁護士(マイケル・ファスベンダー)が、恋人に婚約指輪を買う為に、友人(ハビエル・バルデム)の紹介で一回限りの麻薬ビジネスに手を染めます。取引に関わるメキシコの麻薬カルテルが弁護士に対して厳しい事は友人から知らされていましたが、弁護士は気にも留めず、パートナー(ブラッド・ピット)に会います。同じ頃、別件で弁護士が保釈したバイカーが殺され、組織の麻薬が盗まれます。バイカーが組織の運び屋だった事から、つながりのあった弁護士が盗んだと組織に誤解されます・・・。

レビュー・解説

その後、話は徐々に厳しくなっていきます。

パートナー:俺はお前が全く関係ない事を本当に信じたい。でも俺はお前が確信させるべき相手じゃないんだ。

弁護士:いったい、何を確信させればいいんだ。

パートナー:(バイカーとつながりがあったのは)偶然だという事をだ。あいつらは何も聞いちゃいない。何も見ちゃいない。

 

弁護士はじわじわと追い込まれ、まるで不条理劇のように厳しい展開になっていきます。 

弁護士:助けてください。

麻薬組織幹部:弁護士さん、あなたが今いる立場をよく見てください。それが私のアドバイスです。あなたがやったのか、やってないのか、私はあなたにそれを教える立場にはありません。あなたが過ちを正そうとしている世界は、あなたが過ちを犯した世界とは異なるのです。あなたは今、交差点にいて道を選びたい、でも選べないのです。受け入れるしかありません。道はずっと昔に選んでしまったのです・・・。弁護士さん、聞こえますか?

弁護士:(取り乱している)はい。

麻薬組織幹部:あなたを怒らせるつもりはありませんが、思慮深い人はしばしば人生の現実からかけ離れた所に身を置きます。いかなる場合でも、私たちはやがてやってくる人生のすべての悲劇を受け容れる場所を準備しなければならないのです。でもこの経済学を実行したい人はほとんどいないのです。

 

そして、厳しい結末が展開されます・・・。

 

メキシコの麻薬組織の犯罪には想像を絶するものがあります。それまで弁護士が住んでいた世界とは全く異なる、常軌を逸する世界です。映画は組織の実態を見せることなく、その断片を突きつけてきます。それは、不条理とも言える、無慈悲で、救いのない世界です。メキシコの麻薬カルテルが象徴する悪の世界は、欲望に支配される弱肉強食の世界、法や道徳とは無縁の世界です。「悪の法則」の「The Couselor」(弁護士)は、そうした世界では全く無力となる表社会の正義や法律の象徴でもあります。

 

「悪の法則」は評価が分かれようです。この程度のクライム・サスペンスに豪華キャストは無駄遣いとの酷評もあります。しかしながら、悪の世界との狭間で多少なりとも人間味を残す人々の温度差をうまく演じられているのは、一流キャストによるところもが大きいのではないかと思います。*3 マイケルはどこかしら育ちの良さが抜けない弁護士、ハビエル、ブラッドは麻薬ビジネスに手を染めながらも人間臭さが抜けない友人、パートナーを演じています。キャメロン・ディアスは友人の恋人役を演じていますが、とにかく美しい・・・。二人の出会いのシーンです。

 

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「悪の法則」では悪の組織の実体が見えません。逆に悪との狭間で動く登場人物を通して、人は多かれ少なかれ内面に悪を秘めていることに気づかされます。何よりも恐ろしいのは、悪という外部実態が存在するのではなく、悪は本質的に我々の内面に存在するものであり、それを完全に消し去ることはできないだろうと考えさせられる映画でした。

 

リドリー・スコット監督はイギリス出身で、「ブレードランナー」、「エイリアン」など歴史に残る作品や「グラディエーター」、「アメリカン・ギャングスター」などの傑作を残しています。また、1984年の全米スーパーボウル中継で1回だけ放映された、アップルの伝説のCM「1984」も同監督によるものです。*4 また、トニー・スコット監督(リドリー・スコット監督の弟)は、「マイ・ボディガード」でメキシコの誘拐ビジネスから子供を守る元対テロ暗殺部隊員を描いています。

 

マイケル・ファスベンダー(弁護士)

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ペネロペ・クルス(ローラ )

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キャメロン・ディアス(マルキナ

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ハビエル・バルデム(ライナー )

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ブラッド・ピット(右、ウェストリー )

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*3:「善の世界>ペネロペ・クルスマイケル・ファスベンダーハビエル・バルデムブラッド・ピットキャメロン・ディアス>悪の世界」の位置づけでキャスティングされている。

*4:コンピューターの巨人 IBMジョージ・オーウェルの小説『1984』の独裁者になぞらえ、アップルのマッキントッシュがそれを打破する。

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